乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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オマケを含めたら過去最大の13000字になってしまいました・・・
投稿が遅れたのは、最近届いたDXブレイバーンで遊んでたからってわけじゃないだからね!


第60話 スーパーボンボン大戦~みんなの大流血を添えて&おまけ・攻略対象との出会い

クレアーレから言われて辿り着いた学園内の広場で目に入ったのは、妹と主人公様を野次り、罵る生徒達、そしてその連中に囲まれたマリエの姿だった。

聞こえてきた声から察するに、このクソ女は、妹や主人公様に土下座しろと要求したらしい。

 

それを聞いた時点で、意識が一瞬飛んだ気がした。気付いたときには、特大のファイヤーボールをぶっ放していたよ。

爆発が連続して起こり、あちらこちらから悲鳴が上がるものの、僕は、全く気にとめず、ゆっくりとマリエのいる方向に向かって歩く。

・・・このクソ女。ここまで僕にケンカを売るとは・・・妹の婚約をぶち壊して一度、主人公様であるオリヴィアさんが就くはずだった聖女の地位を奪って二度、そして、今回の件で三度。

 

いや、振り返って思えば・・・もしかしたら、これは僕の過ちであったのかもしれない。

監査の仕事をしていたときに、山積みになった問題案件の中に、こいつの実家であるラーファン子爵家もあった。

しかし、僕にとっての優先順位が高かった案件は、国の安全保障上のリスクに直結しかねない国境や辺境に関するものであり、手間の割に得られるものが少なそうなラーファン子爵家を後回し。というか手を付けなかったのは事実だ。

あのときに、ラーファン家を統治実績不良だと取り潰しにしておき、この女から貴族の身分を奪って入学できないようにしておけば・・・

いや、もはや悔やんでも後の祭りだ。

 

僕と同じく、この世界にとってのイレギュラーであるこの女が、今世の妹や僕自身をここまで苦しめるというのは、全く予想外だったよ。

 

僕は、肉体的な強さや強大な魔力、特別なスキルのような転生あるあるチートはなかった。

しかし、公爵家なんていう、ある意味、権力チートのあった僕の目論見を狂わせた、いや狂わせたどころか、僕の努力の成果をことごとく無に帰せしめたのだから、大したものだという見方もあるが・・・落とし前は付けてもらう。

 

しかし、マリエに近付いていく僕の前に、ジルク達4人が立ちはだかる。まるで、お姫様を守る騎士かのように。あの馬鹿王子を除いた、アルトリーベのオリジナルの攻略対象が勢ぞろいだ。

予想通りの動きではあるが、やはり、こいつらは僕の邪魔をするらしい。

 

「・・・どけ」

「怒りを鎮めてもらえませんか。アンジェリカさんに暴言を吐いた生徒達は、もう貴男によって吹き飛ばされましたよ」

 

4人の中で、僕と最も古い付き合いであるジルクが前に出てきた。

付き合いが長いだけあって、こちらの怒りが相当なものであることがわかっているようで、表情が強張っている。

 

「昔からの顔なじみのよしみだ。もう一度言ってやる。どけ」

「それはできません。私達は、マリエさんを守ります。私達の心を救ってくれた恩を返さなければなりません」

「わかった。お前達は、どうあっても俺の邪魔をするということだな」

 

ありったけの眼力でジルクを睨みつけると、ジルクは眉間に皺を寄せ、身を半分ほど、残りの攻略対象3人のほうに向けて口を開く。

 

「これは相当マズいですよ」

「いや、激怒しているのは見ればわかるだろ」

「そうだね。ある意味、いつもどおりに荒れているというか・・・」

「ジルクは一体何に怯えているんだ?」

「一人称が”僕”ではなくなってます。ギルバートさんは、普段はあれでも、最低限は公爵家の跡取りたる振舞いを心がけているので、一人称が”僕”となっているのですが」

「あれでも心がけているのか!?」

「嘘だろ?神殿に殴り込みをかけたり、黒騎士と殴り合ってる時点で、何を振る舞ってるっていうんだ!?」

「いや、確かに結果的には何かをやらかしても、なんやかんやで毎回、処罰されていないな」

「ええ。ですが、あの人が、取り繕うことをやめたときは、決まって自身のことを”俺”と呼びます。要はそれぐらいブチギレしているということです」

 

なるほど、さすがに、こいつは僕をよく見ているな。だが、ブチギレているとわかっているなら、こちらから目を逸らしたのは大きなミスだろう。

 

「隙だらけだぞ」

 

瞬時にジルクとの距離を詰めて、魔力で強化した拳でジルクの腹にボディブローを叩き込む。

ほぼノーガード状態で喰らった痛みで、ジルクは涎を垂らしながら膝から崩れ落ちようとしたので、僕はジルクの懐に手を突っ込み、あるモノを探す。

 

「「「ジルクッ!」」」

 

慌てる残りの攻略対象3人を気にも留めずに、ジルクの懐から探し物を見つけた僕は、その探し物を取り出して安全装置を解除すると、マリエのほうに向けた。

ジルクの懐から取り出したモノ。この緑色の腹黒攻略対象が、あの馬鹿王子の護衛をするために特例的に携帯を認められている拳銃だ。

マリエは聖女のアイテムの力を使った魔法のバリアを張ることができる。だが、およそ魔法である以上、ごく僅かの時間であっても、”溜め”が必要だ。

だが、拳銃による不意打ちであれば、魔法を使われる前に、火薬で発射された弾丸をぶち込むことが可能だろう。ためらうことなく僕は引鉄を引いた。

だが、引鉄を引き切る前に、拳銃に向かって投げ付けられた長い棒状の物体が、拳銃を握る僕の手先に当たると、その衝撃で弾き飛ばされた拳銃は、まったく明後日の方向に向けて発射されてしまった。

 

「痛ってぇ!!」

 

僕の手先から拳銃を弾き飛ばして地面に落ちた、投げ付けられた棒状の物体。それは、木刀であった。

僕の脇の方に目を向けると、木刀を投げつけたためか、手が伸びきっている水色の髪の男―攻略対象の一人であり、剣聖の息子であり、自身も剣聖に次ぐ剣豪として認められているクリスの姿がある。

どうやら、こいつが咄嗟に木刀を投げ付けて、拳銃を弾き飛ばした犯人のようだ。

クソ!まるでマンガのような芸当をしやがって!

 

「やってくれたな!剣聖ジュニア!!」

「マリエをやらせはせん!」

 

続けてクリスは、地面に落ちた木刀の方向に向けて、走り出した。マズいな、刃が付いてないとはいえ、剣の使い手に得物を拾わせるのは見過ごせない。

僕も木刀の方に足を向けるが、先に走り出したクリスのほうが木刀の下へと辿り着く。だが、お前の思うとおりにはさせないよ。

クリスが木刀に手をかけようと伸ばした右手の指を、僕は足で思いっきり踏みつけると、足の裏に細い骨が折れる感触が伝わってくる。

 

「ぐあぁっ!」

 

クリスが痛みにもだえる苦悶の声を発し、動きを止めた。そこの隙を逃さず、顔面に思いっきり拳を叩き込むと、眼鏡が割れ、鼻血を流しながらクリスは気を失ったのか、動きを止めた。

 

「よくもクリスをっ!」

 

脇から声が聞こえるとともに、グレッグがこちらに向かって走ってきており、もう間近に迫ってきていた。クリスの右手を踏み抜いたときから、走り出していたのだろう。

ヤバい!この距離だとガードが間に合わない!!

 

「うおらあぁぁっ!!」

 

立ち上がろうと中腰になっていた僕の額に、グレッグの膝蹴りが直撃し、その勢いで後方に吹き飛ばされる。

地面を転がりながら何とか距離を取って立ち上がるが、膝蹴りの衝撃で激痛が走っているとともに、頭の中がグラグラ揺れているようだ。

 

「まだまだぁっ!」

 

続けてグレッグが繰り出した拳が僕の顔面に、数発、叩き込まれるが、体勢を整え直して次の攻撃を何とかガードした。

ガードの上からグレッグはさらに拳を叩き込んできて、防戦一方の僕だったが、何故だかそれをあまり脅威に感じなかった。

どうしてだろうか・・・そうか、こいつの攻撃には、大した殺気が乗ってないんだ。

先日の狂った茶会のときに、鍛え上げられた太い腕から、ありったけの殺意を込めて繰り出された黒騎士の攻撃は、ガードしても生物として恐怖を感じた。

一方、目の前のグレッグの攻撃は、鍛えられた筋肉も、込められた魔力もあるが、黒騎士と比べれば、殺意や迫力に劣る。

そうであるなら、十分に対処は可能だ!

グレッグの拳を掌で掴むと、頭突きをグレッグの鼻先に叩きつけ、不意の反撃に怯んだグレッグの胸元を掴む。

 

「膝蹴りするならドリルでも付けてから出直してこいやぁぁぁぁ!!!」

 

大声を上げながら、もう一発、頭突きを見舞い、さらに続けて、ボディに向かってお返しとばかりに膝蹴りを叩き込んだ。

これで沈黙するかと思ったが、まだグレッグの目は死んでいない。さすが肉体派の攻略対象だ。

胸元を掴まれたまま、今度はグレッグが僕の胸元を掴んで顔面に頭突きを繰り出してくる。この野郎、頭突きの我慢比べでもしたいのかよ!

お互い、何発か頭突きをぶつけ合っていると、視界の端に青い魔力の光が映る。光の元には、紫色の髪の攻略対象、ブラッドの姿があった。

こいつ、動きを止めた僕に魔法をぶち込むつもりか!

 

「アイスニードル!」

 

ブラッドの叫びとともに、収束させた魔力が幾つもの氷柱が姿を現すと、その先端が一斉に僕の方を向き始める。

そして、ブラッドの頭上に掲げられた手が振り下ろされると同時に、氷柱の群れが真っすぐにこちらに向かってきた。

 

「俺が捕まえてる隙に・・・やれえぇぇぇ、ブラッド!」

「ああ!しっかり押さえていてくれよ、グレッグ!」

 

ヤバい!離れろ、この野郎!

なんだ、こいつら。空賊ウイングシャークとの戦闘のときよりも、強い絆で結ばれているぞ。

筋肉大好き脳筋野郎と魔法大好きな後衛みたいな、相性最悪の組合せだったはずなのに、いつの間にかお互いを認め合って補い合える関係を築いているとは思わなかった。

 

腕を振り払おうとしても、グレッグの両手は僕の胸元をしっかりと掴んでいて、離れる気配が微塵もない。

ファイヤーボールをゼロ距離からぶちかまそうと思っても、魔力を貯めようとした瞬間にグレッグにその隙を突かれるのは目に見えている。

いくらこの前の黒騎士との殴り合いで、痛みとか恐怖のようなものへの耐性が上がっていたとしても、あんなに太くて鋭利な物体が何本も突き刺さったら、さすがに戦闘不能になることは避けられない。

クソ!お前らなんざ、下品な言い方すれば、マリエを媒介にしたホールなブラザーぐらいの関係じゃないのかよ!そんなお前らの思い通りになってたまるかよ!!

 

「お前ら、そろって・・・俺の邪魔を・・・するんじゃねええええ!!!」

 

グレッグの襟を掴んだまま、僕はグレッグを自分の側に引き寄せて、その勢いのままに頭突きを食らわせると、グレッグの足元がわずかにグラついた。

続けて、踏ん張りが効かなくなったグレッグの脛を力任せに蹴り上げると、さすがに弁慶の泣き所とでも言うべきか、グレッグの表情も相当に苦しそうにしている。

僕はその隙を逃さず、グレッグの胸元を掴む腕の力を強めて、無理やりグレッグの身体を、僕とブラッドの間に引きずり込んだ。

要するに、グレッグを盾にするという形だ。

 

「よ、避けろグレッグ!」

 

焦ったブラッドの声が上ずる。だが、その叫びも虚しく、氷柱はグレッグの背中にグサグサと突き刺さる。

 

「ぐああぁっ!」

 

呻き声をあげたグレッグの方にブラッドの視線が向き、今度はブラッドに隙が生まれたのを見て、僕はグレッグを顔面から地面に引きずり倒し、その勢いでブラッドの元へと走り出した。

僕の接近に、ワンテンポ遅れて気付いたブラッドが再び魔法の詠唱を開始する。

 

ブラッドが魔法の達人であることは間違いなく、僕が、拳や蹴りを喰らわせるより早く、ブラッドの魔法が放たれるだろう。

また、僕がファイヤーボールを繰り出すよりも、魔法に特化したブラッドのほうが早く魔法を繰り出せるはずだ。

しかし、魔法を使う以上、魔力の溜めがそれなりには必要で、僕からすれば、こいつには魔法を使っての実戦というか、ケンカの場数が足りない。

僕は足元を蹴り上げると、砂や石が飛び散って、周囲に広がる。ブラッドは、砂が目に入るのを防ぐために、ほんの一瞬だけ目を閉じて、目元を手で覆う。

 

「敵の前で目を覆うなんてなぁ・・・平和ボケしたボンボンのやることなんだよぉぉぉぉ!!!」

 

まるでどこかの絶好蝶な人のようなセリフを吐きながら、僕はブラッドの喉に掌底を叩き込んで、呼吸を潰し、さらに続けて拳を顔面に叩き込む。

紫は基本、打たれ弱い。

前世の妹が、あの乙女ゲーことアルトリーベをプレイしていたときに言っていた言葉だ。

当時は話半分に聞いていたが、実際に悪役令嬢の兄として今世を生きている中で集めた情報を整理すると、基本的に魔法重視の人物であり、まさに前世の妹の言う通りだった。

ブラッドは弱々しく咳をしながら膝をつく。このまま、もう2,3発ぶん殴れば戦闘不能になるだろう。

ジルクの拳銃を除けば、こいつの魔法の殺傷力が最も高い上に、肉弾戦よりもはるかにリーチが広く、僕にとっては脅威だ。それゆえ、ここで沈黙させておくのが得策のはずだ。

 

追撃をかけようと、僕はブラッドの髪を乱暴に掴む。だが、それとほぼ同時に、僕の後頭部にものすごい鈍痛が走って片膝が崩れた。

後ろを振り向くと、鼻血を流し、肩で息をしながらも、利き手ではないであろう左腕で握った木刀を振り下ろしているクリスの姿がある。

 

「くそ・・・片腕では仕留めきれないか・・・」

「このくたばりぞこないがぁぁぁぁ!!」

 

もう一撃を加えるべく、振り上げられようとする木刀を僕は掴むと、ゼロ距離でファイヤーボールを爆発させて、刀身をへし折りつつ、ボディに蹴りを喰らわせて、フラついているクリスを吹き飛ばす。

今度は僕の方が追い撃ちをかけてやろうとクリスの下に走ろうとする僕だったが、いきなりジルクが脇から飛び掛かってきて体当たりを仕掛けてきた。

 

「ジルク・・・お前っ!」

 

タイミング的に避けることもできず、衝突のあまり僕はふらつくと、その機を逃すまいとジルクは僕の右足にまとわりついてくる。

足を蹴り上げてもジルクはしっかりと僕の足を掴んでおり、なかなか離れない。2,3発ほど顔面を殴られて、口元から血を流しても、必死の形相で僕の足を掴む強さはほとんど変わらない。

そして、ジルクを無理やりにでも引きはがそうと、その顔面を掴もうとした時だった。

右の足元を見ていて、完全に死角となっていた僕の左脇腹に、今度は非常に鋭い痛みが走る。

 

「は・・・?」

 

痛みの方向を振り向くと、拳ほどの大きさの氷柱を両手で握り、僕に突き刺しているブラッドの姿があった。

 

おそらく手に持った氷柱は、さきほどブラッドが発射し、グレッグに突き刺さった氷柱の1つだろう。

クリスとジルクは連携し、僕の意識と暴力を引き付けながら、その隙に、ブラッドはグレッグから氷柱を引っこ抜いて、僕の意識外から重傷を与える一撃を入れたということだ。

クソ、ブラッドのやつ。5人の攻略対象の中でも、肉弾戦最弱なはずなのに、こんなところであのクソ女のためにド根性を発揮しやがってぇぇぇぇ!

 

「僕が・・・打たれ弱いって油断したろ・・・?」

「やってくれたな・・・正直、君は、死に物狂いとか、そいうところから、もっとも離れたやつだと思っていたよ」

 

そう言いつつ、僕は、ブラッドの顔面に肘鉄を3発ほど叩き込み、その紫色の髪を乱暴に掴むと、右足を掴んでいるジルクの顔面に向けて、ブラッドの顔面を正面から衝突させて、そのまま地面に叩きつけた。

顔面どうしをぶつけたときに、何やら鼻の骨でも折れたかのような音がしたが、それを気にするほどの余裕は完全になくなっている。

僕は、再びマリエのいる方向へ向かおうとするが、右足に、またもジルクが手をかけてきた。

 

「マリエさん・・・逃げて、ください」

 

僕は何も言わずにジルクの手を足で払うのだが、左足をブラッドが掴んでくる。

 

「マリエ、僕達が時間を稼ぐから・・・逃げるんだ・・・」

 

クソが!お前らが、このクソ女のためにここまでできるとは思わなかったぞ!?

はっきり言って、僕自身がここまでフルボッコされてまだ立っていられるどころか、何とかお前らを戦闘不能にできたのが自分でも不思議なくらいなんだからな!?

 

「ええい!いい加減、邪魔するのをやめろ!」

 

ジルクとブラッドの髪を掴み、地面に叩きつけたところで、ようやく2人も沈黙し、再びマリエを見据える。

本当に・・・本当にものすごく邪魔をされたが、ようやくボスのところまで辿り着いた。

 

「やあ、五股の聖女様。首を洗って待っててくれたかい?」

「・・・よくもこれだけ人を傷付けられるわね。頭、おかしいんじゃないの?」

「暴力だけが人を傷付けるとでも思っている単細胞なのかな?婚約者がいる男5人を誑かして婚約破棄させた人間にだけは頭がおかしいとか言われる筋合いはないね」

「包容力があるってことよ。アンタの頭の辞書にはない言葉だったかしら?」

「節操がないだけじゃないか。ま、そんなものを求めるほうが酷か」

 

僕とマリエ、それぞれが向かい合ってゆっくりと距離を詰めていく。

 

「公爵家でぬくぬく育ったアンタにはわからないでしょうけど、これ以上、私の幸せを壊さないでよ」

「生まれの不幸には同情するが、僕からしたら、先に発砲したのはお前だからな」

「みみっちい男ね!」

「家族の愛情がわからない哀れな女だな!」

 

短い言葉を発し、それぞれが魔力の籠った拳を繰り出し、正面からぶつかり合う。

拳が衝突した衝撃が全身に走り、4人のボンボンから受けたあちこちの傷が痛む。

長期戦は厳しいかもしれないと弱気な発想も浮かぶが、妹に土下座を要求したなんてことをされた以上、家として、いや、兄として黙っているわけにはいかない。

こうして、マリエとの3回目の戦いが、今、始まる。

 

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ギルバートの前に立ちはだかったジルク、グレッグ、ブラッド、クリスら4人の戦いを、学園の校舎の一室、普段から自分達がたまり場にしている部屋の中から、見守っている男子がいた。

ユリウス・ラファ・ホルファート。

ホルファート王国の王太子を廃嫡された、今は形ばかりの王族であり、ジルクら4人とともにマリエを愛した5人目の男である。

 

現在、学園内の広場では、マリエに襲撃を仕掛けてきたギルバートを阻止するべく、ジルクら4人が激しい戦いを繰り広げていた。

そして、ともにマリエのことを愛した友人が1人、また1人と倒れていく姿を見て、ユリウスは歯をくいしばり、拳を強く握りしめていた。

 

本当は今からでも全力で飛び出して、マリエを守る戦いに加わりたいと思っているのだが、そこを踏みとどまっているのは、

自分が参戦することでギルバートの怒りがさらに燃え上がり、その結果、マリエを守るという観点からは逆効果になってしまいかねないという、乳兄弟からの忠告を守っているからに他ならない。

ギルバートが激しく怒っている理由の根本的な原因の一端が、自分にあることもわかっていた。

 

眼前に広がる光景は、控えめに言っても壮絶なものだった。

 

たびたび暴力を交えた騒動を起こしてきたギルバートの攻撃は、磨き上げられた技術や積み重ねてきた鍛錬の末に得られる力とは全く異なっている。

1つ1つが、敵対する相手を苦しめ、打ちのめし、傷付けるために繰り出される、粗野粗雑の極みのような暴力とでも言うべきなのだろう。

 

一方で、バルトファルトのような、圧倒的な力によってプライドもろとも叩き潰すという類でもない。

剣術の腕、肉体的な頑強さ、魔法の威力や精度では、いずれもギルバートと相対する友人たちの方が勝っているようにすら思える。

にもかかわらず、ギルバートのほうが優勢に見えるのは、おそらく生身での戦闘の経験や勘、身も蓋もない言い方をすれば、場数を踏んだゆえのケンカ慣れがあるからだろうと思える。

また、妹に対して、公衆の面前で土下座を要求したというマリエへの怒りにより、戦闘力が底上げされているというのもあるだろう。

 

ユリウス自身にも、腹が同じ妹も、腹違いの妹もいるので、妹達が土下座をしろと言われたら憤るという気持ちもわからなくはない。

だが、ユリウスにとっては、王太子の座よりも大事な存在であるマリエの身に危機が及んでいるのであれば、彼女を守るために戦いたいというのが嘘偽りのない本音であった。

 

実際に戦う中で、友人が傷付き、血を流すのを見て、いくつもの考えが浮かび、心の中でせめぎ合っていた。

現場での戦闘に加わって、友人らとともに愛する女を守りたい。

乳兄弟の忠告に従い、この場は耐え忍ばなければならない。

嵐のように吹き荒れる、怒りに満ちた暴力が恐ろしい。

 

そのどれもが、ユリウスの心の中でせめぎ合っている。

どうするべきかをユリウスは必死に考えていた。考えて、考えて、考え抜いたところで、彼は1つの結論に至った。

 

自分だとわかるから、ギルバートは怒りを増す。

そうであるならば、自分であるとわからなければいいのではないか。

自分であることをバレないようにするためには、変装が必要だろう。

 

「王宮に戻れば、父上が趣味で集めている変装グッズや仮面などが隠し部屋に数多くあるが、それを取りに行っている時間はない。いや、待てよ・・・?」

 

思い出したかのように、ユリウスは部屋の机の引き出しを開けると、そこには1つの仮面があった。

以前に、マリエとともにお忍びで城下の町に出かけて、串焼き屋巡りをした際に、ついでに立ち寄った露店で買った、少し奇妙なデザインの仮面だ。

それを被ったときのマリエの反応は渋かったが、背に腹は代えられない。

 

ついでに、空賊討伐に参加しようと王宮に予算申請をしたが却下されたときに、仕方がないからジルクが私費で調達してきたマントも付ければ、正体はわからないだろう。

 

ユリウスは、制服の上着を脱ぎ、仮面を被り、マントを着用すると、部屋を飛び出し、廊下を全速力で走り出した。

 

「早くマリエの元に辿り着かなければ・・・」

 

すれ違う生徒達が、不審者でも見るような目を向けてくることを全く気にも留めず、ユリウスは校舎の中を走り抜けていくのであった。

 

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本筋があまりにバイオレント&ブラッディなので、おまけという名のマリエルートで中和していくぅ!

 

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私がレッドグレイブ家の屋敷でメイドをするようになってからだいぶ時間が経ち、今日はデカおっぱいパイセンと夜勤をしている。

ちなみに、この世界には、労基法なんてないから、未成年であっても深夜労働をすることはある。

とはいえ、夜勤番の担当がやることといえば、若様や当主様が遅く帰って来た場合の対応や、翌朝に行う業務の軽い準備、警備や他の部署との連絡くらいのもので、作業量自体は多くない。

だが、若様の場合は、たまに夜遊びというか知り合いと酒を飲んでから帰ってくることがあるので、そのときには酔っ払いの対応が必要になる。

 

まあ、前世でお水の世界で仕事をしていた私としては、酔って帰ってくる若様の対応は苦にならないんだけど、周りから見ると、小さい子供なのにどうしてそんなに酔っ払いの扱いが上手いのかと不思議がられてしまう。

まさか、前世では・・・なんて言うことはできないので、今世の親が・・・という話をしてお茶を濁すのだが、

その話題を出すと、今世の親の搾取・ネグレクトっぷりを知っている周りの人間は、さらに私のことを可哀そうな子扱いしてくるので、若干気まずかったりする。

 

そして、今日も若様は、偉い人の接待だか付き合いがあるらしく、まだ屋敷に戻ってきていない。

 

「若様、まだ帰ってこないんですかね~」

「う~ん、明日も朝から仕事があるから早く帰りたい、と言ってたから、あまり遅くはならないと思うけど・・・」

 

私の疑問に答えてくれたこのオッパイの大きいパイセンは、若様とねっとりした関係であるため、本当にそうなんだろうなと思う。

そういえば、私も仕事に慣れてきたせいか、周りの人のことを気にする余裕ができたのだが、婚約者のいない若様とデカおっぱいパイセンは、若様に婚約者ができたらどうするのかしら。

あの若様のことだから、”俺の金で囲うんだから文句を言うな”くらいのことは想定しておいたほうがいいのかもしれない。

ポイ捨てするなんてことは・・・ないといいけど、お貴族様、しかも王族の親戚みたいな家の跡取りだからなぁ・・・

 

っていうか、私は現在かろうじて貴族の身分を持ってるらしいけど、あの乙女ゲーの学園に通えるのかしら・・・

さすがに、王太子のユリウスを狙う気にはならないわね。ゲームでのようにアンジェリカがキレる前に、若様に消されるか、メガネパイセンに刺されるわ、きっと。

 

自分の心配もしながら、夜勤番の待機部屋の椅子の背もたれに身を預けて天井を眺めていると、部屋の扉をノックする音が響いた。

入室してきた若様の護衛の一人が、若様の乗った馬車が屋敷に戻ったこと、そして同行者ともども結構な泥酔具合であることを知らせてくれると、私とデカおっぱいパイセンはいそいそと準備を始める。

 

「マリエちゃんは先にお水を持って行ってくれる?私は少し温かいお茶とタオルを用意しておくから」

「了解でーす」

 

若様が飲酒して帰ってくるときに、いつも冷蔵庫に用意してある冷水入りのポットを手に取り、水を入れるためのコップをいくつかバスケットに放り込む。

夜勤番のメイドの待機部屋は屋敷の端っこにあり、屋敷の庭に通じる扉を出てすぐのところに、馬車が停まるスペースがあるので、私は、足早に、屋敷内に到着した馬車へと向かう。

 

既に若様は馬車から降りていて、屋敷に連れてきた別の男性の背中を、ケラケラと笑いながら、さすっていた。

周囲には明かりが少なく、空も曇っているので、顔は良く見えないのだが、若様よりは小柄に見える。

 

「ほ~ら言わんこっちゃない。若いんだから無理すんなって言ったのに、強がっちゃって~」

「わ、私は酔ってなんかいませんよ。これは・・・水分を多く飲み過ぎて気持ちが悪くなっているだけです」

 

そんなわけあるかい!と心の中でツッコミを入れて、二人のいるところに近付いていくと、若様が私の存在に気付いたらしく、手を振りながらこっちにやってきた。

 

「たっだいま~マリエちゃん。お勤め、ご苦労さまです!」

「若様!夜中なんだから大きい声を出さないでください!はい、これ。先輩が用意してくれたお水です」

 

インチキくさい敬礼をしながら、若様が水を飲み干す。

どうやらだいぶ”デキあがっている”ようだ。吐く息がとてもお酒臭い。

 

「さんきゅ~じゃあ・・・僕はお水を用意してくれたお礼をしてくるから、後はよろしく!」

「え?ちょっと!あの連れてきた人はどうするんですか!?」

「あ~・・・忘れてた~ごめ~ん!ははははは」

「忘れてたじゃありませんって!偉い人じゃないんですか!?」

「一緒に飲んでたオッサンはうちより偉いけど、あいつの家よりはうちの方が偉いから大丈夫、大丈夫。でも、ちょっと飲ませ過ぎちゃったから、水飲ましてやって~」

 

そう言って、若様はパイセンがお茶やタオルを用意しているであろう、メイドの待機部屋へとスキップしながら去っていった。

きっと若様の相手はパイセンがしてくれるだろう。そうすると、私がお客さんの対応をしなければならない。

 

ん?若様が”うちより偉い”って言ってたけど、公爵家よりも偉いのって王族くらいじゃないの!?

・・・深く考えるのはやめておいたほうがよさそうね。

 

そんなことより、若様に連れてこられた男性は、地べたに座り、馬車の車体にもたれかかったままぐったりしている。

呼吸が少し早いので、きっと飲みすぎたものの、リバースしないように必死なのだろう。

とりあえず、若様から頼まれたのもあるし、体内のアルコール濃度を下げるためにも水を飲ませるとしますか。

私は、グロッキーになっている男のところで腰を落とし、コップに入れた水をそっと差し出した。

 

「あの~お水、持ってきたので、飲んだほうがいいですよ~」

「・・・けっこうです。私は・・・飲み過ぎたわけではないんです」

 

いや、全身が酒の臭いがプンプンしてるんですけどぉ!

それに、若様の言うように公爵家より偉くない人だからといっても、普通に考えれば偉い人よね!?

声の感じからして、たぶん十代前半の若い人っぽいけど、そこそこ偉い人が地べたに座ってぐったりしてるって、飲み過ぎてなきゃそんなことにはならないでしょ!

 

「いいから、水を飲んでください。若様からも言われてるんです」

「いらないって言ってるじゃないですか!」

「ほら、飲めば体も楽になりますよ」

「結構です!これくらいで誰かの世話になるわけにはいかないんです!」

 

何を強がってるんだ、この坊ちゃんは。

他所の家のメイドに水をもらったくらい、大したことじゃないだろうに・・・

 

「ギルバートさんだって、いつもは好き勝手にしているのに、今日みたいに陛下をもてなすときは、一人で上手く接待してるんですよ?締めるところはきっちり締めてて・・・あの人、結局は弱いところを見せないんですよ!私だってあれくらいできるようにならなければ・・・」

 

陛下を接待って若様、一体何をやってんのよ!?い、いや、今は大事なのはそこじゃないわよね。

・・・この坊ちゃん、若様について、絶対に勘違いしてる。あの若様が弱みを見せないって、幻想にもほどがあるわ!

 

「ついてきなさい。ちょっと刺激が強いから覚悟しなさいよ」

 

そう言って、酔っ払ったどこぞの坊ちゃんを、メイドの待機部屋の窓の下に連れて行く。

立てた人差し指を口元に当てて、ジェスチャーで大声を出さないように伝えると、坊ちゃんが頷き、二人で窓の端から部屋の中を覗き込む。

 

「ただいま~もう俺、お偉いさんの相手するの疲れた~」

「お疲れさまです、若様。はい、タオルをどうぞ」

 

若様は、少しうつむきながら、デカおっぱいパイセンから渡されたタオルで顔を拭き始める。

タオルで顔を拭きつつ、時折、タオルからはみ出した目を、パイセンのおっぱいのほうに向けているように見えるのは、気のせいではないだろう。

 

「ふ~、でも今日は、君が夜勤だから、接待のオーダーを受けたようなものなんだけどね」

 

若様は、膝をついて、自分の顔の高さとパイセンのおっぱいの高さを合わせると、パイセンの背中に両手を回しつつ、躊躇なく顔を胸にうずめた。

 

「ふふ、そんなことだろうと思いましたよ」

「この時間なら、あの腹黒メガネやアンジェの邪魔も入らないだろうからね」

 

顔面でパイセンの谷間の感触を味わった若様は、顔を上げると、軽くパイセンの唇に自分の唇を重ねる。

 

「若様ったらお酒くさいですよ」

「じゃあシャワーを浴びるかな、一緒にどうだい?」

「も~!若様の馬鹿ぁ」

 

二人は、笑いながら手をつなぎ、部屋の奥へと消えて行った。

ちなみに、奥には仮眠室とシャワー室があることは言うまでもないだろう。

こんなやり取りは、私にとってはもう見慣れた光景だ。今さら見たところで大した驚きもなければ、ツッコミもしない。

だが、一部始終を見ていた坊ちゃんの顔色は、わかりやすく真っ赤になっていた。これ、”こうかはばつぐんだ”ってやつね。

窓から離れて、私は、この男に問うてみることにした。

 

「これを見ても、若様が弱みを人に見せないと思うかしら?」

 

鏡を見なくても、私は意地悪そうな笑みを浮かべていたに違いない。

 

「・・・私が間違っていたようですね。ですが・・・」

 

坊ちゃんには刺激が強かったようで、これ以上は言葉が続けられないようだった。

 

「ですが、なによ?」

「気持ち悪いものをみて、何かが逆流しそうでして・・・」

「ちょ、ここで吐かないでよ、あっちの排水溝まで我慢しなさい。ほら、こっちに来なさい!!」

 

私に手を引かれ、もう片方の手で口を覆うことで、何とかリバースを防ごうとする坊ちゃんは、結局、意地で排水溝までは逆流に耐えることに成功していた。

結果的にオロロロロとマーライオンになっていたが、それは若さゆえの過ちということにしておいてあげようかしらね。

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「色々とご迷惑をおかけしました」

「気にしなくていいわよ。でも、わかったでしょ。人間、誰でも、どこかで頼ったり、甘えて生きてるもんなのよ」

 

坊ちゃんの背中をさすりながら、私は知ったふうな口を叩く。

ま、前世の生きた時間を合わせれば、いくら失敗ばかりだったとはいえ、それなりの人生経験は積んできているのだ。十年ちょっとしか生きていないお子ちゃま相手なら、少しは偉そうなことも言える。

 

「・・・そうかもしれませんね。高い授業料を払った気はしますが」

「それに関しては・・・ちょっとは悪いと思ってるわ」

 

子供に見せるのは刺激が強すぎたかしら。

あと、若様の愛人事情を知られたのは事実だが、こんなに醜態を晒した手前、他に言い触らすことはしないだろう。

坊ちゃんは、鼻で笑うが、最初のころと比べればずいぶんと口調が柔らかくなった気がする。

そういえば、この坊ちゃんの声、どこかで聞いたことがあるような気がするのよね。

 

「そういえば、貴女のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

「私?マリエ・フォウ・ラーファンよ。いつ、ただのマリエになるかもわからないけどね」

「貴女でしたか!ギルバートさんが監査先で血祭にあげたラーファン家から保護したという話は、貴族社会の中でも、有名なんですよ」

「え?そうなの!?ちょっと恥ずかしいじゃない」

 

まさか、自分の人生の転機がそんな扱いをされているとは思わなかったわ・・・

 

「そういえば、私もまだ貴男の名前を聞いてなかったわね」

「おや、これは失礼いたしました・・・」

 

坊ちゃんは軽く詫びると、ちょうどそのタイミングで、空の雲が切れたようで、月明かりで周囲のものが見えてきた。

私の目の前には、さらさらな緑色の髪のイケメンがいる。あれ・・・?もしかして、もしかすると、見覚えのある顔ではないだろうか。

 

「私は、マーモリア家のジルクと申します。これでも、王太子殿下の乳兄弟なんですよ?」

 

おいぃぃぃぃぃ!!あの乙女ゲーの攻略対象じゃないのよぉぉぉぉぉ!!!!

学園で出会う前に、ゲロ吐きながらの出会いって、こんなの嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 




というわけで本編(?)であまりにもボコボコにされているジルクきゅんとマリエたんとのアナザーな出会いでしたとさw
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