乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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没サブタイトル案
最後に一言だけよろしいでしょうか?いや、やっぱりさらにもう一言


第67話 人の性癖暴露は犯罪的

迫りくる公国の艦隊に対して、リオン君を総司令官に据えて迎撃に当たるという方針が決まり、関連する各種の調整に一区切りが付いたところで、僕は城を後にして、王都のあるこの浮島の港に向かっていた。

目的は、リオン君のパパであるバルトファルト男爵が、避難しようとする王都の民間人をピックアップするという名目で王都に来ており、その飛行船にはこっそりと、修理が完了したアロガンツ・ブロスが搭載されているからだ。

港に向かう最中に視界に入って来る市中の様子は、控えめに言っても大混乱という他ない。たまたま、ケモナー学園の近くも通ったのだが、

少なくない数の女子生徒が男子生徒に対して、自分もその男子生徒の家の飛行船に乗せて避難させてほしいと懇願する一方で、男子生徒らは、ふざけるなとか、これまで散々な扱いしてきたくせに今さら頼ってくるな等と、

罵倒しながら女子生徒を振り払うという、愉快すぎる絵面が繰り広げられている。

まぁ、このような事態には、なるべくしてこうなった、としか言えないんだけどね。

”王家の船”とかいうロストアイテムさえあれば、こんな事態になって、国の中がバラバラなままでも、国を守り切れるという目論見だったんだろう。

どうやら、その王家の船は、今となっては動かないハリボテに等しく、起動するためには、あの馬鹿王子とあのクソ聖女のマリエの愛が必要らしい。

・・・まともに考えて、期待する方が酷な気がするけど、その辺は、リオン君が上手く説得する、という流れなのだろう。

さて、若干の楽観視をしながら港に到着したのだが、学園以上に修羅場になっている。

なにせ、王都から別の浮島に向かう飛行船に何としても乗ろうとする者が、身分の高い、低いを問わず、港に停泊している飛行船に殺到しているんだからね。

バルトファルト男爵の船に対しては、先触れを出してはいるけど、こんな混乱している状況だときちんと伝わっているか少々心配だ。

一応、周囲で余計な混乱が生じさせないために、市中にお忍びで出かけるときのような、カジュアルめなジャケットを着ていて、服装だけで一目でいいとこのボンボンとはわからないような格好をしているのだが、

明らかにお貴族様だとわかる格好をしていなくて正解だったと思う。

やがてリオン君の実家であるバルトファルト男爵家の飛行船が見えてきたのだが、船の周りには、殺到してる連中がいる。目を引くのが、大荷物を持たせた使用人を連れたケバい女どもだ。

この手のケバい女どもが連れていることが多い亜人の奴隷の姿があまり見えない理由は、金によって媒介された関係なんてさっさと切り捨てて、一足早く逃げ出したからだろう。

そんな連中を差し置いて、僕は飛行船の中に進んでいくのであった。

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「俺の息子を売りやがった奴が俺の飛行船に乗るな!舐めてんのかてめぇは!」

船橋の近くまで辿り着いた僕の耳に、男性の怒鳴り声が遠くから聞こえてきた。

声の感じからすると、おそらくはリオン君のパパ上であるバルトファルト男爵だろう。

通路内に積まれた物資の物陰に隠れて、こっそりと中を覗いてみると、バルトファルト男爵、リオン君、リオン君の姉、そして、リオン君の姉が連れているというチーターみたいな種族の亜人の姿がある。

特にあの亜人については、リオン君の部屋に侵入し、偽造した反乱の証拠を仕込んだクソ野郎だということが、

リオン君から貸し出されている人工知能なロストアイテムであるクレアーレちゃんからの情報により判明している。

その情報はリオン君のパパであるバルトファルト男爵にも伝わっているようで、バルトファルト男爵は亜人の頭を、片手で乱暴に掴み、引きずっていく。

そんな最中、後ろの方からケモナー学園の制服を着た1人の青年が走ってきて、バルトファルト男爵の下に駆け寄ってきた

たしか彼は、リオン君のちゃんとした兄というか、同じ母親から生まれたほうのお兄さんであるニックス君だったね。

「親父、大変だ!ゾラ達が船に乗せろとお仲間を引き連れてきやがった」

「わかった。”また”大ごとになる前に、さっさと片を付ける」

「いや、既に大ごとになってるじゃないか」

「さっき公爵家の使者の人が来た。ギルバート様が修理の終わった鎧を取りに来られるそうだ」

「はぁぁぁぁ!?冗談だろ!?早くゾラ達を何とかしないと、鉢合わせになったら、あいつらもろとも、船が焼き払われるじゃないか!」

ニックス君・・・酷い言い草じゃないか。

いくら僕だって抵抗されたりしなければ、敵ではない家の船なんて焼かないよ。抵抗されたり、痛めつけるために地面に叩き付けたついでに焼くかもしれないけど、それは船を焼くつもりでしたものじゃないんだ!

「は、放してくれ!私は何もしてないんだ!早くここから逃げないと赤い通り魔に殺される!」

「うるせえ!ギルバート様がどうこうする前に、俺がてめえを許すとでも思ってんのか!」

男爵は相当お怒りの様子だ。いや、無理もない。娘が連れている亜人が、自分の息子を陥れて、反逆者扱いされたわけだから、無理もない。

妹の人生を滅茶苦茶にしたあのクソ聖女の命を取るために、僕が一切躊躇しないのと大体同じだろう。

男爵は、ニックス君をブリッジに残るように伝えると、リオン君を連れて、猫耳亜人野郎を引きずりながら、飛行船の入り口のほうに歩いていく。

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男爵やリオン君達が飛行船の入り口の方に向かったのを見届けて、僕も、バレないように、距離を空けてこっそりとリオン君達の後をついていく。

僕が到着した頃には、既に修羅場が始まりかけていたようで、バルトファルト男爵の正妻であり、かつて僕が監査の仕事をしていた際に摘発してきた淑女の森の構成員であるゾラが、

泡を飛ばす勢いで、バルトファルト男爵に怒鳴り散らしていた。

「バルカス!さっさと私たちを乗せなさい!それと王都の財産も全部回収するのよ!」

もはや清々しいくらいに好感度をドブに捨てる言動に少しだけ感動してしまうね。

自分達がこれまで何をしてきたのか、全く自覚がない辺りは、もはやギャグの域だと言えなくもない。

気になるのは、ブチ切れると躊躇なくコロニーを破壊しそうな声だということくらいか。

しかし、そのような罵詈雑言に一切返答することなく、バルトファルト男爵は、猫耳亜人野郎を突き飛ばすと、懐の剣を引き抜いて、猫耳亜人の首を一振りで斬り落とした。

驚いたあまりに、言葉が出ないのは僕もまだまだというところだろう。

殴ったり、蹴ったり、ヒートエンドしたことは数えきれないし、鎧に乗って敵の命を奪ったことだってあるし、相手がマリエのときには存在もろとも燃やして消し炭にしてやろうと攻撃を加えていた。

だが、直に剣などで命を奪ったことは、まだない。それを躊躇なく行えるあたりは、辺境の男爵であっても、研ぎ澄まされた刃物のような人物なのだろう。

胴体から分離した生首は、斬撃の物理的なエネルギーによって宙を舞う。

自分が何をされたのかわからぬままに、斬首されたのであろう。生首の目は見開いたままで、一瞬だけ、目が合った気がする。生首は、停泊していた飛行船に何度かぶつかってから、浮島の下、海に吸い込まれるように落下していった。

生首と目が合うなんていう体験に、言葉を失っていた僕だったが、Switch・・・じゃなかった、漢モードのスイッチが入ったバルトファルト男爵は、ゾラの後ろに隠れていた、

実際には血の繋がりが無い可能性の高い、彼の長男、ルトアートとかいう金髪の男子の下に歩いていく。

「これから戦争だ。ルトアート、お前も参加しろ。初陣だ」

「い、嫌だ!私に命令するな!田舎領主の蛮族が!」

「バスカス、いったい誰に命令しているの!誰のおかげで平和に暮らしてこれたと・・・」

「ルトアートを寄越せ」

「図に乗るな!ルトアートは私の愛した人の子よ!お前の血など流れていないわ!戦争をしたいなら、あの赤い通り魔と繋がってるそこのロクデナシにさせなさい!」

形式上は息子ということになっているルトアートとやらを、公国との戦争に駆り出そうとしたバルトファルト男爵に、ゾラのやつがブチ切れている。

ただ、興奮しているせいで、本音を言った、というか、自白を大声でしてしまったようだ。

この忙しい状況で、これ以上、このクズ女に時間を使うのはもったいないな。せっかく、僕のことも呼んでくれたのだから、泥沼の修羅場に参戦するとしようか。

「おやおや、相手を騙して不貞相手との子を育てさせていた女が、バルトファルト子爵に向かってロクデナシとは・・・自己紹介かな?」

拍手をしながら、船の中から姿を現した僕を、リオン君やバルトファルト男爵、ゾラ達が口をあんぐりさせながら見ている。

特にゾラからしたら、驚きは大きいだろう。なにせ、この女は、気付かなかったとはいえ、自らの使用人に僕を殴らせた罪で指名手配されている。

フランプトン派の連中が公安系の部署を押さえていたせいか、ゾラの潜伏能力が高かったからなのかはわからないが、これまで逃げおおせていたのに、ある意味で大事な場面で最も会いたくない相手に出会ってしまった、という心境だということはわかる。

「ど、どうして公爵家がいつもこいつらと・・・」

「逆に聞きたいが、僕とバルトファルト子爵が仲良しなのに、よくもまぁ懲りずに男爵のところに来ようと思ったんだい?」

「そこの屑が反逆罪で拘束されたと聞いていたから、お前達はいないと思っていたのに・・・!」

「正義は勝つって言葉を知らないようだね」

「お前達の何が正義よ!」

「公爵家の人間相手に威勢がいいね。まあいい。息子に無実の罪を着せようとした亜人相手でも、苦しまないように一撃で首を落とす慈悲深さを持つバルトファルト男爵の手を煩わせるのは心苦しいからね。

公国の連中とドンパチやる前の準備運動としてはちょうどいい。これ以上、ここで騒ぐなら、僕がお前達の相手をしよう。それに、僕はお前達クソ女どもが悔しがりながら苦しむ姿を見るのが大好きだからさあ!」

両掌にファイヤーボールを浮かべて、ニヤリと微笑んでやると、ゾラとその一行は、数秒ほど考えた末、苦々しい顔を浮かべながら、全力でこの場を離れていった。

「見苦しいところをお見せしました・・・」

五月蠅い連中がいなくなったところで、バルトファルト男爵が近寄ってきた。

「なあに、単なる答え合わせがあったというだけですよ」

托卵の辺りは、アトリー家が色々と調査していたから、概ねわかりきっていたからねぇ。想像どおりになるように、単なる答え合わせをしただけという話だ。

〇ニーがプ〇ステ5を売り出す際に、日本軽視していたっていうネットの噂が、テ〇東のビジネスニュースの取材で裏付けされて、憶測・推理の域を出てしまった、のと似たようなものかもしれない。

「ところで、あいつらを追撃しなくてもいいのですかな?」

「今はそんなことに時間を使っている場合ではないですから」

「いやはや、リオン君も男爵も、本当に慈悲深いですねぇ。ですが、リオン君にはこれからの大仕事が待っていますから、そのときまで男爵も力を蓄えておいてください」

リオン君が少し慌てたような表情を浮かべている。どうやら総司令官になることを、まだ伝えていないようだ。

あの連中の息の根を止めたかったところではあるが、彼が現時点でそれを明確に望まないのであれば、今は見逃してやるとするか。

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さあ、僕らが望んだのではない戦争なのだが、これからいよいよ、あの乙女ゲーのクライマックスである戦争パートが始まるのだろう。

あのバルトファルト家の騒動の翌日、僕は現在、謁見の間のすぐ側にある部屋で、公爵家の騎士達と共に待機している。

シナリオはこうだ。

陛下がリオン君を総司令官に任命する際に、フランプトン侯爵は、異議を申し出るだろう。理屈をこねくり回した時には、王妃様が論破する。

論破されたら、今度は実力行使に出る可能性が高いので、それを防ぐ意味で、僕が公爵家の騎士達を連れて乗り込むということになっている。

そして、しばらく待機した後、発砲音が謁見の間から響いてきたのを確認し、僕もその場に乗り込む。

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突入した僕らは、フランプトン派の貴族連中を片っ端から拘束していく。僕のターゲットは、もちろんフランプトン侯爵本人だ。

自分の子分たちが続々と拘束されていくのを見て狼狽したフランプトン侯爵の隙を突いて、僕はその後ろに回り込み、腕を締め上げる。

「貴様!いくら公爵家だからと言って、何をしても許されると思うなよ!」

「おやおや。うちを追い落としたからといって、公国と裏で手を組んだ上に、冤罪を吹っかけてリオン君を反逆者扱いするなんてやりたい放題した侯爵のセリフとは思えませんね。ブーメランってやつですよ」

「ふ、ふざけるな!私は国のためを思って行動してきたのだ!お前らのような若造どもに何が分かる!」

「人のところにケンカを吹っかけておいて、逆上するのは見苦しいですねぇ。何を被害者ヅラしてるんですか?」

腕を締め上げられた痛みがあるだろうに、フランプトン侯爵の口調は未だに強い。

「そうだ!我々が公国と交渉をして事を治めるのだから黙って見ていろ」

「お前らのような相手を殲滅することしか頭にない野蛮人がいるから我々は苦労するのだ」

「王妃様と公爵家だからといって好き勝手するのは許されませんぞ」

派閥の親分の勢いに影響を受けたのか、公爵家の騎士や衛兵に身柄を拘束されたフランプトン派の面々も、まだ騒がしいままだ。

こういったときには動かぬ証拠を突き付けて黙らせるのが最も得策なのだが・・・

そう思ったところで、リオン君がこちらに向かってゆっくりと歩いてくると、侯爵を見下ろしながら、その眉間に拳銃の銃口を突き付けた。

「その汚い口を閉じろ、ゴミどもが」

・・・あれ?口を閉じろって僕のことは含まれてないよね?

「公国と裏で繋がり、王国を危機に陥れた。反逆罪で捕まるのは、国の中核にいたのに、俺みたいな若造に負けたお前らだ」

「公国と繋がっていた証拠がどこにある!陛下!これは間違いです。こんな若造の言葉に耳を貸してはなりませんぞ!・・・そうか、この茶番、お前の仕業か、レパルドの腹黒姫が!」

どうやらフランプトン侯爵の中では、このシナリオの主導者が王妃様だということになったようだ。

いや、違うよ。この一連の逆転劇は、リオン君のロストアイテムのチートじみた数々の働きだ。それを説明してやるといいと思って、僕はリオン君のほうを見ると、見たこともないような怒りの表情を浮かべている。

「だったら、とっておきの証拠を見せてやるよ。俺は心優しいから、黙って俺に協力するなら、許してやろうかと思ったが、ミレーヌ様に失礼なことを言うようなら話は別だ。最後の機会を逃したな、侯爵」

そう言うと、リオン君の脇から、クレアーレちゃんと色違いな球形のロボットが姿を現して、謁見の間の中央に映像を投影させた。

おそらく同型のAIロボットが複数いるのだろう。いきなり姿を現したのも、クレアーレと同じような光学迷彩的なステルス機能をもっているから、そう見えただけか。

そして、おそらくそのステルス機能を使って隠し撮りしたのであろう映像の再生が始まり、フランプトン派の連中の秘密会談の動画が、大勢の前で公開され、

王妃様がリオン君に篭絡されたとか、公国と密約を結んでいたことの自白がされたり、陛下に責任を取らせる形でヘルトルーデ王女と交渉して手打ちにさせよう、などという不敬極まりない発言が明らかになる。

それでもなお、でたらめだと騒ぎ、さっきの映像も、幻やまやかしの一種だとフランプトン侯爵が反論するも、

リオン君は、しっかり証拠があるから自分の行動が許されているのだと言い、侯爵と公国側で作成したであろう密約が書かれた書状の数々を投げ捨てた。

「な、何故だ・・・この書状は燃やしたはず・・・」

「ああ、それからヘルトルーデ殿下から伝言だ。「案外、役に立たないのね」だとさ。お前らとどんなやり取りがあったのかをペラペラ喋ってくれたよ」

なるほど。おそらくはロストアイテムのオーバーテクノロジーで復元したか、偽造したのだろうね。

ここまで明かされた手の内としては、ステルス機能を持つロボによる情報収集能力や、現在の技術では復元・偽造できな書類の作成能力くらいだが、これらだけでも、敵対勢力にとっては明らかな脅威になり得る。

アトリー家あたり、いや、アトリーだけじゃない。少しでもマトモな家の連中は、リオン君を本気で取りに来かねないが、それは後で対応を検討するしかないか。

「お前は対応を間違えた。俺ではなく、公国にしっかり対応していれば問題なかったんだよ」

「ふざけるな!お前は自分がどれだけの力を持っているか理解しているのか?その程度の子供だから危険だと判断したのだ!いずれ王国はお前のために滅ぶ!皆、目を覚ませ!この小僧が国に災いをもたらすのだ!」

リオン君に反論するべく出てきたセリフを聞いて、シリアス極まりない場面のはずなのに。思わず吹き出してしまった。

「貴様ぁ!何がおかしいのだ!」

「いや、失礼。公国を攻め込ませてこの国を滅ぼそうとした張本人が、それを言うってギャグですか?」

「ヴィンスの小倅が!お前に何が分かる!だいたい、辺境の領主貴族どもに媚びを売っていい気になっているようだが、連中を甘やかしてつけあがらせたら、どうなるのかわからないのか!」

「見解の相違ですねぇ。外患を誘致するきっかけを潰しただけですよ」

大きくため息をついて、侯爵を煽ってしまった。

そして、そこにリオン君が乗っかってくる。

「要するに、お前は失敗したんだよ、お爺ちゃん。いや、ここまで来たら老害っていうのかな?」

「私がどれだけ国のために身を粉にして働いてきたと思っている!」

「無害な俺を警戒して、公国を軽視して、このざまじゃん」

さすがリオン君はレスバが強いな。あの馬鹿王子との決闘の際にも一部始終を見たが、相手の心をへし折る、プライドや誇りを傷付けることを言わせたら、右に出る者は、なかなかいないだろう。

「政治のことなどロクに分からぬガキどもに、私の判断をとやかく言われる筋合いはない!陛下や王妃がのんきに椅子に座っていられるのも、この私が働いてきたからだ!お前のような小僧に否定などさせるものかぁぁぁ!」

 

もはや感情に振り回されている状態のフランプトンが叫ぶ。もう、メンタルのライフポイントはゼロだろう。

しかし、リオン君は、僕たちが予想だにしない反応を見せる。

「何か勘違いをしてるようだな。俺は貴方を認めてますよ。今まで立派にこの国を支えてきたのでしょう。うん、よく頑張った!尊敬しよう!あんた、最高だ!」

さっきまで罵っていた相手を急に持ち上げて褒め始めて、みんなポカンとしている。でも、なんとなくわかる。絶対にこの後、叩き落すやつだ。

「だが・・・失敗したらちゃんと責任は取らないとね」

「失敗だと!?」

「今、この時、この状況がお前らのやってきたことの結果だ。王国を危機に陥れた責任を取れ。侯爵なんていう立派な爵位があるんだ。責任を取るにふさわしいじゃないか。後は俺達でお前らの失敗の尻拭いをしてやるよ」

「お、お前に一体何ができる!」

「う~ん、まだ分からない?お前は負けたんだよ。だから、国のためにお前が犠牲になる番だ。どれだけの人間を陥れてきたかは知らないけどな」

「それがどうした!?必要な犠牲だ!それが悪いというなら、お前は政治というものをまるで理解していない!」

オフリー家のブス・・・じゃなかったステファニーとは違う次元で、こいつもなかなか清々しいね。好感度というものを全く気にしていない。僕とは大違いだ。

一方、リオン君はフランプトンが吠え散らかしているのをニヤニヤしながら眺めている。これは、相手の心をさらにへし折るための言葉を繰り出そうとしている気がするね。

「爺さん、俺はあんたを否定しないし、その考えに賛成だ。弱者は切り捨てて犠牲になればいい。だから・・・分かってくれるよね?」

そう言ってリオン君は、フランプトンの口に銃口を突っ込む。フランプトンは何かを言おうとしていたが、それを聞くに堪えないと思ったのか、強引に黙らせたような感じだ。

「もう十分だ。喋らなくていいぞ、「敗北者」。お前は切り捨てられる敗北者なんだから、潔く犠牲になってくれるよね?嫌だなんて言わないよねぇ?」

フランプトンは、首を横に振ろうとしているが、口に突っ込まれた銃口が邪魔をして上手く喋れていない。

「国のために今度は・・・お前が犠牲になれ!」

リオン君は、拳銃をフランプトンの口から引き抜くと、その顔面に思いっきり拳を叩き付けた。フランプトンが吹き飛ぶと、鼻が折れ曲がって、血が出ている。

公爵家の騎士達を連れて、僕は改めてフランプトンを拘束しようと近付くと、苦しそうに息をしながら何かを言っている。

「バルトファルト・・・レッドグレイブ・・・お前達さえ・・・お前たちさえいなければ・・・」

リオン君に完膚なきまでに敗れたことが余程悔しかったのだろう。いやいや、僕の方に関しては過大評価だよ。結局のところ、決め手になったのはリオン君のロストアイテムだ。

どんなに頑張って政治的な権力を手にしようとしたって、ロストテクノロジーだなんていうチートによって、盤面をひっくり返される悔しさというのは、フランプトンのことが嫌いであっても、理解できる。

だって、僕だって、マリエとかいうゲーム知識を持つチートな転生者のせいで、妹の婚約解消を防ぐという野望を打ち砕かれ、

さらには、オリヴィアさんを聖女にして後ろ盾になって政治と宗教双方に強い影響力を持つという次善の策も阻まれたんだから。

「無闇にリオン君を敵視したのが間違いだったんじゃないですか?僕のように取り込もうとすればよかったのに」

「オフリーが既に敵対していたからな。それに、一度、公国を打ち破った時点では、既にレッドグレイブ、アトリー、ローズブレイドを出し抜ける状況ではなかったわ」

「強引にでも方針転換すれば良かったんですよ。派閥の子分が何を言ったって、お宅は侯爵家なんだから、無理を通すくらいはできたでしょ」

「無理を通す、か・・・確かに公国の艦隊を1人で撃退できる戦力は、我々のものにできれば心強いに違いない・・・いや、実際、そんな真似ができていれば苦労はなかったな」

相変わらず妙な潔さだ。少しずつ、面白いと思えてきた自分がいる。

「そちらだって、リオン君に女をあてがえば良かったじゃないですか」

「タイミングが悪くてな。手頃な年齢、家格、性格、容姿を考えると、あの小僧の嗜好に合いそうな令嬢を手配できなかったのだよ」

「侯爵派閥なら、弾の1人もいないなんてことは考えられませんけど?」

「年齢はともかく、こっちの側にいる女も王国貴族だぞ。家格が低ければ、オフリーのような、性格が悪い、亜人連れの汚物のような女ばかり。そうじゃなければ幼い子供くらいだ」

少し興奮してきたのか、フランプトンの声がだんだんと大きくなってきた。

なるほど、要するに、それなりにコントロールを効かせられる駒が無かったということか。

「かたや、バルトファルトの回りにいるのは、お前が貴族に養子縁組しようとしていた学園の特待生、アトリーにローズブレイドの娘だぞ。おまけに、お前がどう思っているかは知らんが、お前の妹だってそうだ」

「何か共通するものでも見出してるのかい?」

「自覚がないのか!?胸の大きいまともな性格の女とばかり親しくしてるあの小僧を、性悪か子供ばかりのこちらの弾では落とせんだろう!」

アンジェはほんの少しだけ怒りっぽいけど、アトリー家のクラリス嬢に、ローズブレイド家のディアドリー嬢・・・

性格はけっこう尖っていると思うのだが、他が酷すぎるせいで、相対的にはまともな部類なのかもしれない。

「いや、別に彼だって胸だけを見ているとは限らないんじゃ・・・」

「調べさせた限り、普段からバルトファルトは、隙さえあれば女の胸に視線を送っていた。あいつは・・・生粋の巨乳好きに違いない!だから、取り込むのは諦めて、排除しようと決めたのだ!」

フランプトンが、鼻血を垂らしながら大声で叫んだ。

きっと、フランプトンの中ではそれなりに検討していたのかもしれない。だとすれば、この叫びは、ある意味で、彼の魂の叫びか。

「黙って聞いてればふざっけるなよ、クソジジイ!?みんなが集まった謁見の間でなんてこと言ってくれてるんだ!?」

「ああ、なるほど。大丈夫、悪いことじゃない。むしろ、大きいことはいいことだよ」

謁見の間という、強く厳粛性が求められる空間で、しかも大勢の貴族達を前にして、大声で性癖や胸の覗き見を暴露されたリオン君が、少し涙目になりながらフランプトンに抗議の声を上げた。

「いや、なるほどじゃないですから!」

「くっくっく、何を慌てておる。特待生、レッドグレイブの妹、アトリーやローズブレイドの娘、それにお前が篭絡した王妃。お前の周りにいる女は、間違いなく胸の大きい者ばかりではないか」

「そ、それは・・・偶然だろ、ってか、この場で人の性癖をぶちまけるとか、人間のすることじゃないだろうが!」

「ふはははは、お前の言ったように、侯爵の立場を活かして、最後に全ての責任を取ってやるんだ、これくらい好きにさせてもらおう、冥途の土産に貴様が大恥をかいて狼狽した無様なツラを見ることができたよ、ははははは!」

「あーあ。もうめちゃくちゃだね」

「あんたが言えたことじゃないだろ!」

「お前が言えたことではなかろうが!」

リオン君とフランプトンのツッコミが同時に僕に向かってきた。

「2人してよってたかって、酷い言い草じゃないか」

「それに、お前だって大概だろうが。陛下のように、弱みになり得る隠し子の1人や2人いるかと思って国中を調べさせたが、関係を持った相手は例外なく胸の大きい女ばかりだったぞ」

「それは偶然ですよ。大事なのは内面であって、僕にとって魅力的な内面をしていた女性の胸が大きかっただけだ」

「それを信じる者がどれだけいるか実に興味深いな」

「いや、本当に偶然なんだ。だいたい、僕は胸の大きい小さいだけで、女性の価値を判断しない」

「ならば、何を基準にするというのだ」

「僕は、大事なのは感度だと思っている」

前世で大学に通っていた頃、サークルの先輩が言ってたのを聞いて、僕は感動したよ。

それから、僕は感度至上主義者になったんだ。それ次第で、僕は大きくても、小さくても、きちんと愛情を注ぐぞ。

「・・・貴様、本当に最低だな。つまり、深い関係になって、感度を確かめてから価値を判断するのだろう?」

「相性を確かめてから相手にするかを考えたほうが長続きするじゃないか。僕は自分が至極まともだと思っているんですがねぇ」

「関係を持った女に、裸エプロンを要求して楽しむだなんて、いかれた性癖を相手にぶつける者をマトモとは言わん・・・せいぜい手を出した女に刺されないよう気を付けるんだな」

ドキっとしたよ。前世の死因を言い当てられたような気分だ。一応、忠告には、感謝するとしよう。

だいぶ空気がカオスになったところで、これまで黙っていたパパ上がこちらにやってきた。さすがに、これ以上の見苦しい場面は、放っておけなかったのだろう。

「その辺で満足しておけ、マルコム」

「ヴィンス・・・結局、お前には勝てなかったか。いつかお前を超えてやろう、従わせてやろうと上ばかり見ていたら、お前が目をかけた者どもに足元を掬われたよ」

「愚かな選択だったな。だが・・・一つだけ言っておくが、決して私が、ああなるように育てたわけではないからな」

「その苦々しそうなツラを見れただけで、もう満足だ。ただ・・・こんなことなら、私の縁者を無理やりにでも、お前のボンボン息子に嫁がせておけばよかったよ。先に地獄で待ってるぞ」

そう言い捨てて、フランプトンは連行されていった。

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