乙女ゲー世界は悪役令嬢の身内にも厳しい世界です 作:りーおー参式
しかもフリーダム風なズゴックテイストも混ざってきたし。
なんでだろうw
黒騎士が乗る魔装との戦闘はまだ続いている。
ツインビームキャノンで食らって損傷した機体を自ら修復する魔装に対して、アロガンツブロスがグレイブで斬りかかる。
ビームのダメージで肩が損傷している魔装は、そのまま攻撃を受け止めるのは悪手と判断したのか、機体を後方にジャンプさせて攻撃を回避した。
「力負けしたらお姫様が危ないとでも思ったのかい!?」
「そうでなければ、貴様の攻撃など正面から打ち砕いてくれるわ!」
「そうかい!でも仕方ないよね、誰かさんが仕掛けてきた戦争なんだからね!!」
「もはや外道の黒幕に語る口などないわ!」
「つれないことを言うじゃないか!僕らは、けっこう似た者どうしだと思うけどね!」
相手の護衛対象を集中して狙うことと、軍属ですらない船を襲って人質を確保しようとすることの両者は、相手の弱みを突こうとするという意味では、そんなに大きく違わないだろう。
魔装が上空に飛んだところで、アロガンツブロスのツインビームキャノンの砲塔を上空へと向ける。
「ほらほら、ビームの破片でも当たったらジ・エンドなんだからしっかり避けたまえよ!」
散弾状になったビームが再び魔装を襲い、魔装は、回避行動を取るのだが、またも高速機動にヘルトルーデ王女が耐えきれなくなり、振り落とされそうになったところで動きが鈍った。
「さっきと同じ様な動きを取るだなんて、油断もいいところだろう!」
背部のウイングのバーニアを噴かしてアロガンツブロスが魔装に接近し、勢いもそのままに魔装のボディに蹴りを喰らわせた。
魔装は、その衝撃で背中から地面に叩きつけられそうになる直前に、大剣を地面に突き刺して勢いを殺し、なんとか膝をついた形での着地に成功する。
「姫様を嬲るような戦い方をして楽しそうだな、下劣公!!」
「君だって王宮内で迎撃に当たった騎士達相手に単騎で無双して楽しかったんじゃないのかい!?」
「奴らは腐っても戦場に出てきた騎士であろうが!それを姫様と一緒にするな!」
「そのお姫様っていうのは、うちの妹その他学生達が乗ってた船を襲撃して、楽しい修学旅行を戦場に変えた君達公国軍を指揮をしていた大将のことかなぁ!」
ここまでこちらの攻撃をかなりくらいながら、ダメージが蓄積されているように見えない魔装の耐久力は相当のものだ。
機動力だって、ヘルトルーデ王女というお荷物さえなければ、アロガンツブロスにも匹敵するだろう。
ならば、力を発揮できない今のうちに、魔装と黒騎士というまるでラスボスの最悪の組合せをこの場で削りきらせてもらおうか。
『大変よ!マズいことになったわよ、ギルバートちゃん!!』
ネームドとはいえ、あくまでもモブの1人に過ぎない僕が、どうやって黒騎士を倒してしまおうかを考えていたところで、
コックピットの端っこに、小さい通信画面がポップアップして現れると同時に、画面に青い一つ目の球体が現れた。
「今は戦闘中だ、クレアーレ!しかも相手は君のマスターも苦戦した黒騎士だぞ!」
『こっちも大変なのよ!公国の部隊の一部が、マスター達の迎撃を潜り抜けて、公爵家の屋敷に近付いてるの!』
おいおい、やばいことになってるじゃないか。王都の屋敷には、使用人達だけでなく、領地に戻る準備をするためにパパ上がいたはずだ。
「王国軍は何をしている!?」
『みんな奇襲してきた公国軍の相手で手一杯よ!間に合いそうな友軍機は、ギルバートちゃんの機体くらいだわ!』
僕の前にいるのは、黒騎士が操縦する魔装。ラスボス機体と言っても十分に通じる大物だ。
そのラスボスがヘルトルーデ王女というお荷物を抱えて十分に機体性能を発揮できない状態にある。
このまま時間をかければ、DLCの攻略対象であるリオン君に手を煩わせずに、黒騎士を倒せるかもしれない。
だが・・・屋敷にいるのは肉親であるパパ上、それに苦楽をともにしてきた使用人達だ。
そもそも、僕の最終目的は黒騎士を、公国を滅ぼすことじゃない。この世界において悪役令嬢の役割を与えられた妹、そして実家の凋落を防ぎ、
公国との戦争が終わった後も、実家の勢力を増強して、ぬくぬくと生き延びることにある。そのためには、パパ上を失うわけにはいかない。
いや、そもそも、家族や家の者達を犠牲にするというのは、感情面でも受け入れたくはない。だとしたら・・・
「ブロス、フルチャージじゃなくていいから、黒騎士の足元にビームを打ち込め。奴の視界を覆ってるうちに、この場を離脱するぞ」
『了解!ビームキャノン、発射するよ!!』
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ビームが地面に着弾して、土埃が大きく舞い上がった隙に、アロガンツブロスのフルスピードで僕は戦場から離脱する。
スピードはそのままに、まっすぐに公爵家の屋敷に向かっていた僕の視界には、そう時間もかからずに公爵家の屋敷が小さく映った。
だが、問題なのはその周辺からいくつもの煙が上がっていた点だ。
コックピット内のモニターの端に、拡大した画像がポップアップすると、
そこには、公爵家の騎士用の鎧が公国の鎧部隊と交戦している姿が映り込んでいる。
実家の鎧部隊も懸命に戦っているものの、公国の部隊は数で勝り、押し込まれているのが明らかだ。
「くそっ!連中、僕への意趣返しだと言わんばかりにやる気をみなぎらせやがって!パパ上や屋敷の連中は無事なのか!?」
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リオンが率いる王国軍とリオンと締結した契約に縛られた学園の友人達により構成された部隊による迎撃を潜り抜けた公国の奇襲部隊の一部は、
リオンの黒幕と目されている公爵家の屋敷に対する攻撃を開始していた。
奇襲であったが故に、屋敷の主人である公爵のヴィンスの避難も間に合わず、その準備をしつつも、自前の鎧部隊に反撃の指示を出している。
また、屋敷の使用人達は非番だった者も含めて順次避難を開始していたが、ヴィンスの補佐や避難の準備をしている者もおり、まだ残っている者も多かった。
「ヴィンス様の退避はまだ終わらないのですか!?」
「もう間もなくです!」
「急がせなさい!相手はお嬢様を誘拐しようとした愚物達です!何をしてきても不思議じゃありません!!」
コーデリアは、公爵家の屋敷の庭で、上級メイドとして、下級メイド達に声を荒げながら指示を出していた。
戦力にならない平民出身の使用人達は早々に退避させたが、実家が貴族や騎士家の使用人は、あの学園の卒業生である。
つまり、ダンジョン探索の実戦経験を有する者が多く、迎撃に出ている鎧部隊の後方支援にも当たっていた。
負傷した怪我人の応急措置や、後方への運搬であれば、騎士でなくても行うことは可能だ。
だが、戦力の差は大きく徐々に押し込まれていることは否定できない。
そんな中、とうとう公国の鎧が数機、防衛線を突破して庭に着地してしまう。
「我らを苦しめた王国のクズども・・・特に我らの誇りを傷付けた公爵家のやつらは皆殺しだ!!」
鎧から憎悪と殺意に満ちた声が響く。
何て品のない喋り方をする騎士だろうと思いつつも、公国の鎧が手にしている火器の銃口が、躊躇うことなくコーデリアら非戦闘員に向けられた。
敵の動きは、はっきり言って、コーデリアの予想よりもずっと早かった。
そして、その原因が、特にギルバートやリオンに対する憎悪なのかもしれないと、脳裏をよぎるのだが、今の段階でそれを考えても意味はないのだと理解していた。
しかし、自分の命が失われそうになるのは、思っていたよりもずっとあっけなかった。
思わず、体が硬直したまま、目を固く閉じたコーデリアだったが、数秒が経過しても、何も起こらない。
そして、間もなく、何か金属が潰れるような鈍い音が聞こえてきて、その直後に地面が大きく揺れた。
恐る恐る目を開くと、目の前に、巨大なウイングを背部に備えた黒い鎧が、公国の鎧とコーデリアの間に立っていた。
さらに、鎧の両脚の間からは、先ほどまで自分に銃口を向けていた鎧の姿が見える。
ただ、公国の鎧は、上から投擲されたであろうグレイブに頭から足先までを貫かれて、油のような液体と、真っ赤な血を垂れ流していて、機体そのものはピクリともしていない。
黒い鎧をよく見てみると、機体の各所に公爵家のエンブレムがペイントされており、自分を助けてくれたのが味方機であると理解できた。
「てめぇらあぁぁぁ!人ん家(ひとんち)の者(もん)に手ぇ出した落とし前、どう付けるんだ、この侵略者どもがぁぁぁぁぁ!!!」
味方機の鎧から聞こえてきたのは、自分が仕える公爵家の跡継ぎの怒鳴り声だ。
そして、敵である公国の騎士よりもずっと粗野で荒々しく、気品や優雅さといったものは欠片もない、ブチ切れた声だ。
本来、そのような品の無い言動にプラスの感情を抱くような価値観を備えていないコーデリアであったが、
今日ばかりは、諦めと感謝、そして安堵がごちゃ混ぜになって、黒い鎧を見る視線が熱を帯びている気がしていたのだった。
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もうじき、公爵家の屋敷に到着しそうだというところで、コックピットのモニターに映し出されたのは、
公国の鎧が携行している火器の銃口を、コーデリアに向けていた光景だった。
しかし、敵機とコーデリアの間に立ちはだかっている時間もないし、肩部のビームキャノンでは火力が高すぎる。
敵の鎧だけでなく、コーデリアを巻き添えにしてしまいかねない。
もう考えている時間はない。そう思った時には、アロガンツブロスの手にしていたグレイブを、公国の鎧めがけて投擲していた。
その攻撃でなんとか公国の鎧を仕留めることはできたが、敵の機体はまだ何機も残っている。
「ブロス!両腕部クローをセット!!接近戦で一気にカタをつけるぞ!」
『了解!オマケでウイングと脚部のビームエッジも起動するね!』
実家が襲撃を受けているという冗談抜きの緊急事態だったためにツッコミを入れる余裕はないのだが、どうやら修理のついでに色々と改修がされたようだ。
まるで、全身刃物みたいな状態じゃないか。
こちらの機体に狙いを定めた公国の鎧をめがけて、ウイングのバーニアをさらに噴かせてアロガンツブロスが一気に距離を詰める。
敵機が剣を振り下ろそうとするが、その前にブロスは懐に潜り込み、繰り出したクローが敵機の腕部を切り裂いた。
さらに、ブロスは、勢いをそのままに敵機の後ろに回り込み、背部を目がけて回し蹴りを叩き込むと、
敵機は脚部のビームエッジによって、豆腐のように斬り裂かれ、爆散した。
「まだまだぁ!スプリットモードのビームをぶち込め!」
続けて、上空からこちらを狙っていた数機に向かって肩部のビームキャノンを散弾モードで撃ち落とし、残った敵機は1機のみとなった。
まさか数十秒で味方が壊滅するとは思っていなかったのか、怯えて上空に後退しようとする最後の1体であったが、実家を荒らされて生かして返すほど僕は人格者ではない。
再びブロスの背部ウイングのバーニアを一気に噴かせて敵機に迫り、追い抜きざまにウイングから出ているビームエッジで機体の首をはねる。
「これで・・・ラストぉぉってやつだあぁぁ!!」
さらに、振り向きざまに正面から敵機のボディをクローで貫いた。
アロガンツブロスが腕を引き抜くと、コックピットを貫かれた敵機は、力無く屋敷の敷地に向かって落下していく。
そして、落下した先にあった、庭の噴水に突っ込むと、そこから大きく水柱が上がった。
やがて水飛沫は重力に引かれて屋敷の敷地に降り注いで、庭はかなり水浸しになってしまったが、各所の火もこれによって消火できたから結果オーライだと思いたい。
周囲を見まわし、残存する敵機がいないことを確認してコックピットを出ると、機体の足元には、パパ上だけでなく、公爵家の騎士、使用人達が集まって来ていて、歓声が上がっていた。
「一時はどうなるかと少しヒヤッとしたが、よく間に合ってくれた」
「さすがにまだ代替わりには早いですからね。父上にはまだ公爵をやっていただきませんと」
「美味しいところを掻っ攫うのは、まるでどこかの陛下のようではあるが、今日は本当に助かったぞ」
ヘルトルーデ王女を奪還しにきた黒騎士を見逃す結果にはなってしまったが、
そもそもの話として、黒騎士は、僕じゃなくてリオン君やこの乙女ゲー世界の主人公様であるオリヴィアさんが倒すべき運命のはずだ。
僕はそれをサポートすればいいのであって、家族や周りの人間を犠牲にしてまで為すべきことではないと思うことにしよう。
その後、パパ上を王都の港にある公爵家の飛行船までアロガンツブロスで乗せていくことになり、パパが荷物を取りに屋敷にいったん戻ったところで、音もなくコーデリアが近づいて来た。
「若様、今回は危ないところを本当にありがとうございました・・・さすがに今回ばかりは・・・」
「君から素直に御礼の言葉を聞くとはね。明日は雨でも降るんじゃないのか」
「大雨のような水は、先ほど既に降り注いだばかりでしょう。それと、噴水の新設は、手間がかかりますよ」
「そもそも攻め込んできた公国が悪い。それに、あちこちのボヤを一気に消せたんだから、大目に見てほしいものだね」
しおらしかったのは最初だけで、二言目にはいつもの嫌みがブレンドされてきたな。
噴水で思い出したが、噴水の水がぶちまけられたせいで、騎士や使用人達の中にはびしょ濡れの者もいる。
コーデリアも例外ではなく、髪から衣服まで水浸しだ。さすがに眼鏡のレンズの水分は拭き取ったようだが。
よく見るといつものメイド服の白いブラウスが水で濡れている。そのせいで、下に着ているものの色が視界に入って来た。
「コーデリア。赤って・・・君、意外とキャラに合わない色を身に着てるんだね」
戦闘で疲れていたせいだろうか。つい、普段は言わない、考えなしのセリフを言ってしまった。
次の瞬間、僕の顔面は、強烈なビンタに見舞われていた。
僕じゃなきゃ見逃しちゃうね、どころの話ではない。全く反応することができなかった。
プンスカと怒ったコーデリアは、大股で屋敷に向かって戻って行ってしまったが、悲劇はそれだけでは終わらなかった。
「いくら何でもあのセリフはないだろう・・・父親として恥ずかしいぞ」
脇の方で一連の光景を、戻ってきたパパ上が見ていたようだ。
「父親に変な場面を見られた息子の気持ちも察してください。というか、雇い主の息子なのに、使用人にビンタされたんですけど」
「いや、どう考えたってお前が悪いじゃないか。あそこはロマンスが生まれる場面だろう、常識的に考えて」
「公爵ともあろう者が、息子のロマンスを楽しまないでほしいのですが」
「一つわかったことがある。いい年した男と女が、下着の色でワーワーやってるということは、お前達、本当に愛人関係ではなかったんだな」
えぇぇぇぇ!!!まさか、本気でパパ上にコーデリアと愛人関係だと疑われてたのか!?
勘弁してくれぇぇぇえ!!!
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久しぶりのおまけパート
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兄貴、事件です・・・
あまりの出来事に、つい、心の中で前世の兄に語りかけてしまったわ。
そうよね、それだけじゃ何があったかわからないわよね。ええ、これから説明するわ・・・
その日のスタートは平和だったわ。
あの乙女ゲー世界の悪役令嬢の実家であるレッドグレイブ公爵家でメイドの真似事をする生活にもすっかり慣れてきた。
現在、若様は国境沿いの貴族の浮島の監査のために、数ヶ月を要する長期出張の真っ最中で、屋敷の中は比較的静かだ。
午前中の仕事を終わらせて、昼食にありつこうと使用人用の食堂に入った私の注意を引いたのは、
端の方のテーブルでメイド達が食事をしながら、井戸端会議のような話に花を咲かせている様子だった。
普段であれば気にするようなものではない。基本的にルーティンの仕事をする使用人にとって、食事やゴシップの類な噂話は重大なエンタメだ。
それが盛り上がっているのは日常的なものであり、何もおかしいことはない。
私が気になったのは、普段は、率先してこのような噂話の輪に入らないコーデリアぱいせんがやや真剣な表情で加っていた点だ。
私の教育係でもあるコーデリアぱいせんは、実家がしっかりとした貴族な上級メイドである。
その人をして、真剣な表情をさせるというのは、何か良からぬことが起こったのではないかと心配になるのよね。
日替わり定食が乗ったプレートを持ちながら、私は話が盛り上がっているテーブルに近付いていくと、メイド達が私の接近に気付く。
「お疲れさまで〜す、何か面白いことでもありました?」
「あらマリエちゃんも気になる?実はね・・・」
噂話で盛り上がっていた別のメイドのぱいせんが私を手招きして呼び寄せる。
ウキウキしながら説明してくれた内容を端的にまとめると、若様の縁談がまとまらなかった、という恋愛ゴシップだった。
悪役令嬢の兄である若様は、辺境、国境エリアの貴族の監査の仕事をしているだけでなく、領主の妻の素行の悪さが領地運営にとって有害だと判断した際には、その女を消すことすら躊躇わない。
それらのことから、一定数、この国の貴族から嫌われていることは事実だ。
そんな連中が根も葉もない噂を流していれば、いくら公爵家の跡取りで、将来の国王の義理の兄だったとしても、色々と理由を付けて縁談が成立しないのも理解できる。
結果的に、屋敷内で働いているメイド達の中には、自分たちにもワンチャンがあるのではないかと期待が膨らんでいるのだろう。
しかし、私は知っている。たぶんそのワンチャンは既に屋敷の中で消費されてしまっているのだということを。
若様は、別のメイドのぱいせん・・・しかも、おっぱいがめっちゃデカい先輩に、既に手を出している。
いや、それどころか、法外なお小遣いと引き換えに、メイドとの密会を私に手助けさせているくらいだ。
「そんな気楽な話で済めばいいんですけどねぇ」
ため息をつきながら、コーデリアぱいせんが呟いた。
「やっぱり先輩も若様にワンチャンを狙ってたりしないんですか?」
「前にも話しましたが、私が選ばれても、大方、誰か別の愛人を囲うためのカモフラージュになりそうですから・・・それより気になるのは、若様の次がどうなるかです」
「あ・・・そっか、愛人との子供を堂々と跡取りにするだなんて言えるかわからないですよね」
「もし若様が正室か側室に跡取りを生ませなかったら、確実にお家騒動が勃発します。愛人が産んだ、本当に若様の子供なのかわからない子を担ぐ勢力と、有力な分家筋の勢力等が公爵の地位を奪い合う泥沼の内紛が起こりかねません」
「うわあ・・・なんか私達の身の回りでも面倒ごとが起こりそう・・・」
「面倒ごとくらいで済めばマシなくらいです。後継者が決まるまでに2、3人くらい消されたって不思議はありません」
公爵家、怖あぁぁぁ!
いや、確かに王家の分家みたいな立ち位置なら、保有している利権とかも物凄いものがありそうだものね。
「そ、そんな大袈裟な・・・」
「いえ、むしろ既に市中に愛人や産ませた隠し子がいる可能性も否定できません。なにせ、陛下だって市中に何人も愛人を囲っている、だなんて噂もあるくらいです」
・・・市中にいるかどうかはわからないけど、屋敷の中では、発芽しているかどうかは別として、手を出したメイドに対して、お家騒動の種が撒かれている気がするわ。
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昼食を終えたところで、私は忘れ物をしたことに気付いて、自室に戻ってきていた。
もちろん個室ではないが、若様付きということで、デカおっぱいぱいせんと同室だ。
部屋割りを決めたのは若様だというのだから、おそらく密会のアリバイ作りをさせるのに便利だったり、密会場所そのものになっているときもあるのだろう。
・・・決して、ヤ◯部屋だなんて言ってはいけないわよね。
部屋に入ると、どういうわけか、デカおっぱいぱいせんが私服で荷造りをしていた。
けっこう大きいトランクを使っており、まるで、全ての私物を詰め込もうとしているようだ。
「え・・・その荷物は?」
「実はね、いきなりなんだけど実家・・・というか国に帰ることになったの」
そういえば昔に聞いたことがあったわね、実家の騎士の家が支えていた外国の貴族が没落したせいで、王国に来たとかなんとか。
そして同時に、先ほどまでの話に出ていた、不穏な未来予測のことが頭をよぎる。
「もしかして、誰かに何か言われたんですか?」
デカおっぱいぱいせんには、屋敷の中でもよくお世話になった。
家族というつながりではなかったが、寝食をともにして、温かみのある関係を、今世では初めて築いた人だ。可能な範囲であれば力になりたい。
若様のようなダイレクトな暴力&権力をもっているわけではないが、これでも、罠と銃と魔法を組み合わせれば、生身で熊を仕留めるくらいの戦闘力はあるんだから!
「あっ、違うのよ、マリエちゃん。若様には本当に何も関係ないの」
「ならどうして・・・」
「実は少し前から、人手が足りないから実家に戻ってきてほしいって言われてたのよ」
「若様には相談したんですか?」
「そんなことはできないわ。だって、私に求められていたのは、アンジェリカ様のためにって無理して大暴れした疲れとかダメージの癒しだもの」
無理して大暴れ、という点には疑問が大いに残るところだが、ぱいせんが若様に遠慮していることはわかる。
「でも若様なら、話せばきっと力になってくれますって!」
「そうね、きっと色々と手を回して私を助けようとしてくれると思う。将来の味方を敵に回したとしたって何とかしちゃうんじゃないかしら」
「足枷になりたくない、ってことですか。でも、先輩がいなくなったら、間違いなく若様は悲しみますよ」
私の言っていることは、理屈や道理から最も遠いところにある感情論だ。
間違いなく若様の婚姻には政治が絡むだろうことは、この屋敷で過ごすようになってまだ数年しか経っていない私にだってわかる。
「いい機会なのかも、って思うの。あの人の将来を考えれば、いつまでも、今みたいな状態ではいられないわ」
「お別れも言わないんですか?」
「若様の顔を見たら決心が鈍っちゃうもの。それに、最近はあまり体調が良くなくてね。熱っぽかったり、食べても気持ち悪くなって吐いちゃったりで、いずれにしても少しお休みしたほうがいいかなって」
ん?ちょっと待って!
前世の記憶というか経験からして、その症状に、いくばくかの心当たりがなくもないわよ!?
「・・・たまに酸っぱいものを無性に食べたくなったりしません?」
「あら、よくわかったわね。なんか味覚が変わっちゃったのかしら」
やべえぇぇぇぇぇ!!!
私の脳内で、前世のパトカーのサイレン音がけたたましく鳴り響く。
ついでに、何故か脳内で、柳◯慎吾がタバコの箱で擬似サイレン音を出す映像が再生されている。なんでこんな時に、こんなもんを思い出すわけ!?
ってかマズイわよ!前世の兄貴をブチ切れ一歩手前まで怒らせたくらいにはヤバいわ!
手遅れだったわ!お家騒動の種は既に発芽しちゃってるじゃないのぉぉ!!
ちょっと興奮し過ぎたわね。冷静になるのよ、私。
まずは、私の想像を先輩に告げるべきなのか、って話ね。
でも、ここで心配になるのが、さっきまで話していた隠し子が見つかったときのお家騒動の話よ。
確証があるわけではないし、告げたところで、事態が大きくなっても私みたいな小娘1人では大した力にはなれない。
告げるべきか、黙っておくべきか悩んでいたところで、ぱいせんがそっと私の背中に手を回し、抱きしめた。
か、顔が巨大な谷間に埋まる。
そして、柔らかくて、いい匂いがする。これがバブみってやつかしら。
少し息が苦しいけど、若様が夢中になるわけね。
「本当にありがとう、マリエちゃん。素敵な相手を見つけてね。機会があったら、アルゼルに遊びに来て、歓迎するわ」
え?アルゼル?
聞き覚えがあるわ。ってか、それって2作目の舞台になってる国じゃないの!
ちょっと新しい情報が多すぎて頭の処理が追いつかないんだけど!
呆然とする私に満面の笑みを浮かべて、デカおっぱいぱいせんが、トランクを手に取って部屋を出て行ってしまった。
私は一体どうすればいいのよぉぉぉ!!!!
というわけで本作マリエルート名物、本編でカットした裏設定をぶち込むの巻でした