転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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彼の友達はラバーチキン

 

意気揚々とペットのローストを授業に連れ込んでいた私だったが、秋が深まるにつれて校内で風邪が流行ってしまったので大事なローストチキン…もとい、バジリスクスレイヤーを避難させて部屋でお留守番してもらうようになった。

 

しばらくは出掛ける前について来ようとしたり、授業中も隣室からピヨピヨと声が聞こえたりすることがあったが、そのうち慣れたのだろう。寂しがるのは変わらないが、以前の死にそうなほどの必死さはなくなって諦めてくれた。

 

そうやって別行動も増えたせいだろうか。自室にいる間は大抵ローストが私の膝か、肩か頭に乗ってしまう割合が増えた。

 

「随分と尾羽が目立つようになって来たな」

 

授業終了後、今日も今日とてローストが膝に乗っているのでそのまま健康チェックをしているとそんなことに気づいた。

 

生後3ヶ月を超えたローストはいつの間にか雄特有の長さと色合いの尾羽が生え出して来ている。頭の鶏冠も若干大きくなったようだ。今のところ見慣れていない者には雌雄の判断はつかないと思われる。しかしそれも時間の問題だろう。なお、鳴き声は未だにピヨピヨだ。

 

「そろそろ君の見た目を誤魔化さねばならんな」

 

前にも言ったが秘密の部屋の怪物の弱点である「時をつくる声」を持つ雄鶏であることを知られればローストは危うい。

 

「尾羽を切るのは…かわいそうだからな…次に出すときには変身術で見た目を変えるか」

 

しばらくは目立つ部分をいじるだけでいいだろうが、いずれしっかり全体を雌鶏に見えるような術を覚えなければならんか。しかし、巨大な悪を倒すために女装して潜むとか何かの伝説や物語の主人公にいそうだな。

 

のんびりとマイペースなことを考えているとノックが聞こえ、すぐに膝に乗っていたローストを持って隣室へと運ぶ。

 

「しばらくはそこでな」と言い残して扉を閉め、途中、弱火で煮たたせている大鍋をちらりと見てから来客の対応に移った。

 

「「こんにちは!スネイプ先生!!」」

 

超いい笑顔で元気な挨拶をしてくれたのは双子のウィーズリーだ。

 

「こんにちは」

 

そこに私はいつもの調子で淡々と返す。身長があるので見下ろすことになっているのは許してほしい。

 

「こんな陰気なところまでよく来たな。今日はどうした?」

 

「よくぞ聞いてくれました!!」

 

「今日はですね!スネイプ先生のご注文の品をお持ちしたのです!!」

 

「おお、もう出来たのか」

 

フレッドだかジョージだかのどちらかが高らかに言って袋を見せてくれ、そこに手を突っ込んで引っ張り出したのはニワトリのおもちゃの頭である。

 

ラバーチキン、またはシャウティングチキンなどと言われるおもちゃを知っているだろうか。腹を押すと「グァパァーー!!」と甲高い声を出すギャググッズはマグル界でロングセラー、軍人教育で「ラバーチキンテスト」にも使われる愉快な面の黄色いアレである。

 

扱い的にはブーブークッションのようなもので、上手くやればニワトリの鳴き声っぽくなる。実際には断末魔っぽいがな。それがいま目の前の袋で頭だけを出されてこっちを見ている。

 

「まだ頼んで1ヶ月ほどだろう。随分早かったな」

 

「そりゃあ、珍しい材料…じゃなくて、スネイプ先生のたっての頼みですから!!」

 

「プロが作ったレア魔法薬…じゃなくて、尊敬するスネイプ先生のお役に立てるなら!」

 

また色々と実験するための材料が必要だということはよくわかった。教師として子供達の自主性を重んじ、その学びのサポートをすることは大切なのだから別に構わないが。

 

「じゃあ、さっそくローストに見せてあげましょうよ」

 

「ロースト、元気にしてるかー?」

 

「あ、おい、ちょっと待て」

 

いつもの中に入って話をするのに慣れている双子は私の制止も間に合わずに部屋に入ってしまう。今日部屋に入れたくなかったのは見られたくないものがあったからだ。2人は中に入り、何かに気づいて周囲の匂いを確かめるような動作をし、私が先程から煮込んでいる鍋に視線を移した。

 

「こ、この匂いは!!!」

 

で持って大鍋に駆け寄っている。

 

「「ローストぉぉぉおおおお!!!!?」」

 

「こら、叫ぶんじゃない」

 

二人分なので声量2倍だ。双子は扉を閉める私に向かって鍋の前で並んで同じ動作で中を指差している。

 

「スネイプ先生!!ローストチキンを煮込むなんてなんてことを!!!」

 

「あなたはもっと良識のある人だと思ったのに!!ローストチキンを煮込むなんて!!!」

 

確かに私もローストチキンを煮込まれたらダブルミーニングで発狂したくなる。

 

「それはハムだ」

 

「ローストチキンをハムにしたんですか!?」

 

「お前たち、さっきからわざとローストを本名で呼んでいるだろう」

 

おかげで会話がとんでもないことになっている。

 

私は双子の隣に立ち、大鍋の中を覗き込む。そこではタコ紐でぐるぐる巻きにされた鶏肉の塊が白ワインとハーブのスープで煮込まれている。まだしばらく煮込みたい。サルモネラ菌は危険なのだ。

 

「確かにこれは私お手製の鶏肉のハムだがローストチキンなわけがないだろう。ローストなら隣の部屋で遊んでいる。風邪が流行っている間は生徒に会わせないと言ったはずだ」

 

「実はそれは口実で、本当のローストはもう…」

 

「まさか、それを隠蔽するために俺たちにこれを作らせたんじゃあ…」

 

「ヒィ」っと取って付けたような悲鳴を二人であげている。なんだそのホラー風の何かは。

 

「そもそも、これは、私が鶏を飼いだして当たり前に『食用?』と聞いてくる周囲のせいで最近無性に鶏肉を料理したものが食いたくなったためだ。丸鶏は二回焼いた」

 

「「やっぱり!!」」

 

「…言っておくが、鶏肉を丸ごと買ってもさほど高くはない。半ガリオンで丸焼きを喰うロマンが果たせるのだ。ペットを食べるよりは断然購入を選ぶぞ」

 

「でも先生は鳥の丸焼きが好きなんだ!!」

 

「結構そんな気がしてました!!」

 

「ロースト!生きてるなら逃げるんだ!!」

 

「話を聞け」

 

漫画1巻、単行本1巻の金額で丸鶏が買えると言ってるだろう。それでペットを食うわけがあるか。誰か分かって言っているこの二人の止め方を教えてくれ。

 

「…ところで、これは私の得意料理でな。お前達も食べるか?」

 

「「結構です」」

 

ん?ここは乗ってくるものだと思ったのだが。真顔で返してきた双子に不思議に思ったが「そうか」と少しだけしょんぼりといた雰囲気を出して言ってみた。

 

自分で作って食べるのもいいが、人に振る舞うのも嫌いではないのだが。

 

「だってあのスネイプ先生の薬鍋ですよ」

 

「どんな毒薬作ったものか知れたものじゃないですし」

 

「安心しろ、これは新品だ」

 

「それでも無理なものは無理です」

 

「スネイプ先生、自分の胸に手を当てて心に問いかけて見てください」

 

「お前達は私のなんなのだ」

 

身に覚えのないことを丁寧に言われてむしろツッコミしか出ない。おかしいな、悪いことは何もバレてないはずなのだが。まあ、実に巧妙な手口で父に毒草食わせたことあるがその真実と方法は時の流れに葬っている。

 

これだけ言われている私は毒好き代表として、確かにホグワーツでとある功績で名を轟かせてはいるのだが、それはまた別の話ということにしておこう。

 

「まあいい。そろそろ要件に移るとしよう。頼んでいた通りにはできたのだろう?」

 

「それはもちろん!どうぞ試してください」

 

やっとラバーチキンが私に渡された。軍人達さえ笑顔にさせる愛嬌あるツラを見てから口を人に向けないようにして腹を押す。おきまりの「パァー」という気が抜けた音とともにラバーチキンの口から炎が噴き出した。

 

「………上出来だ」

 

「「やったっ!!」」

 

さらに数回パフパフしてみるとボッボッと、一緒に火が出る。ラバーチキン、火を吐くニワトリバージョンを一通り試した私は満足した。

 

せっかくローストも大人になりかけているのだから擬似ニワトリ風のおもちゃが欲しかったのだ。これを機にラバーチキンを何個か買ってみたのだが、ローストと同じく火を噴く仕様のものも欲しくなり、こういった改造が得意そうな二人に任せた。結果、鳴き声の調整と同じように火力が調整できる代物ができたということだ。

 

火を噴くラバーチキンを床に置いて杖を振る。おもちゃのニワトリは私の杖の動きに合わせてスクッと立ち上がって周囲を歩き始めた。防火対策はバッチリな室内のため、パフパフ、パァーッと火を噴いていても一応問題ない。

 

「正直気持ち悪いな」

 

思ったよりも動きが可愛くなかったので魔法を終了させると、チキンはぱたっと倒れる。それを拾ってテーブルに置いた。

 

「では、二人に礼を渡さないとな。材料置き場まで付いて来なさい」

 

 

数分後、魔法薬に使うそれなりに高価な材料(もちろん私物である)を入手した双子のウィーズリーはホクホクとした顔で出口に立っていた。

 

私としては現金を渡してもいいぐらいなのだが、立場上、非常に教育に良くないので仕方がない。だからと言って普段から教育にいいことをしている気もないが。

 

「では先生、また何かあったらいつでも声をかけてください!!」

 

「予備にもらったチキンはまだありますからね!!」

 

「ああ。またよろしく頼む」

 

簡単な挨拶をして扉を閉じようとすると、「そうだっ!」と何かを思い出したような声を出される。なんだ、と思い扉を開き直すと、目の前にラバーチキン(火を吐かない)がいた。

 

そして「パフゥー」と顔面前で鳴らされた。

 

「………」

 

「……」

 

「……」

 

フレッドだかジョージが持っていた予備のチキンをむしり取る。無言の二人の間で「パフッ」と短く鳴らしてみた。もう一回パァーフー、更にパファーと鳴らすと二人が噴き出した。残念ながら、軍人訓練はクリアできなかったようだ。

 

「…残念だったな、私の勝ちだ」

 

「先生、その顔で、その真顔でやるのずるい!!!」

 

「なんかもう持ってる時点で笑えるのに、ゆっくり押すのやめてください!!」

 

人の顔面を笑うとは失礼な。ラバーチキンを返してやると笑いをこらえながら双子は挨拶して去っていく。その間、割と頻繁にラバーチキンの鳴き声が廊下に響いていた。

 

 

翌日、魔法薬学の教室の教員側の水道にラバーチキンがマーライオン仕様で設置されており、特に問題ないので放置していたところ、水道を使うごとに鳥の口から水が出て変な音を出すので「耐久授業」のリスト入りとされた。

 

さすがに翌日には取り外したのだが、生徒たちがそれを見るためにわざわざ私のところに質問をしにくる回数が増えていた。

 

どう見ても満喫しすぎているそんなホグワーツの平和な教員生活の最中、10月の末のハロウィンの日、ついに秘密の部屋は開かれたのだった。

 

 

 

なぜかホグワーツに関わるものにとってハロウィンは厄日だ。そして私はいい加減静かなハロウィンを過ごしたいのだが、ハリーが入学してしばらくは無理かもしれないなとほぼ諦めている。

 

さて、ミセス・ノリスが襲われ秘密の部屋が開かれたというメッセージが書かれた事件の後、学校中で生徒たちがその噂をするようになった。そしてそのうちに「秘密の部屋」がなんであるかの概要が校内に広がり始め、それがスリザリンに関わることが知られてしまい…

 

「スネイプ先生、実はお聞きしたいことがあるんです」

 

自室のドアを開けた先にハリーがいる。今期、私への生徒の訪問者数が過去最大となった。

 

 

私のせいでローストチキンがかわいそうなことになっている。ここ最近は通常の倍以上の来訪者が来るために雄鶏の特徴が出るようになった奴は基本的に女装で過ごす羽目になっていた。

 

部屋に通したのはハリーたちのお決まり3人組。ローストは3人のそばまで近づき、ハーマイオニーに撫でてもらっていた。

 

「君たちでその質問をしてきたのは20組目だ。なぜ私にそんなことを尋ねる?」

 

客人に出すための紅茶を用意しながらさっそく本題に入る。そして本音を言った。

 

「スネイプ先生はスリザリンの寮監なので何か秘密の部屋やサラザール・スリザリンのことについて知っているんじゃないかと思ったんです」

 

「教員や寮監となって新たに知るのは授業の進行方法と教育について、学校のスケジュールと、子供たちについてぐらいだ」

 

「でも、先生はスリザリンだから僕たちよりスリザリンのことについて知ってるんじゃないですか?」

 

「例えば、秘密の部屋についての噂とか…」

 

ハーマイオニー、ハリーに続いてロンの連携だ。質問の合間、生徒たちに構ってもらえなかったからだろう。ローストが私の足元まで戻ってきた。すまんな、私も構えんぞ。仕方がないのでラバーチキン(火を吹かない)で遊んでいなさい。

 

ローストの目の前でラバーチキンを鳴らすとローストがおもちゃを攻撃する。それを投げればダッシュで追いかけてやはり攻撃していた。女装をしていても雄鶏だな。飼い主びっくりなほど怖いぞ。あれを脚にやられたら絶対痛い。

 

「そもそも、私のところに訪ねてまでなぜそんなことを調べている?」

 

「それは…」

 

ハーマイオニーが言葉につまり、次のことを早口で言った。

 

「ちなみにこれまでの中で私が一番気に入った回答は『野次馬根性です』で次点は『面白そうだから』だ」

 

「それで答えたんですか?」

 

「いや、ハリー。丁寧におかえり願った。そもそも話せることなど何もないのでな」

 

「『丁寧に』の詳細を教えていただけますか?」

 

「『特別にローストと10分遊ぶ許可をしてやるから』ロナルド・ウィーズリー、わかっていて聞いたのは君だろう、笑いすぎだ」

 

ちなみに、基本的にローストは私の許可がなければお触り禁止である。

 

「だいたい、私はホグワーツの教員の中では若輩者だ。もっと老齢の教師たちがたくさんいるだろう」

 

「スネイプ先生はなんだかそれでひとくくりにしてはいけない気がして…」

 

「むしろひとくくりにしてくれたまえ」

 

助けて原作スネイプ先生、あなた並みの隠蔽力が欲しい。あ、私が人を遠ざけるのを逆に面倒だと思っているのがいけないのか。まあ、やらんがな。

 

「とにかく私が知っているのは他と同じ、秘密の部屋はホグワーツを去ったスリザリンが地下に作り、怪物を残していったという言い伝えまでだ。スネイプ家は魔法界の歴史にはない。それだけで魔法界の知識などたかが知れている」

 

諦めろ諦めろと軽く手を振ったが、なぜか3人ともびっくりして目を大きくしていた。スリザリンの寮監としてらしくない出身であることが気になるのだろうか。母は純血らしいぞ。詳しくないが。ハリーが目をパチクリさせ、少し興奮したように言う。

 

「秘密の部屋は、地下にあるんですか!?」

 

…………ん?…しまった。やらかしたかも知れん。

 

「先生、それどこで聞いたんですか?」

 

「…そういう噂だったと思ったのだが」

 

ハーマイオニーにも聞かれ、なんとか考えるそぶりを繰り出す。

 

まずい、まずい、まずいぞ。ビンズ先生の話で地下だということがわかっていないのならこれはおそらく彼らが部屋に入った時に初めて知ったということになる。ということは、入り口が3階のトイレの手洗い場だと気づく際にミスリードを引き起こす可能性もある。

 

いや、できれば子供達に解決してもらうというのは避けたいのだが、万が一のことを考えると原作展開も残しておきたく…。まずは現状打開が先決か。

 

「…いや、すまない。もしかすれば私の記憶違いかも知れん。…心当たりがある」

 

一番都合のいい言い訳の「スリザリンの寮室が地下にあるため」とは言えない。どうせのちに忍び込むのだからフラグでも立てておけ。

 

「スネイプ先生、どこかできいたとか覚えてないんですか?」

 

「すまないが。記憶違いについては…悪いが私の口から言うわけにもいかん。それに私の学生時代のスリザリンは死喰い人に憧れるような人間が多かったため、噂話もまともにしたわけではなくただの聞きかじりだ」

 

諦めてくれ。そう言うと三人は肩を落としたのだった。

 

 

紅茶と一緒に出したお菓子が片付いたところで三人に帰るよう促す。その時、話の途中で思いついたフラグをもう一本立てておくことにした。

 

「そうだ。フレッドとジョージに伝言を頼みたい。『君たちのおかげでローストも楽しそうだ、また何か必要な材料があるなら言いなさい。私はそれの利用用途を聞かないし、渡した後は全く触れるつもりもない』とな」

 

「わかりました。兄たちに伝えておきます。でも…」

 

「スネイプ先生、僕が言うのはなんですけど…それでいいんですか?」

 

「スネイプ先生も先生なんですよ…?」

 

「心配はいらない。私は私物をプライベートで渡すだけだ。彼らの将来については大いに期待している」

 

苦笑いと同時に「仕方がないなぁ」と言うような表情を浮かべられた気がする。彼らは私に挨拶をして、最後に私の肩に乗って見送るローストにも手を振って別れた。

 

 

さて、これで彼らなら私から安全にポリジュース薬の材料を手に入れるための作戦をうまく考えることができるだろう。

 

教室内の爆破事件をこれで一つ阻止ができるかもしれない、と私は満足げに頷いたのだった。

 

 

……そこまでは良かったのだがな。

 

昨年の賢者の石騒動の時から思っていたのだが、私はやはり詰めが甘いと言うよりも情報の詳細を忘れてしまっているために行動に不安が残る。ハリーたち三人組は私が思っていた時期よりもやや早く、「フレッドとジョージからの頼み」と言うリストにポリジュース薬の材料リストを混ぜて渡してきた。

 

そこは私の誘導通りで良かったのだが、時期を見誤っていたと言うことは教室の事故に備えることができなかったと言うことでもある。

 

流れを知っているだけに気を抜きやすいぶん、対応はより慎重にした方がいいのかも知れん。

 

 

部屋の鍵をしっかりと締め、防音もバッチリにしてから私はローストに向かい合う。生後5ヶ月のローストは、顔つきはまだ雌にも似ているが尾羽の長さからもう言い訳はできないだろう。それに、これを聞いてほしい。

 

ラバーチキン(火を吐かない)をローストの前に持ってくると「ぱぁーぱっぱぱあ〜」と一生懸命鶏の鳴き声に似せて鳴らす。と、ローストは雄鶏の雄叫びをあげた。そう、ついにバジリスク特効の『時をつくる声』を習得したのである。

 

もう一度チキンをぱーと鳴らしてみると、ローストはラバーチキンを私から奪い取ってそのまま蹴ってつついて投げ飛ばしてタックルをかます連続技を繰り広げていた。

 

最近は雄鶏として心身ともに逞しくなっているローストチキンは攻撃力を増している。加えて、まだ若鶏と言えども「火を噴く」も普通の人間なら逃げる威力で習得しているのでもしかしたら番犬並みに強い。

 

これなら立派なボス鶏になりそうだ。こんなボスがいる群れ、私がイタチなら即逃げ出す。

 

「すまないな、ロースト。君がこんなに育ってくれたのに私は君をうまく活躍させることができない」

 

謝った私にローストは短く鳴くと膝の上に登ってきたのだった。

 

 

…ところで、以前に鶏はとても社会的な動物だと言ったが覚えておいでだろうか。

 

ちらっとボス鶏と言ったように鶏は群れを作り、雄は実力主義、雌は年功序列の縦社会だ。ボス鶏は群を守るために一目置かれるトップである。

 

つまり雄の鶏はそこそこ凶暴なのだ。

 

飼い主や生徒たちに甘えん坊に育ったローストチキン坊ちゃんはいま、その雄鶏としての凶暴性を存分に…発揮している!!

 

「痛い!痛い!!セブルス、これは一体なんなんですか!?」

 

「ギルデロイ…おそらく君の見た目が派手…いや、華やかだから私の鶏が興奮してしまったらしい…」

 

逃げるギルデロイを執拗に追いかけ、飛び上がっては鶏キックや「ついばむ」の攻撃。ラバーチキンの時よりもずっと激しく攻撃する姿に私は思わず見入ってしまっていた。完全に敵を認識してしまった姿など初めて見たぞ。

 

しかし、火まで吐こうとしている様子に感づいて慌てて止める。やめて、奴の服絶対高い。

 

「ロースト、やめなさい、どうどう」

 

即座にと言うわけにはいかなかったが、私が声をかけながら押さえつけるとローストは徐々に大人しくなった。ふむ。こういうところは魔力持ちでよかったな。頭がいい分、聞き分けが良い。それを持ち上げて部屋の鳥かごに入れ、ついでに中にラバーチキンを投げ込んでおいた。

 

「すまなかったなギルデロイ。あの子は見慣れない人間に敏感になりやすい年齢なんだ」

 

「だ、大丈夫ですよ、セブルス」

 

ほんのりとボロボロになりかけたギルデロイは半ばくたびれた笑顔を浮かべた。ここで営業スマイル忘れないのは偉い。こういう根性は認めてあげたいものだ。

 

再度謝りながら服を直しておくことにした。「レパロ」。きらびやかなギルデロイなので新品過ぎて浮くということにもならないだろう。ああ、そうか、こちらもか。「エピスキー」。正直悪かったと思っている。

 

「まあいいでしょう!実はセブルス!あなたにいい話を持ってきたのです!!」

 

すぐ元気を取り戻して輝かんばかりの笑顔のギルデロイを前にして、私はついカレンダーを振り返った。今は12月中旬。正直この時期にギルデロイに関わることといえば嫌な予感しかしない。

 

「そうか、すまないが手短に頼む。ペットの手入れをしなければならんのでな」

 

半ば嘘である。鳥籠のほうから「プピー」と気の抜けた音がする。ローストが、おもちゃを踏んだらしい。それからガタガタバッバッとラバーチキンの安全が不安な音がしている。

 

「先日、残念なことに一年生のコリン・クリービー君が襲われてしまいました。そこで、闇の魔術に対する防衛術の教師として、生徒たちに基本的な防衛術の特別授業をしようと思ったのです。つまり───決闘訓練です!!」

 

…そういえば今年は決闘クラブの開催案内をまだ聞いてなかったな。「プーッヒーッ!!」と音がしたのでチキンはなんとか無事らしい。直後にガシャンと暴れる音もした。

 

「そうか、それはいい取り組みだ。陰ながら応援している」

 

「いえ、貴方には表に出ていただきたいのです!!」

 

やめて欲しい。そんな目立つことは嫌いだ。「コッコッ」と声がしてローストはやっと静かになった。面倒だが嫌な話を真面目に聞かねばならぬらしい。

 

「ダンブルドアに今回のことをお話ししたところ、校長には大いに賛成いただけたのですが、おそらく人気が出て参加者が多くなるために生徒の安全を考慮してもう1人監督者をつけるべきだという判断でした…そこで、スネイプ先生をぜひにということです!!」

 

やめて欲しい。もうとっさに思い出したダンブルドア校長につい髭への編み込みリボンを想像してしまうほどに現実逃避をしたくなった。

 

「そうか、しかしギルデロイ、私では不足では……」

 

そこまで言いかけてピタリと止まる。逆に考えるのだ。ギルデロイ一人でこの授業、本当に捌けるのか?

 

いかんせん、ギルデロイは頭は悪くないのだが、なんでもサラッとスマートにこなせることを最良として自分がそうできると信じているところがある。準備不足、努力不足、考えなしであることも非常にある。

 

おそらく適当なことをしてとんでもない結果になりそうな気がしていた。そしてダンブルドアは私がこれに気づいてOK出すこと見越したな──よくわかっていらっしゃる。上司として有能だな本当に。

 

「わかった。引き受けよう」

 

「ありがとう、セブルス!貴方ならそう言ってくれると思っていました!」

 

「しかし、私は元来こういうことはあまり得意ではない。申し訳ないが変装して参加してもいいだろうか。君からも、できれば私だということを隠してもらいたい」

 

精一杯の足掻きとして言った私にギルデロイはキョトンとし、満面の笑みとなった。

 

「そうですね、セブルス!貴方はあまり目立つことは好きじゃない!分かりました、変装して手伝ってくれる貴方の正体は秘密ということにしましょう!それに……」

 

ギルデロイは私にいたずらっぽくウインクを飛ばしてきた。

 

「実は、私も今回の講師が誰であるかはギリギリまで内緒にしようと思っていたんです!その方が生徒たちも緊張して参加してくれるはずですからね!」

 

「ああ、なるほど」

 

なにが「なるほど」かは分からないが。

 

とにかく私からOKを得て、しかも匿名変装のサポート役の予定ということでギルデロイはルンルン気分で帰っていった。

 

相変わらず面白い奴である。でもってローストから攻撃されていたことを忘れてくれていたようでありがたい。意外とそういうところは嫌いじゃない。

 

「さて…」

 

ローストの入っていた鳥籠を開けてすぐに部屋に放鳥してやる。それを肩に乗せながら(最近頭だと重くなった)目下のことを考えた。

 

「この面倒ごと、一体どうしてくれようか…」

 

 

 

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