転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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児童文学では「大人は敵」がお約束

 

 

まったく、ハロウィーンは散々だった。

トロール騒ぎのせいで教員は駆り出され、ノックアウトされたトロールの処理に追われたのちは原因解明と職員会議。

 

よりによってリリーとジェームズの命日に面倒事を起してくれやがって。

 

真面目な私は自分に課せられた分の役割をさっさと終わらせ、何とか日付の変わる30分前には自室に戻ることができた。それから十一月に入るまでの時間はロウソクに火を灯して喪に服していた事になる。

 

月が変わり、やってくるのは私の嫌いな寒い季節である。イギリスの冬は早い。早くも霜が降りる風景を見て、毎年私は背筋を震わせる。だいたい寒すぎるだろう、地下牢。

 

それにしても酷いのは左腕の傷だった。ケルベロスの牙を食らった腕はざっくりと切り傷が出来ていた。しかも、それが古傷に重なってしまったために見るも無残な有様になっている。無理やりいい点を上げるとするならば、以前までは闇の印に数本傷が入っていたのだが、今回の傷と印の薄まりのせいで闇の帝王のマーキングが判別不可能になったことだろう。

つまるところ腕はずたずたになっていた。

 

夏のように傷が膿むことはないが、代わりに寒さが傷に響く。ただの傷ならば治癒魔法で簡単に治るはずなのだが、これはケルベロスの毒だろうか。なかなか普通の薬で傷が完治せず、止血と治癒を早める方法しか取れないようだ。とにかく痛い。やっぱり痛い。早く治すため、金曜の午後、仕事が終わると真っ先にスプラウト先生のところに薬草をもらいに行った。

 

温室に行くためには戸外に出ることになってそれが痛みには堪えたが、この際仕方がない。用件が終わると左腕が冷えないように右手で押さえて早足で城の中に戻る。

 

えぇぇー、ああー、もー。

 

中庭を通るとき、固まって座っている三人組を見てつい口の中で大きなため息が出た。手にしている青い表紙と金字の本には見覚えがあった。近づいてみるとその三人組がハリーたちだということが分かり、彼らに緊張した空気が走ったのでより気分が沈む。休憩中に、すみませんね。

 

 

「こんにちは。ところでミスター・ポッター、君が持っているものは?」

 

ハリーは困惑しながらも本を差し出した。受け取り、確認すると思った通り、図書館の蔵書だ。背中に冷たい汗が流れる。まさか、知らないのかこの子たちは?

 

別に規則に反しているというわけでもないのでどうしようかと迷ったが、ハリー、ロン、ハーマイオニーを順番に見て…私の悪い癖だがもうそこで面倒臭くなった。

 

「…図書館の本は戸外に持ち出し禁止だ。私が預かる」

 

「で、でも、スネイプ先生。そんな校則ありませんでした」

 

「その通りだ、ミス・グレンジャー。君の熱心さを賞してグリフィンドールに2点」

 

しっかり校則を暗記しているらしいハーマイオニーを加点評価し、私は平静を装ったまま言葉を続ける。

 

「だが、我が校の図書館司書がビブロフィリアなため、蔵書の扱いに煩い。詳しくは上級生にでも聞きなさい」

 

反論は認めない。というか、それどころではない。さっさと背を向けると、城に入るために足を速めた。

 

愚痴のようなものが聞こえてくるが、知ったことではない。うっかりこれを地面に落としてみろ。惨劇しか待ってないからな。マダム・ピンスの管理下で魔法をかけられた所蔵本がどれだけ厄介か。彼女にとって許しがたい扱いで汚そうものなら即呪いが発動して襲いかかってくるんだぞ、この学校の本。その例の1つが「室外で汚す」である。

 

片腕が大怪我をしているというのに爆弾まで抱えて戻ることになったのだ。これまで私が十数回殴られた具体例など説明する気にはさらさらなれなかった。

 

 

薬草を煮詰めて薬を作る。それができあがり、使えるようになったのは夜だった。お蔭で夕食は作業の合間、薬臭い中で取ることになってしまった。

 

使う分の薬をヘラでさらに盛り、清潔な包帯を準備する。一瞬、職員室にでも行って誰かに手伝って貰おうかと考えたがやめた。包帯は自分で巻くのがいちばんいい。

 

ローブを脱ぎ、細かいボタンを外して上着を脱ぐ。上は白シャツ一枚になり、それも左の袖のボタンを外して肩まで捲り上げた。包帯の結び目をナイフで切り、ゆっくりとはぎ取る。あーもう、畜生。本当に傷の治りが遅い。大分かさぶたにはなっているが、傷口の中央部はまだじんわりと血が滲んでいる。

 

ヘラで薬を塗り、軽く水分をとる。ガーゼなどは当てるほどではなかったためにそのまま包帯を巻くことにした。端を口でくわえて右手だけで巻いてゆく。最も苦労するのは巻き始めで、傷から包帯がずれないように注意を払う。作業中、扉をノックする音が聞こえたがそれどころでは無いので無視をした。

 

──またもや扉を叩く音。無視である。その対応の結果、勝手に扉が開けられた。

 

ガチャっという音に少なからず驚いて入り口を見れば、小さな影が隙間から覗き込んでいる。思いもよらぬ光景に相手も驚いたようだ。

 

「……何の用だ?」

 

視線を包帯に戻して、巻く作業に戻る。来訪者のせいで悠長にしているわけにもいかず、さっさと済ませる。それがまた思いの他うまくいった。

 

「あ、あの、本を返してもらえればと思って……」

 

「………」

 

タイミングの悪さについついため息が出た。巻き終わったところで包帯を切り、先を割いて結んだ。

 

先ほど没収した本を手に取り、扉に向かう。そこで立ち止まっているハリー・ポッターに本を返した。彼は戸惑った表情で私を見上げるが、その顔をしたかったのはどっちかというと包帯を変えているところで扉を開けられた私だ。

 

それにしてもこの間の悪さ…。ある意味おいしいのだろうが、これが主人公補正だろうか。正直面倒だな。

 

「せいぜい明日は気を付けることだ」

 

それだけを言い捨て、彼の鼻の先でバタンと扉を閉めた。

 

 

 

さて、国語の勉強をしようか。

“せいぜい”とは?“精一杯”、“できるだけ多く見積もって”という意味だ。

 

だから、これは決して私が悪い訳じゃない。確かにぶっきらぼうだが普通にクィディッチの初試合について「まあ、頑張れよ」と挨拶程度に軽く声をかけたつもりだった。私は悪役になった覚えはない!

 

腕の怪我をハリーに見られて、元々愛想ない私は不機嫌故に冷たいようなあしらい方をしてしまったのは前日。翌日である今日はクィディッチのグリフィンドールとスリザリン戦だった。それにともなって思い出したのは、試合の最中にハリー・ポッターって命狙われていたじゃーん!だ。

 

ということで、11月に入って最初の土曜日、私はとある理由により禁止されていたクィディッチの試合の観戦に赴いた。スリザリンのところでいるのがバレると後々物凄く怒られるため、人がよくて匿ってくれそうなハッフルパフの観戦席に紛れている。観戦席の上階席で、目立たない柱の影で望遠鏡片手に観戦。ストーカーじみている行動は気にしてはいけない。以後、暗黒の追跡者と呼んでくれたまえ。

 

本当のところは魔法をかけるクィリナス本人の邪魔をできるのが理想なのだがな。いかんせん、試合前に話しかければ私がいることが他の教員に知れてすぐに会場からつまみ出されてしまう。ダンブルドアに相談しようにも気づいたのが遅すぎて試合開始前にここに来るのが精一杯だった。なんで100年ぶりの一年生のクィディッチ選手の初試合を見に来てくれないのだ。忙しいのかな。ならば探しに行って時間をロスしなかったのは良かったかもしれん。

 

一応、観客席でクィリナスを見つけて近寄ってみようとも試みたのだが、人混みの中、しかも身を隠しながらではなかなか思うように移動が出来ず、結局はたどり着く前に周囲から悲鳴が上がり試合の方を見る。その動きで事態を察して、ほとんど反射的に杖を抜いて反対呪文を唱えた。

 

ここの記憶は映画で見たときのまさに「振り落とす」イメージで、現在私の目の前の状況もそんな感じなのだが、あれは原作スネイプ教授や私が反対呪文をかけたからということらしい。

 

クィリナスはハリーを箒ごと墜落させる気だった。

 

子ども相手になんということだ!!あの必死に唱えていた原作スネイプの姿はガチじゃないか。

 

こうなればもう周りからどう見えようが仕方がない。それでも声は出さないように、ハリーを凝視して反対呪文を唱え続ける。一度でもクィリナスの呪文を逃せば箒はすぐに地上めがけて猛スピードで突っ込んでいくだろう。

 

一体何分続いたのだろうか。ヴォルデモート、マジ許さんぞとの思いを固めながら額に青筋を浮かべて消耗戦をしていたところ、突然相手の魔法が消えてそれは終わった。私の魔法で箒は静止し、もともとチェックしていたクィリナスの席の周辺でなにか騒ぎが起こるのを確認でき、私の役目が終わったことを悟った。

 

まったく、くたくただ。疲れ切ってはいたがこのイベント、正直ローブが燃やされるのが嫌だったのだ。だから私はハリーにこれ以上の異変が起きないことは注意しつつも直ぐに立ち去ると決めていた。

 

ただ、つい途中明らかにこちらに向かってきているハーマイオニーを確認してしまっていた。それがまたいけなかった。私のところに来ているのだから私を見ていたのは当たり前だ。私たちはバッチリ目があってしまった。そして、去ろうとしていた私は、ハーマイオニーを見て踵を返したような振る舞いになったのだ。

 

明らかに怪しかった。

どうみても悪役だった。

 

 

…これが本日の私に起こった事である。

 

人がよくて正義感溢れて一生懸命に、友人たちの子どもであり教え子を守った私だというのになんという仕打ち。

 

「おい、ジェームズ。お前の息子どうにかしろ」

 

ハリポタ補正と、自覚ある自業自得のせいでどんどん私は悪役じみてきているぞ。

 

夜のすっかり暗くなった頃、私はジェームズの写真に文句を言いながら落書きをしていた。

 

 

 

ジェームズがすっかり大阪の食い倒れ人形になったころ、フクロウ便が一通届いた。

茶色の小柄な鳥は学内連絡用である。またなにか仕事かとげんなりしながら手紙を開けてみると、意外にもクィリナスからのもので、私を彼の部屋にお茶に誘うものだった。

 

すまんなジェームズ。テルジオで写真を元に戻すのはまた後だ。親友の面白写真をそのままに、私は迷わず同僚の部屋に向かうことを選んで今にいたる。

 

「こんな夜中にすまないね」

 

「いいや。呼んでくれて嬉しい。」

 

謝っていたクィリナスは「良かった」と言いながらも不安の混じる苦笑を浮かべた。

 

クィリナスの研究室には何度か足を運んだことはあったのだが、自室に来るのはこれが初めてである。なんというか…キャラづくりに徹底しすぎてはいないだろうか。部屋にはよくわからない魔法グッズや魔法植物の干からびたものなどがごろごろしていた。

 

ファウストに出てくる魔女の部屋はきっとこんな感じなんだろう。原作スネイプ先生にはとてもお似合いなレイアウトなのだが、なんというか、中世ヨーロッパなら一発で魔女狩りの対象ものだ。いや、魔法使いなんだが。

 

「せっかくだから聞きたいんだが、君はクィディッチの試合を見に行ったのか」

 

毒を盛られてもおかしくないような席につきながら私は尋ねる。クィリナスは危なっかしげに震える手でこれまた独特な紅茶缶を取り出して苦労しながら蓋を開けている。

 

「あ、ああ。も、もちろんだ」

 

ぱかっと蓋が開き、その勢いで茶葉が数枚飛び出た。今にも取り落としそうな手元がわざとと知っていても気になるな。私の生来の人の良さがめんどくさがりを超えそうだぞ。

 

「す、すごかった、よ。ポッターくんは、や、やっぱり、彼の、お父さん似だね」

 

「そうか。やはり見たかったな。皆がいい試合だったというから見れなかったのが惜しい」

 

どうせこちらから話さなくともクィディッチの試合の話が振られただろう。クィリナスが紅茶を入れながら聞きづらいながらも詳細を話してくれるのに相槌を返していた。彼は私が観戦していなかったものとして話し、私はその場にいなかったとして質問をする。彼の頭にくっついている闇の帝王は、一応死喰い人であった私に邪魔されてご立腹だろうな。このお呼び出しも楽しいお茶会ではなくて、そういう意味なのだろう。

 

白々しい会話もあったものだと、ようやく注がれた紅茶を飲むと、びっくりするほどまずかった。不意にクィリナスが口をつぐんだ理由が、もしやその不味さが私の鉄面に勝ったのかと思うほどだ。

 

「……セブルス、君は、ポッターの事をどう思っているんだ?」

 

お茶を吐き出すのを我慢してチラリと視線を向ける。やはり、私が邪魔をしたことに気づいているな。私の目つきが悪かったのか、クィリナスの肩がビクッと小さく跳ねた。

 

「す、すまない!いや、き、きみは、ほら、あの…」

 

「どうでもいい」

 

慌てるクィリナスに口の中のものを一気に飲み込んで手短に答える。ただ、短すぎた答えで余計に機嫌が悪そうにうつってしまったようだった。それはそれで好都合だ。

 

「ただの子供だろう。それに、私はダンブルドアが何を考えているかも興味ない」

 

クィリナスを一瞥すると、ぽかんとした顔をしていた。しかし、その目はよく見ると油断ない色をして私を睨んでいる。酷いギャップだ。

 

ああ、なるほど…聞きたいことがあるとか言ってたな。あれもそういうことだったのか。私はあえて、その顔を真っ直ぐにみる。以前のクィリナスならこんな質問の仕方などしなかっただろうに。まったく。

 

「リリーやジェームズと確かに仲はよかった。だが、ポッター夫婦は多くの人間に愛されているだろう。私の妻は私しか愛してやれない」

 

目の前の人間ではなく、その後頭部にくっついている人物に語った。

 

「私は愛妻家なんだ。妻を追い詰めた連中を決して赦さない」

 

この私に超真面目な返事をさせているのだからな、い ま に み て ろ !!

 

すっぱすぎる不味い紅茶を喉に流し、カップを置く。しかし、本当に不味かった。いったい何が入っていたのだろうか。まさか、この茶葉腐っていないよな?

 

「湿っぽい話をしてしまったな。すまない」

 

席を立ち、出された椅子を戻す。クィリナスだか中の人間だかの聞きたかった内容はこれで知れたはずだ。

 

「仕事が残っている事を思い出した。今日はこれで失礼する。お茶をありがとう」

 

部屋にあるごちゃごちゃしたものにぶつからないようにして扉に向かう。立ち去る前、ふと思い至って背後を振り返った。

 

突然の行動は私の普段の様子と変わりないのだが、クィリナスはあっけにとられたような表情をしていた。

 

「クィリナス。君は自分の能力を図るのは下手だが、いいやつだよ」

 

私はそれだけ言い残し、相手の反応を見ないままで 部屋を後にした。

 

 

…で本当に終わらせればよかったのだがな。

 

クィリナスの部屋を出た私は立ち止まり、ノンアクションでそのまま吐いた。

 

えずく暇もなく、ギリギリ服にはかからないようにと、体を折ったが、吐いた自分がびっくりするほど急だった。というかびっくりした。その衝動はすぐに収まり、よろよろと壁に手をついて体を支える。直後、すぐに数歩戻りズバーンと同僚の部屋の扉を開いた。

 

ひぃ!と彼の悲鳴が上がる。「クィリナス!」と名前を叫んで紅茶缶をもつ彼に詰め寄った。

 

「一体君は私に何を飲ませたんだ!?よかったらそれを分けてくれないか!?」

 

「え、え?…え?」

 

前半は勢いについてだろうが、後半は私の言葉の意味の前後が飲み込めずに戸惑ったようだった。

 

「その紅茶だ。なかなか珍しい味だ。だから気に入った」

 

ちなみに「なかなか珍しい味」の意味は『クッソ不味くて正直身の危険を感じるような味で、飲みきった私としてはこれから24時間以内に食中毒を起こしてもおかしくないと考えており、いますぐ速攻で自室に帰ってベゾアール石を飲みこみたい』ということなのだが、『だから気に入った』。

 

忘れるなかれ、私はあのジェームズと友人でしかも実父に毒草を食わせた奴だぞ。吐いた途端、一瞬殺される思いがしたが、次の瞬間にはどういうわけかものすごくテンションが上がったのだ。つまるところ私はクィリナスから出された紅茶を珍しい毒物と認識してしまっているのだがな。

 

クィリナスに頼み込んでいた私はその後また吐き気に襲われて彼の部屋の洗面台で存分に吐いた。おかしいな、我ながら気まずい別れ際になり、それも互いの立場からしたら仕方がないことだと思っていたはずだったが。

 

最終的には紅茶を缶ごと分けてもらい、私はとんでもない顔色ながらもものすごく機嫌よく、クィリナスはきょどりながらも戸惑いと申し訳なさと怯えを含んだ愛想笑いで挨拶をして別れた。

 

部屋に戻った私は当然、ベゾアール石の粉末をすぐに飲み、一晩は口の中にざらざらと砂が残る感じが残ってしまったのだが、機嫌自体は非常によかったといえる。

 

それで食い倒れ人形バージョンにされたジェームズはその日のうちに綺麗に元に戻されたのだった。

 

 

 

 

 

 

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