——そして1週間が過ぎ、額の怪我が完治した私は無事退院した。
「病院内で体は動かしていたけれど、やっぱり鈍っているかも……援護、頼みますね」
「承知しました」
「任せてちょうだい!」
「さてと、で、ジョセフさんから持たされたのは大金と……物騒な武器を沢山……普通じゃないにしろ、おつかいにこんなものを持たせるなんて、過保護というか、心配性というか…」
「まあ傍から見ればあなたはただの女の子だもの。仕方ないわ」
それよりもここからが未知の世界すぎてどう行動するべきか迷ってしまうな…。
「ひとまず港町に向かいましょう。そこから飛行機に乗って目的の場所へ行きます」
「それはいいんですけど、どうもこの格好、動きづらいですね…」
控えめなスリットが入ったタイトな黒のドレスに白のショール……これらにヘアセット、加えてネックレスやらの装飾品をつけると女子高校生でもそれなりにみえるんだよね……。
反対に私の護衛という財団員の2人はSPのような恰好をしている。いいなぁ、私よりずっと動きやすそう。
「すみません、我慢してください…」
「恰好から入るのも大事よ」
「まあ、それもそっか。まあ成りきるのは得意ですから任せてくださいよ」
ふふん、と笑ってみせると財団員である2人もつられるように笑った。
港町までは、ガラハドさんの運転で向かうこととなった。
港町に着いてから、スピードワゴン財団の飛行機に乗り込みアラブへ向けて出発する。
〇 〇 〇
一行はアラブの大富豪、チャーリー・リッチの屋敷を訪れた。
「ふむ……なるほど、小型でパワフルな潜水艦ね…。もちろんご用意できますよ」
「本当ですか? 助かります、どこを探しても私の条件に合う潜水艦が見つからなくてほとほと困り果てていたところなんです」
「ほお、そうなのですか? この辺の裕福な人なら誰かしら手配できそうですが」
「どっかの大富豪が何の気まぐれかは知りませんが、そこらじゅうの潜水艦を買い占めてしまったらしくて……。それで、お値段はどれくらいでしょうか?」
「いやいや、お金なんて要りませんよ。有り余って困っているぐらいなんでね」
「まさかタダでくれるとでも言うんですか?」
「ええ、差し上げましょう。この屋敷の地下に泊めてありますから自由に使ってください」
「……潜水艦を買いに来た人間の分際で失礼なことを申します。何を企んでいるのですか?」
「いえ、何も? 私も道楽で買って使ってない代物ですから」
チャーリー・リッチはここで不敵な笑みを浮かべ、言った。
「"無事に潜水艦まで辿り着けたら"の話ですが……」
「…どういうこと」
「そのままの意味ですよ。なに、これも金持ちの道楽みたいなもんでね。こう金が余ってると何でも手に入る成果どうにも生活に張りというものがなくて…だから退屈しのぎのこうしてゲームをしているんですよ。ふふふ」
だからって金持ちのために道化を演じるつもりは甚だないのだけど…?
少々癪に障る言い方をするチャーリー・リッチは、今私たちがいる屋敷に仕掛けをしたらしい。脱出ゲームのようなものだろうか。
いや、きっとそんな簡単な話ではないのだろう。
「頑張って捜し出してみてください。ふふふ」
「ミスター・チャーリー、申し訳ありませんが我々には時間がない。大至急潜水艦が必要なのです」
「ほう、それは大変だ…それじゃあ急いで潜水艦を探して乗り込まないと」
バカにされているようで心底ムカつく。何発か殴ってしまいたい気持ちをグッと堪える。
「わかった、あんたはこう言いたいんでしょう。私をいくら脅したところで潜水艦は手に入らないからさっさと探しに行けと」
「遥花さんっ」
「ふふふ、そうですねえ。それに私はただの…」
チャーリー・リッチがそこまで言いかけた時、彼の背後の暗がりから手が伸びる。それは人間の手というにはあまりにもボロボロで、そして腐敗した臭いが鼻をツンとついた。
「ッ!? ぞ、ゾンビッ!?」
確かにジョジョの世界でゾンビは出てきたけど、今、3部であるこの時間枠に出てくると思わないじゃあないのッ!
「なんだ、あれは…ッ!?」
「まるでホラー映画に出てくるゾンビみたい…」
「"みたい"じゃあなく正真正銘本物のゾンビなんですよ! 2人とも、急いで向こうの部屋へ!」
「えっ、ええ!」
私を含めた3人でゾンビから逃げるべく日の光が差し込んでいる渡り廊下を通り、別の部屋に移動する。
そこで私は衝撃の人物に出会う。
「ハアハアハアッ……畜生ッ! どうなってんだこの屋敷は! そこらじゅうが化け物だらけじゃねーかッ!」
「ほ、ホル・ホース…!?」
「! こっちにも化け物か、来るなら来やがれ! 俺のエンペラーで蜂の巣にしてやる!」
「まっ、待ってホル・ホース!」
「なんだ? 何故ゾンビ共が俺の名を知ってるんだ?」
「…覚えていないの?」
そう尋ねると、ホル・ホースは私の顔を見てから驚き、青ざめ、後退りながらエンペラーを構えた。
「お、おま、お前はッ! やっぱりゾンビじゃあねぇか! お前は俺が殺したはずだッ!」
「思い出したみたいね。残念ながら私は正真正銘生きている人間。その証拠に今私たちが通ってきた渡り廊下には日が差し込んでいる」
「にゃにぃ!? どういうことだッ!」
「どういうことも何も私は運がよかったの。弾丸は私の額の肉を少しばかり抉っただけで生き延びたの。もっとも、血の流しすぎで危なかったことは紛れもない事実だけど……それよりあんたこそ何でこんなところにいるの? 承太郎たちを狙ってたんじゃないの?」
「俺は1人じゃあ動かない。そういう無謀なことをするのは馬鹿のやるこった。だから新たな相棒を探してこの館に来たんだ、この屋敷の主人もスタンド使いだそうでよ」
そいつをスカウトしに来たってわけね……。でもこの屋敷の主人はついさっきゾンビに食い殺されたけど……
「私がついさっきまで会っていた屋敷の主人はガッチリとしたアラブ系の男なんだけど…」
「それは影武者の男だよ」
「やっぱり。それで本物は? どんななの?」
「通称シルバー・フォックスって呼ばれてる銀髪切れ長の道楽野郎さ」
「ふぅん、そいつが私たちをピエロにして遊んでるってわけね…」
会ったら可愛がってやらないと。
人生が思い通りになったか何だか知らないけどこっちも遊びで潜水艦買いに来たわけじゃないんだし、そもそも自分が操れそうな範囲にしてほしいわ。道楽として遊んで高いところで見降ろしていたはずがいつの間にか寝首掻かれてる、なぁんてこともあったりしちゃうわけだし? しかも今は影武者がいなくなって残機もない状態……殴るには絶好のチャンス。
「……屋敷の中はゾンビだらけだ。どうやら俺もお前らも、奴の暇つぶしの相手に選ばれちまったらしいね」
「ゾンビね…はあ、全く面倒臭いったらありゃしない……」
私はここまでついていてくれたガラハドさんとミリアムさんの方に振り返る。
「すみませんが、ここからは私に任せてくれませんか。私にはあのゾンビ共に対抗する術がある。それにあのゾンビたちはそれこそさっきミリアムさんが言っていたホラー映画のように普通の人間をゾンビにする性質を持っている。だからここは私を信じて、私のスタンドの異空間内に入っていてくれますか」
「……わかりました。俺たちはあなたのバックアップのために来た身ですが、俺たちよりあなたの方がずっと強いことを知っています」
「誰かの足手まといになるのは御免だからね、その異空間内で暇を潰していればいいの?」
「…ええ、そうですね。では一歩前に出てください」
2人の一歩前の足元に異空間を出現させ、すっと飲み込む。
暇を潰していて、なんて言ったけど実際は異空間内の時は止まっているから2人からしたら一瞬で事が終わることになっちゃう、ってことなんだよな。
「さて、と……いよいよこの格好が仇になってくるかな。スリットが深いのが唯一の救い……って、なによホル・ホース、私を黙って睨みつけて……言っとくけどこの屋敷内で私はあんたと戦う気はないわよ。これ以上面倒事増やされたらたまったもんじゃないし」
視線を感じ、そちらを見ると、ホル・ホースが真剣な眼差しで私を見つめていた。
決着をつけたいならせめて外に出てからにして、と言おうとしたところでホル・ホースが私の声に被せてくる。
「……お前、本当に遥花本人なんだな」
「そうだって言ってるじゃない」
そう、返事をしたとき、ホル・ホースが涙を見せるものだから、私は慌てて駆け寄る。
「ちょっ、ちょっと! 何で泣くの!」
「良かった……本当に良かった……。うう…ぐす…」
近寄った私の肩に手を置きながら泣くホル・ホースに私は驚きを隠せなかった。
「俺ぁよおー…うう、世界一女には優しい男なんだ……嘘だと思うかもしれねーけどよ…ブスだろうが美人だろうが女を尊敬しているんだ」
それは知っていたけど、な、泣くほど後悔していたとは思わなかったかも……みんなからもホル・ホースがどんな反応をしていたかなんて聞けなかったし。
「それなのに俺の手で"女"を、しかもまだ未来ある若い女を手にかけちまったってあれからずっと悔やんでいたんだ……だからおめーが生きててくれて本当に心の底からほっとしたんだ…ありがとよ、元気そうな顔が見れて嬉しかったぜ……」
「そんなに悔やんでいたなら私のお願いを1つ聞いてくれない?」
「なんだ? 俺に出来ることならなんだってするぜ」
「この屋敷を脱出する間だけでも私と組まない? あんたは誰かと組んで始めて行動する男なんでしょ? 私も非スタンド使いより、スタンド使いと一緒に行動した方が色々と都合がいいから。だからこそさっきの2人にはエスケイプの中に避難させたんだから」
「……ああ、それに加えて俺は、俺の持っている情報をくれてやるし、この屋敷で何をやっていたかもDIOの旦那には密告しねえぜ」
「随分と優しいんだね。そういうの嫌いじゃあないよ。それじゃあこの屋敷内だけだけど、よろしく、ホル・ホース」
「おう、よろしくな遥花」