転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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可愛いは正義だけど死ぬのは怖い

古びた教科書、着替え、長年溜めたお金と両親が少し無理をして…そして近所の人たちの好意のお陰で買うことが出来た新品の制服と鞄。狭くて暗い自室で、僕は一通り荷物の確認をする。

 

うん、大丈夫だ。忘れ物は無いし、今朝も近所やお仕事でお世話になった人たちにちゃんと挨拶をしてきた。

 

「セブルスー、そろそろ駅に行くわよ」

 

「今行くよ」

 

階下から呼ぶ母さんに返事をしたけど、絶対に聞こえていない。かわりに、トランクを閉めて直ぐに一階に下りた。

 

セブルス・スネイプ、11歳。アレから4年?もうそんなに経ったんだ…。

 

この4年間、色々なことがあった。家庭環境改善?ああ、それは早めに終わらしたなぁ。簡単に言うと、その辺に生えてた美味しそうな植物を使ってみた料理をパパに食べさせてみた。そして死にそうにすがってくるパパンのために必死に走って先に仲良くなっておいた初老のお医者さんの所に掛け込む。そんな一芝居を打ってみたのだ。

 

パパンはなんとか素早い処置で軽い症状で済んだのだけど、おじいさんはその時一目で我が家の現状を見抜いた。そして暴かれるDV。

 

そんなわけで、パパンはそのお医者さんたちにより強制的に僕とママから離された。

顔を真青にして謝るパパは不思議なことに本気で嫌がって、後悔しているように見えた。

 

近所のみんなはこれまで僕らの家庭問題に直接的に触れて来なかった。持ち前の人懐っこさで皆のアイドルやってた僕のために必死になってくれて、パパン断念。

 

え?4年前に子供には両親が必要だって言ってなかったっけって?言ったよ。

 

あれからパパンは皆に監視(?)されながら一人寂しく暮らしていた。僕は、そんなパパのところに周りの目を盗んでこっそり会いに行った。

 

パパンは後悔から改めて恋しくなったのか、命を助けてくれた僕に感謝していたからか(僕がある種の植物に異様に詳しいこと知らないから)、今までの事がウソみたいに優しく迎えてくれた。

 

そのうちゆっくりとママとも和解した。こうやって、離れて暮らしているとしても僕は優しくて普通の家よりも絆の強い両親を手に入れたってわけだ。

 

つまり、資金集めしてたけど一番役にたったのは実は資金集めの手段の中で得た人間関係だったってわけだ。まあ、子どものうちだからこそできたことだよね。

 

もちろん、こんなことを計画していた僕が腹黒くないわけがない。10歳になる前にはもうこれを完璧に完了していたんだからな。

 

 

 

キングス・クロス駅までは仲良くなったお得意さんが送ってくれた。お礼を言って車から降りると、駅で待っていた父さんが微笑みながら歩きよってくる。僕と顔が似ているだけに、見た目は優しく微笑む陰険魔法薬学教授…。今は僕がその当人なんだけど、あまりにもレアだ。

 

「待たせたかしら?」

 

「いいや。駅を歩いてみていた」

 

母さんに答えると、父さんはその手から僕のトランクを受け取る。いい家庭の雰囲気だ。

 

今年から僕はホグワーツに入学する。母さんは一人家に残ることになるけど、今の父さんならきっと苦しめるようなことはしないし、助け合ってくれるはずだ。帰ったときに二人がもっと仲良くなってたら普通に嬉しい。

 

父さんはきっと魔法界が好きじゃないから僕は二人に送ってもらわずにそこで別れることにした。事前に近所の人に聞いていた駅内のカフェを伝えておくと、二人でお茶を飲みに行くということになり、僕は満足して二人に手を振る。

 

こどもがほとんど家に帰らなくなるんだから恋をしたときみたいな時間が過ごせればいいんだけど。そんなことを思いながら残りの荷物を手にして駅に入って行く。

 

9と3/4番線のプラットフォームで親友のリリーを見つけるのは簡単だった。昔よりずっと長くなった綺麗な赤い髪は天窓の光を浴びてキラキラしているみたいだ。ただ、いつも元気なはずの彼女が少ししぼんでいたようだった。

 

なんとなくその理由が分かって周囲を見回してみるとエバンズ家から離れて壁にもたれている女の子を見つけた。僕よりも数歳年上の彼女はリリーのお姉さんのペチュニアだ。なにかを両手で持っているみたいだな。

 

ぱっと見は退屈そうかばつが悪そうに見える表情は、少し泣きそうなものだ。彼女は近づいてきた僕に気付いてハッとして、鋭く睨みつけてきた。

 

「なに?変人が私になんか用?」

 

「うん。リリーとまた喧嘩したんだな」

 

「貴方には関係ないわ」

 

「知ってるよ。でも見てられないからね」

 

ペチュニアは顔をしかめてそっぽを向いてしまった。

 

「仲直りしないの?」

 

「…できないわ、酷いこと言ったもの」

 

「君は一言きついから」

 

「うるさい!分かってるわよ」

 

ズッと短い鼻音がした。多分、泣いているんだろう。でも、気の強い彼女は必死に隠そうとしているらしい。やれやれ。

 

「じゃあ、手に持ってるの僕がリリーに渡してあげようか?」

 

ペチュニアの肩がびくっとした。

 

「な、なんのことよ!!」

 

「だから、手に持ってるの。リリーにおめでとうって買ってあげたんでしょ」

 

「そんなこと私がするわけ無いじゃない!!」

 

「見えてるよ、百合の花柄」

 

「ちがうちがうちがう!!!」

 

「そうなの?」

 

「そうよ!!」

 

「ツンデレも大変だね。」

 

「ちが…って、何よそれ!」

 

「気にしないで」

 

「気になるわよ…」と文句を言ったけどその顔がうつむく。大声を上げていたのが嘘のようにペチュニアも黙り込んでしまった。仕方がないなぁ、と溜息をつく。

 

「じゃ、僕ももう行くから。また夏にね。…あと、これ」

 

「………………」

 

ペチュニアにまだ買ったばかりの新しいハンカチを渡した。もったいないよりも、新品で丁度よかったかなと思う。ちょっと几帳面とか潔癖そうな子だし。無言で右手にハンカチ、左手に綺麗な紙小袋を持ったペチュニアから回れ右をする。

 

残念だったけど、仕方がない。所詮僕の交渉術だ。

 

「まって!!」

 

大体五歩ぐらい進んだところで声が掛かった。振りかえると、また泣きそうな顔をした女の子が早足で追い掛けてくる。

 

「やっぱり、リリーに渡して。あと、生まれぞこないなんて言ってごめんなさいって。本当は羨ましかっただけなの」

 

ぼろぼろと涙を流すペチュニア。小袋を受け取ると、渡したハンカチで顔を拭いた。両目から涙が流れているわけだから、男物のハンカチが顔を左右行ったり来たりしている。

 

「任せといて。休みまで元気でね」

 

まだ泣いているペチュニアに手を振って別れた。彼女も控えめながら振り返してくれる。まったく。素直じゃないんだから。

 

エバンズ夫妻は僕を見つけると声をかけてくれた。いつものように挨拶をして、リリーを見るとやっぱりしょんぼりしていた。僕におはようって言った声も元気がない。

 

もう出発の時間は近づいていて、僕とリリーはエバンズ夫妻にせかされるように急いで汽車に乗り込む。手を振ってくれる夫妻の元にペチュニアが戻っていた。

 

律義なあの子なら、洗ってから母さんに返してくれるかもしれないな、と思っていると目があった。一瞬で逸らされる目。

 

汽笛の音が鳴り、出発の合図を告げる。こうして僕は、ホグワーツに行くという新たな死亡フラグを立てたのだった。

 

 

改めまして、えー、ホグワーツに行ってる僕はやっぱり魔法使いのようです。うん、ハリポタの話って分かってた…でも前の人生では児童書だし。それに、しばらくは普通のマグルみたいな生活だったからなぁ。

 

最初の魔法は凄くビックリした。仕事中に食器落としそうになったとき、あーと思ってるうちに浮いて停まった。いやいや、なんか目の前で手品が始まったよ、という感覚である。他にも、階段から転けたときとか、ムカついた年上を蹴飛ばした時とか…エトセトラ。

 

母さんに話すと、ちゃんとなんでそんなことが起きるかっていう理由から、気をつける事とか教えてもらえた。昔に使ってた教科書も貰ったし、入学前に色々と勉強になった。

 

ああ、そうだ。リリーの言ってた秘密って、彼女も魔法を使える事だったよ。毒殺ジュースを誰かに飲ませたことあるとかだったらどうしようと思ってたから心底安心した。

 

 

ほとんど最後に乗ったのが悪かったのか、なかなか二人分空いたコンパートメントを見つけるのは難しかった。僕は荷物を引きずって左右をキョロキョロしていた。リリーは僕の後ろでしょげたままだ。それにしても、本当に見付からない。

 

何で大抵が三人組か四人組かなぁ。そして、荷物を座席に置くな。一日中立ってたり歩いたりするのはなれてるから僕は問題ないけど、女の子まで一緒にさせてしまうのは申し訳ないもんだ。ま、最終的にバラバラで座ったら問題無いけど。

 

チラリとリリーを見る。いつもは元気な彼女が落ち込んでいるのはどうも落ち着かない。 席を見つけてからペチュニアからのプレゼントを渡そうと思ってたのに、全然見付からないし。あ、目があった。

 

「セブルス、私、ペチュニアと喧嘩したの…」

 

ペチュニアに嫌われたわ……と目に涙を溜める美少女の友人。僕は足を止めてリリーを見つめた。

 

「大丈夫だよ、僕は…」

 

そこで、僕は一瞬だけ言葉に詰まってから続きを言った。

 

「リリーに酷いこと言ったって泣いてたペチュニアをみたから」

 

ベキンッ!!っと脳内で軽く何かがへし折れる音がする。リリーが驚いた顔で僕を見上げる。とりあえず、僕はリリーに微笑む。彼女がその異音に反応したんじゃないってことは知っている。

 

「ごめんなさい、ただ羨ましかっただけだったんだって。」

 

「…ほ、ほんと?」

 

「うん。もっと早く言わなくてごめん。それに、彼女も学校があるのにわざわざ見送りに来てくれたんでしょ?きっとリリーが心配だったんだよ」

 

これも預かってる、と例の預かりものを渡す。リリーは恐る恐る開けて、手紙?を読んで顔を赤くしてまた僕に向いた。

 

「ペチュニアが、頑張ってって!」

 

「やったね」

 

にこりと笑うと、リリーがぶんぶん首を縦にふる。

 

実は僕がリリーとペチュニアを見る目は年上気分だ。だって、精神年齢の差が凄い。だからさっきみたいな恋愛フラグが立ちそうな時は出来るだけしっかり折ってお兄さん的な立ち位置を目指している。

 

まあそれを数年やってきたせいで、「今日のフラグチャレンジ!」とかの脳内音声が流れたり、フラグが折れた感じがする時に木の棒が折れる音がしたりするんだけどね。多分これは可愛い女の子相手にフラグ折ってる天罰的な何かだと思うようにしてる。ごめんね、僕、まだちょっと死亡フラグ回避は諦めたくない。

 

僕たちがまた歩き出すと、すぐにコンパートメントが見つかった。男の子が二人座っている。リリーにその事を伝えて、扉に手を掛けた僕はガラス越しに男の子を見て止まる。

 

「どうしたの」

 

「………見覚えのあるアンティークな丸眼鏡が…」

 

「丸眼鏡の知り合いいるの?」

 

「スズキさん、丸眼鏡だったよ」

 

「そうだった」

 

そして、僕たちは運命に導かれてそこに入ったのだった。

 

 

 

 

「とうとう私たちはホグワーツに行くのね!」

 

コンパートメントの中に入って荷物を押し上げてから座って、さ、暇タイムの始まりだと思った途端にリリーの楽しそうな声。元気出て良かったなぁと僕は目を細める。でも、そのセリフって僕のじゃないの?

 

「ホグワーツじゃ寮をわけるんでしょ?ねぇ、セブ。また教えてくれる?」

 

「いいよ」

 

非魔法界の家庭の彼女は当然魔法界の事を知らないから、母さんに色々と聞いた僕が教えるのがしょっちゅうだった。だから今回のことも珍しい事じゃない。原作やら映画やら母さんの言葉を思い出す。何だか、遠い世界が身近になったなぁ。

 

「ホグワーツの寮は四人の創立者の名前にあやかっていて、生徒は性格とか性質でわけられるんだ。グリフィンドールは勇気、レイブンクローは賢さ、ハッフルパフは勤勉さ、スリザリンは野心……かな」

 

この程度が無難だろう。話している途中で、先にコンパートメントに入っていた二人がちょっと反応したけど気にしない。

 

「へぇー。セブルスはどこに行きたいの?」

 

「僕?僕はどこでもいいけど、多分…」

 

って言うか、絶対

 

「スリザリンじゃないかな?」

 

別にセブルス・スネイプだからとか母親がスリザリンだったからって理由じゃない。消去法なんだ。

 

僕は擦れてるとはいえ、自分でも度を超していると思う。まず、グリフィンドールとハッフルパフなら実父に毒を食べさせない。目的のためには僕はときどき手段を選ばないからスリザリン適性の自覚もあるし。

 

「スリザリンなんか誰が入るか!」

 

急に横から何か聞こえた。突然声と顔を上げたのは丸眼鏡。我らがスズキさんを彷彿させる眼鏡だ。眼鏡は「むしろ退学する」と言ってもう一人いた男の子に同意を求めていた。

 

会話からするにどうやら顔見知りではなかったらしい。ってことは、さっきまで気まずかったんじゃ──とか考える。やり取りでソリが合ったらしい二人の間では友情が芽生えはじめてる。よかったね。

 

それはほっといて、リリーにどこにいきたいか聞こうとしてたら、前の二人を睨んでた。

 

「どうしたの?」

 

「あの二人やな感じ。セブルスをバカにしてるみたいで」

 

小声で言った彼女に僕は首を傾げる。キョトンとして「そう?」と問いかけた。

 

「僕にはこれぐらいの年齢らしい会話にしか聞こえないけどな」

 

元気がよくてよろしいと思います。「なんか聞いてると楽しいし可愛いよ」とまでは言うのは止めたけど、リリーは吹き出した。こら、怒られるよ。

 

「お前だって同い年だろ!」

 

丸眼鏡は一瞬、僕のネクタイを見て言った。取りあえず気にしない。

 

「それで、リリーはどこに行きたいの?」

 

「無視すんな!」

 

公共の場にしては大きすぎる声。それには僕もちょっとムッとした。

 

「うるさいよ。ここにいるのは君たちだけじゃないんだ」

 

「お前が僕に失礼なことを言うからだ!」

 

「リリー、窓閉め直していい?あ、ありがと」

 

「聞けよ!」

 

「あとでね。今は可愛い女の子と話してるんだから。」

 

しれっと言うと、丸眼鏡は言葉を失って口をパクパクしていた。あ、近所の金魚に似てて面白い。

 

もう一人の男の子はこの状況を見てニヤニヤしていた。横ではリリーもクスクスと笑っている。親しくない人をあまり笑っちゃダメだというと、はーいと返事をしてやめた。

 

「ねぇ、セブルスは私はどの寮に入ると思う?」

 

少し不安げに、でも興味深そうに聞かれた問いかけだ。僕は無言でまじまじと親友を見つめる。

 

「絶対グリフィンドール」

 

その直後、背後から何かのへし折れる音が響いた。これもフラグチャレンジだったのか。後ろを振り返ってももちろんなにもない。ただ、代わりに眼鏡をかけてない男の子が何だか妙な顔をしていたような気もする。

 

フラグ折りって、意外と他の人も気付くんだよね。逆に折られても気づかないリリーは普通に返事を受け止めてくれるからすごく可愛い。もちろん、妹的な意味でだ。

 

その後、学校に着いて直ぐに行われた寮分け。お転婆のリリーはやっぱりグリフィンドールに、散々時間の掛かった僕は結局スリザリンに決まったのだった。

 

 

 

 

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