転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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名前付きのオリジナルキャラクターが新しく登場します




【第三章】変化への挑戦
幻の秘密の部屋の話


 

 

ロンドンのとある公園近くの路地。私は建物の壁に背をつけて人を待っていた。

 

もともとマグル社会出身だとしても、私は成人した魔法使いとしては珍しくマグルの格好をして普通に街に出掛けたりなどする。逆に言えば学校周辺にいる時以外はマグルの格好をしていることが多い。

 

そのためマグルの服を普通に着こなすことも慣れており、しかもホグワーツの基本的な寮監たちは年齢層が高いこともあって「今どき」の服選びには難儀しやすいことから、仕事でマグルの街に出向く場合には私に話が振られることも度々である。

 

普段ならばバスや列車、地下鉄を使うことが多いのだがな。今日は特別に別の手段が必要になっていた。街から離れる場合には箒に酔う体質が憎い。手元の地図を広げて眺め、ため息をついた。

 

路地に一台の車が入り顔を上げる。車は私のそばに止まると、運転手が前かがみになって窓から覗き込んで微笑んだ。助手席にはフクロウが1匹、カゴにも入れられずに居座っている。

 

別の手段、つまり車持ちのアッシー君と合流し、私はフクロウから助手席を強奪して座ったのだった。

 

 

 

小さな車の狭い助手席に足を折りたたむようにして座れば、座っているというよりも詰め込まれている感じだ。座席を下げられればいいのだが、残念ながら私の背後にはフクロウの籠がある。

 

乗車の快適さは安全のために運転席を優先にするべきで、私は文句も言わずに心境的には三角座りをさせられている気分で足を曲げ、その頂点になる二つの山を左右に行き来する茶色いフクロウを見ていた。

 

「今日は結構遠くまで行くんですねー」

 

ロンドンから郊外に出る道を進みながら運転手の青年が言った。

 

彼の名前はギル・ゲイルとしておこう。本名は知らん。マグルとして生きる魔法使いの彼は私の個人的な知り合いになるのだが、詳細についてはあとでまた説明するので割愛する。

 

「人里離れた場所を好んで住んでいる奴のところを訪ねているのでな」

 

「そうですかー。周りに人がいないなんて大変ですねー」

 

「近くにいる人間を傷つけてしまう体質でな。本当は仲間思いな性格なのに、人から離れなければならないのが哀れだ」

 

「一人は寂しいですもんねー」

 

この青年、見た目はイケメンなのだが話すと超ほんわか系マイペースで逆にテンションが固定されている。しかも語尾をよく伸ばす。

 

私が棒読み、ギルはローテンション。内容の割に会話の調子に重みは全くない。これでいいのだろうかと思っていると、ふと思い出したようにギルが言った。

 

「そういえばー、さっき『いかなる人もここに立ち入るべからず』と書かれた看板を見ましたよ~」

 

「……なぜ進んだ?」

 

「座って入ってはダメだと書いていませんでしたから~」

 

当たり前のようにこんな返事が返ってきた。

 

「…そもそも私たちは人ではなくて魔法使いだから問題ないか」

 

「そうですねー。ではのんびり行きましょう」

 

もしかしたら突っ込みが必要かもしれない。

 

不思議だな。出会ったばかりの彼は普通に感じのいい快活とした好青年だったはずなのだが、いつぞや魔法薬学を学びたいというので休暇中に預かってからなぜかこんな性格になった。

 

このあまりにも衝撃的な変化のために私は時々彼の方を真っ直ぐに見ることができなくなる。なに、どう見ても彼の性格は私に似たとも言えないだろう。ただ一点、「ボケ殺し」を発動してしまうところは既視感があるが、私はもう素知らぬふりを通している。

 

いや、本当に未来ある若者に謎の影響を与えてしまったとか思いたくないのだ、私は。

 

 

途中でフクロウを外に放し、それを追跡する。フクロウは私たちの車から遠くに行きすぎないように時々は木に止まってこちらを見ていた。そのようにしばらく走ったところで、古ぼけた小屋にフクロウが止まる。高原の中にあるので以前は羊飼いの土地だったのだろうか。

 

ブレーキ時には車がガタゴトと異音を立て、エンストを起こしそうにひやひやさせられた割には普通に止まった。私が視線を向けるとギルがこっちを振り返り、お互い顔を見合わせ、彼はそのままエンジンを切った。

 

ふーん。ド田舎のいい天気。空気がうまい。今にも崩れ落ちそうな小屋に進み、ノックをする。ダンダンダンダンダンと威圧感たっぷりに扉を叩いていると、反対側から気配がする。手を止めると、覚えのある声が聞こえた。

 

「どちら様でしょうか」

 

挨拶を言おうとしたのだが、つい反射的に声色を変えてしまった。

 

「役所の者です。こちらにお住まいになっているかたですか?」

 

悪戯に慣れているからか作り声がうまいと昔に言われたこともある。いけしゃあしゃあと言った私に扉の向こうからは緊張した声で「今開けます」と返ってきて鍵を外す音がした。数歩下がり、扉が開く瞬間、私は背を反らしてブリッジをした。目の前では、呪いの光線が走る。

 

「やぁ、リーマス。久しぶりだな」

 

「セブルスか!何をしてるんだ!?」

 

ひょいっと上半身を起こした私にリーマスが心底驚いた調子で言った。

 

そうだろうな。とうとう住処がマグルの役人に見つかってしまったから逃げねばなるまいと緊張して出てくれば、目の前にいたのは旧友だ。呪いがぶつかってしまったら大変な事になっていた。

 

リーマスは呆れた様子で私を見下ろし、杖をベルトに挟んだ。

 

「…君は、一回本当に呪いを喰らうべきだよ」

 

おっと、この旧友、実はけっこう怖かった。

 

彼はそのまま苦笑すると、中に入るように促す。そこで、外でフクロウと何かしらやり取りをしていたギルを呼びつける。

 

「ギル、紹介するからこっちへ」

 

ギルはは~いと締りのない返事をし、フクロウを飛ばしてから戻って来た。しばらくは放鳥するのだろうか。

 

「この顔に傷のある髭の生えたダンディーな人は私の同級生のリーマス・ルーピンだ。お父上が闇祓いで、彼も防衛術に優れている」

 

「わー、かっこいいですねー」

 

「リーマス、彼はギル。まあ…いろいろとマグルのことで調べていた中で知り合ってな。マグル育ちのハーフだ。マグルの優秀な大学に行っているが、私のところに魔法を学びに来ている。こんな感じだが、かなり出来は良いぞ」

 

「セブルス、失礼すぎやしないかい…?」

 

「よろしくお願いしまーす」とふわふわした口調でギルが言うのでリーマスは渇いた笑みを浮かべながら握手をする。その様子で「こんな感じ」の意味をリーマスは一発で理解したようだ。

 

「それにしてもセブルス、よく私がここにいると分かったね。まだ細かい住所を教えてなかっただろ?」

 

「梟の追跡能力と、ギルに手伝って貰ったのだ。梟たちは名前を知れば人物がどこにいるかが分かるらしいからな。近くまで来てあとは案内してもらった。あまり聞かない方法なのでうまくいくか半信半疑だったが…ギルが動物との意思疎通が得意で、できるであろうとのことだったので試してみたのだ」

 

私の幸運体質にも少々期待したのだがな。ただ、私自身には作用しないので、ギルはその受け皿にもなった形になる。リーマスは到着したのだからそうなのであろうと頷いた。

 

「とにかく、外で立ち話もなんだから中に入りなよ」

 

リーマスはそう声を掛けると、小屋の中へ通してくれた。

 

 

 

小屋の中はがらりとしていた。リーマスらしい質素な生活と言えば聞こえがいいかもしれないが、単純に生活が苦しいことと、定期的に住まいを換えなければいけないせいだろう。まったく、21世紀を目前にしたこの時代に難病理解がされていないとかどういうわけだ。

 

私は内心プンスカしながら、通されたソファーに座った。ギルは私以外の魔法使いの家に来ることは初めてのため、目をキラキラさせて自動で動く魔法道具に見入っている。

 

「紅茶と、一応君が訪ねてきたとき用のワインがあるんだけれど、どうする?」

 

「ブランデーコーヒーを」

 

「いつも通り、予想の斜め上をありがとう…」

 

この野郎。と言いたげな口調だが、顔は笑っている。ギルは「手伝いますよ」と言いながら駆けて行った。一人ぽつんとソファーに残されてしまったため、ソファーの背から身を乗り出して二人の方を向く。

 

「しかし、リーマス。まーた行先を告げずに仕事を辞めたらしいな。あちこちからできる奴が辞めたって嘆きを聞くぞ」

 

「そう言うなよ。仕方ないって君はわかってるんだろ?」

 

ははっと元気のない笑い声が返ってきた。その横でギルがコップを受け取りながらもシチュー鍋を掻き回していたお玉を珍しがっている。持ち手はススーッと逃げていたが、彼の反射神経を前にはなす術もなく捕えられた。

 

「そうだ、そのことについてなんだけれど…。セブルス、君の噂を最近よく聞くよ」

 

「だろうな」

 

リーマスに向けて、私は右手の親指をグッと上げた。

 

「この頃の私の活躍は目覚ましいぞ」

 

「私がよく引っ越すのは、君に追われているかららしいって話さ」

 

「なんと。ばれてしまっては仕方ない」

 

「セブルスさーん…」

 

名前を呼んできたギルは、どことなくしょんぼりとした顔をしていた。見た目は若いが20にもなった青年がそんな表情をするのだから、こっちも悲しくなってしまうではないか。

 

「ストーカーはダメですよー」

 

「男を追い回す趣味は無いぞ、ギル」

 

「はは、私ももっと本気で逃げないといけないな」

 

今度の笑い方は普通に楽しそうなものだった。友人の気が晴れた表情を見て、私はまあいいかと苦笑する。なんだって友達がいのあるやつだからな。しかし、リーマスの声色が真剣なものになった。

 

「なんでも、私が君の逆恨みを買ってしまったと言われている」

 

つられ、私も真剣な顔になる。

 

「なるほど、それは怖いな」

 

リーマスは険しい顔のまま、コーヒーメーカーをギルに渡し、私のところに来る。ギルはきょとんとして受け取って、手元を見て、普通に蓋をあけて覗き込んだ。そこでそういう行動になるのか。

 

なお、怖い顔をしたリーマスは傷と髭のせいでかなり威圧感あるんだよな、これ。さっきから一見リーマスを見ているようでギルを見ていた私は視界の端でそれを見ていた。

 

「セブルス、君といてわかったんだけどね。グリフィンドールもスリザリンも嘘に抵抗が無い。だが、私たちがお遊びで嘘をつく一方、君のものはいつもシリアスだ」

 

ギル、人様の家のケセランパセランを平手で捕まえようとしちゃダメだろ。というかそれはコーヒーメーカーから出て来たのか?

 

「それに、君がうまい嘘をつくときは大抵人のためだ」

 

どっか近くの箱にでも入れておいてあげなさい。リーマスには幸運は必要だ。

 

「そして、都合が悪くなると話を聞かなくなるところは変わらないな」

 

「いたいいたい。耳を引っ張るな。ああ、ギル、それはそれでいい。あまり触るんじゃないぞ」

 

ギルは「はーい」と元気のいい返事を返す。あのマグル世界の都市伝説のケセランパセランは多分滅多に開けられなさそうな空き缶の中にしまわれた。

 

しかし、少しは止めようとかしてほしいなー。これ、耳が結構痛いぞー。自分の家で幸運をもたらす謎の生物が発見されたことも知らず、リーマスはもういいだろうと手を緩める。それにしても彼、こんなことをする奴だったか?私の影響かとも考えられるが。

 

「好意を大人しく受けるのも礼儀だとは言うけれどね。セブルス、私は友人が私のために自分の悪評を広げてまわるなんてことはあってほしくない」

 

「それに君は…」と言いかけたのを遮った。目の前でしれっと珍しいものが発見されて格納されたので一瞬会話の内容が飛んでしまった。

 

「リーマス、勘違いをしているみたいだが…その噂で評判が下がっているのは私ではない、ジェームズだ」

 

「なんだって?」

 

「大体、その噂。どうして私が君を恨んでいるかということを知っているのか?」

 

リーマスは一瞬視線を壁にやった。やっぱり知らないらしい。

 

「君にとってタブーの話になるからと皆口を閉ざしたよ」

 

「それはそうだ。時間帯によって悪趣味なデザインに変わる下着の話だ。広げた奴の口なぞ、ハムを縛る糸で縫いつけてくれる」

 

憎々しげに言おうとしたはずなのに、いつもの淡々とした口調で言ってしまった。リーマスはハッとして片手で口を覆った。隠す一瞬前、明らかに口元が笑っていたぞ。

 

「………あれか」

 

「危うく離婚沙汰になりかけたあれだ。ジェームズの悪戯を知らずに君が渡して、私もプレゼントがリーマスからならと油断してしまった」

 

「あの話を広げているのか?」

 

「妻ももう死んだからな。自分で言えばただの笑い話だ」

 

「どんなものだったんですかー?」

 

「聞くな」

 

普通に興味を持って聞いてきたギルに、一言返した。図太い私でも、さすがにド天然に話す勇気はないのだ。リーマスはようやく顔から手を外した。

 

まあ、どんなデザインになるかというとだな…。どこかで西洋人が「痔」と書いたTシャツを着ていたものを見たことがあるが、それを何十倍も酷くしたものだ。ただし、主観は含む。

 

「とにかく、私は昔の懐かしい話をしているだけだ。リーマスが気にするようなことなぞ、一ミリほどしかない」

 

「まったく…、君はいつもこうだな」

 

彼もまたいつものように呆れた笑みを浮かべていた。やっぱりリーマスはこうでなくてはな。

 

「それより私は早くコーヒーを飲みたいかな」

 

「ああ、すぐに準備するよ」

 

「いま作ってますよー」

 

戻ろうとしたリーマスに、ギルがブンブンと手を振る。リーマスは正直意外そうな顔をしていた。ギルの自由すぎる行動を見ていてはしかない。だが、彼は本当にあれでかなり優秀だし、やることはきっちりやるタイプだ。

 

「あっちは問題なさそうだ。リーマス、話のついでに今日の用件に入ってもいいか?」

 

「…なんだい」

 

リーマスはソファーの背に手を置いて私を見下ろす。私もちゃんと椅子に座り直す。面と向って話しているわけではないが別に常に顔色を確かめる間柄でもないからいいだろう。

 

「君に作っている脱狼薬。これからは私だけじゃなくてギルにも作ってもらおうかと考えているが、大丈夫か?」

 

「薬のことは君に任せているから好きにしてくれて構わない。それにしても、どうして?」

 

「私に何かあったときのためだ。ギルなら、魔法界の人間と繋がりはないから話が漏れることもない。見ての通り偏見が無いから君の病気についても気にならない」

 

私の言い方にリーマスは訝しげな顔をした。私が作れなくなったら、それはそれで気にしないとか言うつもりなのだろうから、先手を打って、本題を投げ込む。

 

「ギルデロイもやめてしまったし、クィリナスも回復までまだかかるようだ。学年全体の防衛術の授業が遅れたせいで、ちゃんとした教員がすぐに必要でな。実は、ダンブルドアの推薦状を預かってきている」

 

ホグワーツの紋章がシーリングに使われた封筒をポケットから取り出し、リーマスに差し出した。ダンブルドアが何度も送っていたがリーマスが拒み続けていた手紙だ。

 

「頼む、リーマス。闇の魔術に対する防衛術の教師になってくれ」

 

 

 

 

…ふむ、すまない。もう何を言っているかお気づきであろうが…。これから語るのは『秘密の部屋』の話ではない。

 

『アズカバンの囚人』巻の話となる。

 

なぜこうなってしまったかというと、簡単な話、去年の私の出番はほぼなかったのだ。

 

納得をしてもらうためにも、私のうろ覚えの原作第2巻の「スネイプ先生」の登場シーンを説明させてくれ。

 

その1

空飛ぶ車でホグワーツに到着したハリーとロンを探し出し、退学をちらつかせて怖がらせる。

 

その2

秘密の部屋が開かれたとき、居合わせたハリーたちを庇ったと思いきや、疑わしいと指摘する。

 

その3

ロックハートとの模擬試合に超不機嫌に参加する。

 

その4

ハーマイオニーに授業中爆破事件を起こされる。

 

他にまったく思い出せんし、私自身特別なことをした覚えがない。むしろ原作より出番は減ったのではないだろうか。

 

前年度の賢者の石で後手後手になったこともあり、可能であれば対応したかったのだが、秘密の部屋事件はサドンデスのバジリスクがラスボスだ。ジニーやトラブルに手を出して、死者ゼロという原作の超幸運続きから外れることの方が恐ろしかった。

 

ただ、原作と違うところで言っておくべきことは、闇の魔術に対する防衛術の教員に着任していたギルデロイが、実は学生時代に私のお気に入りの後輩の一人だったということだろう。

 

ぶっ飛んだ考えの、おバカ美少年だったんだぞ。嫌う要素がどこにある。バレンタインデーの日は昔から何かしらをやらかすし、むしろおもしろすぎてお近づきになったぞ。

 

レイブンクローということもあって本来はそれなりに頭がいい。学年が離れていたのではっきりは分からないが、あのむら気にも関わらず中の上あたりでなかっただろうか。才能の有無はベストセラーを何冊もたたき出すことと、詐欺師活動から見ても分かるだろう。

 

そんなわけで一年間はギルデロイのセリフを煽ったり流したり押したりしながら遊んでいたが、秘密の部屋解放の事件でてんやわんやあった結果、奴の杖腕がダメになった。

 

教員を退くことになったギルデロイは左手で魔法を使うリハビリをしながら、偉人伝をまとめているのではないのだろうか。文才があるのだから冒険家は涙の引退をして、評論や紹介方面で権威にでもなったらどうだ、と提案してみたところ意外に乗り気になってくれた。彼は褒めながらだめだしすると伸びるタイプだ。

 

以上、私の去年の思い出である。

というか、ギルデロイの近況報告だな、これは。

 

まあ、私がやったことといえば、ギルデロイからハリーとロンが彼の詐欺活動を知ったことに対する記憶を消して原作に沿いながらも彼の正気を守ったことと、雄鶏を一年間は部屋で飼ったのちにハグリッドにくれてやったことだろう。

 

 

 

 

「やあ、リーマス~。よくきてくれたな」

 

職場に到着した友人に対し私は両手を広げて歓迎した。リーマスは相変わらずな私のテンションに苦笑を浮かべる。

 

「歓迎してくれてありがとう。それにしても、動作は楽しげなのにもう少し表情がどうにかならないかな?」

 

「なんと。こんなに満面の笑みを浮かべているというのに」

 

「まさか。それはむしろ無表情のお手本だよ」

 

結構ひどいことを言われているような気がしないでもないが、ある意味いつも通りだ。会話をしながら、私はリーマスを促して部屋へと案内をする。

 

リーマスは原作ではくたびれた服装の人間として書かれているが、ここではそれほど酷くはない。原作のリーマス・ルーピンは仲のいい友人すべてを失ってしまっているからな。精神的にも参っているのではないだろうか。

 

とにかく、こちらのリーマスは私と交流があるためかもう少し全体的にマシだ。お互いの立場についても上手く使っており、脱狼薬の長期被検体という魔法薬学の分野で非常に重要な役割も請け負ってもらい、研究費から謝礼も出している。今の私の実験が上手く進みこのまま続ければ、私は人狼病の薬学の権威になれるぞ。

 

「しかし、リーマス。何も生徒たちと列車で来ることもなかっただろうに」

 

方法が腐るほどあるというのに、なぜか、最も魔法を使わない手段を使った友人に語りかける。

 

「ちょっと準備のためにダイアゴン横丁によりたかったんだ。キングス・クロス駅ならそれほど遠くないと思ってね」

 

「……正直、ロンドンの街を舐めていただろう」

 

「ご明察。意外と駅に行くまでに苦労したよ」

 

リーマスは認めて肩をすくめた。

 

「けれど、そのまま列車に乗っておいて正解だった。ディメンターがまさかあそこにまで来るなんて」

 

「そう、それだ」

 

ディメンターの話題に、私はリーマスにズビシっと先を曲げた人差し指を向けた。リーマスは一瞬ビクッとしたが、慣れたことなのですぐに平常に戻る。

 

「ディメンターが取り囲む城だぞ。ここは一体どこのアズカバンだ」

 

「君が説明すると、まさにひどい状況になってしまうね」

 

「私が嫌いなものが何かといわれれば、ディメンターがその一つだからな。見るだけで血が煮えくり返るからやつらの影響をまったく受けないほどだ」

 

プンスカしながら足元に絡みつくローブを払う。最近少し怒りっぽくなったのは年のせいだろうか。

 

ディメンターの話題はその原因が話しにくいためにそこまでになる。奴らが列車に出た理由のシリウスの話になるのが自然であったのだろうが。しかし、いずれシリウスのことは無視できない話題となる。今はよしておこう。

 

部屋に着いたので、預かっていた鍵で扉を開け、それをリーマスに渡す。私が不機嫌になったせいで、彼は少々やりにくいような顔をしていた。この表情はいつも通りのはずだが。

 

「では、リーマス。新年会でまた会おう」

 

自分では微笑んでいるつもりの表情を浮かべ、声も何とか柔らかくすることに気をつけてリーマスに手を差し出す。

 

「君と一緒に仕事ができるようになってうれしい。これからよろしく頼むぞ、ルーピン先生」

 

ふっと笑い、リーマスは荷物を持ち替えて私の手を握った。

 

「こちらこそ。よろしくお願いします、スネイプ先生」

 

目を合わせてうなずき、同じタイミングでパッと手を離す。部屋に入るのを見届けて、私は一足先に大広間へと向かったのだった。

 

 

 





『秘密の部屋』の出番があまりにも少なくて本編として書けなかったため、こちらは後に番外編として掲載予定です。
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