転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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・彼には表情はなかった
・言動はとてもユーモアにあふれていた
・老若男女問わない美人好きだった
・毒物に異常な情熱を注いでいた

そして何より、とても友人思いでいい奴だった。

セブルス・スネイプという人物を人々は自由人と例えた。彼がその生涯を、愛と笑いと勢いで過酷な人生を走り抜けるハートフルなお話。





【第一章】あの頃、私は若かった
生まれた時から死亡フラグ


「座右の銘は?」と聞かれたら「人生皆一度きり」。良いことも悪いことも、楽しいことも苦労も恥も誉も「それもまた経験」。

 

できれば人のためにもなり、でも自分をないがしろにはせず、「雨ニモマケズー」と続くなんとやらが精神的スタイルとか何とか。

 

そんな長生きしそうなメンタルにもかかわらず、お肌の曲がり角を迎える前に人生終了の時を迎えたようだ。

 

この日は月1度の習慣にしていた献血帰りで、体調には気を付けないといけないことは分かってた。駅のプラットフォームの目の前で人が落ち、正しくない判断にも関わらずとっさに助けに行ってしまい、自分が貧血で逃げ遅れてしまった。

 

あ、後始末ってすごく大変なのに…

最後に思ったのはなぜかそんなことであった。

 

 

 

 

神教徒のくせに生まれ変わって早数年。生まれ変わりが赤子の時からというのはなかなかハードじゃないだろうか。誕生の時から意識がありそこから記憶が続いている私にとって、一番つらい経験はまさにその誕生だった。

 

泣かないと呼吸できないというのをまさか大人の意識で体験する羽目になるとは。新たな明るい人生で真っ先に経験するのが一歩間違えれば窒息死なのである。あれって実はバンジージャンプ並みに荒いイニシエーションじゃないですかね。

 

そんな、『こんにちは人生』の一場面を思い出してみているのだけど、私の本体は今、暗い部屋の隅で縮こまって泣いている。その前では女性が男性に怒鳴られたり殴られたりしている。もちろんそれは両親で…………

 

そう、目の前に繰り広げられているのはドメスティックバイオレンス。 ちょっと悲しい現状の原因解析をしているうちに数奇な自分の運命を振り返ってしまっていた。

 

理不尽な理由付けをして母親を怒鳴り暴力を奮う父親。子供の時間感覚は大人のそれより長すぎて、うんざりするぐらいゆっくりと事細かに見せつけられる。父がようやくそれに飽きたのだろう。安い酒を喉に流して二階の寝室に上がった。

 

音が遠ざかったのを確認してから“僕”は意図的に自身を客観視していた意識を自分自身へともどす。頭を上げると目に残った涙のせいで視界が滲んでいた。

 

うわぁ、しょっぱい…。顔から腕まで涙でベタベタだ。

「うげぇ」と思いながら袖で顔を拭う。早いうちに顔も洗わないとホクロが出来てしまうだろう。幼児が気にするにはげんなりする内容だ。

 

ふと、横を見ると母親がまだ床に臥せて泣いていた。足音を立てずに近寄り、そっと顔を覗き込む。

 

「ママ、大丈夫…?」

 

顔を上げた母親。その顔は涙に濡れ、未だに恐怖が張り付いていた。でも、彼女は心配顔の我が子を見て、気丈にも優しげな微笑みを浮かべる。

 

「優しい子ね………」

 

そう言って母親はゆっくりと腕を伸ばし、僕を抱き締めた。

 

「ありがとう、セブルス………」

 

力が篭っているが、けっして乱暴ではなく優しげな腕。自分には見えないようにしていたが、母親がまた涙を流していたことには、もちろん気付いていた。

 

 

 

というわけで、そういうことなんです。簡単な話、生まれ変わったらセブルス・スネイプでした。

 

美味しいような、不味いような…。個人的にかなり不運だと思っている。だって、確実にハードモードな二周目人生じゃないか、これは。こんにちは理不尽。

 

この二回目人生が誰のものかに気付いた時の僕のこの何とも言えない心境が分かるだろうか。死線を乗り越え新世界にコンニチハした途端に短命フラグ。波乱万丈待ったなし!

 

赤子ながらにして人生の終わりを悟り、寝返りもできない年から膝から崩れてうなだれたい気分である。これはもう、誕生後即座に立ち上がって天を指さしたというお釈迦様の真逆の存在ではなかろうか。『天上天下唯我独尊』の代わりになるセリフは四年ぐらい検討中でいまだ決まらない。

 

 

さて、──定期的な現実逃避の投げやり思考はこれくらいにしておこう。一応今の僕は現実を生きている。

 

 

バスルームの洗面台で涙に濡れた顔を洗う。ついでに頭も洗うとだいぶスッキリした。ハリー・ポッターは原作を完結まで読んでいるし映画もチェックしている。あのとっても黒い陰険薬学教授が恵まれない家庭環境ってことはもちろん知っていた。

 

体験したけどホントへこむよコレ。一度は経験値があるからやっていけるけど本人はかなり辛いだろう。やっぱり子供には家庭環境って大切だと思うわけだ。

 

タオルを洗濯籠に投げ込んで欠伸をする。とっくに幼児は寝る時間になっていた。寂しい寝床に向かいながら僕はこれからの事を考える。

 

何年も待ち、やっと人間としてそれなりに成長してきた。歩けるようになり、しゃべれるようになり、手もそれなりに自由に動くようになってきた。ただしまだ文字は書けないし、残念ながら魔法の才能は片手の年から自分で操れるほどではないらしい。

 

それに前世の記憶がある分、かなり強みになっている。『時は偉大なる教師だ』とはよく言ったものだ。ただ、続く言葉は『しかし生徒を皆殺しにしてしまう』だったけど。何とも物騒な教師がいたものだ。職業が立派でも本人が立派とは限らない良い例じゃないか。

 

時なる教師は確かに物騒だが、知恵があるのは確かだろう。この人生で今、僕がやりたいことは一応、家庭環境改善であった。これから大人しくホグワーツまでこんな環境なんて想像するだけで嫌になる。メンタル大事。めちゃくちゃ大事。

 

それに子どもだからこその強みがあることも知っている。

 

「まずは、文字を読めるようにならないと」

 

調べるべきはイギリスの少年法は刑事責任下限年齢。なんだって子供の心は清らかで美しいものだからである。大人の考えでは。

 

──そしてこれが、この僕、セブルス・スネイプ四歳の、自身のスリザリン適性を最初に自覚した瞬間である。

 

 

 

さて、それからさらに三年。ネームドセブルス・スネイプも七歳になった。

3年も経ったのなら家庭は良くなったか?と聞かれば実は全く進展していない。学校にも通うようになって、欲しい知識はある程度得られるようになったけど子どもはやっぱり非力だということを痛感していた。

 

それに、DVの解決は難しく何年も続くことは珍しくない。加害者は勿論、被害者は解決行動に出ることが精神的に妨げられるし、家庭という閉鎖空間に他者が関与することは滅多にないようだ。近所連中も、いくら仲がよくても助けてくれやしないんだ。気付かない筈が無いのに。

 

そんなこと知識と経験で嫌なほど知っているからこの3年間慎重に考えながらコツコツ努力することに徹している。

 

僕がやりたいのは父親の排除じゃなくて温かな家庭を作ること。やっぱり子供には両親が必要だ。下手に動いて家庭崩壊じゃ本末転倒。

 

そんな僕は今、リンゴ箱と紐とコロコロで作ったお手製の手押し車を引っ張りながら住宅地を闊歩している。理由は車の後ろに貼っている。

 

『広告配達・窓拭き・食器洗いその他家事など雑用お引き受けします! 』

 

この通り、地道に資金集め中。世の中所詮金なのさ。今は車に地域広告を入れて配達。すっかり慣れたルートをマイペースに歩きながら、指定の家のポストに突っ込んでいくお仕事だ。

 

「やぁ、セブルス!」

 

名前を呼ばれて振り返るとアジア系のおじさんがいた。最近庭掃除を引き受けたスズキさんだ。スズキさんは庭仕事云々のお礼を言って林檎を一つくれた。

 

いい人だ!と思いながら元気にお礼を言って手を振る。あの薬学教授が世渡り上手…と自分でおかしくなりながら林檎を車に入れた。ちょっと世渡り上手にし過ぎたけど。

 

「坊や、この間は芝刈りの手伝いありがとう!」

 

「またペンキ塗りヨロシクな!」

 

「家の子の子守をまた頼んでも良いかしら?」

 

「お、古着をさがしておいたけどいるかい?」

 

「ほら、こっちの桃も持っていきな!」

 

昔、カナダを映した番組で、通りすがりの少年が将来の為に取り敢えずお金を貯めようってこんなことをしているのを見て、いいなって思ったんだよね。僕はもともと家事とか雑用とか好きだったから結構楽しい。それに、かなり器用だったんだ。あちこちでいろんな仕事をしているからいつの間にかそんな僕は近所の人たちと顔なじみになっていてこうやっていろいろご好意を頂くようになっている。

 

なんだか変な方向に若さを使ってしまっているような気がするんだけど。まあ、子どもは心清らかなものだから問題ないはずだ。もし僕の心が汚れていたらこんなに桃をおいしく食べられるはずが無いからね!日本以外でもそうなのかは知らないけど、心に日本人が残っているからアリだろう。

 

 

リンゴ箱の車を引いて住宅街の坂を上る。公園が近づくと僕の担当の配達区域の最後に着く。今日の仕事もここまでだ。夏になるとやっぱり暑い。

 

配達先の家は見るからに中流階級。裕福な訳じゃないけど毎日の食事には困らない程度の家だろう。庭は見苦しく無いぐらいに整えられていて、まず土地がない我が家を思うとやっぱり羨ましい。ま、どうでもいいかと割り切って車から出した紙の束をもって家のポストに入れて回る。

 

はい、今日の仕事終了!さっさと帰ろうとしたとき、何かを踏んだ感触に足を上げる。白っぽい石には潰れた紫色の木の実らしきもの。よく見るとソレがアチコチに散らばっていた。

 

1つをそっとつまみ上げると、知っているものだった。と言うのも、僕は前世で一定の種類の植物には自分で言うのはアレかも知れないが、詳しい。本体があったら葉でも持って帰りたいなと辺りを見回すけど、見当たらない。

 

繁殖力が半端ないから撤去済みなのかもしれない。あまり他人の家にいすわるのも好ましくない。もう諦めて帰ろう。実際、あの声が無かったら帰っていたんだろう。

 

「できた!ブドウジュース~♪」

 

それを聞いた僕は真っ青になった。ある予感で慌てて声の方角に走る。家の裏に行くと予想通りの状態になっていた。

 

「こらぁー!何してるんだ!」

 

手を紫色にして、今にもコップの液体を飲もうとしていた女の子は驚いて僕に振り返った。足元にはやっぱりセイヨウヤマゴボウの房が転がっていた。

 

「貴方だれ?」

 

「誰でもいいだろ!それより、手に持ってる物を早く捨てなよ!」

 

女の子は少しムッとしたようだった。

 

「貴方に関係ないでしょ。ここは私の家よ。ママに言いつけるんだから!」

 

んん、上手く伝わらないぞ。とにもかくにも、先ずは僕も落ち着かないと。

 

「そのジュース、この実を使ったの?」

 

「そうよ。近くの空き地で見つけたの。おいしそうでしょ?ジュースにしてみたんだ」

 

誇らしげに言う女の子。

 

「……違うよ。」

 

僕の声はなぜか小さかった。

 

「葡萄じゃないんだ。それに、毒があるから食べられないよ」

 

「嘘よ!」

 

女の子は怒った顔をして家の中に走って行ってしまった。「ママー!」という声に、ギクリとする。

 

いいつけられる!親まで出てきて何か話し合いの雰囲気になるのはさすがに面倒だ。ヤマゴボウの房を掴んで早足で車の所に戻る。帰ろうとしたときに、女の子の母親らしい声が響いた。

 

『リリー!あなた何してるの!』

 

女の子の方が怒られていた。うん、そりゃあ怒るよね。大人からすると泥団子喰ってるみたいなものだろう。ビックリしているとバタバタと音がして女の人が出てきた。

 

「ああ、あなたね。リリーを止めてくれてありがとう。この子ったら考えなしで…。ほら、リリー!お礼を言いなさい。」

 

母親に肩を掴まれて出てきた女の子は悔しそうに僕を睨む。うーん。まあ、気持ちも分からないこともない。可哀想な女の子。ついでに、僕も可哀想なんだけど。

 

「ありがとう…」

 

小さな声で女の子は多分、感謝の念は籠って無いお礼を言った。「どういたしまして」と返事をして早く立ち去りたかった。

 

けれど、ちょっとこの時点で気になることが僕にはあった。──ここは家が近いしそこそこ余裕がありそうな住宅街。それに配達区域になっているから仕事場として考えた方がいい。でも、この女の子からの心証が悪いと働きづらくなるかもしれない。

 

僕が住んでいるところは治安も悪いし、地域の子供に嫌われて大人からの印象が悪くなったら困るかな──そう思ってその家のガレージにチラッと視線を向けた時、この状況を打開できそうないいものを見つけた。

 

「あの、よかったらあれ直しましょうか?修理道具も持ってますよ?」

 

そう言いながら、にっこりと笑ってそれを指さす。そこに会ったのは明らかに持て余しているように追いやられて置かれている、子供用の自転車だった。

 

 

 

 

…………。

ギギギギ…

パコ。

ミョーン

 

子供用の自転車の後輪からタイヤを外したところだった。苦し紛れだったけど、女の子のお母さんは僕の提案を受け入れてくれ、現在パンクの修理中だ。女の子が反省しきっていないから取り持とうとする気持ちもあったのかもしれない。

 

もう少しでこの区間での印象が悪くなる可能性があったけど、こうなったら僕の勝ちである。子どもが明るく礼儀正しく、丁寧に良い仕事を誠実にやると”優秀で良い子だ”と”まともな大人”は考えてくれる。これが僕の世渡り術の一つでもある。

 

半分まで外れたタイヤから丁寧にチューブを取り出す。実は空気が入っているのはこれだからパンク修理はこのチューブの穴をふさげばいい。チューブを取り出すために外したバルブ類をチューブにつけ直して空気を入れる。穴を探すためだ。

 

「本当に直せるの…?」

 

黒いゴムの塊を耳元に空気の出る音を探していた僕に突然声がかかる。振り返ると例の毒殺葡萄ジュースの女の子がいた。

 

「それ、私の自転車なの」

 

女の子はそう言って僕の傍に座った。僕が自転車を直すと言うと嬉しそうな顔をしていたのはそういうことだったみたいだ。僕が自転車を出してもらっている間、家に入り、また出てきたと思ったら庭でチラチラしていたのだけど話しかけることにしたらしい。こうやって歩み寄って来てくれた女の子を冷たくあしらうつもりはないからニコッと笑う。

 

「大丈夫だよ。直すの簡単だから。明日からまた乗れる」

 

僕が笑ったからだろう。女の子は少しほっとしたように微笑んで頷いた。作業をしている手では破損個所に爪で印をつけ、再びチューブの空気を抜く。

 

「僕、セブルス・スネイプ。君は?」

 

「リリー。リリー・エバンズよ」

 

聞いたことのある名前だな。当たり障りのない「かわいい名前だね。お花の名前だ」とか返しながら思案する。もちろん手は止めずに。

 

綺麗でまっすぐな赤毛、くりくりの大きな緑の目。よくよく見ればお世辞なしでかわいい顔をしている。男として、そんなことにすぐ気付かないのはどうなんだろうと考えながら、紙やすりで整えたチューブにゴムのりを付けた。これをやると二、三分は休憩だ。

 

「直ったの?」と興味しんしんのリリーに「のりが乾くまで待つんだよ」と教える。この先は細かい作業になるから左手の軍手を外して車の中に入れた。

 

「セブルスって器用なのね。私のパパは全然だめ。自分でやると他のものを壊すのよ」

 

「それはある意味凄い才能だよ」

 

「……ほめて無いでしょ」

 

「うん。でも感心はしてる」

 

僕たちは作業をしている間ずっとお喋りをしていた。

 

リリーは僕と同い年と言うこと。ペチュニアというお姉さんがいるということ。お姉さんは厳しくて、つい先日も鳥の巣を見ようと木に登ったら怒られたらしい。

 

僕もリンゴ箱で作った愛車を引いての出稼ぎや、空いた時間の過ごし方の話をした。いろんな家で手伝ってきた雑用や、独学の技術、やってしまった失敗話にリリーは表情をコロコロ変えた。思っていたより聞き上手な子だった。

 

そうやっている間に修理は終わった。リリーのお母さんはおやつに誘ってくれて、僕はありがたく手作りのチョコタルトをいただく。そのお礼に、自転車の修理代はいつもより安くしておいた。もちろん材料代は請求したよ。お菓子一袋ぐらいの値段だけどね。

 

僕はリリーと随分仲よくなっていた。帰り際にリリーは家の前の道路までは送って、手を振ってくれている。

 

「今度、一緒に遊びましょ」

 

「だから、また来てね」とにっこりと笑って言って、周囲に誰もいないか見回した。それから、僕にこっそりと耳打ちする。

 

「そのとき、私の秘密を教えてあげる」

 

夕焼けに染まる住宅街を歩きながら、僕はのんびりと車を引いていた。家に帰ればいつも通りのB級家庭崩壊に精神は妄想世界に引き籠る。いつもはそのネタを考えるのだけど、今日は新しい友達のことを思わずにいられない。

 

明るい性格の可愛い女の子、リリー・エバンズ。よくよく考えればスネイプ教授の初恋兼最愛の女性だ。僕がこの先恋愛感情を持つかは分からない。元々女だったから将来女性を愛せるかも分からない。

 

でも、彼女はこれからきっといい友人になるだろう。この時にはすでにそんな予感がしていたし、そうなりたいと思ってしまっていた。

 

でも、これって、うっかりと人生八十年の半分もない運命に近づいてしまったんだよな…

 

それを自覚して溜息をつく僕の長い影は、少し肩を落としているように見えたのだった。

 

 






完結に際し、全体の雰囲気に合わせて修正しました。
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