乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
ドラクエ3よりはロマサガ2のリメイクのほうが好き
だって女の子が可愛いんだもの
予知じみた能力があるというエルフの里長から告げられた、不吉極まりない占い結果を聞いてしまった僕であったが、ひとまずはそれを考えないことにして、王都に戻って父の代理として溜まった仕事を片付けていた。
「失礼いたします。聞きましたよ、また一騒動あったようで」
「僕が起こしたわけじゃない」
紅茶の入ったティーポットをカートに乗せて、我が家の腹黒メガネメイドのコーデリアが、僕の執務室に入ってくる。
まるで、僕が主体的に何かをしでかしたかのように聞こえる言い方をしてきたので、そうではないということをはっきりと言っておく。
僕の言っていることは事実だ。あのエルフの村長の話が本当なら、僕が行かなくても、リオン君やマリエを消すために化け物を解き放っていただろう。
だとすれば、僕が騒動を起こしたことにはならないはずだよね。
「ですが、現場には居合わせたわけですよね?」
「アンジェと急いで合流するために化け物どもを森ごと焼き払っただけだ。人とは物理的には揉めてないから、君からもらった催涙弾を使うまでもなかった。それより、第三騎士団への影響力には驚いたよ」
「お役に立ちませんでしたか?」
「アンジェのため、という意味では非常に役立ったよ。君を筆頭とした我が家のアンジェ派の士気があんなに高いとは思わなかった。僕を廃嫡させて、僕の代わりにうちを継がせようとか言い出す者もいそうだね」
「そういうことになった場合、お嬢様が公爵家を切り盛りする傍らで、若様はちゃっかり身の安全は確保した悠々自適な隠居を決め込みそうなので、それなら若様がこのまま後を継いだ方がマシだと思います」
おいおい、本来であれば、アンジェは王妃になって、もっと仕事が大変だったはずだろう。それに比べれば、と思うんだが、そこはかとなく、お前は仕事で苦労し続けろと言われているようにも聞こえるのは気のせいか。
「そういえば、物理的に揉めないということは、間接的には揉めたということですか?」
「クソ聖女とクソ公国の王女と口論しただけだよ。お前らのせいでいい迷惑だ、とね」
「お嬢様を煩わせた愚物ども相手に、いい迷惑としか言わなかったのですか?どうしてプライドをへし折り、心に深い傷を負わせるくらいの罵詈雑言を浴びせなかったのですか?」
あ、しまった。コーデリアの怒りのツボを押してしまった。
「いや、他にも色々と揉めてて、バタバタしてたからさ!お前らの外見に、女としての魅力は欠片もないぞ、くらいしか言ってる暇がなかったんだって!」
「・・・手ぬるいです」
え?女性の外見だけを捉えて罵倒するなんて最低とか言われるかと思ったら、まだ攻撃が足りないってこと!?
「ヘルトルーデ王女の傍には、フランプトン派の騎士が護衛もしていたからね。揉めるにも、それなりに大義名分が必要だったんだよ。ところで、僕の執務室に来た用件は何だったんだい?」
「はい。さきほど、ご領地より連絡がありまして、もう少しで公爵様が戻られるとのことでしたので、ご報告を、と」
「けっこうな時間がかかったものだね」
「それだけ、領内における神殿派との対立、分断が大きかったのでしょう」
「もともとは、リオン君に集ろうとした銭ゲバババアの神官とその一派が悪いんだ。僕に直接ケンカを売ってきたんだから、いっそのこと、そんな宗教団体の支部なんて、領内から追放してしまえばよかったと思わないかい?」
「結果的に、公爵様の手を煩わせたことに変わりはありません」
「・・・もう少し可愛げのある物言い、振る舞いをしたっていいんじゃないか?」
「あら、私にそのようなものをお求めですか?」
「発注先を間違えたようだ。取り扱いのないものをオーダーするのは難癖だったね」
「・・・あと用件がもう一つあります。王宮から、若様あてに書状が届きました。お早くご覧いただいたほうがよろしいかと」
僕の嫌味をスルーしながら渡してきた封筒を見た瞬間、僕は無意識に上を向き、大きくため息をついてしまった。
だって、封筒に押された印は、陛下のもの。つまり、この国のトップからの直々のお手紙なんだもん。
しかも宛先は、レッドグレイブ公爵ではなく、僕個人の名前になっている。つまり、パパ上宛てではないのだから、きっとパパ上には直接言えないような面倒事に巻き込もうとしているのだろう。
ただ、さすがに国王からの手紙を焼き払うわけにもいかず、開封し、中を確認したのだが、さらに大きなため息が出てしまう。
「愉快な内容でしたか?」
「そう見えるかい?」
「若様のテンションがわかりやすく落ちていく様を眺めるのは、趣深いものがございます」
目を輝かせ、とても爽やかな笑顔を浮かべながら僕の不幸を楽しみやがって。
僕の不幸せは君の幸せか!?ほんとに、有能じゃなかったら絶対クビにしてやるんだからな!?
王都にあるレッドグレイブ家の屋敷の中では、上級メイドがただでさえ足りておらず、アンジェも今は王都にいるのだから、こいつを領地のほうに異動させることもできない。
しかも、アンジェが学園の寮に戻ってしまった今現在、事実上、この女は僕のお目付け役のようなポジションだ。クソ、なんて忌々しい。
「・・・陛下からの呼び出しだ。これから城に行く。馬車の用意を頼む」
------------------------------------
「ようボンボン!また色々と派手にやってるようだな」
応接室のソファーに足を組みながら腰かけた陛下が、部屋に入ってきた僕の顔を見て、手を振り、ニヤニヤした表情を浮かべている。
「どうやら僕は不幸な身の上のようで、トラブルに巻き込まれてばかりです。家の中にはたくさんの仕事と性格の悪いメイドがいて、家の外では、聖女だの公国のせいでバタバタしているので、女の子とイチャイチャする暇もありません」
「はっはっは、その暇を作り出せないのは、お前が未熟だからだ」
国の重要な仕事を、妻である王妃や家臣に押し付けている人がいう台詞か!?
「だが、私は心優しい人間だからな。そんなお前を労ってやるから、今度開かれる茶会に来い」
陛下が茶会?女の子を口説くなら、お忍びで外に出かけてデートするタイプの陛下がお茶会だと?
「またそんな騙し討ちみたいな誘い方をしたら、怨まれますよ」
居心地悪そうな表情を浮かべながら口を挟んだのはバーナード大臣だった。
いかにも疲れていますという顔をしており、現在進行形で何か面倒事を陛下に押し付けられているのだろう。
「こういうのはサプライズだから楽しいんだろうが」
「むしろ、きちんと事情を説明しないでトラブルになったらどうするんですか」
「それならそのときは、起こったトラブルを楽しめばいいだろう」
「とりあえず面倒事に巻き込まれようとしていることはわかったのですが、どんな目に遭わされるんですか?」
この人が巻き込むと言い出したら、基本的には逃げられない。だって、この人がこの国の王様なんだもん。最高の権力者なんだもん。
余程のことがない限り、展開される流れに乗ることを楽しんだ方がマシだという諦めの境地ともいう。
そして、この人は、欲しくもなかった王座に着いた代わりなのか、国の根幹に関わらないことについては、この人の気分と利害によって好き勝手に進められる場合がある。
「端的に言えば、フランプトン侯爵が、陛下とヘルトルーデ王女の会食の実施を申し入れてきてね。ただ、そこに同席するのが侯爵派閥ばかりではバランスが悪いから、僕や君に声がかかったんだよ」
「あの連中が仕切ったら、毒でも盛って、我々のせいにしようとするような難癖を付けてきそうですね」
「お前なら気に喰わない連中相手に、そんな回りくどいことをしないで、直接焼くか、ロストアイテムで殴り込みそうだな」
「どこの派閥が仕切っても疑心暗鬼に溢れた、飲み物がマズくなるお茶会になりそうですね」
「だから、もろもろ調整の結果、中立派である私の主催で準備をして、広く色々な派閥から人を呼ぶことにしたよ」
フランプトン派の勢いからして、この要請を断りきることはできなかったのだろう。
実質的に捕虜だった王女に色々と箔付けをして、公国側に恩を売りたいとかそういう魂胆とかなんだろうか。とことんレッドグレイブ家の逆張りをしてくる連中だね。
下手したら、そのうち、神殿とかマリエとかとも接触して、うちや僕にケンカを売ってくるかもしれないな。
「そういえば、公国の王女様はエルフの浮島に行ったり、宝物庫のロストアイテムを物色したりとずいぶんと自由に動いているようだが、実際に会ってみてどうだった?」
「笑えるくらいものすごい恨まれ方でしたよ。自分達がこっちにケンカを売ってきておいて、よく言うものだと思いましたね」
「そりゃあ、君のやってきたことは、公国にとっては目障りなものばかりだったからね。その上で、極めつけはこの前の戦闘だ、バルトファルト子爵を君の傘下だと見ている者は多いから、公国からしたら、君にプライドをへし折られた気分なんだろう」
「彼を欲しがっているのは確かですが、ご存じのとおり、決め手に欠けてる、というのは大臣もよくご存じでしょう?」
僕が学生時代に結婚の面倒を見た辺境の貴族の家の養子に、オリヴィアさんを迎えさせて、さっさとリオン君とくっつけようという計画をしていたのだが、
どうやらその手続きがフランプトン派の嫌がらせで塩漬け状態になっているらしい。
そのせいで、大臣は自分の娘であるクラリス嬢をあてがおうと画策しているようだし、ローズブレイド家も色々と動いていると聞いている。
「派閥どうしで小競り合いをすることに口出しするつもりはないが、マルコムが私を利用して好き勝手しようとしていることは気に喰わないから、お前達に声をかけた、というわけだ」
「僕達に何を期待してるんですか?」
「当日は、周囲をドン引きさせるくらいに切り込み隊長をやれ。アシストはばっちりやってやる」
「合コン前の作戦会議みたいなことを言わないでください」
「公国の連中のほうから我が国の領空内に入り込んで仕掛けてきたのを、侯爵派のせいで手ぬるい終わり方にされたんだ。心労や迷惑くらいかけてやってもバチは当たらんさ。ついでに妹を誘拐されそうになった仕返しで嫌味の3,4つくらい言ってやれ」
「そのくらいでしたら、既に浴びせておきました」
「さすがギルバート君。手が早いね」
「手は出してません、口だけです」
あんな絶望的絶壁で、性格も悪い女に誰が手を出すものか!
「キスでもしてやったのか」
「どんな罰ゲームですか、それ」
「それくらいしてたら、マルコムが慌てふためいていただろうな。さて、当日はどうしてやろうか」
もう陛下はトラブルが起こることを前提に、何かを企んでいるらしい。いや、起こるのではなく、起こすというべきか。
はあ、なんて楽しくなさそうな茶会なのだろうか。当日のことを考えると、バーナード大臣でなくても頭が痛くなるよ・・・
------------------------------------
さて、お茶会当日に登城して、会場となっている部屋―賓客と王族が食事をするときに使う豪華な部屋に、大きめの丸テーブルが設置され、各派閥から既に何人かが着席しているようだ。
部屋の入り口で渡された座席表を見てみると、最も奥に陛下や王妃様、そのすぐ隣には形式的な主催者であるバーナード大臣の名前があり、さらにその周辺をローズブレイド伯爵のほか、武闘派と言われる貴族の当主が配置されている。
これ、派閥というか、本人の戦闘力が高い人が護衛的な役割も兼ねて配置されているんじゃなかろうか。
それ以外の参加者は比較的ランダムに配席されているが、フランプトン派の面々は、陛下から見て正面の席となっているヘルトルーデ王女の脇に固められている。
あれ、僕の名前はどこだろうか。
配席の狙いなどを考えながら座席表を眺めていたのだが、肝心の僕の席が・・・ん!?
自分の名前を見つけたのはいいが、一瞬でその配置を現実のものと認識することができず、座席表を二度見してしまった。
ヘルトルーデ王女の脇に、フランプトン派の貴族やリオン君が捕虜にした公国士官で貴族階級を持つ数名が配置されている。その中には、見覚えのある名前もある。
バンデル・ヒム・ゼンデン・・・黒騎士じゃねえか!身代金の交渉が長引いてるとは聞いていたが、まだ帰国させてなかったのか。
そして、その隣が・・・ギルバート・ラファ・レッドグレイブ・・・って黒騎士の隣かよぉぉぉぉぉ!!!!
自分の席のほうを見ると、僕の席の隣には、頭頂部をつるりんと輝かせて、白くなった髪が脇と後ろにしか残っていないにもかかわらず、軍服の下からでも筋肉がムキムキであることがわかる男が座っており、
僕が近付いてきたのを察したのか、こちらを振り向いて思いっきりガンをつけてきた。
とっさに陛下のほうを見ると、僕の方を指さしながら、大臣と何やら話しながらニヤニヤと笑っている。
やってくれたな、あのクソ陛下めぇぇぇぇ!
------------------------------------
以下、久々のおまけ
べ、別にマリエルートを使って没にした設定を再利用しようとか、そういうんじゃないんだからね!
悪役令嬢の兄である若様が、屋敷の中で最も胸部がデカいメイドと濡れ場を展開しているのを目撃してから早数ヶ月。私は、定期的に若様の密会現場の見張りをして、お小遣い稼ぎをするのが日課になっていた。
悪役令嬢の実家は、公爵家、つまり貴族の中でも王族に次いで高い階級であり、その分、屋敷も広大で立派だ。
ただ、その結果として、屋敷の敷地内に入ってしまうと、実は死角になるスペースや、人通りの少ないエリアというものが存在している。
若様は、そんな場所を転々としながら、恋人であろうデカいおっぱいを持つメイドである先輩、通称デカパイパイセンと逢瀬を満喫していた。
割と結構な頻度でイチャイチャしているので、仕事をサボっているのかと思ったことがあったが、業務に滞りは出ないようにしているらしい。
密会を咎められにくくするために、仕事のスピードを調整しているようにも見えるが、既に買収されている私には何かを言う資格はないわよね。
密会場所では、デカパイパイセンが、密会の時に着用するために改造したミニスカメイドに着替えている。
ムチムチした太ももを露出させ、胸の大きさも一目でわかる衣装を身に纏っているのを見ると、前世で政治家が巨乳グラドルとの密会を週刊誌にすっぱ抜かれていたのを思い出してしまった。
そんなこんなで周辺のモラルは低下して風紀はやや乱れているものの、私個人の生活は安定してきている。
だが、私はそんな生活の中でも、何かと理由を付けて避けていたことがある。
それは、若様の妹であり、私が前世でプレイしていた乙女ゲーであるアルトリーベに登場する悪役令嬢のアンジェリカとの接触だ。
ゲームに出てくるアンジェリカは、怒りっぽく、自分の実家の身分の高さを背景に傲慢に振る舞う嫌な女で、私としては大嫌いだと思っていた。
ただ、万が一にもそういった悪感情を見透かされてしまっては、今の安定的な生活が失われてしまうおそれがあるため、自分から接触することはせずにいたのだ。
だが、そんな日々はあっけなく終わりを迎えてしまう。
ある日、私の教育係であるコーデリア先輩ことメガネパイセンから、人手が足りないからと、悪役令嬢アンジェリカの身の回りの世話に駆り出されたのだ。
「あの~先輩・・・私、何かやらかしちゃったら怖いので、お嬢様のお世話はカンベンしてもらえないですかね?」
「安心しなさい、マリエ。貴女の教育をしているのは私です。何ができるかはわかった上で声をかけたのだから大丈夫です。それに、若様と違って、お嬢様は取扱いに困るような方ではありません。そもそもですね・・・」
しれっと若様をディスりつつ、アンジェリカの部屋に向かうメガネパイセンが、悪役令嬢のすばらしさについて、早口で語り始める。
こうなると、この人の話は長いんだよな~
オタクが推しを語るときのように、めっちゃ得意げな早口なのに、話が全然終わらないというのは地獄だ。
「・・・というわけで、お嬢様は貴女にお会いになりたいそうです。わざわざそんなことを言っていただけるなんてとても光栄なことなのですから、さっさと行きますよ?」
いやいや、私はちっとも会いたくないんですけどおおおおお!?
------------------------------------
「アンジェリカだ。わざわざ来てもらってすまなかったな」
メガネパイセンに連れてこられた部屋で、柔らかそうなソファーに腰かけた金髪の女が口を開いた。
私が前世でプレイしていたアルトリーベに出てくる悪役令嬢アンジェリカよりも少しだけ若いというか幼い姿をしているが、顔はよく似ている。
栄養価の高い、いい食べ物を喰って育ったせいか、胸部もしっかりと発育している。チッ!この時点で私にとっては潜在的な敵ね!でも、そんな姿勢をわずかでも出すわけにはいかないのが悔しいところだ。
「マリエです・・・その・・・若様にはとてもお世話になってます」
少し緊張しながら答えると、アンジェリカは立ち上がってこちらに近寄ってくる。
何か対応にミスがあったかと、緊張がさらに高まるのだが、アンジェリカはそのまま近付いてきて、私の肩に手を置く。
「兄上から事情はだいたい聞いている。大変だったのだな」
え・・・悪役令嬢が私を心配?なんか、こう・・・私が知ってる悪役令嬢と違う気がするんだけど・・・
「出張先の兄から手紙が来て、話を知ったときは信じられなかったが、お前が公爵家にやってきたときの様子を見て驚いたよ。子爵家の子女が、ガリガリの身体にボロボロの衣服を着て、兄上に手を引かれていたのだからな」
どうやら、私が若様に連れられて公爵家の屋敷に来たときの様子を、悪役令嬢も見ていたらしい。
「私も驚きました。メイド服を渡されたこの子から、『新品の古着を買わなくて済む』という言葉を聞いたときは耳を疑ったものです。言葉選びを間違ったのか、それとも何かのツッコミを誘っているのか、どちらなのだろうかと悩みました」
「これまでの境遇が言わせたのだろうが、やはり『それは新品ではない』と指摘したいところだな」
「お屋敷に来たばかりの頃なんて、食べ物を誰かに取られないように、抱え込んでガツガツと食べているのを見たら、不憫で不憫で・・・」
「そういえば、一時期はメイド達の間で、マリエにお菓子を与えるのがブームになっていたらしいな」
メガネパイセンと悪役令嬢の会話が、私を差し置いたまま続く。
この2人から見ると、私はかなり可哀そうな子だと思われているようだ。
てっきり、お行儀が悪いとか言われるかと思ったら、そんな発想に至らせないほどに可哀そうな状態だったのか。
っていうか、他の人から改めて言われると、まるで動物園か何かの見せ物みたいじゃないの!
「ところで、コーデリアから聞いているかもしれないが、兄上から良からぬ要求をされたりしてないか?」
良からぬ要求!?ま、まさか若様のメイドとの密会を手助けしてるのがバレたの?
なんてこった!普段の給料に加えて、割の良すぎるバイトだったのに・・・
見張ってるだけでよくて、嫌なことと言えば、たまに若様がデカパイパイセンに甘えたり、にゃんにゃんハッスルしているときの声が聞こえてきてしまうくらいだ。
「わ、わたしは若様に困らされたことはないですねぇぇぇ・・・良からぬ要求って例えばどんなことです?」
「大丈夫だとは思いたいのだが、もし将来は兄上の愛人になれ、とか言われたら、私達にすぐに言うんだぞ」
「愛人って・・・私は、ほら、まだ子供ですし・・・」
「マリエ、お前は籍の上ではラーファン子爵家の者だ。貴族の身分があるにもかかわらず、貴族出身の使用人に厳しい兄上が、お前にだけ優しくしてるのは、何か良からぬことを考えているのではないかと思ってな」
違うんです!若様が、お手付きにしてるデカおっぱいパイセンと「ふ~」と一服するときの見張りをしてるから優しくしてくれてるだけなんです!
でも言えねぇぇ!メイドとの密会してるところの見張りをやってお小遣いをたんまりともらってるだなんて、絶対に言えねぇぇぇぇ!
「お嬢様、人の裏をかくのが得意な若様のことですから、逆にマリエを形ばかりの正妻になんてことを考えているのかもしれません」
おっと、メガネパイセンが変な角度からボールを投げてきやがったぞおぉぉぉ!?
怪しまれないためにも考えるのよ、私!お水の世界で店内ナンバー1を取ったときのことを思い出して、上手いこと誤魔化すのよ!!
「い、いや~私、その・・・暴力を振るう人は怖くて・・・」
これは紛れもない本音だ。何を隠そう、前世の私の死因は付き合ってたロクデナシの彼氏からのDVなのだから。
でも、この状況でこの発言をすれば、私は、若様によって、今世の父母や兄を目の前でボコボコにされて血の池に沈められたのを見て、トラウマになった的な感じに伝わってくれるだろう。
「・・・そうか、たしかにいくら酷い扱いを受けていたとは言っても家族ではあったのだからな」
セェェェェェェフ!!助かった、うまいこと誤魔化せたらしい。
悪役令嬢とメガネパイセンがヒソヒソと話をしているが、同時に少し安心したような表情を浮かべている。
「だが・・・そんな派手に暴れ回った話が面白おかしく広がった結果、パーティーではすごく遠回しに野蛮だとか嫌味を言われる私の身にもなってほしいな」
「若様は夜会や社交を好みませんからね。仕事を理由にして、そういった集まりを避けがちです」
「なまじ、本当に仕事だけは律儀にやっているのと、目に付きやすい成果を出しているから、文句も言いにくい。それだけ仕事をコントロールできるなら、もっと社交を大事にしてほしいのだが・・・」
(言えねぇぇ!仕事を上手いこと調整して、デカおっぱいパイセンと夜のお忍び変装デートに出かけたりしてるとか、絶対に言えねぇぇぇぇ!!!いや、たまに本当に集まりに出かけることもあったわよね!?)
「で、でも若様も、たまにはそういった集まりに行くってお出かけになってますよ!?」
「・・・マリエ、たしかに主催者のメンツに配慮して集まりに参加することはあるが、そこで兄上が何をしているのか知ってるか?」
アンジェリカが苦々しそうな顔をしている。前世では大嫌いだった悪役令嬢のこんな表情を見るのは、少しだけ気分がすっきりするが、今さっきの私の発言はあまり良いものではなかったのだろう。
黙って首を横に数回振ると、アンジェリカが話を続ける。
「男ばかりを集めて、会場の端っこで品のない話をして盛り上がってるんだぞ。いや、たしかにそれで多少なりともプラスにはなるんだろうし、家のためを思えば、多くの者と交流して関係を広く築くべきだとしても、もうちょっと違うやり方があるだろう、と思えてならん」
「貴族の女性が近寄りたがらない辺境出身だったり、階級の高くない貴族を、会場内でめざとく集めて盛り上がって、性格の悪い女が寄ってこないようにしているようですからね」
そういえば、前世にもそんな男子いたわ~
暑苦しい部活至上主義な男子とも、ガリ勉なモヤシ系男子とも、オタクグループの男子とも分け隔てなくつるむのに、他校にカノジョがいるからなのか、学校の中ではほとんど女子と絡まなくて、
女子が近付きたくても近付けないようにしているイケメンがいたわ~
私も顔だけは好みだったから、近付こうとして、まずは周囲の男子どもを少しずつ懐柔しようとしたけど、結局、その前にクラス替えになっちゃったのよね。
「その結果、兄上に近付けなかった女達が、ぞろぞろと私に嫌味を言いに来るんだぞ。はぁ、頭が痛くなってくる」
アンジェリカが両手で顔を覆って大きくため息をつく。
結果的に若様の行動に振り回されているせいなのか、さっきから、振る舞いが悪役令嬢とは思えないものばかりだ。
そして、少し離れたところから、メガネパイセンがその様子を険しい表情で見ている。
アンジェリカを悩ませている若様への、ぶつけようにもぶつけられない怒りを心の中で抑え込もうとしているのだと思っていたのだが、メガネパイセンが小さい声でぼそっと呟いた。
「その女ども・・・どこの誰かを調べ上げて若様に報告せねば」
いや、アンタもバイオレンスチームの思考なんかぁぁぁぁい!
前々からアンジェリカ過激派だとは思っていたけど、それが行き過ぎて、アンジェリカを煩わせないために若様まで利用しようとしちゃってるじゃないの!
それにしても、まさか悪役令嬢がこんなに凹んでいる姿を見る日が来るとは思わなかった。これじゃあゲームと違い過ぎて私が知ってる悪役令嬢じゃないわ!
むしろ、悪役令嬢の置かれている境遇というか状況に、なぜだかとても既視感が湧いてしまう。
・・・あ、まるで前世の私じゃないの!!
前世の兄は、一見すると大人しそうなモブ顔の男子だったが、スイッチが入ったときには、いじめっ子を橋から叩き落としたりして、やることがとにかく過激だった。
しかも、そのときには、大義名分は自分にあると豪語していて、悪いのは相手なのかもしれないが、平然とやったことの内容が怖くて、絶対に兄を怒らせてはいけないと本能で理解していた。
この子も、奔放な兄のせいで苦労してるんだなぁ・・・
私は悪役令嬢のアンジェリカが嫌いだったのに、ここまで見聞きした物事を踏まえると、嫌いという感情よりも、憐れみと同情の感情が大きく上回ってしまっている。
腹が立つのは胸回りの大きさくらいで、目の前のアンジェリカを嫌いになりきれないじゃないの!
あれ?もしかして、学園の中で傲慢で短気な振る舞いをしてたのって、あの若様由来のストレスが原因だったりするんじゃないでしょうね!?
これって、私は真実の裏側に触れてしまった気がするわ!?
次回、黒騎士と何かが起こらないわけがないw