乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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今期のアニメは戦隊レッドがずば抜けて面白いと思ふ


第61話 待たせたな、マリエ!&おまけ・招厄の贈り物

 

前回までのあらすじ

妹に土下座を要求したマリエタンにブチギレた兄上(ボンボン)と、マリエに誑かされたあの乙女ゲーの攻略対象4人(ボンボン)がとうとう正面からぶつかり合った。

4人はボコボコにされKOされた一方で、兄上の方も、クリスに後ろから木刀で頭を殴打されたり、勇者王のドリルのないニーを顔面に喰らったり、ブラッドに氷柱で腹部を刺されたりと、相当の深手を負ってしまう。

そして、とうとう兄上とマリエ、この乙女ゲー世界のイレギュラーどうしの3度目の戦いが始まろうとしているのであった!

「本当に哀れだと思うなら邪魔するんじゃないわよ!」

「それが、さんざん人の邪魔をしてきたやつが吐くセリフかと思うと笑えるな!」

僕とマリエの3回目の戦いは、お互いの心中を吐き出しながら、同時に拳をぶつけ合うという、言葉と物理の暴力双方を使った応酬から始まっていた。

「せっかく苦労してあの5人を落としたのに、アンタがあのモブ男に指示を出したせいで、決闘でボコボコにされたあげくに、廃嫡されたら甲斐性なしって何の冗談よ!」

「おいおい、僕がリオン君を操っていただなんて、東〇ポが言ってるレベルの噂を信じてたのかい?でもなぁ・・・妹の婚約の破談を避けようとした僕の計画をぶち壊しておいて、よくもぬけぬけと!」

「ダンジョンで聖女のアイテムを見つけて、せっかく聖女の座に就いたと思ったら、お金が全然使えなかったのはアンタのせいじゃないのよぉっ!!」

「主人公様を聖女にして、後ろ盾として俗世ならざる権力を手に入れようとしたのを邪魔したのはお前だろうがぁっ!!」

「うっさいわね!ギルバートなら吟遊詩人でもやりながら、お薬でもばらまいてなさいよ!」

この女、まさかのファーストネームつながりで煽ってきやがった。そこは、せめて遺伝子で全ての運命を決めようとする赤い議長とかにしておけや!

2度、3度、拳をぶつけ合った後に、マリエが繰り出したローキックを、僕もローキックで弾き飛ばし、僕とマリエはお互いに少々後ろに下がって距離を取る。

クソ!攻略対象4人にボコボコにされたダメージのせいで、体の反応が鈍い。

蓄積したダメージは、気合や精神力の類で誤魔化しているが、それがいつまで持つかはわからない。

長期戦は避けたいのが本音だが、黒騎士ほどの殺意はなくても、マリエには、魔力によって十分に強化された肉体的強度、体の小ささを余さず活かしたスピード、聖女のアイテムによって発動するバリア魔法など、

単純な戦闘能力の高さがあり、脅威としては十分すぎるくらいだ。

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一方、ギルバートとの殴り合いを繰り広げるマリエは、レスバを続けながらも、目の前の男との戦いに向けた戦意を十分に上げきれないでいた。

原因は単純だ。聖女となった自分に追随するようになった取り巻きが暴走したり、主人公と悪役令嬢が本当に土下座をしようとしたからである。

特に悪役令嬢は気性が荒いとともに、プライドが高く、地味なモブ男であるリオンのために、本当に土下座をしようとするとは思わなかった。本当に想定外であった。

結果的に、ジルクのカットインおかげで、土下座は未遂に終わった。

だが、そんなことを要求した自分を含め、マリエ側の人間がしたことを考えれば、転生者でありながら、悪役令嬢と同様の気性の荒さと、自分への強い怨みを持つ悪役令嬢の兄がキレることに不思議はなかった。

むしろ、最初はあまりのブチギレっぷりに少し気圧されたくらいだ。

考えを巡らせながら、マリエの脳裏には、前世の兄の記憶が蘇ってくる。

目の前の男は、前世の兄と比較して、姿も性格も考えも明らかに別人だが、記憶にある兄という存在は、キレたときには、とにかくヤバい存在であった。

そのブチギレた男との殴り合いがなんとか成立しているのは、自分の恋人である攻略対象の4人が、身を呈して自分を守ろうと、ギルバートと戦い、大きなダメージを与えてくれたために他ならないだろう。

いつもよりパワーの出ないマリエ、ボロボロになりダメージによりパワーダウンしたギルバートの両者は、奇しくも同レベルで拮抗する形となっていた。

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「悪役令嬢の一家なんて、婚約破棄されたらさっさと没落してればいいのよ!それが、いつまでもいつまでも私の邪魔ばっかして!ほんっとうにしつこい男!!」

「お前の都合でこっちの予定が、ぐちゃぐちゃにされたんだぞ!ここまでされて、黙ってるわけねえだろうがぁぁぁ!!」

殴る蹴る、髪を引っ張る、頭突きを喰らわす、という原始的な暴力の行使を交互に繰り返し続けていた僕とマリエであったが、ここでお互いの右手と左手、左手と右手を絡ませ合うと、握力勝負が始まった。

さすがに、腕力では僕の方に軍配が上がるようで、ガードする手が塞がっている隙に一発、頭突きを喰らわせる。だが、マリエは痛みを堪えつつ、足を蹴り上げて、僕の顎を打ち抜く。

続けて、マリエがバックステップで少し後ろに下がると、前屈みになりつつ、足に魔力を溜め始めた。こいつ、以前のように突っ込んで来るつもりだな!?

「はぁぁぁぁぁ!!!」

咆哮とともに、足のバネを利かせながら、マリエが距離を詰めてきて、拳を繰り出してきた。

あのグーパンを受け止めるのは、刺された脇腹の傷に響きかねないと思い、マリエの拳を回避しつつ、あの女の伸びきった腕を掴み、体ごと大回転させて、マリエごとぶん回す。

そして、勢いをつけたまま、目を回し始めたマリエの身体を広場にあるベンチに向けて思いっきり放り投げた。

放り投げられたマリエが衝突した木製のベンチは、その衝撃で、埃を巻き上げながら粉々になってしまう。

聖女のアイテムを使ったバリア魔法を使うかと思ったが、目を回したりしていて集中できなければ使えない魔法なのかもしれない。

とはいえ、マリエがこちらを睨む視線はまだまだ強いもので、継戦はまだまだ可能のようだ。

「上手く受け身を取ったようだが、攻撃はまだ終わってないぞ?」

ベンチとの衝突の勢いをうまく削いで、再びマリエが立ち上がろうとしたところに、僕はこの隙に作っておいたファイヤランスを展開し、マリエに向けて放つ。

だが、1本、また1本と降り注ぐ炎の槍を搔い潜りながら、マリエは広場の中を駆け抜ける。

「チョロチョロと!まるで猿のようだな!」

「アンタみたいな火力馬鹿とは違うのよ!」

さらにファイヤランスを避けながら進むマリエであったが、ランダムに回避するというよりも、何か、こう目的地の方向に走っていくような動きをしていた。

マリエの進む方向を見ると、最初にジルクから奪って、クリスの木刀に弾き飛ばされたジルクの拳銃が落ちていることに気付く。

こいつ・・・!接近戦で埒が明かないからって!このクソ女も、あのケモナー学園に通っていたのだから、ダンジョンに潜って銃火器くらいは使えるだろう。

クソ!今、こいつに拳銃なんて持たせたら戦いの流れを一気に持って行かれかねないぞ!

僕もマリエが向かう、ジルクの拳銃の下に走りだす。マリエが先行し、それを僕が追うという形になったが、しばらく走ったところで、マリエがいきなり足を止める。

「しまった、罠か!?」

「アンタは私が直接ぶっ倒さないと・・・気が済まないのよぉっ!!」

急旋回したマリエは、僕の方に突っ込んで来るが、虚を突かれた僕はそこへの反応が間に合いそうにない。

突っ込んできたマリエの頭突きが僕の胸部を強打し、数歩下がったところに追撃が来る。なんとか次の攻撃となる拳はガードできたものの、マリエの動きのほうが早く、次の拳は、僕の顔面を正面から捉える。

一撃をもらった顔面に意識を持って行かれているのを見越してか、マリエは、続けて足払いを仕掛けてきて、僕は転倒を余儀なくされてしまう。

「まだまだぁっ!」

倒れた僕の上から、さらにマリエが追撃を仕掛けてきた。

地面に倒れた僕の顔面に向けて、マリエの拳が振り下ろされてきたので、僕は身体を丸太のように回転させて移動しながらマリエの攻撃をかわす。

マリエの拳を1発避けても、すぐ次の一撃が降ってくるので、体を起き上がらせる隙が全くない。

仕方がないので、歯を食いしばり、ダメージ覚悟でマリエの拳を額で受け止めた上で、がら空きになったマリエの腹部を蹴り上げると、ウエイトの軽いマリエは後方に吹き飛んで行った。

なんとかマリエの連続攻撃を止めつつ、距離も置くことはできたようだ。

先程クリスに喰らった後頭部への不意打ちや、グレッグから喰らった顔面への膝蹴りなど、今日だけでも頭部に喰らったダメージがあったのに、追加でマリエの拳を喰らって、いつぶっ倒れても不思議じゃないな。

そう思いながら立ち上がり、上半身を起こそうとしたときだった。一瞬、立ち眩みが起こり、膝が崩れそうになる。

その隙を、弱った敵を逃すような甘さのある戦士ではないマリエは当然、追撃を仕掛けてきており、先ほどブラッドに氷柱で刺された脇腹を目がけて蹴りを入れてくる。

何とか腕でガードはしたものの、衝撃は脇腹に響いてくるし、足の踏ん張りが効かずに、吹き飛ばされてしまう。

そこをさらなるチャンスだとばかりに、マリエは追撃をしようと近付いてくるので、このままだとさっきの二の舞どころか、ダメージが蓄積している分、明らかにジリ貧だ。

「全身のダメージが足にキテるみたいじゃない。あの4人のおかげね!結局、アンタ達、悪役令嬢ファミリーは、私たち、攻略対象側には勝てないのよ!!」

クソが!お前のどこが攻略対象側だ!!

お前なんぞ、この乙女ゲーをプレイしたからこそ、うまく立ち回ってこの世界をハックした、大魔王みたいなやつだろうが!!

内心で毒づきながら、妹やパパ上を始め、今まで僕の実家に仕えてくれてきた使用人や騎士達の顔が浮かぶ。執事や騎士団の面々、腹黒メガネや元カノの姿が脳裏をよぎる。

・・・このタイミングで思い出すとは、僕もたいがい女々しいな。だが、弱気になりつつあったメンタルをリカバリーすることはできた。

このクソ女が、色恋に狂った攻略対象どもに支えられ、力を合わせているように、僕だって実家の大勢の、悪役令嬢ファミリーに支えられている。

何かないか、既に両足を始めとした全身がガタガタ、ボロボロで、ピンチな僕が、この乙女ゲープレイヤーなラスボスみたいな奴の度肝を抜いてやれるような一手は・・・

・・・両足にガタがきていて、敵が大魔王・・・

そうだ!この乙女ゲーの世界観をぶっ壊し続けてきた僕にピッタリな、この世界の在り方に相反する少年マンガの王道のような最終手段があったじゃないか!!

「ここで、決着を付けてやるわよ!!」

ずいぶんと、クライマックスにピッタリなセリフを吐いてくれるね。

顔をニヤつかせながら、マリエがこちらに向かって突っ込んで来る。

「お前は知らないか?少年マンガの超王道は、絶体絶命のピンチからの大逆転だってことを!」

「この期に及んで何を言ってんのよ!!」

「ならば思い出させてやろう!油断したな!まだ、僕の腕は残っているぞ!!」

ゆっくりと体を起こしつつ、さっきから集めていた魔力を使って、特大のファイヤーボールを生み出した僕は、その火球を足元のやや後方に叩きつけた。

地面に衝突した火球は、大爆発を起こし、その爆風は僕もろともに、周囲のものを盛大に吹き飛ばした。

爆風に吹き飛ばされた僕は、なんとかバランスを崩さないように体勢を維持しながら、頭からマリエに向かって一直線に向かっていく。

「あ、アンタ、それって!?」

驚きのあまりに言葉を失うマリエであったが、さすがの予想外の攻撃に十分なガードが間に合わなかったようで、僕の頭突きはマリエの顎、喉の辺りに思いっきり突き刺さった。

さすがに超が3つくらい付いてもお釣りが来るくらいメジャーな少年マンガを模した攻撃だけあって、僕が何をしたのか気付いたようであったマリエだが、

爆風の威力と僕のウエイトが掛け合わさった運動エネルギーを、正面から喰らったせいで後方へとぶっ飛ばされていく。

そこに向かって、僕は、懐から人差し指サイズの、小型の投擲弾を取り出し、導火線に極小の火球で着火し、マリエへと投げ付けた。

まさかのロケット頭突きのような攻撃が、顔面に直撃こそしなかったものの、顎と喉元にダメージを受けたマリエは、退避することも、バリアの魔法も張ることができなかったようで、

投げ付けられた爆弾のような物体の爆発に備えて、目をつぶって、体の正面で腕をクロスさせて防御体勢を取る。

数秒程が経過したが、マリエのすぐ手前に落下した物体はまだ爆発を起こす気配がない。

「何これ、どうしたの~?もしかして、不良品?アンタ、こんなときに不発弾を掴むなんて、日頃の行いが悪すぎたんじゃない!?」

マリエは、ケタケタと笑いながら、僕の方を指差す。

そして、僕が無言でファイヤーボールを手元で浮かべたのを見て、マリエは、悠々とバリアの魔法を展開した。

「無理やり誘爆させようったってそうはいかないわよ!それに、そんなにボロボロじゃ、この前みたいにゴミ箱をひっくり返して、バリアの上に乗っけるような真似はできないでしょ!」

「ああ、確かにお前の言うとおりだよ。今の僕は、爆風を近くで喰らった自爆ダメージも合わさって、立ち上がってファイヤーボールを浮かべているのがせいぜいだ」

「やけに素直じゃない。このまま我慢比べでもするつもり・・・え、何!?」

マリエが驚いた顔を浮かべる。

なんせ、不発弾だと思っていた足元の爆弾から一筋の煙が上がり始めたんだからね。

煙は、魔法のバリアの中に少しずつ充満し始めて、マリエを覆っていく。間もなく、バリアの中から、マリエが激しく咳き込む音が聞こえてきた。

「さっき、お前が言った悪役令嬢ファミリーである我が家には、僕よりも妹のことを優先する、仕事はできるが、腹黒で性悪なメイドがいてね。お前の言葉を聞いて、別件でその陰険メガネから預かった催涙弾の存在を思い出したんだよ」

そう。僕が使ったのは、先日、エルフの浮島に行く前にコーデリアから渡された催涙弾だ。

コーデリアとしては、エルフどもと殴り合いになることを想定して渡してきたのだろうが、結局、化け物どもと戦闘にはなったが、エルフとは戦闘にならなかったので使わずじまいだった。

まさか、マリエから悪役令嬢ファミリーと言われたときに、あの性悪メガネのことも思い出して、この催涙弾のことを思い出すことになるとは予想外だったね。

「コーデリア・・・お前のマリエに対する怒りの刃は、やつにしっかり届いたぞ・・・!」

半ば独り言のような呟きになってしまったが、マリエからは何の反論も来ない。

バリアの中は、既に催涙弾の煙が充満しており、マリエの姿もぼんやりとしか見えないが、激しく咳き込む声は続いている。

今ごろ、涙は止まらず、鼻や喉には激痛が走っていることだろう。そう間もないうちに、バリアを維持できなくなるはずだ。

僕は、少し呼吸を整え直しつつ、マリエを目がけてファイヤーボールをいつでもぶち込めるように準備を万端にしていた。

煙の中から聞こえるマリエの咳き込む声が徐々に小さくなってきて、やがて、マリエを覆うバリアの魔法が天辺からゆっくりと消失し始める。

「お前との長かった因縁も・・・これで終わりだ!」

僕が、全力で手を振り下ろすと、準備していたファイヤーボールが、障壁を維持できなくなったマリエの下へと向かっていく。

長かった・・・この1年、この女にここまで振り回されることになったが、前世で元カノに刺されたことを除けば、一人の女、いや一人の人間にこんなにも煩わされたのは始めてだ。

絶対に”やったか!?”とは言わないようにしつつ、この1年の軌跡を思い返しながら、ファイヤーボールがマリエに届くのを見守る。

今ある魔力の大部分をぶち込んで放ったファイヤーボールが速度を上げながらマリエとの距離をどんどん縮めていく。

そして、巨大な火球がマリエのすぐ手前まで到着した、その時だった。

上空からマントをなびかせた何者かが飛び降りてきて、マリエとファイヤーボールの間に立ちはだかる。

次の瞬間、何者かが伸ばした左手から眩い光が溢れ出すと、光り輝く巨大な盾が出現し、僕の放ったファイヤーボールを正面から受け止めた。

火球は、突如現れたその魔法によるものと思しき盾を押しつぶそうと正面から衝突し、しばらくの間、ぶつかり合うが、やがて火球の形を維持できなくなってくる。

まとまった形を取れなくなってもなお燃え続ける炎は、光の盾の正面から左右に向けて二股に裂かれ、それぞれの炎はぶつかった地面や広場のベンチ等を焼いつくした末に消えた。

一方の魔法の盾には、傷やヒビ1つなく、悠然と輝き、半透明な盾の奥には、1人の男の姿があった。

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ギルバートが放った催涙弾のせいで、バリア魔法を維持できなくなり、自分にありったけに憎しみを込めて放ったのであろう巨大な火球が迫るが、

マリエは涙を流しつつ、悔しさと恐怖のあまり、顔を覆い、うつむいていることしかできなかった。

前世は、付き合っていたロクでもないカレシによるDVの末、命を落とした。

今世では、上手くやれたはずだった。途中までは、少なくとも、攻略対象全員を落とす逆ハールートを数ヶ月で達成できていた。

そのまま行けば、自分はきっと幸せになれていただろう。あのリオンとかいう、モブ顔の転生者が現れるまでは。

そして、後々になって聞いた噂によると、リオンは、悪役令嬢アンジェリカの兄、この国では赤い通り魔、下劣公爵と呼ばれるギルバートの手の者らしい。

その後、無職で金ばかりかかる5人のボンボンを養う、貧乏な日々が続き、なんとか逆転を図ろうと、ダンジョンに潜り、聖女のアイテムを発見して、この国の宗教勢力である神殿が認める聖女となった。

だが、神殿とドンパチを起こしたギルバートは、神殿から多額の賠償金を奪い、その結果、マリエに割かれる予算は大きく削られて、思い描いたような豊かな生活はまだ送れていない。

死力を尽くして戦ったが、反則まがいの小道具で、聖女アイテム由来の魔法まで破られた。

ギルバートの放った火球は、自分に降り注ぐまで間もないはずだ。一段と強く顔を覆うマリエであったが、突然、手の隙間や瞼を光が貫いた気がした。

ゆっくりと顔を上げ、マリエは前を向いた。

ギルバートの放ったファイヤーボールは、目の前に現れた巨大な盾に阻まれ、しばらく盾とぶつかり合った後に、消えていく。

手を伸ばし、巨大な盾を浮かび上がらせている男の後ろ姿には、どことなく見覚えがある。そして、何やら顔には仮面を被っているようだが、後頭部の紺色の髪を見て、マリエは、自分を助けに来たのがユリウスであることに気付く。

マリエにとっては、絶体絶命なところに、自分の恋人である王子が助けに来るという、女子にとって、乙女ゲーのプレイヤーにとって最高のシチュエーションであり、

すごい勢いで心拍数が上がり、胸がドキドキしているのを感じていた。きっと今の自分は、あらためて恋に落ちたような顔をしているのだろう。

少年マンガの超王道が、絶体絶命のピンチからの大逆転なのだとしたら、少女マンガの超王道は、イケメンの王子様が絶体絶命のピンチから自分を守ってくれる展開だ。

そう思いながら、マリエは、自然と手を伸ばし、声をかけようと口を開く。

「ユリウ・・・」

だが、マリエが声をかけ終える前に、ユリウスと思しき男は、マリエの方を振り向き、マリエの手を取ろうと、自身の手を伸ばす。

「待たせたな、マリエ!助けに来たぞ」

マリエの視界に入ってきたユリウスの仮面は、動物というよりは、この世界の機動兵器である鎧のような、メカニカルな意匠をしていた。

左右に伸びている少々太めな金色のブレードアンテナ、エメラルドのように輝くツインアイ、額にはライトグリーンに輝く宝石かガラスのようなものが埋め込まれている。

だが、機動兵器を模したであろうはずの仮面の口の部分は、なぜか開いており、口角が左右に上がり、笑いかけているようにも見えた。

機械のような各意匠と、不自然に人間っぽい口元のアンバランスさがもたらす気持ち悪さに、マリエの中の生理的嫌悪感が一気に高まり、ドン引きとなった精神状態を反映するように、心拍数が一気に下がっていくのが自分でもわかる。

ついさっきまでは、心のときめきが最高潮に達し、女冥利に尽きる展開だったにもかかわらず、

鎧などの機動兵器のロマンについて造詣のないマリエは、心拍数が急降下したことによるめまいと、激しい戦闘の疲労のせいで、意識を失うのであった。

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憎しみと怒りをぶつけ合った末の勇者ロボ風の廃嫡された王子登場な雰囲気を無視して、今回もおまけが始まるって本当ですか!?

温度差で風邪ひかないでねw

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攻略対象との待ちに待った出会いが、ゲロによりもたらされるという、割と最低な出会いイベントがあってからしばらくして、私の下に贈り物が届いた。贈り主は、もちろんジルクだ。

「ジルクは女癖が悪くて、気もない相手と戯れに遊んだりもするが、わざわざ僕経由でプレゼントを渡そうとするなんて、ずいぶん気に入られたね。一体何をしたんだい?」

若様から、プレゼントの入った箱を渡しながら問われたので、何があったかを思い出すが、私が最初に思い出したのは、若様とデカおっぱいパイセンがイチャイチャしながら仮眠室に消えて行った姿だ。

まさか覗いていました、だなんて言うことはできないので、その辺りには触れずに誤魔化すことにする。

大事なのは嘘を言わないことだ。その部分だけ切り取れば別のニュアンスに聞こえたとしても、それは受け手の問題だ。

「酒に酔っていらしたので、水を飲ませたり、背中をさすったりしただけです。結局、リバースしちゃってましたけど」

「まあ見苦しい姿を見せたから、お詫びってことかな。ただ、ジルクに贈り物をさせるなんて、マリエは将来、人たらしになる才能があるかもしれないね」

若様が軽く笑いながら、私の頭を撫でている。

仮にも私は前世で働いていたお水のお店でトップを取ったことだってある。会話や身振り手振りを組み合わせたコミュニケーションで人を惹き付けるノウハウは身に付けているつもりだ。

ただ、ジルクの贈り物はどうやらアンティークな茶器のようで、どれほどの価値なのかはさっぱりわからない。

「こういったのに詳しい使用人がいるから、鑑定でもしてもらうかい?」

私が良し悪しを判断できなくて、渋い顔をしているのを見た若様によると、古くて価値がある、とされているものが、本当にそうであるかどうかを見極めるのが得意な人がいるらしい。

でも、そんな人がいるなんて、さすが悪役令嬢の実家な公爵家だ。

たしかに、王族に次ぐ偉いお家なら、献上されるモノとかもたくさんあるだろうから、その真贋を見極められる人を内部で雇っておくのには合理性があるわね。

んで、鑑定してもらったんだけど、ほぼ即断で偽物判定されたらしい。

若様は爆笑していたけど、ジルクが騙されたのか、私には偽物で十分だと思われているかのどちらなのかは気になるわ・・・

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贈り物をもらった数日後、メガネぱいせんこと、私の教育係であるコーデリアさんから、お使いを頼まれて屋敷の外、王都内の店に買い物に行ったのだが、道中、ずっと後ろから妙な気配があった。

もしかして尾行されてる!?

前世では、お水の仕事をしていたせいで、変な客に後をつけ回されるなんて日常茶飯事だったから、そういった気配には敏感だ。

結局、その日は急いで用事を済ませて屋敷に戻り、若様にいきなり言うのも気が引けたので、メガネぱいせんに報告することにした。

屋敷の外に出るのも悪くはないが、まぁ屋敷の中で暮らしてるだけでも、その屋敷がだだっ広いせいで、外に出なくてもそれなりに楽しいのよね。

衣食住は完備で、若様が愛人だか彼女とイチャイチャするのを邪魔されないように見張りをしてればお小遣いまでもらえるのだから、ラーファン家でこき使われていた頃と比べれば雲泥の差よ。

翌日、朝食の時間が終わり、これから屋敷内の掃除でもするかと準備していたところに、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

振り向くと、私の方に手を振りながら近付いてくる若い男がいた。

髪はオールバックで、大きく胸元の開いたシャツを着ている。開いた胸元では下品な金ぴかのアクセサリーが光っていて、顔にかけているサングラスのレンズが濃いめの青色で、レンズの奥の瞳が全然見えない。

こんな格好、どう見たって街の裏通りにいるようなチンピラだ。

なんでこんな怪しさ大爆発の人が、公爵家の屋敷の中にいるのだろうか。そう思ったのだが・・・

「待たせたな、マリエ!変な奴に尾行されたって聞いたから、今からとっ捕まえに行こう!」

若様かよぉぉぉぉぉ!!!!

いや、待つどころか、呼んですらいないんですけど!?

何かよくないなぁとは思いつつ、私のために動こうとしてくれてるのはわかるし、嬉しいんだけど、この人、将来は公爵でしょ!?そんな人が、なんでこんなに、嬉々として怪しげな格好をしてるわけ!?

「え・・・いや、まだ実害は出てないですし、気のせいかもしれないですし・・・」

「実家でロクなモノを食べさせてもらえないから、野山で野生動物を駆って日銭を稼いで生きていたマリエが尾行されてると思ったんだろ?それなら、きっと誰かがいたんだよ」

「そ、それはそうですけど、あまりそのエピソードを言うと、また周りに皆さんから可哀想な目で見られちゃいますので・・・」

既に周りの何人かが目元の涙をハンカチで拭いている。

「うちの使用人に手を出そうとして、五体満足でいられると思わせるのも良くないからね。この業界、舐められたらおしまいなのさ」

「そんな大げさな・・・」

その舐めてんのかワレェ的は発想。いったいどこの反社よぉぉ!と心の中で突っ込まずにはいられない。

だが、若様は急に真面目な顔になり、サングラスも外しながら話を続ける。

「真面目な話、ラーファンの関係者が良からぬことを考えているのかもしれないからね。君の家族だったやつらのおかげで甘い蜜を吸えていた連中はそれなりにいたはずだ」

腕を組みながら若様が急にシリアスモードになっている。

そこに、メガネぱいせんが、私服姿の騎士団のオッチャン達数名を連れてやってくる。

「将来、お嬢様がお忍びで市井の様子をご覧になりたいとおっしゃった際の、護衛に向けた演習としては、悪くない機会ですからね」

メガネぱいせんが、明後日の方を向きつつ、メガネをくいっと上げて、レンズを輝かせながら言った。

でも、そこはかとなく、着ている私服がダサい・・・もしかしたら、アンジェリカ推しをこじらせてるから、自分の服には若干無頓着なのかもしれないわ・・・

「安心しな!俺達がしっかり犯人を捕まえてやるぜ」

「とっちめて、浮島から放り投げてやろう」

「お嬢ちゃんを利用して悪だくみしようだなんて、2度と思わないようにしてやんよ」

メガネぱいせんが連れてきた、公爵家直轄の騎士団のうち、アンジェリカ派が多数を占める第三騎士団のオッチャンたちがいっせいにサムズアップした。

人相の悪い人達が、みんなで物騒なことを言うと、とても反社感が増すわね。

「色々あって、うちで面倒見てるマリエをつけ回してる奴がいたみたいなんだけど、そいつをとっ捕まえるのに日和ってるやつ、いねーよなぁ!?」

若様がどこぞのリベンジャーみたいなことを言い出した・・・やっぱり、この若様、講談社系だわ。

でも・・・みんな温けえよ。悪役令嬢の実家なのに、なんでこんなに優しいのよ。

前世であの乙女ゲーやってるときは、さっさと滅びろとか言っちゃってごめんよ・・・

今、ここに集まってる人達だけ見ると、反社感がハンパないけど、もしかして危ない稼業な人ゆえに身内的存在には優しい的なやつじゃないでしょうね!?

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かくして、当日、非番だったレッドグレイブ家の面々による尾行者殲滅作戦は実行に移された。

結果から言うと、私の後をつけ回していたのは、ジルクの婚約者の家の若い男だった。

あの乙女ゲーに出ていたようなネームドではなかったと思うが、ダンとかいうけっこうガチムチ系な男子だった。

ジルクの婚約者である伯爵令嬢の指示で、ジルクがプレゼントを贈った相手を調べるように命令されていたそうだ。

チンピラに扮した若様に飛び蹴りを喰らい、第三騎士団のオッチャン達にボコボコにされた後、若様の正体に気付いたその男子はガクブル状態だった。

泣きながら自白している姿は、もう可哀想すぎて見てられなかったから、回復魔法をかけてあげることにした。

後日、若様から聞いた話によると、どうやらジルクの婚約者は、ジルクの私生活上の行動を事細かに調べさせて、欲しがってそうなモノがあれば言われる前にプレゼントするような執着っぷりらしい。

怖っ!!!

人も金も持て余してるからって、そんなにねっとりした、いや、ストーカーまがいの愛情を向けられたジルクは、たまに若様に婚約者との関係を愚痴っているそうだ。

もしかして、あの乙女ゲーでジルクを攻略できるのは、そもそも婚約者とうまくいってないという素地があったからなのだろうか・・・




というわけで、さんざん勇気爆発なネタを後書きで言っていたところですが、去年の1月にあの第1話を見て、さらにブレイバーンのCVを見たときに、このネタを使うことだけは決めておりましたので、ご容赦ください、、、また次回から暴力と流血な話に戻ります(コラ
本当は第1話放送の1周年でこの話をやりたかったのですが、筆が遅くて、2月半ばになってしまいました
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