「も…もうだめだ…。俺は、もうおしまいだ……死ぬんだ…やられちまうんだ…」
「フハハハ! ここで助けが来るほど世の中は都合よく出来ていない!」
カメオが勝利を確信し、高らかにそう言ったとき、1つの声がその場を裂いた。
「待ちなさいよ」
その声と共に、遥花は自分の姿をした土人形を思い切り、正真正銘自分の拳で破壊する。
「助けが来るほど世の中は都合よく出来ていない……? じゃあ今、ここにいる私の存在は何なのかしら?」
「バカなっ! 死んだはずの! 吊られた男、J・ガイルに背中を刺され」
「死んだはずのッ! 暁、遥花!」
「YES I AM!」
にぃ、と笑みを浮かべながら遥花は傷ついたポルナレフに近づく。
「遥花! お前なのか、ほ…本物のお前なのかっ!?」
「信じられないのなら触れてみて。ほら、ちゃんと生きた人の温もりがあるでしょ?」
そう言いながら、遥花は倒れているポルナレフに目線を合わせるようにしゃがんでから手を掴み、自身の頬を触らせる。そこには先程の土人形のような無機質な冷たさはどこにもない。ただじんわりと、生物特有の温かさがあった。
「ポルナレフがまたあと先考えずに敵の術中にはまっているなんてね、仕方ないからまた助けに来たの。地獄の淵からはるばる、ね。まったく、おちおち死んでられないわ」
「バカなッ! 生きてるはずがないッ! 情報では背中を刺された後、脳天をホル・ホースに撃ち抜かれ即死したはず!」
「もう一度言うけれど、あんたのその情報が確かなら、今ここにいる私は何なの? まさか私もあんたが作り出した土人形だなんてほざき倒すんじゃあないでしょうね」
遥花は立ち上がり、カメオを見つめる。
「間抜けも間抜け。誰が情報を集めてあんたたちに伝えてるかは知らないけど、早々に解雇した方がいいんじゃない? だって伝える情報が撃たれたってこと以外合っていないんだもの」
「ウヌヌヌ……」
「審判のカードの、カメオ、だっけ? 地獄に行くのはあんたの方よ」
「3つ目の……第3の願いだけは本物だ……叶った……っ!!」
「『暁遥花が生きている』このバッドニュース、早いところDIOや仲間のスタンド使いたちに知らせなきゃいけないんじゃあない? ねえ? カメオ?」
カメオは少し考えるような素振りを見せてから、再び遥花たちの方へと目線を戻す。
「確かに驚くべきニュースだ。だがニュースの文面はこう変更されて伝えられる。『審判ジャッジメントのカメオはポルナレフのアホと、ついでに生きていた遥花をまとめてぶち殺しました』と。グッドニュースに変更されるのだ!」
「ふぅん…そう」
「遥花……3つの望みを言ってみろ! 叶えてやろう。今度こそ本当にお前が死ぬ前にな……」
「なっ!」
「さあ! 試しに言ってみろ、願いを3つな」
「て…てめー、ふざけやがって…」
遥花は顎に手を当て、考えてからこれでもかというくらいににっこりと笑いながらカメオに言った。
「4つにして」
「なに!?」
「願いよ。ね・が・い。あんたが聞いてきたんでしょ? 3つの願いを、4つにしてというのが私の願い。ふふふ、できないのかしら?」
「貴様、そういう冗談は……!」
"冗談"カメオがそう言ったとき、遥花の表情と声音が一気に変わる。
「嫌だと言うの? あんたが言い出した話、約束は絶対に守ってもらうわ」
「遥花! まだ無駄なパワー比べをしようというのかッ!」
「ふふっ、そう、無駄。無駄ねぇ……あんたはそう思うの、カメオ……」
つかつかと、遥花は一歩一歩確実に近づいていく。
そして十分近づいたところで、遥花のスタンド、2体のエスケイプはカメオの頭部を思い切り掴んだ。
「ぐっ、何故、何故だ!? エスケイプにはパワーがないはずっ!」
「不思議ね、その足りない脳みそを必死に巡らせて考えるといいわ」
依然として笑顔のまま、遥花は言葉を続ける。
「さ、カメオ。地獄に行く時間よ♡」
「あぎ!? ひっ、なにぃ…」
2体のエスケイプは同時にカメオの顔面を思い切り殴った。
「うぎゃあああっ!!!」
「やった! すげえ!」
「第1の願いはあんたに『痛みの叫びを出させること』叶ったわ」
「ば、馬鹿な! 強い! 聞いてた話より断然強いぞ!」
「私もここまで来るために命がけで頑張ったからね、強くなって当然でしょ。私とエスケイプを甘く見すぎていたのがあんたの敗因。そして、第2の願いは…」
「ムギャアアアア!!!!」
「『恐怖の悲鳴をあげさせること』さらに第3の願いは、『後悔の泣き声』」
「ヒイイイッ!」
「や、野郎! 逃げたぞ! 待ちやがれっ、チクショーッ」
「しっ、ポルナレフ。静かに。あのパワーとスピード、スタンド使いの本体はかなり近くにいなくてはならないのがスタンドのルール。きっと近くに隠れているはずだよ」
ポルナレフと目を合わせ、遥花は言った。
そして2人はなるべく物音を立てないように、静かに本体を探す。
「あっ」
「見つけた?」
「これか……?」
「うんうん」
遥花は地面から突き出ている筒を、エスケイプから適当に取り出した本で塞ぐ。
「ブブ…うぐっ、ぐぐっ」
苦しそうな声を聞いてから本を退けて、またエスケイプの異空間内に本をしまった。
「プハー、プハー……」
「ヤロォ……色んな物入れてやるぜ」
「ふはっ、いいね、入れちゃおっか」
ぽいぽいと2人は手当たり次第に筒の中に入れていった。泥、砂、マッチの燃えカス、などなど……。
「ブーッ! ゴホッゴホッ、くぱぱっ」
「まだまだまだっ!」
「ねえ、ポルナレフ」
「なんだ?」
「これ、知ってる?」
そう言って遥花がエスケイプの異空間内から取り出したのは真っ黒な液体が入ったボトルだった。
それが何なのかわからないポルナレフは首を傾げる。
「これはね、私の国の調味料でしょうゆって言うんだけど、いろんなものに合う万能な調味料で、日本人ならまず大好きな調味料なのよ」
「へぇ~、で、そのショーユがなんなんだ?」
「それがね、一気に飲むと消化管を痛めて神経、循環器障害、赤血球の破壊、肝臓障害、腎臓障害を起こして死んじゃうの。だから摂り過ぎには注意ね。くれぐれも一気飲みなんてしちゃあ、いけないからね」
「? なんだ、突然何を…」
「"忠告"したからね」
「…あっ」
遥花はボトルの先を筒に突っ込み、一気に注いでいく。
「ほーらほら、どこまで耐えられるかなぁ? よぉく味わって、五臓六腑に染みわたらせてね……ふふ」
「遥花…お前性格変わったんじゃあねぇか?」
「あれ、承太郎から聞いてなかったの? 私仲間を傷つけられるのが何よりも嫌いなんだよね。こいつはポルナレフを傷つけ、そして卑怯な手で精神的にも苦しめた。それ相応の罰を受けてもらわないと気が済まないってわけ」
「(そういや承太郎がそんなことを言っていたような、言っていなかったような……?)」
かなりの量のしょうゆが注がれてから、とうとう苦しくなったのか、スタンドの本体である男が地中から出てくる。
「ゆ、許してくださあいっ!!」
「4つ目の願い。それは、『あんたの願いは全く聞かない』こと。私はあんたのこと絶対に許さない。だめよ」
遥花はスタンドではなく、正真正銘己の拳で本体の男を滅多打ちにした。
「ふぅ。それじゃあみんなのところにっ、ぽ、ポルナレフ?」
遥花がくるりとポルナレフの方に振り返ったとき、ポルナレフが遥花を思いきり抱き締めた。
「どうしたの、ポルナレフ」
「本当に、生きてるんだな。今更別人でした、なんて聞かねぇからな」
「そんなこと言わないよ。正真正銘、本物。本物の暁遥花だよ」
「そうか。ははっ、よかった。本当に生きていてよかったぜ、遥花…」
「……ただいま、ポルナレフ」
「ああ、ああ! おかえり、遥花!」
ポルナレフはさらに強く、抱きしめた。今目の前にある温もりを逃がさないよう、しっかりと。
少ししてからポルナレフは遥花から手を離す。
「遥花、今回の件は100%俺が悪かった。俺を恨んだっていい。殴ったっていいさ。好きにしてくれ」
そう言って目を瞑るポルナレフに、遥花は呆れながら笑い、全然痛くないデコピンをした。
「なっ、遥花…?」
「別に私はポルナレフのこと、怒ってないし、恨んでもいないよ」
「それじゃあ俺の気が済まねぇ!」
「んー…なら、私のお願い聞いてくれる?」
「お願い? ああ、お安いごようだ。何でも言ってくれ」
「ポルナレフのこと、これから"ジャン"って呼ばせてほしいの。前からもっとポルナレフと仲良くなりたいって、ずっと思っていたんだ。嫌だったらいいよ、その時は他のお願いを考えるから」
「……それで遥花の気が済むっていうんなら、いくらでも俺の名前を呼んでくれ」
「ありがとう、これからもよろしくね。ジャン」
「ああ、よろしくな、遥花」