乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
先週はなぜか脅威の7千PVでガクブルしてましたが、せっかくなので続きの投下を頑張りましたw
フランプトン派の衣服絡みのやらかし2回というのは、コミカライズの書き下ろしSSにあった、
胸のサイズがガバガバだったり、幼女向けドレス送っちゃったりした、ってやつです
「なんというやつだ!!」
会議室の一室にあるテーブルを、渾身の力で殴りつけたのはつい先刻まで、バーナード大臣主催の茶会に参加していたフランプトン侯爵である。
理解に苦しむ事態が次々と起こった狂った茶会は、派閥の勢力拡大に心血を注いで動き回ってすり減った神経をさらにすり減らしていた。
「他国の王族になんて要求を突き付けるのだ、あのボンボンは!?しかも、あの黒騎士と殴り合うなんて狂ってるのか!?」
かつて王国の飛行船や鎧を次々と沈め、一部では魔王とまで呼ばれた公国の黒騎士であるバンデルと、レッドグレイブ家の後継ぎであるギルバートの殴り合いが勃発したことは、
現在の王宮内においてもっとも強い政治的勢力を率いるフランプトンにとってもあまりに予想外の出来事であった。
フランプトンが描いた筋書きは、王国内の最大勢力を形成しつつ、公国と裏で手を結び、国境沿いの浮島をある程度くれてやる代わりに、和平を成立させ、
その影響力を確固たるものにして宰相の座を勝ち取り、王国の政治を牛耳るというものだ。
つまり、公国との良好な関係構築は必要不可欠なものである。
そのためには、公国側の留飲を下げさせるためにも元王太子か第二王子あたりを婿入りさせようと画策していたのだが、国王の思い付きのような縁談話の提案が、全てをぶち壊しかけている。
公国の先遣部隊を完膚なきまでに撃退して国としてのプライドをへし折ったバルトファルトの黒幕と言われると同時に、
フランプトンと彼の率いる派閥の宿敵であるレッドグレイブ家の跡継ぎであるギルバートと、公国のヘルトルーデ王女との縁談なんてものが成立するとは思っていなかった。
しかし、ギルバートから突き付けられた破廉恥極まりない要求は、ヘルトルーデ王女だけでなく、茶会に参加した公国の軍幹部らを激怒させてしまっている。
「お、落ち着いてください、侯爵!」
「レッドグレイブが破廉恥な要求を突き付けた、義憤に駆られた黒騎士の正義の鉄拳により成敗された、などという噂を既に流しております。噂好きのやつらがすぐに国内中に拡散することでしょう!」
「レッドグレイブやアトリー、王妃の側だってカウンターで違う噂を流すに決まっておろうが!我々は、既に2回もヘルトルーデ王女の不興を買ってしまっているのだぞ!」
間の悪いことに、フランプトン派としても、今回の茶会の乱闘事件だけでなく、ヘルトルーデ王女がエルフの浮島への冒険に向かう際に贈答した衣服絡みで2回も王女の不興を買ってしまっている。
今回の事件に比べれば軽いものかもしれないが、このままでは、公国との関係が悪化しすぎて裏で手を結ぶどころではなくなってしまうおそれがある。
「ヘルトルーデ殿下が欲していた、財宝庫のロストアイテムはすぐに公国側に発送しろ!他にも希望するものがあれば、くれてやれ!それと、あのボンボンの弱みはまだ見つからないのか!?」
「引き続き、全力で探しておりますがまだ・・・」
「ならばバルトファルトのほうはどうだ!?」
「近頃はアトリー家やローズブレイド家とも接触し、つい先日にはまたも王妃と何やら接触したようですが、陥れるに足りるようなものは・・・」
「あの成り上がりの小僧め!小賢しくもあちこちに手を広げおって!」
怒りと興奮のあまり何度もテーブルを叩き、周囲の貴族達も機嫌を損ねないようにビクビクしている。
しかし、そんな中で、フランプトン派のある貴族が手を挙げる。
「あの学園内にいる専属使用人のグループに渡りを付けました!バルトファルトの姉が囲ってる亜人経由で、色々と”仕込み”が可能です!」
「でかしたぞ!この際、奴の身柄だけでも反逆罪で拘束させろ!黒騎士を倒したロストアイテムの接収と解析も忘れるな!」
本当であれば、リオンもろとも、ギルバートを陥れたかったところではある。
しかし、他の派閥の貴族達も大勢いる前で、あそこまで公国を侮辱し、溢れんばかりの憎悪を纏って黒騎士と殴り合い、紅茶を頭からぶっかけたり、股間を蹴り上げたり、顔面を茶菓子まみれにして窒息させようとする等、
その尊厳を深く傷つけるような攻撃を加えた者を反逆罪だとでっちあげても、さすがに他の派閥や王宮も首をかしげるだろう。
ひいては、フランプトン派の行動に大義がないと疑いを持たせるきっかけになるおそれもある。
そうであれば、まずはリオンだけでも潰して、レッドグレイブ家のメンツを潰しつつ、公国のご機嫌を取ったほうがベターだとフランプトンは結論付けた。
ついでにリオンの持つロストアイテムを確保し、運用できれば、レッドグレイブ家がリオンのものと同型のロストアイテムの鎧を保有していたとしても、最終的に武力衝突となった際の、戦力の質の差も埋めることができる。
この時点で一石三鳥だ、これ以上、欲を出す必要もないだろう。
「お前達、追い詰められつつあるのは向こうだと油断するんじゃないぞ!公国と手を結べなければ、我々の勝ちが確実にはならんのだ。追い詰められているのは我々だというくらいの気持ちで動け!」
フランプトンが先日の茶会を振り返ってみて思うのは、もろもろの調整の結果、アトリー家の主催となったが、国外からは曲者だと評される国王のローランドが裏で大なり小なり関与していたのだろうということだ。
国王であるローランドとギルバートが夜の遊び仲間であることは公然の秘密であり、茶会でのあの騒動も、ローランドとレッドグレイブ、それに会を開いたアトリーが裏で繋がっていると考えたほうが無難だろう。
王宮内の最大派閥となったのはフランプトン派であるが、その揺り戻しが起きかけているのは間違いない。
ならば、このピンチを、逆境を跳ねのけることができれば、自身の立場を確固たるものになるはずだ。
リオンを陥れることで、フランプトンは、勝負に出ることを決意するのであった。
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「まあ、フランプトン派の連中が考えているのはそんなところだろうな。大まかな事情は、ミレーヌとヴィンスからバルトファルト子爵にも既に説明してある」
「・・・ずいぶんと荒い手に出たものですねぇ・・・」
「ヴィンスのやつは、このために暴発するよう仕込んでおいた、と言っていたがどうだかな」
王宮内の医務室で陛下から事情を聞かされた僕は、あんぐりと口を開けながら天井を眺める。
まさか、僕が黒騎士との死闘の結果、意識を失っている数日の間に、事態がこんなにも急展開しているとは思わなかった。
リオン君の部屋から、公国との密約を結んだことを示す書類が出てきたという話だが、ずいぶんと荒唐無稽な
話だ。
よくよく考えればわかることだろうが、リオン君が公国と手を結んでどんな得があるというのだろう。しかも、そんな書類を、わざわざ人の出入りの多い、学園の中の寮の部屋に隠しておくなんてありえない。
百歩譲って隠すとしても、セキュリティを考えれば、彼のロストアイテムであるパルトナーやアロガンツの中ならまだわかるが・・・
さすがの状況に、父上も予定を繰り上げて王都に戻ったということなんだろうね。まぁ、僕は王妃様と仲が悪いから、リオン君への説明は、パパ上とやってくれたほうがありがたい。
「公国と手を組んでまで勢力を強くして、この国を牛耳ろうとしていたからな。お前があんな要求をした上に、黒騎士との泥沼の乱闘騒ぎがあったせいで、公国と手を結ぶどころじゃなくなったというわけだ」
陛下が両掌を広げ、やれやれ、と言わんばかりに首を横に振る。
「フランプトン派の連中は、焦って、時計の針を強引に進めようとした、というわけですね」
「格好良く言ったつもりだろうが、要するに、お前の頑張りすぎだ」
・・・ア〇シズを壊し過ぎたロン〇・ベルに、赤い〇星が負け惜しみとばかりに言ったようなセリフだね。
いや、色で言うなら、僕はむしろアク〇ズを落とす側な気もするが、まあそれは置いておくか。
「誰の指示でやったかお忘れですか?」
「あそこまでやらかすとは、さすがの私も思わなかったさ。一応、焚き付けた責任を感じたからこそ、慈悲深い私が説明をしてやってるんだ」
「・・・ありがとうございました。じゃあ僕は戻って、父と合流します」
「バルトファルトと接見はできるようにしておいた。私に火の粉がかからないように、うまくやれよ」
さすがに陛下も、フランプトン派が公国と手を結んで、王国を好き勝手にするのは気に喰わないのだろう。ここからは、派閥同士の暗闘が始まるわけだが、とりあえずリオン君と接触してみるとするか。
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「やあ、リオン君。今回は災難だったね」
王宮の地下にある牢屋の一室で、鉄格子ごしではあるが、再会したリオン君に語りかける。
ちなみに、牢屋の入り口にいる番兵は既にこちら側に引き込んであるようで、袖の下に金貨を入れたら快くリオン君の牢まで案内してくれた。
「驚きはしましたけど、すぐに王妃様やヴィンスさんに事情は聞けましたから、たいしたことはないですよ」
さすが乙女ゲーの攻略対象だ、包容力があって不測の事態にも慌てずに対処できる腹の座り方をしているようだ。
というか、陛下の話を前提にすると、僕が派手に黒騎士とバトルし過ぎたのが遠因のようだから、リオン君には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ここからは、僕らとフランプトン派の暗闘が始まる。その一方で、リオン君には囮になってもらって、どんなやつが接触してきたかを探ってもらうということでいいかな?」
「それはいいんですけど、ギルバートさんが、お茶会で黒騎士と殴り合ったって本当ですか?」
「鎧を駆って戦場でやつとタマの取り合いをした君に比べれば大したことはないさ」
「いや、むしろ生身であんなガチムチジジイと殴り合うことのほうが遠慮したいんですけど!?」
リオン君が、目を大きく開いて、少し引いたような表情を浮かべている。
僕は、陛下の書いた筋書きに乗っかって心の準備をしっかりしてから殴り合っただけで、突発的に遭遇した公国の艦隊と交戦を開始して撃退したリオン君と比べれば、大したことないはずなのに。
リオン君からの好感度を下げないためにも釈明しておかなければ。
「あれは、陛下から事前に指示をされていたからできたことだよ。まぁ、ヘルトルーデ王女との縁談をねじ込まれそうになったから、その流れを壊すために、やや大袈裟に暴れた節はあるけどね」
「アンジェが、お茶をするたびに言ってましたよ。ギルバートさんがいつまでたっても身を固めないから心配だって」
「・・・あの子、そんなことをリオン君に愚痴っているのか。つまらない話につき合わせて申し訳ないね」
「あんまり心配させないであげてくださいよ。最近はギルバートさんのことで悩むアンジェをリビアが慰めるまでがお約束の流れみたいになってるんで」
まさか、まるで親戚のおばちゃんのような感じで妹が僕のことを心配しているとは思わなかった。
しかも、悪役令嬢の愚痴の相手を、主人公と攻略対象がするって、とんでもない構図だな。もう乙女ゲーの世界の在り方がだいぶ変わってきちゃってるよ。
きっと、これもマリエのやつのせいだ・・・マリエが全部悪い。僕がこんなにも色々と苦労しているというのに。
・・・いかん。話がだいぶ逸れてしまった。
「ところで、リオン君との情報共有のためにも、定期的に顔を出したいとは思うんだが、さすがに毎日、というのは難しいと思うんだ」
「それだったら、ちょうどいい方法が」
リオン君がそう言うと、僕の目の前の空間がわずかに歪み、その歪みの中から、銀色の丸い物体が姿を現した。
というか、これ、ロボットアニメで出てくるような光学迷彩ってやつじゃないのか!?ミラー〇ュコロイドを解除して姿を現した的な登場だったぞ!?
もちろん、僕が知る限り、この世界の軍事技術にそんなものは未だ生み出されてはいないはずだ。
「はぁい、ギルバートちゃん♪私の名前はクレアーレ。貴方たちがいうところの使い魔ってやつね。マスターとの連絡は、私がリアルタイムに対応するから、しばらくお世話になるわ」
軽い感じの、女性の声の人工音声が、銀色の丸い物体から聞こえてきた。
人工音声を発している間は、その中央にある、円形をした青色のクリスタルのようなパーツが点滅している。
そういえば、以前にアンジェから、リオン君が”使い魔”だという銀色の球体を従えていると聞いたことがあったな。
っていうか・・・おいぃぃぃぃぃ!!どこが使い魔だよ!
さっきは銀色の丸い物体と評したが、明らかに金属そのものだ。しかも、どういう原理かわからないが、浮いている。これ、悪魔とか召喚獣の類の使い魔というより、明らかに人工物だよね?
科学の産物的なやつだよね?いわゆる、アーティフィシャル・インテリジェンス、AI的なやつだよね!?
だ、だが口に出してツッコミをするわけにもいかない。この世界の攻略対象であるリオン君だって、人工知能と言われても、何を言っているか理解できないはずだ。
きっと原理を説明できないロストアイテムであることを、何らかの事情で説明が難しいから、魔法的な生物だと取り繕っているのだろう。
「・・・ギルバート・ラファ・レッドグレイブだ。はじめまして、クレアーレさん?」
「あらん、そんな堅苦しい呼び方じゃなくていいわよ」
「了解した、よろしく頼むよ、クレアーレちゃん」
前世にあった人工知能・・・ペッ〇ーくんとかだって、こんなに流暢に話はできなかったよな。まさに失われた科学技術。ロストアイテムといったところか。
それにしても、この光学迷彩。使い方次第では、勢力図が簡単に塗り替わるし、ものすごく下劣な使い方もできるぞ。
「クレアーレがいれば、すぐに連絡を取れるので、何かあったらお願いします」
「わかった。ちなみにリオン君、クレアーレちゃんは姿を自由に消せるみたいだけど、周りの人間も見えないようにできるのかい?」
「いや・・・たぶん無理だと思いますけど・・・」
「そうか、覗きとかには使えない、ということだね」
「・・・アンジェに相談しますよ?」
やだなぁ、冗談じゃないか。温泉回とかあったときに使えないかなと、頭をよぎっただけだよ。
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リオン君のいた牢屋を離れ、王都にある公爵家の屋敷に戻った僕は、足早に父上の執務室に向けて屋敷内を歩いていた。
執務室の扉をノックして、部屋の中に入ると父上が忙しそうに、資料の束と格闘している。
「ただいま戻りました」
「お前という奴は、まったくもって人騒がせな・・・」
「こういってはアレですが、元王太子と決闘するアンジェほどではないのではないかと」
「他国の王女に対して、破廉恥極まりない要求を突き付けた人間がよくそんなことを言えたな。兄妹そろって・・・はぁ」
「僕の場合は、陛下の指示によるものです。ついでにいえば、黒騎士とダブルノックアウトなら、それなりに名誉挽回はできたと思うのですが・・・そういえば、黒騎士はどうなりました?」
「フランプトン派が治療の名目で、公国側に早々に帰してしまったよ。公国を無視はできんが、ここからが正念場だぞ」
「ええ、とりあえずはリオン君をハメた直接の犯人から探すとしますよ」
学園内のリオン君の部屋に入ったということは、学園内にいる人間が犯人である可能性が高い。
しかも、部屋のカギが壊されたという話も聞かないから、まずはそのカギを持っている人間から洗ってみるとしよう。
そんなことを考えていると、バタバタという足音がこの部屋に近付いてくるのが聞こえてきた。
「失礼します、父上。お話が・・・兄上?意識が戻られたのですね?」
部屋に入ってきたアンジェは、パパ上と、その隣にいた僕を見て少し驚いた表情を浮かべるが、すぐに視線をパパ上のほうに向けると、リオン君が拘束された直後にヘルトルーデ王女に接触したときの報告を始める。
要約するまでもない話だが、やはりたいそう王国のことを憎んでいるそうで、また近いうちに戦いを仕掛けてくるのだろう。言葉尻だけ捉えると、報復、復讐の類のようだが、きっと僕もいくぶんか恨みは買っているだろう。
「父上、リオンを解放してください。リオンは悪いことなどしていません!」
アンジェの嘆願を聞いたパパ上が目を細めている。どう諭せばいいのか、指導の仕方を考えている顔だ。
明らかにアンジェは感情的になり過ぎているな。問題の本質を完全に捉え損ねている。
そもそも、フランプトン派が王宮内で最大の政治力を確保した上で、理由をでっちあげているのだから、その理由を潰したってどうせ別の理屈が出てくるだろう。
この場面では。もはや、本当は何もやってないとか、無実だなんてたいした意味はない。
フランプトン派を徹底的に貶める何かを見つけ出すか、武力にものをいわせて殲滅するか。リオン君を本当に救うにはそのどちらかしかない。
前世がパンピーの社畜である僕にだってわかるのに、アンジェにはそれが見えていない。
・・・いや、それが見えない、気付けないくらいリオン君に夢中だということか。
「甘えるな。この程度のことは王宮内では日常茶飯事。私の権力で釈放したところで、肝心の飛行船も鎧も戻ってこない」
父上のこのセリフは、間接的にリオン君にこだわり過ぎるなということを伝えたかったのだろう。
しかし、明らかにアンジェは納得していない。
私情・・・あってほしくないと考え続けていたが、やっぱり色恋の感情が入り込んでいるようにしか見えない。
もう一度言うが、あってほしくなかった。
たしかに、馬鹿王子達との決闘騒動、公国の襲撃と、2回も窮地を救われたんだ。普通なら、それをきっかけに恋心が芽生えたって何らの不思議もないし、咎めるものでもないだろう。
・・・そう、普通ならね。
だが、妹はこの乙女ゲーの世界の悪役令嬢だ。
一方で、この乙女ゲーの世界の主人公であるオリヴィアさんからも、攻略対象と思われるリオン君に対して明確な恋愛感情が向けられている。いや、もう告っちゃったくらいだからね。
このままアンジェがリオン君に横恋慕してくっつこうと動き続けてしまった場合、主人公であるオリヴィアさんがリオン君と結ばれるまでの過程で、
何らかの人ならざるものによる修正力、そう、ゲームのシナリオという都合によって、アンジェに不幸な結末が待ち受けている可能性もある。
妹が攻略対象に横恋慕するという構図を、もうこれ以上は見過ごすことはできない。
僕が悪役になってでも、妹の破滅を防がなければならない。悪役令嬢の兄となったのは、そのためなのかもしれないのだから。
「やめなさい・・・もうやめるんだ」
「何をやめろ、というのですか」
「2回も助けてもらったんだ、リオン君に執着する気持ちもよくわかる。だが、そんなに冷静さを欠くようなら、もう恋愛ごっこは終わりにする頃合いだろう」
「あ、兄上?」
「僕達は公爵家の人間だ。惚れた相手と自由にくっつくことはできない」
「そ、それは・・・」
ここで、別の相手と形だけ結婚して、リオン君を愛人にする、とか言ってくれれば、まだ冷静さが残っていると言えるだろうが、そうではないのだろう。
「いくらリオン君が凄腕の冒険者で、功績をあげたとしても、今の彼は子爵に過ぎない。言い方は悪いが、家としての釣り合いが取れないことはわかるだろう?アトリーやローズブレイドとは違うんだ!」
アンジェは黙ったまま、2,3歩だけ後ろに下がり、小さく頷く。
ここからが、本題だ。これでアンジェの恋愛ごっこは終わりにさせる。
「それに、そもそもリオン君と最初に親しくなったのはオリヴィアさんだ。ずっと彼と一緒にいたオリヴィアさんの気持ちを知らないわけではないだろう?」
「・・・はい」
「知っていながらリオン君に執着するということは、結局、あの馬鹿王子から乗り換えて、後から割り込んで、自分を優先させるということに他ならない」
アンジェの瞳から大粒の涙が溢れ出てきた。瞳以外も、充血で真っ赤だ。
しかし、ここで止めるわけにはいかない。
「誰の助けもなく、単身、平民の身で放り込まれたあの学園の中で、ただ1人、彼女を助けてくれたリオン君が、オリヴィアさんにとって、どれだけ大切な存在だっただろうね。それを辛そうなフリをしながら、結局は自分のモノにしたいっていうのは、自分が特権階級だという考えが前提の傲慢な考えだ。貴族云々より先に、人として恥を知りなさい!」
黙ったままのアンジェの両肩に、そっと手を添える。
かすかに肩が震えている。辛いよね、うん。だけど、この世界で君は悪役令嬢なんだ。
悪役令嬢が、これ以上、攻略対象に近付いては何が起こるかわからない。泣くことは止められないが、せめて泣くなら、兄として、家族として胸を貸すさ。
右腕をアンジェの頭に優しく乗せると、アンジェの口が開く。
「・・です」
「え?なんだって?」
かすれた小さな声のせいで一部しか聞き取れなかった。
あまり何度も言わせるのもかわいそうだと思い、耳を近付けてみる。
「もう結構です!!」
涙目のアンジェは、顔を上げると、僕のことを両腕で思いっきり突き飛ばした。
「え・・・?」
突き飛ばされて尻餅をついたまま、呆然としている僕を一切振り向くことなく、アンジェは部屋を全速力で飛び出して行ってしまう。
パパ上は、呆れたような顔をしながら僕を見ているし、部屋の扉の脇にはコーデリアが直立したまま刺し殺すような視線を向けてきている。
「たいそう不満げな様子だが、君だってリオン君とアンジェが釣り合っていると思っているわけではないだろう?」
「もう少し、お嬢様を傷付けない言い方ができたのでは?」
しょうがないじゃないか。この乙女ゲーの世界の悪役令嬢であるアンジェを破滅の運命から解放するためには、ここではっきりとさせる必要があったのだが、悪役令嬢云々の話をしたって誰にも伝わらないだろう。
・・・伝わるのは、僕と同じ転生者である、あのクソ女・・・マリエだけだろう。
「今の王国の状況で、時間をかけて優しく説き伏せるのは難しいかな」
「私もややコーデリア寄りなんだが、ギルバートよ。言ってることが間違ってるとは思わないが、2つほどいいか?」
僕と性悪メガネメイドの会話にパパ上が割って入ってくる。
「理由はともかく、政略結婚を現にしていないお前が言うのも・・・」
「・・・もう1つは?」
「たしかに公爵家の者ではあるが・・・ようやく婚約破棄の傷が癒えて、新しい恋に踏み出せそうだった妹相手にあの言い方・・・お前、人の心とかないのか?」
パパ上、まるで呪術師のようなセリフを言わないでぇぇぇぇぇ!?
ちなみに、ずっと後に分かったことだけど、アンジェはこのときのことを、とても深く恨んでいたらしい。
兄の心、妹知らず、ということか。
今回の展開から、次回は・・・マリエたんとの最終決戦!?
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