乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です   作:りーおー参式

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前回のタイトルに銀魂感が出すぎてしまい反省・・・

原作好感度高めの王妃様&クラリス先輩に嫌われて、
好感度低めの国王&ジルク君と仲良しな、針の筵主人公はここだけ、かもしれない


第6話 心の隙間にご用心

ホルファート王国の大臣バーナード・フィア・ラトリーは自室で書類を眺めながら考えていた。

そこには、部下から上がってきた、ギルバートの働きぶりに関する報告が書かれている。

 

配属の話を国王から最初に聞かされたときは厄介なものを押し付けられたと思った。いや、厄介なものだという印象は今も続いている部分がある。

在学中は無気力な学生生活を送っていたかと思いきや、妹が王太子の婚約者となった時期を境に、突然、辺境の下級貴族に結婚の世話を始めたのだという。

その後、王妃の逆鱗に触れたかと思いきや、国王の暗躍により、今度は辺境を監視する部署に配属となったのは、彼自身を王宮の近くで監視する意味があったのかもしれない。

とはいえ、ちょくちょく国王自身が夜遊びのお供に連れ回しており、新しい玩具扱いでもあるのだろう。

 

バーナードにとって僥倖だったのは、ギルバートから定期的に国王の女性関係の詳細な報告が上がってくるようになったことだ。情報の質も悪くない。

父であるレッドグレイブ公爵からの指示があってやっていることのついでで恩恵を受けているだけかもしれないが、自分に大きなメリットがあることも確かだ。

これまでは、嫌々夜遊びの付き合いをしたり、各方面への聞き取りをするために、時間も人的リソースも割かざるを得なかっただけでなく、時には炎上に繋がる恐れのある火遊びの後始末をしてきた。

そのころに比べれば、王宮外の女性関係の管理の負担は軽くなっている。

 

また、レポートには、貴族出身ではない、役人達の中に上手く溶け込みだしている、むしろ溶け込みすぎていることが書いてある。

仕事の成果が際立って優秀というわけではないのだが、役人達に溶け込む速度は異常に思える。

大物貴族の跡取り息子だ。学園でも周りにいたのは彼を立てる者ばかりだったはず。

きっと役人気質の文官達に馴染まず、不貞腐れるか、開き直って実家の力を背景に文官達を屈服させようとするか、いずれにしても仕事は上手く進められないだろうと思っていた。

だが、蓋を開けてみれば、この通りだ。まるで、役人達の心の隙間に入り込む不定形の粘性モンスターのようだ。

自分の子飼いの役人達をたぶらかしていくような行動には不快感もある。

 

「レッドグレイブの奇行種というのもあながち間違っていないから困る・・・」

 

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さて、今日も僕は役人仕事に勤しんでいる。今世では超が付くほどの上級国民になったはずなのに、就職して働き始めたら、前世の社畜感覚がすぐに戻ってきたのはありがたくも悲しい。

だって肉体が異なっても、社畜っぷりが魂に刻まれてるってことだからね!

 

職場で机を並べる仲間達は、前世で言えば公務員というカテゴリーになる。

前世の記憶にある公務員と言えば、まず脳内に浮かぶのは、市役所の窓口とか、まれに会社に監査に来る所管省庁とか税務署あたりだ。

共通していた印象は、程度の差こそあれ、外部の人間に対する排外的な態度だが、いざ内部の人間となってみると、体育会系な仲間意識を持っていた。

個人的な推測だが、彼らも、普通クラスだろうが、あのケモナー学園のOBだ。あの学園の男子生徒が受ける厳しい実習を耐え抜いてきたのだろうから、

ある種の部活動的な連帯感というか、体育会系っぽい気質が備わっているのだろう。

なので、働き始めてまず心がけたのは、体育会系人間達(個人的見解)が大好きな長時間労働、深夜残業を進んでやるようにした。

最初の頃は物凄く遠回しにヒソヒソとされていた時期もあったが、深夜で周りの同僚の人数が減ってくると話しかけてくれたりする人が増えてきた。

前世では前時代的仕事論になりつつある働き方だが、今世ではいまだに現役バリバリらしい。

人が少なくなった社内で、総務、経理、営業の下っ端仲間達と時折差し入れを持ち込みあいながら、真夜中の残業に精を出していた頃が自然に思い出されるね。

だが、今日は少し事情が異なったようだ。

 

「ギルバート様、たまには早く帰ってください」

「職場ですし、今は僕も1人の文官です。今は役職もないので、様はやめてください、先輩」

 

今日も今日とて、体が残業モードに入っていたところに、同僚の文官の1人が声をかけてきた。

おそらく内容から察するに、何人かの意見を集約してきたのだろうね。

コネ入社の若者の対応を押し付けられたのはお気の毒様でござる。

 

「我々も、あなたが我々を見下さずに仕事をしてくれてることはわかってますよ。ですが、他の部署の貴族様方から色々と言われてしまうんです」

「おや、じゃあパパ上の執務室に行って、人を殺せそうな睨みつけをしてもらうよう頼んで来ますんで、どこの家か教えてください」

「それって絶対に楽しんでますよね!?」

「いやいや、仲間に害を加える人間は敵です。貴族なら、やられたらやり返さないと」

 

サムズアップしながら、実家の権威をひけらかしてみたのだが、きっと顔がニヤついていたんだろう。

だが、先輩の思うところは、実際には別にあったようだ。

 

「王宮で働きだして慣れてきた頃のほうが、油断して体を壊してしまう危険があるんです。そうなると我々や中間管理職の立場がないので帰ってください」

 

ツンデレか!役所風なツンデレなのか!?

勘違いしないでよね!私の保身のために、帰って休んでほしいだけなんだからね!って感じか!

確かに前世においても、新入社員には、ゴールデンウイークで気が緩んで、心身に不調を来たす者が多かったな。

中身はアラフォーな社畜さんなので、これでも自分なりに息抜きしてるから、気にしないでくださいと言うわけにもいかないか。仕方ない、今日は退社・・・いや退庁することにしよう。

 

というわけで荷物をまとめて、お迎えの馬車の待機場所に向かっていると、夕暮れ時の王宮の通路の前方を歩く一人の男が目に入った。

 

頭はうな垂れており、背中は丸まっている。緑色の長髪も、なんだか艶がない。

後ろ姿を見ただけで、落ち込んでいるか、悩んでいるかのどちらかだろうとすぐにわかる。

 

そして、この男こそが、あの乙女ゲーの攻略対象の1人であるジルクであった。

宮廷貴族の子爵家出身で、僕の妹の婚約者の乳兄弟殿であり、攻略対象達の中では階級が低いが、将来性は非常に高いであろう設定だ。

さらに、僕の上司であるバーナード大臣の娘の婚約者でもある。一言で言えば、勝ち組になるのが約束されたような男だろう。

というか、最初に乳兄弟なんて言葉を聞いたときは、前世の価値観のウエイトが今よりずっと大きかったから、意味が分からなかったね。卑猥な意味かと思ってしまった。

 

さて、そんなジルクであるが、広い意味では妹の関係者とも言えるので、現時点でも軽く面識くらいはある。

普段なら、わざわざ話しかけることはしないのだが、将来有望な若者が何か悩みを抱えていそうな雰囲気をしているのを見ると、探りの1つでも入れたくなるのが人情だ。

 

「マーモリア家のご令息殿じゃないですか。お久しぶりです」

「ご無沙汰しております。ジルクで構いませんよ、未来の公爵殿」

「なら僕もギルバートでいいさ。今の僕は、実家がでかいだけの、王宮に生息する木っ端役人の1人だよ」

 

今になって大変なことに気付いた。

攻略対象な貴公子の1人だから、顔面偏差値がすごく高いことは認識していたが、こいつ、声がゲーム通りだ。

声だけ聴いてると、変化する犬を連れてたり、可変型の髑髏マーク付きガ〇ダムに乗ってたり、他人の卍〇の霊圧を分析して無効化してきそうだな。

イケボ偏差値まで高すぎかよ。ってイケボ偏差値って何なんだ。

 

「ところでわざわざお声がけいただいたのはどのようなご用向きですか」

「後ろ姿を見ただけで、ずいぶんと悩んでいるように見えたのでね」

「そんな大層なものではありませんよ、悩みのない人なんていればお目にかかりたいですね」

「まあそう言うなよ。若者の悩みを聞くのは年長者の仕事さ」

「ですが、今日はもう時間も遅いですし・・・」

「そうだね。僕も空腹だ、ちょうどいい、食事でもしながら話をしよう」

 

そう言って、僕はジルクをやや強引に実家の馬車に押し込んで、目的地に向かう。

向こうの心境を想像するに、大物貴族の、素行のよろしくないボンボン息子に連行されて、これからどうなるんだろうという不安が大きいのだろう。

現に、揺れる馬車の中では、緊張する面持ちで外を眺めている。そして、ジルクが次に口を開いたのは、目的地の店の個室に通されてからであった。

 

「あの・・・ここで食事ですか」

「そうだよ、お勧めは、この店のママお手製、ベーコンたっぷりのポテトサラダだね」

「いや、この店・・・あの、女性とお酒が出る店ですよね!?」

 

明らかに挙動がテンパり始めた攻略対象殿がなかなかに可愛いね。

そう。確かにここは、前世で言えば高級クラブのような店の個室である。

ちなみに調べてみたところ、繁華街の近隣にはキャバクラのような業態もあった。

乙女ゲー世界に何故そんなものが、とも思ったが、開発元は男性用ゲームを開発していた会社だった気がするから、きっとメーカーの遊び心だったんだ、と勝手に納得するようにしている。

 

「安心してくれ。ここは密談する貴族の御用達の店だ。店員もみんな、基本的に口の堅い女性ばかりだから」

「そ、そうなんですか・・・でもこんな店・・・」

 

さすがの貴公子殿も戸惑いを隠せないようだ。

クールぶりながらも、そわそわしながら店内を眺めているようだ。そうだよね、緊張するよな。

僕だって前世の学生の頃に、就職した先輩に高級キャバに連れて行ってもらったときは同じような状態になっていたよ。

浮かれてテンション爆上げヤッホーということができるキャラでなければ、普段の冷静ぶった状態にいかに戻すかを考えてしまうよな。

店員の女性が手早くドリンクを置き、空気を察して部屋から出ていくと、グラスを手に取り話を促していく。

 

「料理はおいおい届く。楽にしてくれていいぞ」

「楽にと言われましても、どうすればいいものなのか・・・」

「なら、君の表情が冴えなかった理由を聞かせてくれよ。大丈夫、王宮とは違う。誰も聞き耳を立てたりなんてしていない」

「そ、それはそうでしょうね・・・」

 

ジルクの目が個室内を再び泳ぎ始めた。

ここで話していいのか、そもそも話していいトピックなのか、目の前の男は話をするに足る人物なのか等を考えているのだろう。

 

「君には将来、殿下とアンジェを支えてもらわなければならない。僕が手を差し伸べるのは、その御礼の先払いだ。気にせず、というのは難しいかもしれないが、これでも君よりは長く生きてるんだ、それなりに力になれると思うよ」

「これは、私の友人の話なのですが・・・」

 

おい、急に雑な予防線を張ってきたな。悩み相談で友人の話ってのは自分の話であることとイコールだぞ。

 

「友人には婚約者がいるのですが、ちょっと、その・・・重いんです」

「重いというのは具体的にはどんなことがあったのかな」

「ある日、店先でとある新製品を1人で眺めていたのですが、翌日にその新製品をクラ・・・友人の婚約者が彼の家に届けに来たんですよ」

「それも、衣服とか刀剣や銃じゃないんです、エアバイクですよ、エアバイク!しかも、同じようなことは2度、3度どころじゃないんです!」

「何それ、怖!しかも重い・・・それは、引くわ。いや、ごめん、ドン引きだ」

 

っていうか、今、クラリスって言おうとしたよな。お前の婚約者のクラリス嬢のことだよな。

だが、いくらなんでも新型のエアバイクっていくらすると思ってるんだ。そりゃ大臣の娘なら、お金はあるんだろうけど、おいそれとプレゼントできる額ではないだろう。

前世で言えば、ホストに入れ込んで親の金を推しに注ぎ込むお嬢さんのようなものか。

重すぎる愛情表現にドン引きしている僕だが、そんな様子を見たジルクの表情が明るくなってきた。

 

「ですよね!重いですよね!きっと貴方ならそう言ってくれると思いました!!」

「おい、貴方ならってどういうことだよ・・・」

「あ、それはその・・・」

「わかりやすく目を逸らしたな。怒らないから言ってみな」

「本当に怒りませんか。僕が言っていることでないことは間違いないのですが・・・」

「ああ、どうせ王宮内の噂だろう。どんな風に言われてるんだ、僕は」

「はい、人づてに聞いたのですが、在学中には辺境出身の貴族を連れ回して酒池肉林の宴に耽り、寄ってくる令嬢達を獣臭いと罵倒する一方で、逆に騎士階級から平民に対しては無差別に種を撒き、

その振る舞いが騎士にふさわしくないと王宮の逆鱗に触れたために、辺境のドサ周りをすることになったのだと・・・」

 

改めて聞くと酷いな、僕の噂。しかも、困ったことに半分くらいは合っているから困る。

だが間違いなく言えることは、僕は貴族童〇だ!貴族家の女性と関係を持ってしまったら責任を取らなければならない、という父の教えをしっかり守ってるぞ。

それに、騎士階級や平民の女性を相手に種を撒いても発芽はしてないからな!!たぶん。

たいていは相手は実家のメイドだけど、手を出してすぐ、又はもう少しで手を付けられるというところでいつの間にか配置換えだったり、辞めさせられたり、どこかに嫁いでしまったりなんだ!

きっとあの腹黒陰険メイドがパパ上に情報をリークしているに違いない!

つい熱くなってしまった。ひとまず、話をジルクに戻そう。

 

「根も葉もない噂ばかりだね。僕は辺境の貴族達が、王国、ひいては殿下やアンジェを脅かさないように一生懸命働いているだけだというのに」

「それだったら、辺境の貴族から側室を何人か娶り、その辺りを軸に監視するという手もあるのでは?しかも手を出しても問題になりにくい身分を狙い撃ちしているように見えますよ」

 

この男、攻略対象の1人だけあって頭が悪い訳ではないようだ。微妙に痛いところを突いてくる。

仕方ないだろう、辺境出身の令嬢はケモナーばっかりだったんだから。

 

「たまたま、いい相手が見つからなくてね。アンジェの婚約が決まったばかりで下手に動きたくなかったという事情もあったんだよ」

「でも騎士階級や平民の女性に手を出す理由にはならないですよ」

「何を言ってるんだい?僕は彼女たちが素晴らしい女性だったから、身分に関係なく親しくなったんだよ。人としての彼女たちを愛していたと言ってくれ。まあ、身分というか、価値観が原因で失敗したことはあったけどね」

「価値観、ですか?」

 

よし、うまく話を逸らせたぞ!思ったよりも僕の話に食いついてきたときはどうしようかと思ったが、ここから軌道修正を図っていこう。

 

「貴族間だったら普通にやるように、お高いドレスや宝飾品を送ったら気味悪がられてしまったんだよ、君の友人みたいにね」

「友人は貴族家出身ですが・・・」

「大事なのはそこじゃない。相手が何を好きなのか、何をすれば喜んでくれるのか、そういった価値観というか、相手の人間性を理解しろって言ってるんだよ。お前が気味悪がっているのは、きっとそこだ」

「そうですね。なにせ、いきなりエアバイクですからね」

「愛なんて人それぞれ形は違うんだろし、君の友人の婚約者自身は深い愛情を持っているんだろう。それでも自分の気持ちをぶつけるばかりなのは愛と言っていいものか、個人的には疑問だ」

 

このセリフは我ながら、けっこうリスキーかもしれない。

上司の娘の行動が、愛なんかじゃないと言っているようなものだからね。

とはいえ、あくまで”友人”の話なんだから、ここまで来たら、ジルクとクラリス嬢の間に楔の一つでも撃ち込んでおきたい。

 

「少なくとも、君の友人は、気持ちの押し付けを愛だとは感じていないから、悩んでいるんだろう。それが価値観の違いなんだ」

「受け入れられなくても器が小さいことにはならないのでしょうか」

 

そうか、王太子の乳兄弟として、大きい人間でなければならない、というような思いがあったのか。

たしかに、将来的には、この男には清濁を併せ飲む器に育ってもらわなければならない。

だが、現時点で器が割れてしまっては元も子もない。それゆえ、僕がかけるべき言葉は、現時点の状態を正当化するフレーズだろう。

ついでに、学園で主人公を選んで、クラリス嬢との婚約を破棄するための言い訳を心の中に仕込めれば上々だ。

 

「プレゼントをもらって、思い悩むということは、君の友人が考える愛というのは、少なくとも金額的な価値以外のところにある証拠だ。人として恥ずかしいことではないさ」

「人として、というのはずるい言い方ですね」

「あと、家の間で結ばれた合意を簡単にどうにかできるものではないから、今の関係を受け止めきれないなら、受ける側を強化するという考え方もある。器の側を大きくすればいい」

「ずいぶんと簡単に言いますけど、実際にどうしろと言うのですか」

「そりゃ簡単さ。色々な女性との経験を積んで自分の側のキャパシティを大きくするんだよ。多くの愛の形を知って受ける側に余裕があれば、自分の心の中で、その1つ1つを、そういう愛もある、と相対化できる」

「さりげなくご自分を正当化するのがお上手ですね。ですが、理屈としてはありかもしれませんね」

「将来有望な男がここで潰れてしまうのは王国の損失だ。君だって、殿下のお供をしたり、エアバイクのレースに出たりする中で人と出会う機会は多いはずだ。他にも君に経験を積ませてくれる人はいるかもしれないよ」

 

そう言って僕はこの個室の入口の扉のほうを見た。僕の勘が正しければ、そろそろだろう。

ジルクはというと、何が起こるのかがさっぱりわからず、戸惑っている。

襟元や服の乱れを直していると、バタバタとした足音が部屋に近付いてきて、扉が乱暴に開かれた。

1人の男がニヤニヤとした笑みを浮かべて入ってくる。

 

「ようボンボン!何やらコソコソやってると聞いたから邪魔しにきたぞ!ん、何だ、ジルクじゃないか。珍しい組み合わせだな」

 

やはり来たか。素早く立ち上がり、頭を下げる。僕のことを大声でボンボンと呼ぶのはこの国でも1人だけ、この国の統治機構の王であり、貴族から平民までありとあらゆる身分の女性への愛を振りまく夜の帝王でもあるローランド陛下だけだ。

この展開は予想できていたので、僕は驚かない。店の誰かが、僕が個室をオーダーしたことを連絡し、女性との密会に使っていると勘違いして、遊び半分に乗り込んできたのだろう。

一方のジルクは、わかりやすいくらいに慌てている。そりゃそうだよな、一国の王と夜の店で出会うなんて予想できる人間なんて、僕みたいな夜遊び要員や

女性関係を管理させられているバーナード大臣やうちの父、その他重臣達くらいだろう。

 

「陛下、どうしてこんなところに・・・いえ、お見苦しいところを申し訳ございません!」

「そこのボンボンが珍しくこの店の個室に入ったと連絡が来てな。それと、ここでの私はイケてるナイスミドルなランドさんだ、覚えておけ」

 

まるで通りすがりの仮面ライダーみたいな言い方だな。あらゆる世界をまたにかける、いやあらゆる女性の股を狙うという意味ではそんなに違ってもないか。

そんな陛下のドヤ顔を横目に、ジルクが僕に冷たい目線を送ってくる。

言いたい台詞はなんとなくわかる。さっき、スタッフの口が堅いと言ったのに、顧客の話がすぐに伝わっていたのだからね。

 

「口が堅いのは本当だよ、だが、この国のルールはこの方御自身だ。そこだけは諦めたほうがいい」

「ところで、お前達2人で何をしていたんだ?珍しい組み合わせだが・・・」

「実は彼の”ご友人”が愛について悩んでいると聞いておりまして。愛には様々な形があるという話をしておりました」

「ほほう!”友人”か!わかった、じゃあ悩める国民の話を私も聞こうじゃないか!」

 

僕が言いたかった意味を察してくれたらしい。さすが陛下!でも酒を飲ませたら駄目ですからね!

他人の弱みを握ったり、嫌がらせをするときの陛下の能力はこの国でもトップクラスだと思っている。

手早く店のスタッフに飲み物やアテンドする女性の手配を自ら行ってしまう陛下の脇で、引き続き冷たい目線を向けてくるジルクの肩に手を乗せた。

 

「君が自分を納得させるための言い訳を提供しよう。君は殿下が王位を継いだ時に備えて、現王である陛下の異性関係を把握しようとしているだけだ。これは、乳兄弟殿にとって重要な役割なんだよ、いや君にしかできないんだ。そんな中で君は色々な経験を積めばいいんだよ、色々とね」

 

サムズアップしながら、満面のスマイルを向けて言ってみた。

間もなくドンチャン騒ぎがスタートして、陛下の指示を受けた女性陣がジルクを可愛がり始める。

最初のほうこそ、余裕のある男です感を出そうとしていたが、そんなものは海千山千のプロの女性陣には通用しない。1時間もすれば、陛下と一緒になってその場を楽しんでおり、その姿は年相応に可愛い青少年だ。

夜の店を楽しむ青少年が風紀上適切かは議論があるだろうけどな!

 

まあ思ったよりも早くこの店を楽しみ始めたのは若干チョロいと感じてしまうね。貴公子としてのガードもプロの女性には通じないんだろう。

だが、この先、そんなプロのスキルをもった令嬢なんて学園にはいないんだろうから、主人公様と出会うまでにできるだけクラリスさんとの心の距離が離れていくことを願うとしよう。

世話になってる上司の娘の婚約が拗れることを願うなんて、我ながら相変わらず屑ムーブが酷いけど、妹や僕自身のためだ。大臣の娘なら、ジルクよりもっといい相手を見つけられるよね!?

 




まさか学園に夜の店のトップになれるようなスキルを持った女性なんているわけないですよねw

さてあと1,2回でようやく本編に入れそうです・・・

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