東京、香港、シンガポール……そしていよいよインドを横断するという時、ジョセフさんはアヴドゥルさんにこれからのことが心配だと言った。
「あ、典明」
「なんだい?」
「財布、スられないようにね」
「なら、キミの異空間内にしまっておいてもらえるかい?」
「典明がいいなら、どうぞ。皆さんも貴重品しまっときます?」
「自分のスタンドをロッカーみたいに使ってんじゃあねぇぜ、ったく…」
そうは言ってもエスケイプも乗り気だしなぁ。
ルンルンとどこか嬉しそうにそれぞれの貴重品を預かりすうっと消えていくエスケイプ。頼りにされるのが嬉しいのかな?
列車から降り、カルカッタに上陸すると私たちに街の人が群がり、一気に気力が削がれていく。
人をかき分け、ホテルに着く。
ホテルにあるレストランについてからやっと一息つくことが出来た。
「チャーイです。美味しいですよ」
「うん、美味しいですね……ほっとする」
「やっと落ち着いたわい…」
「要は慣れですよ。慣れればこの国の懐の深さが分かります」
「中々気に入った、いい所だぜ」
「マジか承太郎! マジに言ってんのお前!」
メニューを見る典明の手元を飲みながら再びチャーイを飲む。
そろそろポルナレフの妹の仇が現れるわけだけど……私はどう行動するべきかな。
ちょっと危ないけれど、アヴドゥルさんの代わりになった方がいいかな。一時離脱したアヴドゥルさんが合流するまで、怪我はあれど誰かが大きな犠牲を受けることはなかったはずだし……。
でももし私がしくじったらそのまま死ぬ可能性だって十分にあるわけだから……
「遥花? ずっと黙っているけれど、大丈夫かい?」
「体調でも崩したか?」
「ううん、考え事…」
カップに入ったチャーイを飲み干した時、いつの間にか注文していた料理が運ばれていく。
料理を食べるけれど、どうも味がしないように感じる。柄にもなく緊張を、してるんだろうか。
鏡が割れる音がした後、足音ともに私たちの方にポルナレフが走ってくる。
「スタンド! 本体はどいつだ!? どの野郎だ!」
〇 〇 〇
ポルナレフがトイレの方から神妙な顔つきで戻ってくると、遥花が料理を食べていた手を止め、ポルナレフの後を追った。
「この人の数、クッソ……」
「ポルナレフ」
「どうした、ポルナレフ」
「何事だ」
「今のが…今のがスタンドだとしたなら、ついに…ついに奴が来たぜ! 承太郎、お前が聞いた鏡を使うというスタンド使いが来た! 俺の妹を殺したドブ野郎! ついに会えるぜ!」
怒りで拳を震わせるポルナレフを見る遥花の目が、どこか覚悟を決めたようなものに変わっているのに承太郎は気づいていた。
「お前の仇がここに…」
「ジョースターさん、俺はここであんた達とは別行動をとらせてもらうぜ。妹の仇がこの近くにいるとわかった以上、もうあの野郎が襲ってくるのを待ちはしねえぜ。敵の攻撃を受けるのは不利だし、俺の性に合わねえ。こっちから捜し出してブッ殺す!!」
「相手の顔も、スタンドの正体もよくわからないのにか?」
「両腕とも右手とわかっていれば十分。それに奴の方も俺が追っているのを知っている、奴も俺に寝首を掻かれねえか心配のはずだぜ。じゃあな」
遥花は、静かに自分を落ち着けるように呼吸を繰り返していながらただジッとやり取りを見つめていた。
「こいつはミイラ取りがミイラになるな。ポルナレフ、別行動は許さんぞ!」
「なんだと、おめえ俺が負けるとでも?」
「ああ! そうだ! 敵は今、お前を1人にするためにわざと攻撃をしていたのが分からんのか!」
「いいか、ここではっきりさせておく。俺は元々DIOなんてどうでもいいのさ。香港で俺は復讐のために行動を共にすると断ったはずだぜ。ジョースターさんだって、承太郎だって承知のはずだぜ。俺は最初からひとりさ。ひとりで戦っていたのさ」
「……勝手な男だ! DIOに洗脳されたのを忘れたのか! DIOがすべての元凶だということを忘れたのかッ!」
「テメエに妹を殺された俺の気持ちが分かってたまるかッ!! 以前DIOに出会ったとき、恐ろしくて逃げだしたそうだなッ! そんな腰抜けに俺の気持ちはわからねぇだろうがよォ!」
ポルナレフがくるりと一向に背を向ける。
「俺に触るな。香港では確かに遥花に後れを取ったが、テメエに説教されるいわれはねぇぜ」
「貴様!」
「ほぉ~~~~、プッツンくるかい! だがな、俺は今のテメエ以上にもっと怒ってることを忘れるな。あんたはいつもの様に大人ぶってどんと構えとれや! アヴドゥル!」
「! ……こいつッ」
「アヴドゥル、もういいやめろ。行かせてやろう。こうなっては誰にも彼を止めることはできん」
「いえ…彼に対して幻滅しただけです。あんな男だとは思わなかった」
アヴドゥルが目線を落とした時、遥花がポルナレフの後を追いかけてから、ジョセフらの方に振り返る。
「私、ポルナレフと一緒に行きます」
「な、なんじゃと!?」
「ポルナレフをあのまま1人で放っておくのは危険です。復讐を見届けたら必ず連れて帰りますから。それこそ首に縄かけてでも連れて帰ってやりますよ」
「遥花! それじゃあキミが危ないぞ!」
「だぁいじょうぶだって、いざとなったらエスケイプで逃げるから」
「ハル、これはアイツの問題だ。深く立ち入るのはお節介だぜ」
「承太郎、私は大丈夫だから」
「……やれやれだぜ。ポルナレフもそうだが、テメェもやるといったらやるタイプだったな」
遥花はありがとうとお礼を言ってから承太郎にハグをした。
「それじゃあ行ってきます」
強い目をした、遥花の表情。これまでの彼女の戦績を考えると、ものすごく心配、ということにはならないが自分たちから背を向ける瞬間、承太郎にだけは見えたのだ。
遥花の手が恐怖心のようなもので震えていることに。
「ハルッ!」
名前を呼んでももう走り去ってしまい、すでに声は聞こえない距離に…いや、もう遥花は自分にかけられる言葉を無視して進んでいた。
「どうしたんじゃ承太郎」
「嫌な予感がするぜ…」