転生したらセブルス・スネイプだった   作:ねば

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災いはハロウィーンにやってくる

「クィーリナース、クィレルクィレルクィレルクィレルクィレ──」

 

「なっ、なななななななんだい!?」

 

「噛むまで呼んでみた」

 

舌が回りにくい言葉にこそ挑戦してみたいのは私だけだろうか。

人の名前こそ上手く言えるようになるべきだからな!

 

「酒を飲もうっ!!」

 

「きゅ、急な、話だねっ」

 

「君の部屋でっ!」

 

「急すぎるよっ!」

 

廊下で引き留め、話を進めていく私にクィリナスは思わず突っ込みを入れていた。どことなく昔を思い出す掛け合いに私はにんまりする……が、表情には兆候皆無である。私の勢いに押された(らしい)クィリナスは指を弄びながらちらちら見てくる。

 

「わ、悪いけど…私、私は、酒を絶っていてね…」

 

「そうか!では私が君の変飲をなおしてやろう」

 

「何がなんでも、来る気なのかい!?」

 

突っ込み二度目である。私は腕を組んでゆっくりと大きく頷いてみせた。

 

「今晩は君の部屋で飲む気分なんだ。一度決めた決意はなかなか変えられるものじゃないんだぞ、クィリナス」

 

「せめて、わ、私の、意見も、聞いてほしい……」

 

クィリナスがボソボソ言う背中をベベベベベッと軽く連打する。そこまでは面白おかしく私は振る舞っていたのだが、ふざけるのをやめた。突然真顔になってみたんだが、残念ながらその表情の変化に気付けるものなど皆無だろう。

 

「クィリナス、いったい君に何があったんだ?」

 

表情を変えても分からないであろう為、声を低めて言ってみた。途端、クィリナスはきょろきょろおどおどするのとは別に驚いたような顔をする。

 

「セ、セブルス?」

 

「頭のいい君が、バンパイアごときでこんなことになるわけがあるまい」

 

真っ直ぐ私が見据える前で、クィリナスの喉元が上下する。唾を飲み、見開いた目で私を見た後、目線を逸らせた。

 

「…油断を、して、しまったんだ。私、私は自惚れて、侮ってしまった」

 

「そうか…」

 

深く聞くことはせず、頷いておいた。

 

「本当はまだ療養が必要だろうに、校長が無理を言ったんだろう。まったく。すぐ想像がつく」

 

「引き留めてしまって悪かった」と軽い調子で謝ると、クィリナスはほっとしたような顔をした。

 

「…今日は、まだ、し、仕事があるんだ…。また今度、よかったら、お茶でも飲みに来ないか?」

 

「いいのか?それでは是非に」

 

喜んだ声色でいうと、クィリナスはかすかに微笑んだようだった。

 

「私も、君と話しておきたいことがあるんだ」

 

すんなりと言われた言葉は、クィリナスのものとしては不自然である。それに気付かないふりをしたまま、私は能天気に喜んで別れの挨拶を言った。

 

 

 

 

さて、クィリナスのことは一先ずさておき、件のハロウィーンがやってきてしまった。ハロウィーン。正式名称Halloween night。「諸聖人の日(万聖節)」の前夜である。

 

本来は五月のイベントであるのだが、ケルト系にカトリックを広める際、収穫祭のある秋にいっしょくたにされたというわけだ。幽霊がうろうろするやら、イギリスでは花火をとばしまくるやら様々な話を聞くが、私の中ではアメリカの楽しそうな催しが日本に入ってきた調子のイメージが強い。つまり、コスプレしてカツアゲする行事である。ホグワーツ内ではどちらかと言えば収穫祭の色が強いがな。

 

コウモリとかぼちゃと蝋燭と御馳走。その中から真っ赤なリンゴ飴を取り出し、食事の順番も関係なく齧る。

 

私の個人的な話になるが、好きなものが何だと言われて食べ物で答えるならばリンゴ飴だ。シャクシャクとしたリンゴと、カリカリとしたべっ甲飴の層を同時に齧ったときの食感は他にはない。さっぱりとした果実の酸味と飴の甘みの組み合わせも秀逸な上、熱した飴に振れたリンゴの表皮は芳香も最高である。

 

こんなにうまい物なのに、どうしてどこの地域も祭りでしか食べられないのだろうか。そんなわけで、リンゴ飴を一つ咥えたままで私は何個か持ち帰るために拝借していた。

 

一通り作業が終わり、手元のリンゴ飴にかぶりつく。硬い飴とリンゴの果汁が口の中に入り込む。バリシャリバリシャリと口を動かしていると、大広間に飛び込んでくる人間が真っ先に見えた。その人物はターバンがわずかにずれて、顔を引き攣らせ、生徒テーブルの間を走り抜け教員テーブルにたどり着く。イギリスの魔法学校でターバンをしている同僚など一人いれば十分である。クィリナスはダンブルドアの前まで行き、テーブルにしがみついた。

 

「トロールが…地下室に…お知らせしなくてはと思って」

 

その場で気を失った。一瞬の静寂。そして、混乱の騒ぎ。リンゴをもう一口。

 

私がバリモシャアとリンゴ飴を齧っている間に校長が杖から出した爆竹を何度か鳴らせ、大広間を静かにさせる。

 

「監督生よ。すぐさま自分の生徒を引率して寮に帰るように」

 

リンゴ飴を齧ろうとし、一瞬ためらった。直後、校長に注目するための沈黙が再び小さなざわめきに飲まれ、ようやく次の一口にありつける。各寮の監督生たちが声を張り上げて指示をする中、一瞬だけダンブルドアの視線がこちらに向いた。ちらっと見たというわけではなく、明らかに意味を含んだものを受けて立ち上がる。リンゴ飴は持ったまま、私は校長の考えを察してそっと大広間を後にした。

 

こうやって直接的なイベントに関わって来ると「ハリー・ポッター」の世界を実感してくる。四階右側の廊下を目指しつつも年甲斐なく私はウキウキわくわくしていた。実際の任務は全然楽しくはないのだが。

 

走っていた歩調を緩め、早足へと変える。この場面は細かい描写が原作でなかったために、ヒントが少ない。とりあえず、私、セブルス・スネイプがすべきことはこのチャンスでクィリナスが賢者の石を取りにいかないように、しかし警戒相手がクィリナスだけとは限らないゆえに四階に行くというのだろう。

 

…いったい何がいたのだったか。トリカブトは覚えているのだがな、トリカブトは。──

この記憶、最初の授業じゃないのか?

 

途中掃除用具入れの前を通ったため、モップを一本拝借して先っぽの床を拭く部分を蹴り壊して外した。フィルチには悪いが、私の場合は学生時代から魔法<物理のところがあるので得物があった方が個人的には安心感があるのだ。後でちゃんと直してはおく。

 

左手に棒、右手にリンゴ飴を持ったまま階段を颯爽と上る。三階…四階…。人気のない廊下に足を踏み出すと、勝手に燭台の炎がともる。リンゴ飴を一口齧り、棒を持つ左手に一緒に持った。右手では杖を抜く。

 

人の気配はない。と言っても私の感覚は常人並みだ。息を潜めている人間まであぶりだせるような特技などありはしない。足音を立てずに、例の部屋の扉まで歩く。燭台にも魔法をかけ、誰かに私のいることを悟られないようにした。僅かに窓から入る外の明かりの光で進む。晦近くの月は昇るのが遅いため、月光は当てにならない。

 

暗闇の中、気配を出さない移動などお手のものだ。忍者の末裔の国日本を舐めるんじゃないぞ。冗談だが。ここまで慎重に動いておきながらリンゴを齧るわけにはいかず、表面の飴を歯で引っ掛けて最小限の音だけで割った。べっ甲飴が口に入る。

 

僅かな靴音。力を抜いていた体を起し、相手を待ち伏せる。

 

まだ早い。

 

ゆっくりとこちらに向かっている。躊躇いは無いが警戒した足取りだ。

 

そして、衣服のこすれる音。今だ。

 

「せ、セブルス!?」

 

「やあ、クィリナス」

 

突如杖明かりをつけて姿を現した私に、クィリナスは驚いて一歩後退った。一瞬表情に苛立ちが垣間見えたが、それを素早く驚きに塗り替える。優秀だ。

 

「君が、どうしてここに?」

 

「混乱の最中、ここが心配になってしまってな。君はもう大丈夫か?」

 

「え?」

 

「さっき気を失ってしまっただろう」

 

私の問いかけに、クィリナスはこくこくと落ち着きなくうなずいた。普通ならば嘘くさいものだが、彼の普段の振る舞いからならば違和感ない。

 

「ああ、ああ。目が覚めたら誰もいなくなってしまっていたんだ。教員は、きっと、トロールにもう行っているだろうと思って…、わ、私も、ここが、心配になって…」

 

「さすがは『闇の魔術に対する防衛術』の先生だ」

 

さらっと言葉を返して、リンゴを齧る。私の本日の任務はここまでだ。これ以上深入りしなくていいだろう。

 

「クィリナスはあちらから。私がこちらから来て何もないというのならば大丈夫だろう。そろそろトロールが見つかってもおかしくない頃合いだ。そちらの手助けに行かねば」

 

さあ、行こう、よし行こう。そんな私に関わらず、クィリナスはちらちらと扉を見ていた。

 

「なあ、セブルス?も、もしかしたら、先に入ってしまった、とかじゃ、ないだろうか?」

 

「ん?」

 

「トロールを入れた、は、犯人が、侵入者だと、し、したら、すでに、ここに入ってしまっているかも」

 

なるほど、そう来たか。

 

「だ、だから、少しでも、中を覗いて、異常がないかだけでも、見ておいたほうが…」

 

「心配性だな。だが、もっともだ」

 

そのような言われ方をすれば断る理由はなかった。

 

「しかし、最初の試練を用意したのはハグリッドだぞ。開けた先にドラゴンやマンティコア、人喰い蜘蛛がいることだって十分に考えられる」

 

「で、でも、倒されてしまっていればもっと問題じゃ、ないかい?」

 

全くもってその通りである。

 

「じゃ、わ、私がひ、開く…か、から」

 

怯えようがまた酷くなり、嫌な予感がした。普通の人間ならば、こんな危なっかしい人間に重要なことをさせない。つまり、彼は私に危険な役目を上手く押し付けようとしている。そして、私は疑いがばれないように押し付けられなければならない。なんてこった。

 

「クィリナス、君は鍵を開けてくれ。私が扉を開こう」

 

クィリナスは頷き、杖をギュッと握った。隙あらばそれが自分に向けられる気がしてぞっとする。…唐突に、原作スネイプ先生ならばすべて自分一人でやったのだろうと考えついた。

 

「で、では、行くよ」

 

クィリナスが鍵穴に向かって杖をふる。カチャリと金属のはずれる音がした。それに合わせて扉をパッと開く。

 

──部屋の中、どう見ても戦闘態勢の超巨大な犬と目が合った。

 

なるほど、だからトリカブトだったのか。ギリシャ神話の冥府の番犬ケルベロスが地上に初めて出た時に落ちた唾液がトリカブトに姿を変えたと言われている。だったらさっさと思い出せ、自分!

 

「ひ、ひぃ!!」

 

クィリナスは悲鳴をあげると、無意識ですっという雰囲気を前面に出しながら、わずかに私を楯にしつつ、さらにバランスさえ崩していき自分はそのまま逃げ去った。ということで、現在の私は突如ピンチに立たされることになる。あ、飛びかかってきた。

 

トリカブトの花言葉であり、ケルベロスの性質。それは人嫌い。

 

真ん中の顔が迫ってくるのを何とか両手で押さえた棒で阻止する。左側の顔も同じく牙をむき出して吠えていた。共有した左足が棒を退けようと動く。猫でなくて感謝した。犬の爪は獲物を狩る武器でないため、たいして危険ではない。しかし、二つの顔に狙われているため、隙が付けない。

 

……ちょっとまて、これは三頭犬だ。

 

左にばかり向っていた視線を右にする。先ほどまで私が食べていた、半分残ったリンゴ飴が床に落ちており、それを一頭が興味深そうにフンフンと鼻を鳴らしながら見ていた。だが、二頭が私に向かっているために食べられないのだ。

 

──なるほど、そういうことか。

 

二頭に向けていた顔をわざと下のリンゴ飴にむけた。つられ、正面の顔は右下を見る。その目線の下にはもちろんリンゴ飴。

 

冥府の王、ハデスの飼い犬ケルベロス。

弱点はオルフェウスの音楽と、エロスの甘いお菓子。

 

二匹の視線が集まるリンゴ飴を、思いっきり奥へと蹴り飛ばした。

 

大好物の菓子を前にした冥府の番犬はそれをすぐにそれを追いかける。が、気付くのが遅かった最後の一頭は大嫌いな人間である私に向かってきた。退こうとした私に食いつこうとし、左腕に牙が当たる。そして、他の頭に引っ張られて部屋の奥へと走って行く。

 

折角の隙だ。すぐに扉を閉め、鍵をかけた。閉めたばかりの扉に背をぴったりとくっつけ、乱れてもいない息を整える。

 

「『ケルベロスにパンを与える』とは言うがな…まさかリンゴ飴を与えることになるとは……」

 

ギリシャ神話ががっつりヒントになっているじゃないか、この部屋の突破口!後々にめんどくさい手段によって解決方法を探す者たちに心の中で盛大に突込みを入れてしまうのであった。

 

 

さて、私の任務は終わったとしても、役割が終わったわけではない。次に向かうべきはトロールがいるはずのトイレだ。恐怖体験をしたせいで強張り気味の足を無理やり動かす。物語の中ではポッターたち三人でどうにかしてしまうのだが、これはあくまで本ではなく現実だ。主人公補正~などと楽観的に見て痛い目にあってはたまらない。

 

そもそも彼らはまだ11歳だぞ?そんな子供に怪物ぶつけようとするなんて危なっかしい。幸い、私は目的地を知っている上、原作と違って怪我をしたのは足ではなく腕だ。移動に時間はあまりかからないだろう。

 

間に合わねばとの一心で来た道を戻る。突如、何十もの陶器の割れるような破壊音と、明らかに人間ではない生き物の咆哮が聞こえさらに足を速めた。ようやく目的地にたどり着き、トイレに飛び込んだところで足を止めてしまった。

 

まず目に飛び込んでくるのは暴れるトロールの巨体。その首根っこに小柄な少年がしがみつき、今にも振り落とされそうだ。奥では少女が恐怖のために顔を覆って座り込んでいる。そして、三人目の少年は背を向け、目の前でトロールに向かった杖を振ったところだった。

 

「ウィンガ―ディアム レビオーサ!」

 

トロールが振りかぶった棍棒がすっぽ抜けて空中で止まる。このあと、何が起こるか想像することはアニメ等に親しんだものならば容易だろう。ハッとし、すぐさま杖をトロールの首元に向けた。危機一髪。棍棒がトロールの頭に落ちる前にトロールにくっついていた少年を回収できた。

 

背中から落ちてきたハリーを受け止めると、左腕に激痛が走る。怪我の事をすっかり忘れていた。

 

「せ、先生!?」

 

「……大丈夫か?」

 

ちなみに私はめちゃくちゃに腕が痛い。顔を上げると、棍棒がトロールの脳天にヒットしたところだった。

 

「気をつけろ!」

 

杖を振り上げたまま固まってしまっている赤毛のウィーズリー少年に声を張り上げる。目を回してふらふらしていたトロールは、その彼の真横に倒れ床を振動させた。

 

ハリーを立たせ、倒れたトロールに歩み寄る。慌てていたために気にしていなかったが、酷い臭いだ。巨大な顔を覗きこんでみると鼻に棒を突っ込んでアホ面で気絶している。すぐに目を覚ますことはないだろう。確認が終わり、奥で座り込んでいるハーマイオニーに手を差し出す。彼女を立たせた頃、バタバタと人が走る音が近づいて来て、入口の方を向くとマクゴナガル副校長が駆け込んできた。

 

部屋の状態を一目見た途端、副校長は一瞬驚いたものの、唇を引き縛り険しい眉をする。

遅れてクィリナスが部屋にたどり着いたが、トロールを見た途端に小さな悲鳴を上げてへなへなとその場に腰を抜かしてしまった。

 

「スネイプ先生、いったいこれは?」

 

「この子たちが倒してしまったようです」

 

悪いな、子どもたち。弁明はさすがに面倒臭かったのだ。腕がまだ痛いので勘弁してくれ。私は左腕の怪我をローブで隠すので精いっぱいだ。

 

「いったい全体あなた方はどういうつもりなんですか!」

 

マクゴナガル先生のお説教は子どもたちに向かう。声の調子からして副校長はかなり怒っていた。自分の寮の生徒、しかも一年生のためにさらに心配だったに違いない。つくづく私はグリフィンドールでなくてよかった。こんなことが起きれば心臓止まりそうな思いがしそうなものである。

 

「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべきあなたたちがどうしてここにいるんですか?」

 

ハリーとロンが俯いてしまう。頑張って説明していただきたいと思っているうちに、そばにいたハーマイオニーが小さな声でマクゴナガル先生に呼びかけた。

 

「二人とも、私を探しに来たんです。私…、私一人でトロールを倒せると思って…。もし二人が私を見つけてくれなかったら、今頃死んでいました」

 

そしてハーマイオニーは何が起こったのか、二人が人を呼ぶ暇がなかったことを伝えた。それにしても、鼻に棒が入るって聞くだけで痛そうだな。

 

トロールの鼻からハリーのものらしい杖を引っこ抜く。先に粘り気のある嫌な物体がへばりついていたため、トロールが身に着けている布で拭い取った。マクゴナガル先生に向いていたハリーの肩を叩いて気付かせ、杖を返す。マクゴナガル先生はハーマイオニーに5点減点を告げ、寮に帰したところだった。

 

「先ほども言いましたが、あなたたちは運がよかった」

 

ハリーとロンに向き直り、副校長が言う。

 

「でも、大人の野生のトロールと対決できる一年生はそうはいません。一人5点ずつあげましょう。ダンブルドア先生に報告しておきます。帰ってよろしい」

 

「…私が途中まで送りましょう。他の先生方にもトロールが見つかったと伝えねば」

 

私の申し出にマクゴナガル先生は一瞬疑いの目を向けたが、それが呆れたものになる。お願いします。との言葉を受け、私は悪臭漂う部屋からまんまと逃げだすことに成功した。

 

「ここまででいいだろう」

 

二階分上の階に来た時に、それまで無言で同行していた生徒に話しかける。あどけない二つの顔が見上げてきた。無表情&無口の朴念仁がなぜかついて来てしまったのだ。やりにくいに違いない。

 

二人の表情からそれが読み取れてしまって私は半ばがっかりしながら懐に手を入れた。

 

「ろくに夕食を取れぬまま大変な目にあったのだ。腹が減っているだろう」

 

取り出したのは飴の部分を包んだリンゴ飴である。本日私の命を救った、本当はかえって食べるはずだった大好物を渡した。予想通り腹は減っていたらしく、受け取る二人の目がわずかに輝く。グリフィンドール寮はかなりの上階にあるため、戻りながら食べるとちょうどいいはずだ。

 

「それと、ミス・グレンジャーにも」

 

三つ目の飴をロンに渡す。これで仲直りでもしろ。

 

「あの、スネイプ先生」

 

ハリーに呼びかけられてそっちを向く。……ジェームズの顔とリリーの目。スズキさんメガネ。見ていて何とも複雑な心境になる顔だ。

 

彼にとって私は授業程度しか会わない愛想無い教員のはずだが、リンゴ飴を与えたことがわずかに親しみをもたらせたらしい。

 

「ハーマイオニーを探している時に見たんですが…どうして他の先生みたいに地下室に行かなかったのですか?」

 

………………見られていたのか。

 

「…君には関係のない事だ」

 

一瞬どう答えたものかと考えたが、どうせボロが出るのでやめた。彼らの中で私の評価は再び、接し辛い教師という認識になったに違いない。まあ、教師なのだから少々怖がられるぐらいがちょうどいいだろう。

 

「このまま真っ直ぐ寮に帰るのだぞ」

 

淡々と別れの挨拶を最後に述べ、私は二人の生徒に背を向けて階段を下りて行った。

 

 

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