乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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ネット流行語大賞の候補のラインナップがワロタ
しかもブレイバーンが4位になってるし

というか最初のワードがアーノルド・ノイマンってwww


第57話 〇〇公爵、爆誕

敵対派閥のフランプトン派が企画し、コンテンツ内容に陛下が手を入れ、バーナード大臣が主催することになったクレイジーなティーパーリィの座席表に示された僕の席は、

なんと先日リオン君に敗れた公国の黒騎士ことバンデル・ヒム・ゼンテンの隣という明らかに悪意のある、いや悪意しかない場所であった。

そもそも、僕はパパ上であるレッドグレイブ公爵の代理なんだから、陛下の席に近い上座的な位置に配置されるのがプロトコルなんじゃないかと思ったりもしたのだが、

そういえば一部を除いてこの茶会の配席が派閥単位ではなく、ごっちゃまぜ、ランダムになっていることを思い出し、それにかこつけて僕が黒騎士の隣になっているのだろうということに気付く。

これは絶対に大臣ではなく、陛下の確信犯的な差配だろう。引っ掻き回せと言われたのは事実だが、こんな特等席は嫌で嫌で仕方ない。

 

とはいえ既に座っている者も多く、特に周辺にはフランプトン派の貴族連中が多いようで、僕の方を見ながらヒソヒソと何かを話している。

まぁ、ダイレクトに何かを言ってくるような覚悟ガンギマリな、度胸のある奴はいないわけで、むしろ言ってくれば面白いくらいだ。

そして相変わらず黒騎士は僕の方を睨んでいる。目が合ってしまったので、僕も睨み返し、周りのヒソヒソ声が少しずつ増えていく。

 

公国からそんなに恨まれるのは、ヘルトルーデ王女からも色々と聞いているとおり、連中の調略の妨げになることをたくさんしてきたのだから、まぁ不思議ではない。

そして、僕だって、大事な妹を誘拐されそうになったわけで、睨み返す大義名分はしっかりとある。

無言で睨み合いながら、仕方なく席に座ることにしたのだが、見れば見るほど黒騎士は生身でも圧倒的な威圧感がある。

魔力で強化する以前に、筋肉ムキムキな腕は丸太かよと思うくらい太い。あんな腕で殴られたらものすごく痛そうだ。

 

そんな奴と睨み合っている視線を外したい気持ちもあるが、一方で、それで負けたとか他の連中に思われるのも気分が良くない。

眼球が乾くなぁと思いつつも、仕方ないからガンを付け続けることにすると、徐々に周囲のヒソヒソ声が大きくなってきた。

 

「相手はあの黒騎士だぞ、恐ろしくないのか?」

「政治力は落ち目でも、今や武闘派の中でも特に過激なレッドグレイブ家だからな」

「ロストアイテムのバルトファルトを抱えているなら、公国も既に降した相手扱いなんだろうよ」

「ここで何かあったら国際問題だぞ」

「いや、それは公国のせいで既に国際問題になっているだろう」

「神殿や聖女様相手でも平然と殴りかかる人間が、世俗の人間相手に恐れたりはしないだろ」

「そもそも、黒騎士の隣にレッドグレイブを置くなんて、大臣は何を考えてるんだ?」

 

いや、しっかりと怖いよ?

あとこの座席配置を決めたのは大臣じゃないよ。間違いなくこの国のトップである陛下だよ。

心の中でツッコミを入れていると、バーナード大臣が立ち上がって手を叩き、みんなの視線がそこに集まった。

どうやら参加者が全員そろったらしい。

いつのまにかフランプトン侯爵やヘルトルーデ王女も着席しており、大臣の話に続いて、陛下からの当たり障りのない、つまり全く面白みのない話があり、この場をきっかけに両国の親交を!的な言葉で締めくくられる。

おいおい親交って、侵攻にかけた皮肉なんじゃないだろうね。

僕の心の中のつぶやきは差し置いて、陛下の話が終わって参加者たちから拍手が上がった。黒騎士も、気付くと僕を睨むのを止めていた。

 

こうして茶会が始まり、フランプトン侯爵から、両国の関係を改善しよう的な話がされ始めたので、話半分に聞きながら、

僕は気晴らしにテーブル上に並んだお菓子、スイーツの類に目を向けると、最も美味しそうに見えたタルトを何切れか小皿に移して、口に運ぶ。

だが、口の中に入ったビスケット生地の部分は思っていたよりも何倍もパサパサで、口内の水分が凄い勢いで持って行かれるのがわかった。

たまらず紅茶に手を伸ばすのだが、こっちはこっちでものすごい熱さで飲むのが大変だ。

何これ?バーナード大臣からの地味な嫌がらせ?

気を取り直して、他のタルトにも手を伸ばすのだが、いずれも口の中がすぐにパサパサになってしまう。

周りを見渡すと、会談が続く一方で、タルトに手を伸ばした他の貴族達も、タルトを口に含んですぐに紅茶を口にしようとして口の中を火傷しそうになっている。

仕方ない、紅茶が冷めてくるまではケーキの類に手を伸ばすとするか。

 

僕が食い道楽に走っている間も話は続いていたのだが、いつの間にか話題がヘルトルーデ王女の結婚に関するものとなっていた。

いい年した人間が集まったら、若い子どうしがくっついたとか、離れたとかって話題で盛り上がるのはどこの世界でも共通なのだろうか。

なんて下世話な奴らなんだろうと思う一方で、ヘルトルーデ王女の結婚は非常に政治性の高い話題であり、コイバナ以前に、貴族にとって非常に興味を引くのだろうと理解できなくもない。

 

そんな中で、フランプトン派閥の貴族の中でも幹部クラスの連中が、王国の王子の誰かが婿入りすれば両国の関係強化につながるだろうという話を始めると、

マリエに誑かされた馬鹿王子や、その馬鹿王子をライバル視していた野心にあふれる第二王子の名前が候補として挙がってきていた。

 

いやいや、あんな野心の塊みたいな第二王子を公国に婿入りさせたら、公国の連中を焚き付けるか結託して、また王国に侵略してくるんじゃないだろうか。

そういう意味ではあの馬鹿王子を婿入りさせるのが一番じゃないかな。

 

僕としては、アンジェの婚約解消騒動の際に、リオン君があの馬鹿王子のメンタルをボコボコに砕いてくれたから、色々と気に喰わないところは多々あるが、陛下との関係を考えて、積極的に何かを仕掛けたりはしていない。

・・・正確に言うなら、顔を見たらぶん殴ってしまいそうだから、会わないように徹底的に避けてるんだけどね!

 

とはいえ、フランプトン派閥の狙いの本命はあの馬鹿王子だったようで、その手の話題が次から次へと出てくる。

そんな中で王妃様は居心地が悪そうな表情をしており、僕としては内心、ざまあみろと思っていたりする。

 

「そういえばヘルトルーデ殿下には妹もいらしたはず。それならヘルトルーデ殿下が今回の留学を機に、王国の誰かのところに嫁がれれば、より両国の関係が良くなるんじゃないだろうか」

 

そんな中で、バーナード大臣が思い付いたかのような口調で、フランプトン派の連中に会話に割って入ってきた。

長女であるヘルトルーデ王女が嫁入りするというのはあまり現実的とは思えないが、僕はこのとき、見てしまっていた。

大臣が話を始める前に、チラリと陛下の方を見て、陛下が小さく頷いてからしゃべり始めた一部始終を・・・

大臣にしては筋の良くないことを言い出すと思っている貴族連中が多いだろうが、今の大臣のセリフは間違いなく陛下の意思によるものだ。

いや、陛下の意思なんて大したもんじゃないかもしれない。単なる陛下からの嫌がらせな可能性もある。

 

まあ敵国の姫様が、嫁いだ先で理不尽な嫌がらせや意地悪に耐えながら、嫁入り先の家や国に貢献して、少しずつ味方を増やしていく、というのは少女漫画などの女性向けの物語としてはベタな展開だろう。

だが、今回の敵国のお姫様は、自ら国境を侵し、乗り込んできた艦隊を率いていた、いわば侵略者の首魁だ。

いくらこの世界が乙女ゲーの世界であったとしても、さすがに少女漫画のような展開にはならないだろう。

現実的にはこの話は難しいだろうね。

 

「おいおい、大臣は正気か?」

「仮にも公国の王族の長子なわけで、嫁ぐ先としては相応の格が必要だろうが、ヘルトルーデ王女を喜んで迎えそうなフランプトン侯爵家には、若い独身の男子がいないのではないか」

「中立派が王女を受け入れるメリットなんてどれだけあるかもわからないぞ」

 

周囲の貴族達がコソコソと話し出すことからすると、大臣の話が進むということはないだろう。

そんなことを考えながら僕は、ケーキを食べ続けていた。生クリームもしつこい甘さではなく、スポンジの絶妙なしっとり感が癖になりそうだ。

そう、僕はひたすら食い道楽に興じており、油断していたんだ・・・

 

「だったら、そこのボンボンはいかがかな」

「ゴホッ」

 

あまりに突然すぎるぶっこみに咳き込んでしまった。ついでに、さっきまで噛んでいたケーキのスポンジの破片が鼻の中に入り込んでしまって呼吸が苦しい。

ちょっと待てい!僕が切り込み隊長をするということになっていて、陛下がそのアシストをするという話にはなっていたが、こんな切り込み方だとは思わなかったぞ!?

この王様、相変わらず斜め上な言動をしてらっしゃいやがる。

 

「おい、あれは絶対に他人事だと思っていたやつだぞ」

「この前の公国との戦闘のことを考えれば、まさか自分のところに嫁いでくる、だなんて話になるとは思わないだろうさ」

「しかし、陛下もまた際どいボールを投げ込まれる」

「さすがにレッドグレイブに嫁入りというのは無茶ではないか」

「あれ、茶菓子を口に入れたタイミングで話をしてるぞ、きっと」

 

周囲の茶会参加者たちが、今度は僕のことでヒソヒソ話を始めやがった。

まずいな、ここはどうにかして切り返さなければ。

 

「陛下の冗談好きは相変わらずですね。ですが、せっかくなら仲のよろしいフランプトン侯爵のところで、どなたかいい方をお探しになったほうがよろしいのでは?」

 

適当な年齢の男子がいないことをわかりながら、侯爵派を勧めたものだから、フランプトン派閥の貴族達が苦々しい顔をしながら、ヒソヒソと話をしている。ざまぁみろ、いい気味だ。

 

「そんなこと言っても、適齢の相手がいないだろ」

 

なぜか陛下がフランプトン派に助け船を出す。

 

「既婚者はいるのですから、せっかくなら離婚させてはいかがでしょう」

「相手の家から侯爵やヘルトルーデ王女が恨まれてしまうじゃないか」

「恨みなら既に僕はとっくに公国を恨んでいますよ?あ!そうだ、せっかくならフィールド家がいいのではないでしょうか。廃嫡された馬鹿の後釜に婚約者がいると聞いた記憶はありません。それに、何と言っても国境沿いの領地ですから公国との因縁もあるでしょうから、王女殿下の努力次第で、両国の関係も改善されましょう」

「物理的に近すぎて却下だな。それに恨みを買い過ぎて、暴走する領民が出たらどうする?」

「それなら公爵領の民だって、アンジェを誘拐されそうになったんです、公国を恨んでないなんてことはないですよ」

「そこら辺はお前が何とかしろ」

 

これまた無茶をおっしゃる・・・

まぁ、こんな頑なに、この話を押し付けようとしているということは、陛下が満足できるような面白い断り方をするまで、話題を変えさせないつもりだろう。

考えるんだ・・・僕に期待されているミッションは、この場を設定しようとしたフランプトン侯爵の顔に泥を塗り、陛下を楽しませることだ。

・・・あ、良いことを思い付いた!

 

「陛下がどうしても、というのであれば・・・何とかしなければなりませんね」

 

急に方向転換した僕の言葉に、周囲の貴族どころか、バーナード大臣や王妃様までヒソヒソと話を始めている。

いや、みんなしてヒソヒソと話をするもんだから、若干ザワザワしているといえるレベルの音量になりつつある。

ちなみに、王妃様から何かを問われたと思しき大臣は、時折、必死の形相をしながら首を横に振っている。

きっと、ここまでのくだりが、陛下や大臣、僕が示し合わせたものじゃないのか、と問われたのだろう。

示し合わせたなんてとんでもない。どうやって切り返すかはアドリブ以外のなにものでもないんだからね!

 

ちなみにフランプトン侯爵は、目を丸くして、口をあんぐりとさせながらも、時折、口角がプルプルと震えている。

今や王宮内の最大派閥であるフランプトン派を率いる侯爵も、この展開は予想外だった違いない。

・・・僕だって、こんな展開は予想外だったけどね!?

 

「ほう、お前もとうとう身を固めるつもりになったか」

 

そんなつもりは欠片もありませんけどね!

ただ、この場で陛下から求められていることは、フランプトン派が必死に築き上げようとした王国と公国の友好実現に向けた空気を、木っ端みじんにぶっ壊すことだろう。

さすがにエルフの森で大揉めした後だから、陛下だって、僕がマジでヘルトルーデ王女を迎えるとは思っていないだろうしね。

 

「へ、陛下・・・とても面白い冗談ですが、そのあたりにしておきませんか?公国との国境を守るフィールド家ほどではありませんが、さすがに時期がよろしくないのではないかと・・・レッドグレイブ領内でも受け入れられましょうか?」

 

冷や汗をダラダラと流しながらフランプトン侯爵が陛下に進言する。

僕をヘルトルーデ王女と結婚させようとする陛下、結婚させまいとする侯爵。

もちろん、本心では、僕はあの絶壁な王女と結婚したくないわけで、そんな僕の真なる意向に沿ったことを、敵対派閥であるフランプトン侯爵が口にするというパラドックスが起こっている。

 

「そうか?あの神殿や聖女様と揉めるどころか殴り合っても、領民の多数派から支持されてるのがそこのボンボンだぞ。それに格としても公爵家の跡継ぎの妻なら、将来は公爵夫人だ、そこまで悪い話かな?」

 

悪い話ですよ!?相手の性格が、二人の相性が悪いです。容貌も、僕の好みから大きく外れていますよ!

しかも、神殿とドンパチしても、一部を除いた領民が反発しなかったのは、神殿がタカリをしようとした相手が2度もアンジェのことを助けてくれたリオン君で、それを僕が阻もうとしたからだ。

ヘルトルーデ王女と結婚したとしても、レッドグレイブ領の領民たちがスカッとするわけじゃないから、きっと領民達からも不評だろう。

 

そんな僕の内心をきっと知りながら、僕が望むこととは正反対のことを言っている陛下の顔はとても楽しそうだ。フランプトン派への嫌がらせとしては、とても効果的だろう。

いざとなったら、さすがに陛下だって止める方向に動くだろうから、このまま陛下の悪乗りに便乗しておくとするか。

フランプトン侯爵にとって、領民が反発することが不安材料なら、神殿のときのように領民がスカッとするようなことを適当に挙げてみるか。

 

「侯爵がおっしゃる通り、この縁談を良く思わない領民も多いでしょう。民達の不慮の暴走があってもいけませんから、もしもお輿入れなさるのであれば考えがございます」

「考えだと?」

「領内に高い・・・とても高い塔を作りますので、そこに殿下をお招きしますよ。安心してください、屋敷と領軍の駐屯所の間あたりに作って、我が領の騎士達が鎧も使って殿下のお住まいをお守りいたしますよ」

 

要は閉じ込めて幽閉して飼い殺すということだね。

 

「私も執務の合間に屋敷からしっかりと殿下のお住まいを見ておくといたしましょう」

 

同居するつもりもないから安心してね、白い結婚ってやつだよ?

女性向け漫画なら、「君を愛するつもりはない」なんていう言葉から始まって、結局、くっついてしまうことが多いんだろう。

だが、僕とヘルトルーデ王女の場合は、誤解もへったくれもなく嫌いあっているから、好感度が反転する要素はないだろう。

 

「・・・そ、それでヘルトルーデ殿下を幸せにできるというのか」

「おや、侯爵はロマンチストでいらっしゃるようですね。貴族の政略結婚にも、愛をお求めになっていたとは知りませんでした」

「貴様の言っていることは、まるで監禁ではないか」

 

まるで、ではなくて監禁そのもんです。

それにしても、幸せにできるのか!?だなんて、まるで新婦の父親のようなセリフだね。前世の価値感だけで考えるとフランプトン侯爵の言ってることが正しく聞こえてしまうような気もするところが笑える。

僕もフランプトン侯爵をおちょくるのが、だんだんと楽しくなってきてしまったぞ。国内の政治的には、侯爵派にだいぶ押し込まれているから、それの意趣返しにもなる。

どうせ本当に結婚するわけじゃないんだから、もう少し侯爵をからかってやるとするか。

 

「反発する民の暴走は防ぐ必要があります。それに、公国は黒騎士殿まで引き連れて王国に乗り込んできたのですから、私としても、殿下との距離を縮めるのは簡単とは思っておりません」

「ご本人を前にして、愛がない結婚を仕方なくします、と言っている自覚はあるのか?」

「愛なんて不確かなものを求めるなら、僕だけでなく、お互いが努力をする必要があると思いますよ」

「はっはっは。ボンボンからまともに聞こえる話が出てくるのは珍しいな。ちなみに、お前として、どんな努力をしてほしいんだ?」

 

僕と侯爵の会話の中に陛下が割って入ってきた。

先程までよりもニヤニヤとした顔をしており、僕と目が合うと小さく頷いた。僕と陛下もけっこう長い付き合いだ、何をぶっこんでやろうかという僕の考えが伝わったのだろう。

 

「それは公国としても知りたいですな。姫様に何をしろというのか」

 

僕の隣の席で、ここまで沈黙を保っていた黒騎士が口を挟んできた。

相変わらず僕のことを睨んでおり、いかに僕のことを嫌いなのかということがよくわかる。

再び陛下をチラ見すると、小さくサムズアップしている。マジか・・・黒騎士相手にぶちかませということか。

 

「そうですねぇ・・・では、ティータイムに、裸エプロンで僕に給仕してもらいましょうか」

「貴様あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

黒騎士がテーブルを叩き、バンッと大きな音が室内に響いた。

立ち上がって僕の方を指さした黒騎士は、座ったままの僕の脇で、怒りのあまり体を震わせている。

 

「なんという破廉恥な・・・恥を知れ、恥を!」

「おやおや、恥というのは、領空侵犯して人の国に乗り込んできて学生を襲撃して妹を攫おうとしたことを言うんじゃないですか?それとも、学生相手に返り討ちにされて、王族まで捕虜にされた畜生以下の集まりのことですかね?」

 

黒騎士が割り込んでくることは想定外であったが、これで陛下の目論見である、フランプトン侯爵主導の両国の友好ムード醸成はぶち壊せただろう。

・・・黒騎士からのヘイトを僕が一身に集めてしまうことになってしまったが。

 

「下衆下劣な男め・・・さすが外道騎士の黒幕・・・さしずめ下劣公爵といったところか」

 

一部界隈でリオン君が外道騎士という二つ名で呼ばれているという噂を聞いたことはあったが、僕にも新しい悪口系の二つ名が出てきたな。

既にある、赤い通り魔という悪口に比べれば、まだマイルドな気もするね。

 

「外道とその後ろにいる下劣に打ち負かされた気分はどんなものか。畜生以下の国の感想を教えてもらえるかな?」

 

煽ったところで、胸倉に向かって、黒騎士から手が伸びてきた。

このくらいの動きは予想通りであり、僕も立ち上がると、伸びてきた腕を側面から叩き落として、唾を吐く。

黒騎士のキラリと輝く頭部に命中した唾の、ペチャっという付着音は室内によく響いたよ。

やっていることは下品極まりないが、相手の自尊心を傷付ける行動としては、なかなか効果的なはずだ。

案の定、黒騎士は、湧き上がってきたのであろう怒りで、顔を真っ赤にした。

 

「貴様、それでも騎士かあぁぁぁ!!」

 

そもそも僕は王国の人間だから公国を嫌っているわけでは、あまりない。

僕が公国を嫌いな理由、それはこの乙女ゲーの世界で、公国の存在は、僕の実家が凋落する遠因の1つであること、そして、つい先日、僕の妹を誘拐しようとしたからに他ならない。

 

「騎士の前に、僕はお兄ちゃんだ、ハゲえぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

次の瞬間、僕と黒騎士のそれぞれが繰り出した拳が交差して、それぞれの顔面に直撃していた。

だが、フィジカルの強さだけを言えば、僕よりも筋肉ムキムキな黒騎士の方がはるかに強い。黒騎士は殴られても2,3歩後ずさりするだけだったが、

一方の僕は大きく吹き飛ばされ、後ろにあったテーブルに叩きつけられてしまった。

背中を強打した痛みで怯んだ隙に距離を詰めてきた黒騎士は、僕の胸倉を掴み、何度もテーブルに叩きつけると、そのまま体重をかけた腕で僕の首元を圧迫してくる。

 

何とかして黒騎士のぶっとい両腕をどかそうとするのだが、僕の首をしっかり絞めたまま全く動く気配がない。

頭に回る酸素がどんどん減っているのがわかる。このままだと、良くて失禁、最悪の場合は死んでしまう。

クソが!こんなクソジジイに第2の人生を終わらされてたまるか!今回の人生の死に場所は、愛する女の膝か乳の中だと決めてるんだ!

歯を食いしばりつつ、視界の端に入った物体の取っ手を掴むと、残された力を振り絞って黒騎士の側頭部に叩きつけた。

僕がとっさに掴んだもの、それは先程まで僕も苦労しながら飲んでいた熱々すぎる紅茶が入ったポットであった。

黒騎士の頭部に直撃したポットは、黒騎士の石頭の硬さに耐えられずに粉々となり、中に入っていた高音の液体のほとんどが黒騎士の顔面に降り注ぎ、残りの液体もその衣服に付着して皮膚を焼く。

 

あっつ!!!

僕にも液体の飛沫がかかったが、黒騎士を殴った拍子に、その勢いで体を少し逸らしたおかげで、ほとんど紅茶を被らずに済んだらしい。

一方、さすがの黒騎士もいきなり高温の液体をぶっかけられては、腕の力も緩んだようで、僕はその腕を振り払って大きく息を吸う。

危なかった・・・短いリズムで呼吸をして、とにかく酸素を体中に行きわたらせる。視線を黒騎士に向けると、どうにか頭部や衣服にかかった紅茶を、おしぼりなどで拭き取ろうとしていた。

 

「隙だらけだぞ、ハゲェェェェェ!!!」

 

この後に取った動きは、何か思考を経たものではなかった気がする。生命の危機に瀕してプッツンしていたのかもしれない。

大声で黒騎士を罵りつつ、僕は黒騎士の股間を思いっきり蹴り上げていた。

 

「がはっ・・・」

 

小さく声をあげ、口を緩く開けたまま、黒騎士が膝から崩れ落ちるのを見て、再びテーブルの上を一瞥し、並べられたタルトを右手でありったけ掴むと、黒騎士の口の中に捩じり込む。

黒騎士の口から空気が漏れ出て、それと一緒にタルトの生地部分の破片が噴き出すが、僕はさらに右手をタルトごと、喉奥に突っ込んだ。

口の中の水分を一気に持って行かれると同時に、タルト生地が喉奥にまとわりついたのだろう。黒騎士が小さく咳き込みつつ、鼻で息をして酸素を体に巡らそうとしている。

さらに、口の中に突っ込んだ腕を思いっきり噛まれて痛みが走るものの、こうなったら、やるか、やられるか、のどちらかだ。

 

僕はさらにテーブルに並んでいたショートケーキを左腕で掴み、今度は黒騎士の鼻の穴に握りつぶしたケーキを捻じ込んだ。

生クリームとスポンジが鼻の穴に入り込んで鼻呼吸を潰し、そのまま左腕で鼻を押さえ付けて、鼻の内側からケーキの破片を噴き出すことを防止してやる。

鼻の中に水が入ったときのような鼻腔の痛みが走っているのであろう黒騎士は、苦しそうに手足をバタつかせてもがく。

 

「き、汚い・・・戦い方に品というものが・・・」

「まるで酒場の酔っ払いの喧嘩ではないか」

「顔が整っている分、なんだろうか、悪辣さが際立つな」

「いや、公国の武の象徴である黒騎士を見苦しいものに貶めて、公国の誇りを傷付けようとしているのではないか」

「尊厳を傷付けようとは、やることがエグいな、さすがバルトファルト子爵の黒幕と言われるだけはある」

 

外野が言いたい放題だな。というか、お前ら、王国の貴族なら少しは僕を手伝えよ!

僕はもっとしっかり呼吸を潰すべく、黒騎士の鼻と口を押さえ付けようとするが、そのせいでがら空きになった僕の鳩尾に黒騎士の蹴りが刺さる。

 

腹への衝撃のせいで、黒騎士を押さえていた両腕を外してしまい、腹を抑えながら後ずさりするのだが、呼吸ができるようになった黒騎士は再び拳を握って僕に殴りかかってくる。

思ったよりも早く復活してきたせいで、避けられる余裕もなく、目が血走った黒騎士の拳が僕の顔面にヒットした。

口の中を出血したようで、血由来の鉄臭さが鼻の奥に漂う。それがスイッチになったのかはわからないが、再び思考を経ずに体が動き、僕の拳が黒騎士の顔面を殴りつける。

 

そこからは、もう意地の張り合いだった。

お互いに憎しみの目を向けたまま殴り合い、腕力の差は、たまに周りの椅子を凶器にして黒騎士をぶん殴ることで埋めた。

周囲には、血や凶器に使った椅子の素材だった木片、タルトやケーキの破片が飛び散っている。

再び黒騎士が拳を繰り出してきて、もう避ける体力も残っていない僕は、その一撃を顔面で喰らってしまうが、同時に手元で生み出したファイヤーボールを黒騎士の顔面に叩き込んだ。

 

殴られた衝撃と黒騎士に直撃したファイヤーボールの爆風で、僕は後方に吹き飛ばされて後頭部を強打し、倒れ込んでしまう。

起き上がろうとするが、視界がぐらついている。頭を強打したからか!?

 

正面を見ると、黒焦げになった黒騎士が、倒れ込みながらも僕を睨んでいる。そして、その名前を呼びながらヘルトルーデ王女が黒騎士に駆け寄る。

 

「バンデル!しっかりして!」

 

ヘルトルーデ王女が黒騎士を呼ぶ声が、だんだんと小さく、遠くなっていく。

あ・・・これ、やばいやつかもしれない。

床に突っ伏したまま、意識がぼんやりとしてきたぞ。

くっそ!鎧にも乗っていないクソジジイに、こんなにもボコボコにされるなんて・・・

しかも、絶壁とはいえ、クソジジイのほうには、絶壁とは言え、若い女が駆け寄っているのに、僕のところには誰も来やしない。

ちくしょうが・・・クソジジイを僻みながら、僕の意識は闇に沈んだ。

 

------------------------------------

 

目を覚ましたときに視界に入ったのは見覚えのある天井だった。

・・・王宮内の医務室だ。頭に手をやると、包帯が巻かれている。生傷はなさそうだから、回復魔法で治療されたようだ。

 

「おお、目を覚ましたか!」

 

部屋に入ってきたのは、お付きのドクターであるフレッドを引き連れた陛下だ。

 

「・・・申し訳ございません、黒騎士に後れを取りました」

「いやいや、面白いものを見れて、私は満足だぞ。また新しい仇名が増えたな、下劣公?」

「悪口の間違えでは?」

「敵からの悪口なんて褒め言葉だと思っておけ。フランプトン派は、さっそく新しい二つ名を広めて回っていたぞ。さすがに裸エプロン公爵だなんて名称を口にするのは憚られるようでな。あいつら、黒騎士のネーミングに感謝してるらしい」

「僕をけしかけたのは陛下じゃないですか」

「はっはっは、ミレーヌのやつも、顔を真っ赤にしたり、真っ青にしたりと慌てていてな。期待していたよりもずっと楽しめた」

「そんな陛下を楽しませるために。黒騎士にボコボコにされた忠臣に対する褒美は期待していいんでしょうね?」

「・・・」

 

軽口をたたいた僕に、めずらしく陛下は軽口を紡ぐのを止めた。

 

「本来ならそんな話もしてやりたいんだが・・・お前さんが意識を失っている間に、ちょっと慌ただしくなってな」

「陛下の新しい隠し子でも見つかりましたか?」

「・・・さきほど、バルトファルト子爵がスパイ容疑で拘束された」

 

・・・はあぁぁぁぁ!?

血の気が引いていく。気を抜いたら、また意識がぶっ飛びそうだ。どうなってるんだってばよ!!!!

 




今回の話がこんなに文字数多くなるとは思わなかった・・・

ちなみに、爆誕って言い出したのはルギアからって話、本当だろうか・・・
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