転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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欺き騙すがスリザリンの流儀

日刊予言者新聞 創刊記念連載 名著特別連載第四回

 

第二章 シリウス・ブラック

前章では魔法界における重大な事件を扱い、大筋を確認した。その内容は隠居をしているようなよっぽど世情に疎い者を除き多くの魔法使いにとって一般的に知られた出来事である。

 

本書の目的は、一般的な魔法界の善良なる市民達の知るところとなった事件の詳細を語る事である。私は語ることのできる者の一人として、この歴史的な境界線を本書に記す事とした。そして、第一に取り上げるにふさわしい人物こそ、最強最悪の殺人鬼と呼ばれ、今やもっとも勇気ある魔法使いの一人とされるシリウス・ブラックである。

 

この不幸な行き違いにより囚人となっていた英雄が、なぜ難攻不落と言われたアズカバンから逃れることができたのか?ブラックの脱獄が世間に知れ渡ったとき、人々はブラックが力ある闇の魔法使いだと信じ、震えあがった。疑いが晴れた現在となっても、ブラックの脱獄は闇の魔法によるものだと主張する者も多い。しかし、本書が出版されることでそのような馬鹿な事を口走る者はいなくなるに違いない。彼がアズカバンから逃れることができたのは、彼の正義感の強さと幸運の連続によるものである。

 

ブラック本人は、自らがアズカバンの独房で完全に正気を失うことが無かった理由を、無実の罪で収監されていたことに対する強い怒りによるものだと語っている。ディメンターは人々の幸福な感情を奪い、恐怖や痛みのような感情を増幅させて餌とする恐るべき怪物である。通常であれば幸福感の喪失で絶望にさいなまれ、精神的にも牢獄に囚われるが、ブラックの強い正義感から沸き上がる憤りは彼の精神を10年という長い年月の間守っていた。

 

とはいえ、アズカバンの環境は彼を疲弊させた。かろうじて正気を保っていたブラックを奮起させたのは監獄に視察に訪れたコーネリウス・ファッジである。

 

ファッジは長期間監獄にいたブラックがまともに会話をできる状態を維持していたことに驚嘆した。さらに、我らが愛すべき魔法大臣は囚人を哀れに思い、気晴らしに自分が持っていた新聞を彼に渡したのである。この時、新聞一つがまさか魔法界の歴史を変える鍵になるなどと誰が思うであろうか。

 

ブラックは魔法大臣から受け取った新聞から、ある一家が宝くじに当選したということを目にした。記事には、その家族の当選金の用途と、一家の子どもたちがホグワーツに通っているという情報が書かれていた。信じ難いことに、その珍しくもない事実がシリウス・ブラックを突き動かしたのだ。

 

イギリス魔法使いたちにとってホグワーツという響きが特別であることは言うまでもない。ブラックは自身の若い頃の記憶が呼び起こされると同時に、ホグワーツのダンブルドアに自分の知ることを話さなければならないという使命感が沸き起こった。

 

脱獄の詳細についてブラックは覚えていないと語っている。長年投獄されていたブラックは檻をすり抜けられるほどに痩せ細っていた。おそらく、その身で牢を抜け出してきたのだと本人は語っている。

 

闇の魔術に対する防衛術を専門とする著者は、この時のブラックをこう考察している。長年の監獄生活と、急激な感情の変化により、脱獄時のブラックは一種特殊な精神状態にあったのである。

 

ディメンターは目が見えず、彼らの餌である人間を、人間特有の複雑な感情と思考を読み取って認識している。そのため、ディメンターは複雑な思考を持たない動物等に対しては認識が出来ないという弱点がある。とある記録によれば、猟犬を連れた魔法使いがディメンターに出くわしたとき、犬たちがディメンターに襲い掛かり見事に撃退したというのだ。

 

その様子は、まるでディメンターが盲者のように困惑して怯んでいたとまで書かれていた。

 

自分でも気づかぬまま衝動的に脱獄にでたブラックの行動には計画性や考えなどなかった。人間の強みである思考を一時的に失っていた状態は、この時の犬のようにディメンターにとって認識不可能であったと推測できる。

 

そうして、ブラックは気がつけば自由の身となり、長い旅を経てホグワーツ城へ辿り着いたのである。

 

ブラックの話はここまでとし、次の人物へ話題を変えるべき頃合いとなった。

 

ホグワーツに辿り着いたシリウス・ブラックはまたもや幸運に恵まれていた。学生時代からの旧友であり、闇の魔術に対する防衛術の教職についていたリーマス・ルーピン、その授業の前任者としてルーピン教授と頻繁に連絡を取り合っていた著者と奇跡的に出会うことができたのだから。

 

『いかにして闇の帝王は倒されたのか』

ギルデロイ・ロックハート著 

 

 

 

ついに、無い頭を使わねばならない時が来たのかもしれない。

 

シリウスにああ言った手前、さすがにこれからの事を考えなければいけない。これまでは原作の流れに身を任せて来たことも多かったが、さすがに今回はそうはいかない。殺人犯のピーターが生徒のペットに紛れて入り込んでいると聞いてから放置して五月まで待っているなんて正直頭おかしい。

 

それにしても積極的に動かなければならないのか。何度も言ってきたように、私はリスクを嫌う性格なのだ。流れを知っている癖に、あまりにも積極性のないさまは原作のセブルス・スネイプが見たらきっと、激おこものだ。名簿帳で頭を叩くのだけは勘弁願いたい。

 

「授業終了だ。各自薬と宿題を提出していくこと」

 

終業のベルを聞きながら生徒達に指示を出す。静まり返っていた教室が一転、がやがやと騒がしくなる。

 

「ジョージ、今日の授業のネタ使えるな」

 

「ああ、あのシリーズにぴったりだ」

 

薬瓶を二人並んで持ってきたのは双子のウィーズリー。本日の制作内容は、失敗すると笑いがとまらなくなる元気になる薬だぞ。一体何に使うつもりだ。

 

「でもなぁ、やっぱり問題は材料か…」

 

「売上をみると、来月じゃないと難しい」

 

基本的には聞かぬふりだ。個人的には生徒の頑張りは応援してあげたいのだが、彼らのやることにあまりにも関わってしまうと私の教師人生が非常に不味い。来月の売り上げが良ければいいな、と聞かぬふりをしていたが、ふと良いことを思いついた。

 

「ウィーズリーツインズ。少し頼みがあるのだが、かまわないだろうか」

 

「スネイプ先生、これから夕食の時間ですよ」

 

「俺達のような若者にとって、食事は何事にも代えがたい儀式なのです」

 

「そうか。バイコーンの角の粉末の余りなどがあったのだが…」

 

「お手伝いします」

 

「それはもう、なんなりと」

 

「それはありがたい」

 

フム、いい子たちだな。ちょっとしたやり取りがあったが2人は快く受け入れてくれた。優しい生徒に恵まれて先生は嬉しいぞ。

 

他の生徒たちが教室から出て行ったので、提出された薬瓶のケースを持って研究室に移動する。その間、後ろでツインズは新たな材料から何を作るのかをコソコソ相談している。私は何も聞いていないのであしからず。

 

「さて、本題に入ろうか」

 

研究室に入ってテーブルにケースをおくと、私は彼らを振り返った。気のせいだろうか。一瞬彼らの目が後ろの材料に向いていたのだが。気のせいだろうな、今は折り目正しく気を付けの姿勢で待っているし。

 

「改めて頼むが、実は君たちに預けている地図を、学校の警備のために一度私に渡して貰えないか?」

 

私の提案に、ツインズは一瞬驚いた顔をし、互いの顔を見合わせた。

 

「スネイクの裏切りだ!」

 

「おい、その呼び方はやめろ」

 

恐らくフレッドが言ったセリフに、私は間髪入れずに反応した。

 

「前に話し合ったじゃないか、ミスター・スネイク。これだけは絶対に教師が持っていてはダメだって!」

 

「ああ、話した。だからスネイクをやめろと言っている。お前たちまでそのくだらないネタを引っ張る気か」

 

「ネタはつまらなくても貴方の反応は面白いんだ」

 

自覚はある。だが生徒とはいえスネイク呼びは許さんぞ。いや逆に生徒が教師をそんな風に呼ぶ方が問題ではないのか?しかし、あまりにもネタを引っ張ってしまえばさらに遊ばれてしまうだろう。幸い顔に出ないのでまったく気にしないさまを装う。

 

「とりあえず、本題に戻ろうか」

 

「あ、その話なら」

 

「べつにいいですよ」

 

本題…に入る前に即答だった。

 

「そうか、いいのか」

 

「はい、元々スネイプ先生のものでしたし」

 

「そうだな」

 

「……………」

 

「……………」

 

即答されたのに即答で返したのだがなぜか無言。間が持たなくなってきたと思いつつも待っていると、双子が激しく頭を振った。

 

「軽すぎる!これじゃあボケ殺しじゃないですか!」

 

「もう少し驚くとかしてくださいよ!」

 

「何を言う。私は教師だぞ。生徒との会話で取り乱してどうする」

 

さっきのスネイク呼ばわりの仕返しも兼ねてさらっと言ってやる。相談が終わったようなので、材料棚から約束の物を探す。バイコーンの角だったな、確か。

 

「約束のお礼だ」

 

角の粉末のオマケにドラゴンの血液も瓶に入れて渡す。二人はまだ不服そうだが受け取った。そして、ジョージが鞄をごそごそとあさり古びた羊皮紙を取り出す。かつてジェームズ達が使っていた忍びの地図である。

 

ツインズが私のことを急に蛇呼ばわりしてきたのはこれの話題になったからだ。学生時代、ジェームズ達が完成した地図にサインをしていた時、どういったわけか私も声を掛けられた。手伝いはしたがどうせ自分は使う予定は無いからと断っていたのだ。しかし四人に食い下がられたのが面倒になって適当にあしらっていたら「ミスター・スネイク」になっていた。誰かが提案して、ジョン・スミスのように使い捨てのつもりで一秒も考えずにそのまま書いた名前である。

 

双子は私がこのミスター・スネイクであることを知っている。私たちの卒業後、地図はジェームズの元にあった。しかし私がホグワーツで教師になる際に彼から預かり、数年前に双子のウィーズリーがフィルチの部屋から脱走したのを見かけて譲渡した。もちろん。これは原作から外れた事象を元に戻したくてやったことだ。去年、一昨年のようにとてつもなく活用したい期間もあったのだが、どこか原作からは読み取れなかった部分で利用されていたのではないかと思うと手を出せなかった。

 

「俺たちはスネイプ先生を信用しているからこれを渡すんです。上手く使ってくださいよ」

 

「それと、クリスマスの日にはハリーに渡してあげて下さい。俺たちはもうなくても大丈夫ですから」

 

「あのマグルの家族のせいで、せっかくのイベントにもホグズミードに出られないなんて酷い話ですからね!」

 

いい子たちだ。これがどれほど便利か知っていて、まだ学生生活も三年近く残っているのだぞ。寮の後輩にそう善意だけで譲渡できるようなものではない。

 

「分かった。必ずそうしよう」

 

答えてから「二点ずつ加点しておこうか?」と彼らの良心を評して聞いてみた。返って来たのは元気いっぱいの「なんか違うのでいりません」という彼ららしい返事であった。

 

 

 

「さて、ワームテール。心の準備はいいか?」

 

地図を双子から受け取って数日後。私は瓶の中のネズミにそう問いかけていた。

 

 

 

 

「すまないリーマス、いま、大丈夫か?」

 

「やあ、セブルス」

 

午後の授業が終わり夕食までの時間。部屋を訪ねた私をにこやかに迎えてくれたリーマスに「少し話したいことがあってな」と言って後ろ手で扉を閉めた。

 

おそらくそれまで宿題を見ていたであろうリーマスは立ち上がり、お茶を用意してくれようとしたが、それは断った。

 

「ありがたいが、君があのクッキーのことを忘れてくれるまでは簡単には受け取れん」

 

「忘れかけていたのを、今、君が丁寧に思い出させてくれたよ」

 

いつもの人が良さそうな表情の割には、なぜか怒りが読み取れる雰囲気を醸し出せるとは器用だな。おお、と私が冗談っぽく圧倒されているとリーマスは苦笑した。

 

「冗談だよ。それよりもどうしたんだい?」

 

穏やかな様子で聞かれ、これからする質問に申し訳無くなりながらも、私は普通の声色を心がける。

 

「本当は以前から聞いてみたかったのだ。リーマス、君はシリウスのことをどう思っている?」

 

途端、リーマスの表情から親しみやすさが消えた。難しげに眉を顰め、苦笑しながら座る。今度の笑みは本当に苦々しげだ。

 

「今になってその話をするのかい?」

 

「今だからと言えるのではないか?」

 

言い返してやると深くためいきをついた。その視線は斜め下に向けられているが、どこかもっと遠くを見ているかのようである。

 

「…できれば、忘れておきたかったね。あの時はいつ、誰の身に何が起きるかわからなかった。まさか、あんなことになるなんて…」

 

「あの時、私たちは一度に4人もの友人を失った。残ったのはこの二人だけだ」

 

「我ながら、不思議な組みあわせだよ」

 

「そうか?私たちは監督生コンビだったではないか?」

 

「普通、グリフィンドールとスリザリンの同性の監督生は仲が悪いよ」

 

「なんと」

 

小意地悪い返しだ。彼が女性だったらとんでもない小悪魔になっていたのではないだろうか。

 

「あの時、私と君は騎士団たちから多少は疑われていたのかもしれないね。おそらくそのせいでジェームズたちの渦中から取り残されてしまった。二人が死んで、ピーターがシリウスを追いかけて…残ったシリウスも裁判もなしに投獄されたから、なんであんなことをしたのか結局わからずじまいになってしまった…」

 

「やはり、君もシリウスのことが気にかかるのだな?」

 

「……どうしたんだい、セブルス?」

 

私の問いかけにリーマスが眉を寄せて険しい顔をした。やや食い気味になってしまったか。「いや」と言葉を濁す。

 

「シリウスがホグワーツにいるのなら、私たちにはあの時のことを彼から聞き出す絶好の機会ではないか?」

 

「…セブルス、一体何を考えているんだ?」

 

「いいか、リーマス。先にシリウス・ブラックが他に捕らえられてみろ。奴はすぐにディメンターに引き渡される。そうすればもう二度と当人から話を聞くことなんてできないぞ」

 

ずいっとリーマスに顔を近づけて言ってのける。私の珍しい様子に彼は怯んだようだった。私自身、まるで原作のスネイプ先生のような振る舞いだ。

 

「まさか、君はシリウス・ブラックを自分で捕まえるつもりなのか?」

 

リーマスは顔をしかめ「バカなことを」と口走った。

 

「君だって、追いかけたピーターがどうなったか知っているだろ?あいつは友達だった人間を指一本の肉片に吹き飛ばしたんだぞ!しかも、ピーターを!ホグワーツで何年もずっと一緒に過ごした仲間だったのに。それに、先日だって侵入した時にあんなに世話になった『太ったレディ』の肖像画を切り刻んでいる。まともじゃないんだ。とても話ができるとは思えない」

 

一気に言ったリーマスがため息をつく。

 

「君が真実を知りたいという気持ちはわかる。でも私たちがすべきことはジェームズとリリーの友達として、そしてホグワーツの教員としてハリーや他の生徒たちを守ることだろう?」

 

リーマスの説得を聞きながら、私は一瞬、彼の部屋の時計を見た。

 

「……そうか。君の考えはよくわかった」

 

私の予想では、もともとグリフィンドール気質のリーマスならもっと乗り気で「二人でシリウスを捕まえて真実を聞き出そう!」的なノリになると思っていたのだがな。そして私はそんな会話に繋ぎたかった。グリフィンドールではない私では勇敢さと良識のバランスをはかり違えたか。

 

それに、彼は恐らく私のことをすごく心配して、無茶して身を滅ぼさないようにと警告してくれているのだろう。そのシリウス・ブラック、実は私が匿っている。

 

「リーマス。私が今日君に声をかけたのは、一箇所だけ、一緒にシリウスの捜索に赴いて欲しいところがあったからだ」

 

ため息をつき、リーマスを見すえた。話をするにはもう時間がないようだ。すまないな、リーマス。私はこれでもスリザリンなのだ。目的のためなら、どんな非道徳的なことであっても平気でする。

 

この程度の提案であればリーマスも受け入れてくれた。もしかすれば叫びの屋敷の件は彼も薄々気になっていたのかもしれない。彼が来なければ私が一人で行くと言うと、仕方が無さそうについてきてくれたのだ。

 

私とリーマスは叫びの屋敷の一階にいた。二人揃って杖先に灯をともし、息を殺して周囲を見回す。リーマスは緊張に表情を硬くし、私は変わることのない表情に自分の感情を隠して真剣なそぶりをする。彼が二階への階段へと進もうとした時、ついに潮時だと判断した。「リーマス!!」と友人の名前を叫び、彼の襟首を掴んでそのまま階段を駆け上る。

 

リーマスが驚きと困惑混じりの声で私の名を呼ぶが、構わず階段を登りきり、ドアを一つ開けるとその中に彼を投げ込んだ。

 

「セブルス!」

 

部屋の中から聞こえた声は当然、もう一人の友人のものだ。シリウス・ブラックは突然部屋に駆け込んできた私と、投げ込まれたリーマスを見て驚愕の表情を浮かべる。

 

それはリーマスも同じで、ここしばらく指名手配でしか見ていなかったシリウスの顔を見てとっさに杖を取り出す。それで身の危険を感じた為だろう。シリウスもすぐにナイフに飛びついて警戒態勢をとった。

 

一触即発の状態にもかかわらず彼らが警戒のみで止まったのは状況を確認したいがために私に注目したからだ。彼らの間で私はいつもの無表情を浮かべ、どちらに向けるともなく杖を取り出していた。

 

 

「どういうつもりだ、セブルス!!」

「どういうことなんだ、セブルス!!」

 

シリウスとリーマスが同時に叫ぶ。そのガチで焦って驚いた二人の顔を見て、私が思い出したのはダイ・ハードⅠでビルから落下するハンス・グルーバーの表情だった。確か、演じたスネイプ教授役で有名な某俳優は「3・2・1」で落とされる打ち合わせだったにも関わらず、「2」で落とされたらしい。それであの表情である。

 

そんなわけで、私は事前に考えていた「二人が取り乱してしまったときにどう振る舞えばいいか」という案をすべて捨てた。面白かったといえば身もふたもないが、双方が私に怒っていればそれでいいような気がした。

 

まあ、何をしてこの状況になっているのかというと、事前の連絡なしでリーマスとシリウスを鉢合せてみた。…いや、一応言っておこう。リーマスには説明しようとしたが、どうにもうまく丸め込める気がせずに断念したと言った方が正しい。シリウスには余計な不安を掛けるぐらいなら別に話しておかなくともいいかと思っていたのだ。リーマスに話をつけておけば必要もない。できなくてこうなっているのだが。

 

とにかく、経過はこういうことだ。

 

実は瓶入りの鼠をマントに隠すようにして肩から下げている。もちろんこの鼠はピーター・ペティグリューだ。先日、双子のウィーズリーから地図を返してもらった私はどうやって彼を捕らえるのかを考え、割とすぐにいい方法を思いついた。屋敷しもべ妖精のドビーに頼んでみたのである。

 

この夏、私はマルフォイ家から自由になった屋敷しもべ妖精に手紙を出してホグワーツで雇うために呼び戻しておいたのだ。いや、彼がいればブラックの騒ぎでどんな反応をするかと思ってな。残念ながら彼はハリーとの約束をちゃんと守ってまだ口を引き縛って黙認していたようだったけれども。

 

そんなドビーに私は先日の地図と昔の新聞を持って行った。そして、両方に記載される名前が同じものであることを示し、「ロンと一緒にいるこの鼠がもしこの記事の死人と同じなら、本当の殺人鬼は彼かも知れない。ならばハリーが危険だ」「だから、私のところにこっそり連れてきてほしい」とお願いしたところ簡単に手に入った。

 

ドビーには後日何か服をプレゼントしてやらねばならないな。子鬼用の靴とかならサイズもぴったりだろう。せっかくの衣服好きなのだからオシャレだってさせてみたい。

 

そして現在、シリウスにはアポを取らず、リーマスには無茶をしようとする私を追わせる形でシリウスの潜む叫びの屋敷に連れ出し、下手に動くよりも…と先ほどの通り部屋に投げ込んで今に至る。

 

 

 

「なんだ?旧友に会えてうれしくないのか?」

 

あえて、どちらにとっても敵に見えるように煽ってみた。そんな私を前に二人は修羅場だ。互いに杖とナイフを向けてお互いの動きを伺いつつ、私に向かって焦りと恐怖と怒りと失望とドン引きを混ぜた表情でこちらを見ていた。何を考えているのか手に取るように分かるな。

 

「君はいったい…」

 

「いいぞ、二人とも。そのまま心のままに私を罵るんだ!」

 

困惑するリーマスと態度をひっくり返す私を見て、シリウスが先に状況を把握した。驚きの表情でリーマスを見て、なまはげの顔を私に向けた。

 

「この、馬鹿スネイク!!」

 

怒鳴りながらナイフを床に向かって投げつける。ナイス角度。トンッという音がして、刃先数センチが床に刺さってナイフは自立した。

 

「お前は一体何を考えているんだ!私たちをからかってそんなに楽しいのか!?さっさとお前も杖を捨てろ!!」

 

ガチ切れされた。だろうな。わかる。

 

さすがにこのままでは怖いので、杖から手を離してみせる。シリウスが状況を判断してくれたのでもう大丈夫だろう。一応言っておくが、私は無表情しかできないのでいつも通りである。

 

一見真剣な表情で文句も言わず、私がちゃんとするべきことをしたからだろう。シリウスがまだ睨みながらだが、ため息をついた。ある程度怒りが収まって落ち着いた顔だ。なまはげは秋田県の山奥に帰ったようだな。

 

私はリーマスに振り向いて頷いた。

 

「リーマス、君はそのまま杖を持っていてくれ。すぐに私たちを信用しろとは言わない」

 

「…当然、説明をしてくれるんだろうな、セブルス」

 

リーマスはまったく警戒を崩さずに聞いてきた。が、先ほどの私のおふざけの上にシリウスから激怒されていたのを見たからだろう。困惑をしているし、どこか緊張が緩い。

 

「そうだな…。実は、あの時の裏切りはシリウスじゃなかった。その証拠が手に入ったから、リーマス、君をここに連れてきたんだ」

 

「どういうことなんだ、セブルス?」

 

「本当か、セブルス!それなら…っ」

 

「シリウス、君は両手を開いてこっちを向いたまま壁際まで歩いて座るんだ。座ったら両手を前の床についてくれ」

 

「………」

 

シリウスは黙って私に言われたとおりにした。理由まで言わなくていい相手って楽だな。私はリーマスからシリウスが良く見えるように立ち、例の瓶をローブの奥から取り出した。

 

「リーマス。突然驚かせるようなことをして済まない。この私のやり方は多分間違っているのだろう。お説教は後で受けるから、急ぎ、これを見てもらえるか?」

 

「それは、…まさか!」

 

「そんなバカな」と呟きながらリーマスは瓶の中身を見て私に近づいた。そこで、ハッとして足を止める。

 

「…セブルス、できれば瓶を私に貸してくれないか」

 

ちらちらと瓶と私を見ながらの言葉。私に対してまだ警戒を解くことができないということを濁してくれているのだが、気付きつつ首を振る。

 

「残念ながら、できない。私が持ち上げる」

 

そして、リーマスが見やすいように私は瓶を高く上げた。リーマスは瓶越しに私たちを確認しながらも、瓶の中の鼠をよく見た。鼠はできるだけリーマスから隠れようと私の方に来て丸まっているのだが、ペットを見間違えないのと同じように、私達にはその見覚えのある彼の正体がよくわかる。

 

リーマスは確認を終えたのか、数歩下がって私たちを見比べる。そして、再び私がしっかりと抱え直した瓶を見た。冷静さを装っているが、動揺が隠しきれていない。しかし、頭がいい彼ならばこれが意味することがもうわかっているだろう。

 

「もし、それが本当なら…。セブルス、その鼠を元に戻してみてくれ」

 

「そうだ、セブルス。私たちの前にあいつを出すんだ。話を聞きたい」

 

「まあ、まて、二人とも。焦るな。まだ、役者がそろっていない」

 

2人にそう言いながら、杖を…とるのはまだ早いか。やめておいた。近くに立てかけてあった箒の柄を握り、先を踏んで外す。空気抵抗は無い方がいいからな。右手で瓶を抱えたままで左手で軽く素振りをし、シリウスに向かって先を向けて見下ろす。

 

「『追い詰めだぞブラック!お前の悪運もここまでだ!!』」

 

叫びながら私は…上手く笑えていたらいいな。とりあえず口元は笑っているつもりにした。突然のことに二人とも驚いていたが、私はまだ言葉を続けながら、ペイッと棒を明後日の方向に投げる。瓶も一度マントの中に戻した。シリウスには背を向け、入り口に向かう。

 

「『お前への恨み、忘れはしないぞ!!ディメンターに渡してやるものか!お前だけは私の手で殺してやる!!切り刻んだって足りはしないぞ!!お前は昔、私の……私の……』」

 

…口上の長さは足りたようだ。取っ手に手を掛け、何を言ってやろうかと悩み最後の言葉を叫んだ。

 

「お取り寄せ日本のお菓子セットをほとんど喰いつくしやがったからな!!!!」

 

同時に扉を開き、現れた空間に向かって手を伸ばした。手に布が触れる感覚がする。よかった。予定していた通りとなっていたらしい。それを思いっきり引っ張り、後ろに投げる。

 

「さて、これで全員そろったな」

 

ハリー、ロン、ハーマイオニー。マントを突然引かれたせいで転げそうになった三人全員を抱えながら、私は機嫌よく言ったのだった。

 

 

 

「このっっ!!バカスネイク!!」

 

今度はリーマスにガチで怒られた。

 

それにしても、怒りで”バカ”と罵られるのは仕方ないにしても、なんでシリウスといい、リーマスといい、人をスネイク呼ばわりするんだろうか。気持ちは分かるのであえて突っ込まんが。

 

「私たちをおちょくるだけじゃなくて、子どもたちまで巻き込むだなんて!!一体君は何を考えているんだ!!」

 

「あの三人は無関係じゃない。勝手に私達で事を進めることが彼らには無神経じゃないか?」

 

「それならそれでもう少し配慮をすればどうなんだ!」

 

「一応、万が一の時のために準備もしてるんだが…」

 

「スネイプ先生、ルーピン先生!!」

 

リーマスに弁明しようとしていたところをハーマイオニーに呼ばれてそっちを見る。彼女は恐怖と必死さで鬼気迫る表情になっていた。

 

「シリウス・ブラックがいるんですよ!?」

 

そこでリーマスと私は一旦顔を見合わせてしまった。うむ。何も知らない彼女たちからすればそうだよな。指をさされたシリウスはなんかびっくりした時の犬みたいな顔をしている。

 

「すまない、まずは君たちに説明すべきだったな。実は、ブラックが死喰い人だというのは冤罪だ」

 

「え!?」

 

今度は驚いたのはハリーだ。それはそうだろう。この夏から、シリウスはずっと自分を狙っていると言われ続けていたのだから。なるほど、これでは言葉で言うだけでは説得できないかも知れないな。

 

「だってシリウス・ブラックは凶悪犯で…」

 

やはり難しいか。ロンが動揺し、ハーマイオニーも怯えていたために私は早口でシリウスに告げる。

 

「そう言うわけでシリウス。自分が悪意なき善人だと示すためにそこで腕立て伏せ50回ぐらいやっていてくれないか」

 

「なぜそうなる!?」

 

いいツッコミだ、よくやった。

 

「今とっさに考えて、一番マシなものがこれだったからだ。ちなみに、次に考えたのはロープでぐるぐる巻きにして天井から吊り下げてやるから『生まれ変わったらミトコンドリアになりたい』と呟いて危険性の無さを前面に出してもらおうかと思ったが……」

 

「わざわざ言わんでいい」

 

シリウスは早々に言うと、ホグワーツ生の三人…と言ってもハリーだろう。彼らをじっと見たと思ったらさっそくしゃがみこんで片ひざをつく。

 

「あ、すみません。腕立て伏せはいいです」

 

すぐさま止めたのはハリーである。さすが、私と親しくなった生徒たちはそのあたりは日々の英才教育のたまものだな。ほとんど反射的に出たであろう言葉にハリーは自分で戸惑っていたが、ゆっくりと平静を取り戻す。

 

「…かわりに僕たちは杖を持っておくので、少し離れていていただけますか?」

 

冷静に言われたシリウスは一瞬固まっていた。だが、何事もなかったのように立ち上がると襟元を正すような動作をする。どうせ今着ているのは私のお気に入りのコレクション「どうして羊は雨で縮まないの?」なのにだ。

 

「スネイプ先生、本当にブラックが危険じゃないなら…僕達にも分かるように教えてください。とりあえず、ふざけるのはナシで」

 

「そうね、…ルーピン先生、ええと、ブラックさん。お願いですから、スネイプ先生が遊びたくなるような隙を作らないでくださいね」

 

続けたのはロンにハーマイオニー。ホントに、原作より大人びたなぁ、彼ら。反面教師って、結構効果的な教育法なのかもしれない。すこし自分が誇らしくなった。なぜかほんのり切ないけれども、きっと成長が寂しいのだな。喜ばしいことだ。だがいつまでも感傷に浸っていてはいけない。私は良い大人らしく穏やかにため息を付き、この場を治める説明をするとしよう。

 

「そうだな…先に確認したいが、ハリー。君たちがここまで私についてきたってことは、地図にピーター・ペティグリューが私と一緒に記載されていたってことでいいのだな?」

 

私の問いかけにハリーは頷き、忍びの地図をマントから取り出した。

 

「先生に頼まれていた通り、ペティグリューの名前が一緒に載っていたので彼を探すために先生たちについてきました。でも、僕たちに見えたのはスネイプ先生とルーピン先生だけです。先生はこの人のことを知っているんですか?」

 

「ああ。それについても君たちに話さなければならないから、先に地図で名前を見ていて欲しかったのだ。君たちは私たちを追っていて、シリウス・ブラックの名前が聞こえたからそこで様子を見ていたんだろ?」

 

戸惑いながら肯定するハリーにできるだけ優しく頷き、叫びの屋敷の中を見る。

 

シリウスとリーマス、ネズミ姿のピーター。ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人組。そして一応、セブルス・スネイプ。

 

これで原作のあのシーンの人物は揃った。あえて事前の情報を出し惜しみして、当人たちを困惑させてまでもこの状況を作り出したのは私の自分勝手さだ。

 

「さて、どこから話すべきかな」

 

まったく、すべてを話し終えた時、いったい私はどんな気持ちになるのだろうか。いつかは来るであろうと覚悟していた、ハリーに彼の両親の身に起きた真実を明らかにするその時となり、深くため息をついたのだった。

 

 





次回はどうやってもシリアス回です。
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