「…………う、うぅ」
「ハル!」
「じょう、たろう? ここは…?」
「無理に喋るな、遥花。ここはスピードワゴン財団の闇病院じゃ。お前は敵のスタンド使いに撃たれて倒れたのだ」
ジョセフにそう言われた遥花が、自身の頭や体に巻かれた包帯をぺたぺたと触る。
ホル・ホースのスタンド、エンペラーの弾丸に撃たれた遥花だったが、背中を刺された際に体がのけ反り、額の肉をえぐっただけで済んだようだった。だが、念のために包帯は巻かれている。
「…助かったのは良かったが、額に抉れた弾痕が残ってしまった。旅が終わったらスピードワゴン財団の総力をかけて必ずその傷を消してやるからな」
「そう、ですか。私助かったんだ。ポルナレフは? 無事なんですか?」
「こらこらまだ動くな。傷が開くぞ、大丈夫じゃ、さっき花京院から連絡があった。無事に仇を討ったそうだ」
「そうですか……」
自分が生死を彷徨ったというのに他人の心配をする遥花を見て、一同は呆れ交じりのため息を吐いた。
「すまない遥花。私がポルナレフを強引にでも止めていればキミがこんな傷を負うこともなかったのに…」
「ポルナレフを追うと言い出したのは私ですし、アヴドゥルさんは何も悪くないですよ」
「全くだ。ハル、俺がここまで肝を冷やしたのは何年振りかわからんぞ」
「ごめんね、承太郎」
「無事でほっとしたぜ」
「……さて、ここからが本題だが、ここから先君が同行するかどうかについてだ。傷はまだ癒えておらん。下手に動けば傷口が開いてしまうじゃろう。完治には少なくとも1週間はかかる。だが敵は君が死んだものと思っているだろう。今なら旅をやめて日本に戻ってももう君が襲われることがないだろう」
「途中リタイア、ですか?」
「ああ、そうなってしまう。もちろん、同行してくれるのならば心強い。だが、今回のような危険なこともあるだろう。だからこそ君自身に選んでほしい。まだこの旅に一緒に着いてきてくれるか?」
「私は…同じヘマを二度もしません。旅を続けますよ」
ジョセフは遥花に礼の言葉を述べてから頭をわしゃわしゃと撫でると、遥花は照れ臭そうに笑った。
「だが、DIOの刺客たちは遥花が死んだものと思っているだろう。これを利用して我々がエジプトに行くために必要な準備を遥花に任せることはできませんか?」
「うむ、それはいい考えじゃ。そうすれば我々が周囲を巻き込む危険を冒してまでわざわざ公共の交通機関を使わなくても済む」
「それだけならスピードワゴン財団に任せれば手配してくれるのでは?」
「いや、スピードワゴン財団が下手に動けば逆に我々の居場所を教えてしまうことになる。敵も必ずチェックしているだろうからな。しかも財団の人間にはスタンドが見えない」
「スタンド使いでなければ逆に危険だと……確かに、それなら今、死人である私が動くのが適任ということですか」
ジョセフがコクリと頷く。お金などはスピードワゴン財団が用意するらしく、遥花がやることはアラブで日本の大金持ちを装って『あるもの』を買ってくるというおつかいであった。
「あるもの、ですか」
「ふっふっふ、『潜水艦』じゃよ! それも小型でパワー満タンのやつをな。いくらスタンド使いでも海底までは追ってこれん。そいつを使って海からエジプトに入る!」
そう言ったのを聞いて、遥花の脳内に1人のスタンド使いが思い浮かんだが、その存在を指摘しては面倒なことになると思い、口をつぐんだ。
「どうだ? 頼まれてくるか?」
「わかりました。どちらにしろ傷が治るまでは動けないし、みんなには先を急いでもらわないと」
「ありがとう、頼んだぞ。それと万が一の場合も考えて後ろにいるスピードワゴン財団の戦闘員を護衛についていってもらおう」
「ガラハドです。よろしくお願いします、遥花さん」
「ミリアムよ。よろしくね遥花さん」
「はい。よろしく、です」
「ジジイ、少し遥花と2人で話がしたい」
「わかった。わしらはもう外に出ておるからな」
病室に承太郎と遥花を残して全員が外に出る。
「それで、話ってなぁに? 承太郎」
「いや、大した話じゃあねぇがな。さっきも言ったが、お前が死んでいるのを見て柄にもなく焦ったぜ」
「気絶してる私の体揺さぶりでもしたの? 記憶ないからわかんないけど」
「流石に血塗れの奴を揺さぶりなんざしねえぜ」
「本当かな」
遥花がくすくすと笑ったのを見て承太郎はふっと口元を緩ませる。
承太郎が遥花の頭を撫で、そして額を合わせるふりをする。
「あれ、合わせてくれないの?」
「怪我してるだろうが」
「ああそうだった。小さいときお母さんが教えてくれたおまじない、まさか承太郎からしてくれるとは思ってなかったかも」
「それじゃあ俺はそろそろジジイのところに戻るぜ」
「うん。行ってらっしゃい承太郎」
病室にいる、幼馴染という関係にある2人は静かに笑い、そして承太郎が病室から出ていく。
「さて、少しでも体が万全な状態に戻るように呼吸しなければ」