転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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スリザリン生だって平和に過ごしたい

広い教室。遮光カーテン付きのこの場所は中々に暖かい。教壇ではイメージアニマルはきっとセイウチな教師が、これ以上に砕くことは無理だろうなってぐらい丁寧に解説をしていた。

 

魔法薬学の授業中、僕はのんびりと欠伸をする。テーブルの右手の列にはグリフィンドール。左手の列にはスリザリン。僕の位置は左列の最後尾だ。

 

ここからは皆の様子がよく見える。必死にノートを取るもの。何を書けばいいか分からなくてキョロキョロしているもの。あとは…話を聞くのに必死になっているものってところだろうか。こういうところは一通り学生していた事のある僕は慣れのお陰でずっと有利だ。ただ、問題は授業がゆっくり過ぎてつまらないって事なんだけど。

 

チャイムが鳴り、皆がガサガサと筆記用具を片付ける。僕も最小限出していた荷物をさっさと鞄に入れて教室を真っ先に出て行った。

 

 

 

「おーい、スニベルスー」

 

外に出てさっさと日向ぼっこを始めた僕の耳に、そんな声が飛び込む。ぽかぽかした気候に、眠くなってきたところだったから、僕はそれを聞き流した。代わりにゴロリと寝返り一つ打つと、さっきまでいた場所の土が跳ねる。どうやら何かしらの呪いを撃たれたらしい。

 

さすがにそのままグッスリは危ないような気がしたから僕は起き上がろうと…………しようとしてやっぱりやめた。だって、眠いんだもの。それにあれ多分校則違反とかのやつだからそのうち誰か止めるだろう。

 

「おい、ジェームズやめろ。スネイプは多分当たっても逃げないぞ」

 

「そうだよ。大変な事になるかもしれないし…………。それに何だか凄く悪いことしてる気分だよ」

 

呆れた様子の聞き覚えのある声と、おろおろしてる初めて聞く声。

 

「アイツはスリザリンで、闇の魔術に詳しいんだぞ!授業で先生がドン引きしてたの見ただろ!」

 

甘いな。寮でもドン引かれたぜ。

 

授業で知ってる呪文を聞かれた僕は、母さんの本で見たものをスラスラ答えた。…までは、よかったんだけど問題は闇の魔術ばっかりらしくて最後には先生に止められた。

 

世の中って知ってなきゃいけないことばっかりなんだね。というかなんでそんなことばっかり集めてたんだよママン。あなたの闇が垣間見えたよ。今更ながらおいてきたパパンがちょっぴり心配になってきている。

 

この問題のある知識の上に、擦れて面倒臭がり屋な性格だ。入学してから、僕は虐められはしないけど遠巻きにされている。幼馴染のリリーがいるから別にいいんだけどね。

 

「っていうか、無視すんな!!」

 

はいはい、聞いてますよー

 

『セブルス兄ちゃん、今日のおやつはー?』

 

「…………。スズキさん家で貰って……。」

 

「スズキって誰!?」

 

っは!しまった!!寝てた。

「寝てるんじゃない?」と知らぬ声も後ろから掛かる。その言葉にスズキさん眼鏡は憤慨してるみたいだ。…………。ごめんね。

 

何だか身の危険を感じてまたゴロリと寝返ると背後で閃光が走る。二人の声に杖を持ってる眼鏡が怒られているらしかったけど、放置。寝苦しいからもう一回転がった。だがどうやらそれが悪かったようだ。

 

バッシャーン!

 

そんな割と痛そうな音を立てて僕は湖に落ちた。

泳ぎは得意なんだけど、ビックリした。眠気吹っ飛んだし。ザバーと岸を掴んで湖から上がると同じく驚いてる三人組が長い髪の隙間から見えた。

 

服が重いなぁ。髪も原作よりは短くしているけど鬱陶しいから戻ったら鋏で眉の上の長さになるように切っておこう。

 

「ポッター!また貴方なの!」

 

女の子の怒った声。そっちを見ると赤い髪を振り乱したリリーがいた。怒った顔も可愛いよとまで言えたらいいなぁ。でも、真っ先に思い出したのはなまはげだった。ごめんなさい。

 

「セブルスに構わないでって言ってるでしょ!彼が何をやったっていうの」

 

「エバンズ、スネイプは勝手に湖に落ちたんだ」

 

「そんなはず無いじゃない!」

 

更にリリーは怒ったけど、ごめん、向こうの言う通りなんだ。

 

「リリー、僕は寝てたら湖に落ちたんだよ」

 

僕に言われてリリーはぐっと声に詰まった。

 

「…じゃあ、ポッターはあなたに何もしてないっていうの?」

 

「何発か呪いを飛ばしてきただけ」

 

「やっぱりやったんじゃない!!」

 

「スネイプ!なんでそこを言っちゃうんだよ!」

 

「なんで言うといけないの?」

 

ぎゅぎゅーと髪の毛の水を絞りながら僕は首をかしげた。友達ならまだしも、さすがに呪いを放ってくる相手に遠慮も何もいらなそうなんだけど。ローブを脱いでそれもテキトーに絞って僕はリリーに声をかけた。

 

「リリー、もう戻ろう。僕が着替えないといけないから夕食が遅くなってしまう」

 

「でも………。仕方ないわね」

 

ふーと腰に手を当てる親友。一度グリフィンドールらしい(ネクタイより)三人組にビシッと指を向けた。人を指さしちゃだめって言ってるのに…

 

「今度セブルスに何かしたら許さないから!」

 

「リリーは頼もしいなぁ。じゃ、いこっか」

 

僕はにっこりして歩き始める。なんか後方からヤジっぽいものが聞こえたような気もしたけど、興味がない内容だったから自然に僕の耳を通りすぎた。びしょびしょなままで僕たちが正面玄関にたどり着いた時、リリーは不満そうな顔で僕を見る。

 

「ポッターたちもひどいけど、セブルス。あなたもちゃんと言わないと。あの人たち、きっとまたやるわ」

 

そうかな…と僕は頭をかいた。あーいうのって、逆に反応したほうが喜びそうだけど…

 

「でも、別にいいんだ。僕は特に何も思ってないし。今日はたまたま湖に落ちたけど」

 

本心だったけど、リリーは気に入らなかったようだ。ぷくーと頬を膨らまる。「セブルスは優しすぎるのよ!」と怒られるが、僕の心の声はえー…としか出しようがない。いや、優しくはないと思うよ。そのせいで僕のネクタイは蛇カラーだし。

 

いつもは僕がグリフィンドール寮の近くまで送って行くのだけど、今日は全身からぼたぼた水を垂らしながらだったから地下牢への道の前で別れた。たぶん、30分くらいして夕食に行ったら会えるんだろうな、と思いながら僕は寮へと一度戻っていった。

 

 

グリフィンドール寮の席の端っこでリリーと夕食。リリーにも自分の寮の友達がいるから朝と昼は別れて食べるけど、夕食だけはこれが日課だ。多分、どうみても僕には友達いないから気にしてくれてるんだろう。つまり、僕が唯一他人と付き合ってる姿を見せる時間でもある。

 

すみっこで食べているのに(だからかな?)道行く人間が結構見てくる。グリフィンドールとスリザリンは訝しげや不快げに、後の二つは物珍しげに。マシなのは、その視線は大抵僕に向けられていると言うことだ。

 

リリーはずっと気にしないフリをして話している。授業の事や、今日見た面白かったこと。僕は聞き役に徹して、意図をまとめたり続きを促したり、誘導したりをしている。これだけで案外盛り上がるもんだ。彼女は何時も話題が豊富だからこの程度で夕食の時間は終わる。

 

……面倒臭がってる訳じゃないよ?ただ、僕は彼女が楽しそうに話しているのが好きなんだ。退屈な毎日を過ごす僕の、一番楽しみな時間なんだからね。

 

夕食が終わったら、その足で僕たちは空き教室や図書館で閉館まで勉強をしてから別れる。今日もまた、いつも通り僕がリリーを送ってからお休みなさいを言った。

 

たった一人で地下牢の寮に戻る。まだ人の多い談話室。僕が中に入ると何人かが遠慮なしに視線を向けてきた。

 

一回、視猥は犯罪ですって言ってやろうか。特に、あの上級生グループ。ガン見し過ぎ。うわぁーと思っていたらその中の中心格っぽい人間が歩いてきた。見覚えのあるそれは、寮分けでスリザリンに決まった僕の背中を軽く叩いてきた監督生だ。

 

家庭の事情と前世が女だからか、その馴れ馴れしさにゾッとした僕は、回避人物としてその人をカテゴライズ済みである。だから、現在僕は警戒モード。とにかく無視をして逃げる。

 

早足、早足、早足。

 

「スネイプ、ちょっといいかい?」

 

間に合わないと分かると声を掛けてきやがった。仕方なく僕は足を止める。肩に置かれかけた手は振り向くついでに避けた。

 

「私はルシウス・マルフォイ。この寮の監督生だ。君はセブルス・スネイプだね?」

 

「すみません、いま両手が塞がっているので」

 

行き場を無くしていた手が伸ばされるのを見て、僕は荷物を確りと持った。「そうか、悪かったね…」て言ったマルフォイは若干口元がひきつっている。

 

「それじゃ、僕は忙しいので。今日の用事は終わったのでこれから寝るところです。用件はまた今度に。お休みなさい」

 

一気に言って立ち去った。マルフォイは突然の事に固まっている。もし、即答で突っ込まれたら残ろうかと思ったけどそんなことはなかった。

 

「まだまだだね……」

 

[忙しく]て[用意の終わった]僕は[両手のふさがった][右手]で寮の扉を開けて自室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

そして休日。

 

「今日こそ話を聞いてくれないかい」

 

「はいはい、忙しいのでまた今度に」

 

「いつもそればかりだろう、セブルス?」

 

だって、逃げ口上考えるのもめんどくさい。今日も今日とて朝晩二回のスリザリン寮監督生のストーカーから逃げる。

 

こうやって奴が追いかけているのは、とあるグループに僕を入れたいかららしい。それは、スリザリンの良家や成績優秀者達の大半が入っていて、この寮ではメンバーで有ることが一種のステータスになっている。だけど、ぶっちゃけ変な宗教団体じみてて嫌だ。

 

一度捕まってチラシみたいなの渡されたけど、それを見たときは背筋が寒くなった程だ。 黒の紙に赤文字で書かれていたのは……

 

『高潔な血を汚させるな』

 

どこのファンタジーの悪の世界の合言葉ですか。そうでなくともこれ多分関わったら『スネイプ生』関係なしに人生ハードモードになるやつな気配がプンプンしている。

 

「君のように優秀で、探求心のあるスリザリン生を私たちは求めてるんだ」

 

ねぇよ。

 

「それに、我々の中にはもっと色々な闇の魔術に詳しい者もいる」

 

そこまで好きじゃないです。あれはママンのコレクションなんです。

 

答える気力も無く(めんどくさいだけ)僕は地下牢の道をいつものように早足で歩く。後ろのマルフォイ先輩もうだうだ言いながらついてくる。

 

仕方がなく、僕は足を止めた。すかさず、先輩が前に回り込んできた。

 

「マルフォイ先輩」

 

「ルシウス、と呼んでくれたらいい」

 

無視だ。

 

「僕の事ばかりに構っていていいのですか?先輩の幼なじみの、ブラック嬢の妹さん、最近元気ないみたいですよ」

 

「…………詳しく話してくれるかい?」

 

流石に顔から笑みが消える。僕は其を何時もの無表情で見返した。

 

「僕は小耳に挟んだだけですよ。ただ……先輩の目が離れてるうちに、別の寮の男子生徒に言い寄られているとか」

 

僕の言葉に、先輩は血相を変えると素早くその場を立ち去った。

 

やっぱり許嫁は心配なんだなぁ。あの家政略結婚的なものとか聞いているけど、原作で仲が良さそうな夫婦ってのは伊達じゃないか。何よりも愛を取った先輩を少しだけ尊敬したくなった。

 

それにしても…そういうやからは大抵はブラック嬢の氷の女王張りの冷たい視線で一掃されるってことには気付かないようだ。それも愛か。

 

 

庭に出ると外は良く晴れていた。まだ早いから人は少ないけど、これだけ天気がいいなら昼間になると賑やかになってしまうだろう。さーて、今日は何しよーかなーと背伸びをした。

 

バッと腕を下ろしてぼーっとする。やっぱり無難に日向ぼっこかな。

 

湖の近くに大きな木が立っている。その根本に横になると、木の葉で良い感じに顔に影がかかった。秋の気候と風は心地よい。昨日は雨が降ってたんだけど、スッカリ乾いている。流石イギリス、見事な乾燥具合だ

 

「せーぶーるーすー」

 

頭を起こして見ると見慣れた赤。元気で笑顔が素敵な彼女に似合うその髪が風で揺れている。僕を見つけたリリーは嬉しそうに笑いかけてくる。男冥利に尽きるとはこのことか。

 

「今日もお昼寝中?」

 

「そ。昼寝。日が当たって気持良いよ」

 

うわっ、弛い。自分でもそんなことを思った。リリーは笑って側に座り、僕はのんびりと笑う。やっぱり、日向ぼっこにしてよかった。

 

その時はまだ、そんな穏やかな気分だった。

 

 

 

 

 

「………」

 

グリフィンドールからの階段を降りる。近くを通る生徒たちのローブの紋章はあらかた獅子で、緑のネクタイをした僕は目立つ。

 

視線なんてとっくに馴れているので無視。それにしても、何で向こうは馴れないんだろ。

 

階段の移動に足留めを食らわずに一階まで降りる。玄関ホールでは、同級生のまたもやグリフィンドール生の少年二人が僕を見つけて近寄ってきた。背の高い黒髪ロン毛と顔色悪い茶髪だ。

 

「スネイプ、ジェームズの事を悪く想わないでくれ」

 

苦虫を必死に飲み込もうとするような顔で黒髪が言う。うちの先輩のブラック嬢に顔が似てるから、多分、唯一獅子寮の黒は彼なんだろう。一方、茶髪は虫を噛んでしまったかのような顔をしていた。揃って悲惨な顔だな。僕の表現が悪いだけだろうか。

 

「ジェームズだって悪気はないんだよ」

 

「もちろん無いだろうね。彼が狙ってたのはどうせ僕だから」

 

いつもの調子で答えたら、二人は揃って眉音を寄せた。

 

玄関ホールから出て湖に歩いていく僕に例の二人はついてくる。普段は僕が昼寝をしている場所には誰かが座っていて、湖面に石を投げていた。よく見る丸眼鏡少年の背中は何だか哀愁漂っている。玄関ホールからついてきた二人はその様子に顔を見合わしているようだ。

 

僕はそんな二人を置いて湖に近づく。しばらく背後から無言でながめていたけど、丸眼鏡の背中を思いっきり押してやった。

 

バッチャーン!!

 

なんか水音汚いな。さっきまで目の前にいた人影は湖の縁に座ってたんだ。まあ、落ちるわな。うん、落ちた。

 

「何するんだ!」

 

「ジェームズ!大丈夫かい!?」

 

黒と茶が騒ぎだす。丸眼鏡はバシャバシャと水の中で暴れてたけど、ようやく岸を見つけてしがみつく。目の前に立つ僕を見て何が起こったのか理解したんだろう。カッとした顔で、僕を見上げた。

 

「なにすんだよ!」

 

「何って、悪戯だけど」

 

見下ろしながらの応答だ。きっと、相当ふてぶてしい態度と言い方になってたんだろう。一瞬眼鏡が言葉に詰まった。それでも、僕に負けるのが癪に障るのか直ぐに今にも噛みついてきそうな顔をする。

 

「スニベルスのクセに生意気だぞ!」

 

「前から思ってたけど、実は名前間違ってるよ。組み分け時に聞き間違えた?」

 

「スネイプ、そこはちがうよ…」

 

「何が?」

 

茶髪が何ともいえない顔でいうから、聞き返した。でも、答えは返ってこないし黒に助けを求めるような視線を向けている。……。ホントは分かってるんだけどな。

 

「ま、いいや」と呟いて僕は湖の縁にしゃがみこんだ。

 

「確かに、僕は悪戯しなれてないからやっても顰蹙しか買わないかもね。だけど、君らはいつものことなんだから一つ二つ皆気にしないよ。もちろん、リリーだってさ」

 

丸眼鏡は少し不思議そうな顔で、僕を見た。うん、何考えてるの?

 

「悪戯して落ち込んでいる丸眼鏡なんて気持ち悪いよ」

 

「丸眼鏡言うな!」

 

「じゃ、アンティーク眼鏡」

 

「黙れ!相変わらずふざけやがって!」

 

「ふざけてないよ。僕は君の名前知らないからしょうがなく特徴で言うしかないんだ」

 

少し眉をひそめて言うと、丸眼鏡がポカンとする。ただでさえふっくらした梟に似ていた顔が、もっと似てしまった。

 

「え?ええ!?スネイプ、じゃあ、今までジェームズの名前を呼ばなかったのは…」

 

「紹介されてないから。周りの呼び方で予想はついてたけど確証ないし」

 

「もしかして、僕たちも知らないとか…?」

 

「君は茶でもう一人が黒」

 

「髪の色の区別か!?」

 

寮でもそんなのなのかと聞かれたから正直に答える。

 

「女性は失礼になるから覚えるよ。ナルシッサ・ブラック嬢とかザビニ嬢とか」

 

「お前、似合わず面食いなのか…?スリザリンの美女集団じゃないか。…俺の従姉もいる」

 

「綺麗な人には好感をもつでしょ」

 

げんなりする黒にしゃあしゃあと言った。やっぱり血縁だったか。

 

「はっ、あははははは!」

 

茶髪が突然笑い声を上げてみんなが一斉にそっちをむく。彼は腹を抱えて震えていた。喋ろうとしていたが、息が途絶え途絶えで苦しそうだ。

 

「あ、あのスネイプが…こんなにも、とぼけてて、しかも、面食いって!ずっとすかした奴だって思ってたのに!大人っぽくてカッコイイとすら思ってたんだよ」

 

何でだよ。思ったけどちょっと思い出す。大人っぽいか。だから、近所の子達は僕についてきたんだ。可哀想に……。僕の心境なんて知らず、茶髪は僕に手を差し出す。なんかまだ顔がひきつってるよ。

 

「僕の名前はリーマス・ルーピンだよ。もう茶色なんていわないでね」

 

「セブルス・スネイプ」

 

そんなに嫌だった?と聞くと苦笑された。軽く握手して放すと、今度は黒が頭を掻きながら僕に近寄る。

 

「シリウス・ブラックだ。ちっ、調子狂うな」

 

「オーケー。ブラック(黒)ね」

 

「シリウスとよんでくれ」

 

握手しながら目が頭に行っていたのに気付いたみたいだ。残念。

 

「な、なに呑気に自己紹介なんてしてるんだよ!」

 

声に視線を下げると一人蚊帳の外と言うか水の中の眼鏡がガタガタ震えていた。もう泳げるような季節ではない。やっぱり寒いのか、唇が紫になっている。

 

前に落ちたとき、僕はもっと平気だったんだけとなぁ。あの日は特別暖かかったってことなのかな。見てるだけでこちらも少し寒くなった。

 

僕は、そんな彼に手を伸ばした。

 

「君の友達と自己紹介しちゃったし。それに、折角、悪戯をし合うようになった仲だからさ、名前教えてよ」

 

眼鏡は僕の手を睨み付けていたけど、そのうち僕の顔に視線を移した。

 

「ジェームズ・ポッター…」

 

口を尖らせながら小声で、目を逸らせて僕の手を握る。その一瞬後、ニヤリと笑った。

 

ドボーンっ!

 

頭から入ったから変な音を立てて僕が湖に落ちる。体を回転させて水面に顔を出すと、ニヤニヤしている顔が見えた。

 

「やった!とうとう喰らわせてやっ……ぷはっ!!」

 

言い終わらないうちに顔に水を掛けてやる。水遊びは僕の方がよっぽど得意な筈だからそれなりにダメージは大きいはずだ。口に入ったのが気管にも通りかけたのだろう。噎せていた。

 

「ゲホッ、やったなぁ!……うわっ!」

 

「秘技、目潰し」

 

ただの水鉄砲である。

 

「なんで足着かないのに両手使えるんだよ!ずるいぞ!」

 

「近所の子供たちを手なづけるにはどこまでも卑怯な技術を身に付けないといけないんだよ…」

 

子供の集団の恐ろしさはやばいからな。油断するとズボン引っ張り降ろされる。それでも僕は少年漫画の絶対破れないズボン並みに尊厳を守り続けた強者なんだ。

 

「コイツがスリザリンにいる理由が、いま良くわかった…」

 

黒ことシリウスが頭が痛そうに額をおさえた。リーマスとシリウスは呆れながら笑い、湖で攻防戦を繰り広げる僕たちの前にしゃがみこむ。

 

「二人とも、早く上がらないと風邪引くよ」

 

「雨も降りそうだしな」

 

親切な二人の言葉に、僕たちも休戦する。何故か良いタイミングで目が合い、心も通じ合った。

 

「うりゃっ!」

「よっと!」

 

「うをっ!?」

「わっ!?」

 

重なる掛け声と悲鳴。僕たちをかこんで二つ上がる水柱。ナイス、コンビネーションだ。

 

「よく息あったよね」

 

「僕だってビックリだ」

 

まるで親友の様に二人でパシンと手を叩く。僕らは爽やかに笑って、浮き上がってくるリーマスとシリウスを迎えてあげた。

 

 

翌日、ジェームズはリリーにちゃんと謝ったということを聞いた。余談になるが、四人で散々秋の水遊びを楽しんだ僕らの中で、なぜか僕とジェームズだけが風邪をひかなかった。

 

 

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