ガルパンサウナ部   作:いのかしら

1 / 7
サウナサン行きてぇなぁ


潮騒の湯の裏技(冷泉麻子)

 

 

 

 

 

私が『それ』を知ったのは、親友が変な雑誌から影響を受けこっちに教えてくる、といういつもの流れだった

 

 

全くあの手の雑誌の何が面白いのか、親友とは付き合いが深いとは思うが、未だにわからない

その時の誘いも『デトックスになって美容にいい』だの『健康増進』だの、単にそれっぽいことを並べられただけだった

 

 

しかしこう誘われた時に下手に無碍にすると、向こうの機嫌を損ねることを知っている

幸い目的地が近場だったこともあり、嫌々ながらも行くことになった

 

あとその並べられた理由の中に、『良く眠れる』があったから、というのもあるな

 

 

 

 

 

 

いや、私もそのような場所があることは知っていた

大洗に住んでいる間も見たことがあったし、大洗で試合があった後は湯に浸かるのが、この戦車道チームのなんとなくの習わしだった

 

 

 

だからこそ、私はそこにあるサウナを知波単の人間が我慢比べで入るような部屋、だとしか思っていなかった

 

灼熱の蒸し暑い部屋。そこに入り続けるとか、苦行を楽しみたい一部の人間向けのものに違いない

 

そして同じ浴場内にある水風呂についても然り。特に冬場に水風呂に入っている人間は温度感覚がイカれているのではないか、と疑う

 

朝起きることをはじめとした辛いことはできれば避けたい、そんな自分の性分とは合わないだろうな

 

 

 

そう、思っていた

 

 

 

 

 

 

だからその時の自分を呼べたら、回数券と大小2枚のタオルを持って松林の下を歩く姿は奇怪に見えるだろうさ

 

 

 

こうして1人で行動する機会が増えたのは、3年になったから、そこもある

 

さおりは広報、五十鈴さんは会長、秋山さんは副会長、西住さんは隊長

あんこうチームの中で特段仕事がないのは、皮肉にも私だけだ

 

書類仕事が思ってる以上に苦手な西住さんの手伝いとかをすることもあるが、推薦で奨学金を貰える大学を選んだこともあって、基本暇だ

 

 

この趣味が戦車道と並んで珍しく続いているのも、一人で動かなきゃいけない時間があるのもある。単に気に入ってる、ってところもあるが

あとさおりが結構すぐこれに飽きたこともだな

 

 

 

 

 

そこには歩いて向かう。港からは少し遠いが、歩けない距離ではない。他の移動手段もあるにはあるが、高校生にはどれも高額だ

 

学園艦が大洗に寄港し、平日かつ戦車道の練習が休みの時しか行けないから貴重とはいえ、その機会が来たら逃さないようにしたいのだ

カネがないから行けない、とは言えないのだ

 

 

海岸の大通りから1本中の道に入り、雑草の生えた広場を左手に、民宿や海の家を右手に進む

暑すぎず寒すぎず、良い天気が私の足取りを早める

 

そこから大通りが自分の前に覆い被さろうとする中で、自分は右に逸れていく

 

少し進んだところの橋の下をくぐり抜けると、左手に現れるのが目的地だ

 

 

 

 

 

『潮騒の湯』

 

 

 

 

 

広々とした駐車場の奥に見える緑と黄色い屋根の建物。それが目的地だ

 

 

平日午後のこの時間だ、流石に車も少ない。ということは、浴場にも人が少ないということ

 

こちらとしてはありがたい限りだ

 

 

 

 

その少ない車の前を通り過ぎ、『潮騒の湯は太古の海からの贈りもの』の看板をくぐると、窓越しの開けた海が目に入る

 

だが入口でそればかり目を取られるわけにもいかない。左手の近いところの靴箱に脱いだ靴をしまい、反対側の受付へ向かう

 

「入浴ですか?」

 

「あ、回数券ですね。タオルはお持ちですか?」

 

「持ってる」

 

「かしこまりました。鍵と交換しますので、こちらの番号札をチェックアウト時までお持ちください。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 

 

少し大きめの木札をカバンにしまう

土産を過ぎ、給水機で一杯だけ水を飲み干してから奥へと進む

ゲーム機を過ぎてカーペットの敷かれた通路を奥へと進んでいくと、男女別の入口がある

 

100円玉を忘れていると、脱衣室のロッカーが開かないのは要注意だな

 

突然行こうと思うと、こういうの忘れがちになる

 

 

 

ミニタオル片手に入る浴場には、青白いタイルが貼られている

思った通りこちらにはほとんど客の姿はない。炭酸泉に1人ご老人が浸かってるくらいか

 

シャワーで全身を洗い流し、入口から左奥のジェットバイブラ風呂に浸かることにする。湯船のさらに奥側ではバイブラがボコボコと泡を立てている

 

その泡の中にまずは向かった

 

 

 

バイブラがある風呂は、湯の温度を普段以上に感じやすい。特にここの温泉が塩分が多く保温機能が高いせいもあり、身体はすぐにあったまってくる

 

あったまってきたら、今度は入口近くの炭酸泉に入る。こちらはさっきほど熱くなく、ぬるい

 

そこで少し落ち着かせてから、二重の扉を抜けて露天風呂だ

 

 

露天風呂は湯船に入ると、海側に立てられている竹の柵で海があまり良く見えなくなってしまう

ただ出入り口側で立って上から目を向ければ、砂浜に海、その向こうの防波堤まで見えてくる

今の時期でも平日じゃそんなに海水浴客はいないか。波の様子くらいはわかる

 

こちらでも少し高めの縁にタオルを置いて、ゆったり肩まで沈むことにした

 

茶色がかった湯が身体を覆う。足を湯船の中でピンと伸ばす

肌からじんわりと、そして体の奥までゆったりとあったまっていく

 

 

 

 

 

タオルで身体を拭き、上がる。ここからが本題だ

 

炭酸泉と出入り口の間、脱衣室から入ってすぐ右のところ、そこから少し奥に入ったところに、金属の重い扉が控える

 

それを引くと、中から熱気が迫ってくる。中には誰もいないが、癖で早めに扉を引いて閉める

 

 

サウナの中は手前にヒーター、入口右側から奥にかけて2段座れる場所が用意されている。人数の上限は上5、下4の9人くらいだ

だが今は幸い誰もいない。1人でこの空間を楽しむとしよう

 

 

こういう時に私が陣取るのは、扉から一番離れたところの2段目だ。ここは時計も温度計も見えず、扉しか見えない立地だ

なんとなく針が動くものを見ていると、気が散ってくるのでよくない

 

 

ここのサウナマットは施設の方が定期的に取り替えるシステムだ。その分他の人が座ってた場所に連続して座る、ってこともある(数敗)

濡れてたら基本汗だから、人の汗に触れるのは避けたいよな

 

幸い今日はそういうこともないようだ

 

 

 

 

サウナの中は85〜90度。結構熱い部類だと思うが、違うのか?

ここのサウナは鼻呼吸してても鼻が痛くならないから、じっくりあったまるまでサウナの中にいられるのがありがたい

 

 

時間は見ない。時間よりも自分の感覚の方を優先する

 

時折ミニタオルで汗を拭きながら、汗の出方を見る。汗の出方がなんとなく悪くなったら、そろそろ出た方がいい

 

あとサウナは部屋の上が熱く、下は冷たくなっているから、吸った息を足に少々吐きつけると、足もあったまって全身のバランスが取れる、とここ最近気づいた

 

 

誰も来ない。あのご老人はサウナが趣味ではないようだ

 

そしてサウナ内には何もなく、あるのはピアノのクラシックの演奏のみ。音色が暗めだ

 

そのお陰でこのサウナ内で、私は無心で時が過ぎるのを待てる

 

 

 

 

 

タイミングを見て外に出る。水風船は炭酸泉を横切った向こうにある

腰を下ろし、全身に水をかけて汗を流しながら、その中へ

 

最初の時はあまりに冷たくて入れたものでもなかったが、今では幾分慣れてきた。このくらい入るのには躊躇しない

 

腰くらいまでの深さはある。腰を下ろすと、首下までは簡単に沈む。冷たさはあるが、そこまででもない

 

しばらくすると冷たさが薄れ、ぬるく感じるようになる。だがこの後の工程的にも今日の気分的にも、しっかりと体は冷やしておきたい

 

 

 

ぶるっ

 

 

水風呂の中で身体を震わすとぬるさが取れ、また冷たさが戻ってくる

 

 

ぶるっ

 

 

それをまたもう一度くらい繰り返す頃になると、手のひらに吐き出した息が冷たく感じられるようになる。このくらいになったら出どきだ

 

 

 

 

向かうのは外、シャワーを浴びる人はぼちぼち増えてきたが、露天の方にも人はほぼいない

 

そしてお目当てはそこにあった

 

入口横右側の柱脇に置かれた黒い椅子。これが座りたい椅子だ

 

他に同じ形の椅子は3つ、さらにベンチもあるが、やはりここが一番いい

 

 

 

露天風呂の湯船から水を汲み、椅子にかける。意外とこの時手すり部分にかけるかどうかで、満足度に大きく差が出たりする

 

というのも、この椅子に座り、頭を椅子の後ろの柱につけ、手すりに両腕を置き、身体の力を抜いていくからだ

 

足も半ば投げ出し、目を閉じてその時を待つ

 

 

 

 

 

『ととのい』の時を

 

 

 

 

 

 

 

大きな拍動が、身体全身に響く

 

 

その響きに乗せられ、身体が頭から足の軸を中心に、右方向に捻り出すような錯覚に襲われる

 

 

そしてそれは足が持ち上がるかのような形で、身体全体が鉄棒で逆上がりするかのように、グルングルンと回転していくような感覚になる

 

 

と同時に、身体全体が、特に消化器官のあたりから、すーっとなんとも言えぬ幸福感に包まれる

 

 

海風に吹かれると、また身体は火照りが抜け、どんどん軽くなっていくような錯覚に陥る

 

 

 

 

そんな感覚がしばらく続き、やっと回転が収まってくる

 

消化器官の清涼感もその頃には収まってくる

 

その頃に目を開けると、茶色い露天風呂の屋根

多少首を起こして、少しばかり水平線を覗ける

 

 

 

その後もしばらく動悸が治るのを待って、椅子にしっかり湯をかけてから、露天風呂に浸かる

こうして身体をあっためてから、あと2回これを繰り返すのだ

 

 

とはいえここからは夕方になり人も増える。サウナ内の場所も椅子も思い通りには行かないかもだが

 

ただサウナ内で喋り出すオバチャンは許しちゃいけない

 

 

 

 

 

 

結局ハイレベルの整いは、その時しか味わえなかった。しょうがない

 

最後にバイブラで体温を整えて風呂を出る。ミニタオルであらかじめ拭き、出入り口の足元のタオルの上に少し水滴を落としてから、上がってバスタオルでよく拭う

 

サウナで肌の調子が良くなっているからかはわからないが、意外とミニタオルだけでも結構水は落ちなくなっている

 

 

そこからまた服を着て、髪の毛を乾かす。ちゃんとドライヤーも設置されてる

そしたら100円玉をしっかり回収し、忘れ物のないようにしてから撤収だ

 

出てすぐのごろ寝処で休んでもいいのだが、少し眠ってしまいそうでもあるし、今だからこそ行くべきところがある

 

 

私は元来た道を戻り、窓際に展開されたレストランの座席のうち、畳が敷かれたスペースの窓際の一角に座った

 

頼むものは決まっている。すぐに卓上のインターホンで店員さんを呼ぶ

 

 

「ご注文は?」

 

「ベイクドチーズケーキ2つ」

 

「チーズケーキ、えー2つで。札はお持ちですか?」

 

女性の店員は見せた札の番号を確認すると、奥へと戻っていった

 

 

 

流石に時間は夕方。海を見渡せるこの席からの景色も、だいぶ赤く染まってきている

 

人もほぼ引き上げてるようで、繁忙期は車がある程度並んでいる目の前の駐車場にも、ほぼ車はない

 

ボケーっと窓の外をゆっくり眺めるまもなく、注文の品は席に届けられた

 

 

フォークで横のビニールを剥がしていく

 

 

あまい

うまい

 

うまい

まろやか

あまい

 

おいしい

 

おいしかった

 

もういっこ

 

 

 

 

 

あまい

 

あまい

 

クリーミー

 

おいしい

 

おいしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「700円になります」

 

「ん」

 

「丁度ありがとうございます。靴の鍵をお返しします。本日はどうもありがとうございました」

 

 

黄色い靴の鍵を受け取り、靴を履いて外に出る

 

外はもう暗くなってきている。夜遅く、もっと暗い時間に帰るのは流石に嫌だ

 

私は気分良く、足早にそこを離れた。またここに来ることを誓って

 

 

 

 

 

 

そういえば、さおりが最初私に声をかけてきた時に、こんなことも誘い文句だった気がする

 

 

『サウナ入るとリラックスできて、メンタルも前向きになれるんだってさ』

 

 

それを聞いた時にはそんなになれるものかと疑い気味に見ていた私だが、あながち嘘でもないと思う

 

 

 

 

私は夜早く寝るのが嫌いだった。寝て次の日起きるのが、その時何が起こるかわからないのが、ずっと怖かったのだ

 

 

だから私は起きていた。次の日どうなろうと起きていた

起きていれば何も起こらないと確認できるから

 

 

だが同時に次の日さおりに叩き起こされる時、自己管理ができてない自分に自己嫌悪した

 

 

 

 

それが高校3年になってさおりが来る前に起きられる機会が増えたのは、恐らくサウナのお陰の部分がある

 

サウナの後の夜は、あっという間に寝られる。そして早く起きられる

だから次の日に朝練とかいう畜生の行いをされる時にサウナに行っておくと、実は効果が高かったりする

 

 

一度起きられると、多少なりとも自信が付く。それを何度もやれば、思っているより前向きになれる

 

 

 

生きていて『なんとなくいいな』と思えるのは、戦車道とサウナの支えあってのことかもしれない

 

 

 

潮騒の湯

 

http://www.siosai.jp/index.html

 




【ミカさんの一言サウナ】

『サウナ』

やぁ、こんにちは。今回はサウナそのものを紹介しろ、と言われたけど、大雑把すぎるから気軽に話すよ

サウナも種類が多いけど、基本的には蒸気で高温にした部屋、またはその部屋で入浴すること、を指してるかな

発祥はフィンランド、とされてるけど、日本でも結構昔から『蒸し風呂』として利用されていたんだ。仏教とともに大陸から伝来したと言われているね

今でも残っている古い蒸し風呂で思い浮かぶのは、香川県の『塚原のから風呂』かな
行基の手で奈良時代に作られたとされるこの蒸し風呂は、昔ながらのやり方で今でも利用することができるんだ

「あつい」はサウナの中が160度を超えたりするから玄人にしかオススメしないけど、「ぬるい」ならまだ気軽に利用できるよ

この施設設置約1300年と歴史的価値が高いんだけど、コロナ禍もあってだいぶ経営が苦境に陥っているらしいんだ。香川県に行ったら是非利用して欲しいな

塚原のから風呂

https://karaburo0.webnode.jp/

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。