単刀直入に言う。承太郎から避けられている。まあまあショックなので私から承太郎にちょっかいをかけようとしてもそこは幼馴染なのでこちらの行動はある程度読まれているので対策されていることが多い、ってか全部そう。
別に幼馴染に避けられているから不貞腐れてこっちも避ける、なんて子供っぽいことは精神年齢上しないが承太郎の頬を突っつくくらいの精神年齢の低さは見せたかった。
「ンー……どうしようかなぁ……」
承太郎が学校を休んで数日、そろそろ承太郎の祖父であり先代ジョジョが来日して色々あって原作が始まるんだけど……様々なフラグをへし折るためにも私はその危険な旅に同行せにゃならない。そのためには私がスタンド使いであり、尚且つ旅に連れて行ってもデメリットがない、役に立つ女だということを誰かしらに――まあ承太郎でいいんだけど――知ってもらわなければならない。
そのために丁度いいのは……やっぱり原作の最初のスタンドバトルの花京院戦かな。乱入して原作程度に花京院をボコボコにさせてもらおう。
とはいえ承太郎が学校に戻ってこない限りは花京院も来ないし、今はスタンドのコントロールと筋トレに時間を割こうかな。というか承太郎がいなくてすごい暇。気を許せる友達がいない。
――ここで私のスタンドについて説明しようと思う。
私のスタンドの名は「エスケイプ」。逃げる、脱出するとかの意味を持つ英単語である。なんでこの名前がついているかは正直覚えていない。記憶容量がそこそこにポンコツだから。
エスケイプの射程距離は約30メートル弱で、完全な意思を持ち、他人と会話などもできる自立型ではあるのだが、あまり話しているところは見ない。くすくす笑ったり鼻歌を歌っているところはよく見るけど……まぁ多分無口な子たちなのだろう。深くは分からないけれど。像ヴィジョンは妖精のエルフのような横に長く尖った耳があり、単眼の少年少女の姿である。両方とも瞳は閉じているのだが、少年の方は眠るように目を閉じていて、少女の方は笑うように目を閉じている。これがまた対になっているようでカワイイのだ。
そして能力として『異空間を作り出す』ことができる。簡単に言えばドラ〇もんの四次〇ポケットである。スタンドが作り出した異空間には大きさ、重さ、諸々の法則全てをフル無視して中にしまったり、逆に取り出すこともできる。そして個人的に一番すごいと思うのが中に入れたものは基本的に時間の影響を受けなくなる、というトンデモルール。
人間が中に入ったらどうなるかは一応本体である私で試してみたが、とりあえず私には何ともない。
本体以外の人間を淹れたらどうなるかはわからないが、スタンドであるエスケイプ曰く、「中に入れても傷ついたり死んだりすることはない」らしい。いざとなれば仲間を異空間に入れて走って逃げることが出来そうだ。そうなれば体重とか気にしなくていいし。
でも仮に中に入れたまま私が死んでしまった場合は……うん、あんまり深く考えないでおこうっと。
〇 〇 〇
朗報。承太郎が学校に来た。
ということで私のスタンドバトルの記念すべき1戦目である。光栄に思うことね! 花京院典明!
「承太郎~」
肩をとんとんと叩き、人差し指を出しておくと、案の定私の指がぶに、と承太郎の頬に刺さる。
「おはよう承太郎。4日も学校に来ないで何してたの?」
「……ちょっとな」
「ふうん?」
私がスタンド使いってことに気づいてるのかいないのか……承太郎は私と違って頭いいからなぁ、私みたいなアホを騙すくらい承太郎には至極簡単なことだろうし。ま、十数分後には私がスタンド使いって確実にわかるから今は何でもいいんだけど。
後ろをちら、と見ると承太郎の取り巻き……と、言っていいのかわからないけど、承太郎に好意を持つ女の子が言い争いをしている。
因みにああいう「ジョジョに近づくんじゃあないわよこのブス」みたいなのに私は遭遇したことがない。理由は……ちょっと考えればわかるけど、説明しておこうと思う。私が175センチもあるデカい女で、かつ成人男性を腕相撲で負けさせる程の物理的な力を持つ物騒な脳筋女だからである。流石に女の子を殴ることはしないが、彼女らからすれば私は脳筋思考のゴリラなのだろう。……それを否定できないのが悲しい。
というか、一番の理由は私が承太郎の幼稚園入園前から付き合いのある幼馴染で、私を傷つけるようなことをすればすぐさま承太郎からの好感度が下手すりゃマイナスになる確定イベントに突入するからである。
やだ……私ってば厄介女……!?
だけどまあ、少なくとも「ブス」「ペチャパイ」と互いに互いを罵りあう女に承太郎の隣はやれないわね!!!! ……失礼、これからのスタンドバトルに緊張して情緒が不安定になっちゃったわ。
なんて私が脳内で1人わちゃわちゃしていると承太郎の膝が不意に切れる。待ってくれ、ちょっと早くない!?
「承太郎!」
何回頭の中でシミュレーションしても花京院を殴ること以外この怪我の回避方法が思い浮かばないんだよ私には! だけどせめて階段から落ちさせるわけには……っ!
そんな私の思いも虚しく、私の指は承太郎の手にちょっぴり掠っただけで、その手は握れずに、承太郎はそのまま階段から落ちていってしまう。
思わず私は小さく舌打ちをしてすぐさま承太郎に駆け寄る。
「承太郎…ごめん…」
承太郎の頭や肩に乗った木の葉を手で掃いながら謝る。
「大丈夫だ。それにあそこでお前の手を掴んでいたら俺の体重を支え切れずに2人で落ちていただろ」
「……だけどさ」
私の言葉を遮って女の子たちが承太郎を心配し始める。ポイント稼ぎはいいけど、私もいるのを忘れないでほしいかなぁ。
一通り喋り終えると、タイミングを見計らったかのように、赤髪の男、もとい花京院典明が石段を降りてくる。
「君、左足を切ったようだが? このハンカチで応急手当てをするといい。大丈夫かい?」
「ああ、掠り傷だ」
それを聞くと、花京院はくるりと背を向けて去ろうとして承太郎に呼び止められる。
「ありがとうよ。見ない顔だがうちの学校か?」
「…花京院典明。昨日、転校してきたばかりです。よろしく」
女の子たちが花京院を見て、結構カッコいい、なんて話している中で承太郎は私に耳打ちしてくる。
「アイツ、うちの学年に転校してきたのか?」
「ううん、1個下。あと学校行ったらすぐ保健室行きなね。鞄は私が持っていくから」
「悪いな」
学校についてから、私は承太郎の鞄を受け取り早歩きで教室に鞄を置いてから次はダッシュで保健室へと向かう。これから盛大にフラグを折るためにはまず、保健室にいた不良っぽい奴らを助けて見せる必要がある。
ガラリと音を立ててドアを開けると、保健室の先生が万年筆を振り回し、生徒に刺そうとしているところだった。
「エスケイプ! 彼を中に!」
私の声と共に、黒い穴がぽっかりと開き、その中に生徒が落ちる。ついでにもう一人も。
そして保健室の外で生徒を取り出す。
「早く教室でもどこでもいいから行って! 保健室から離れて!」
「あっ、あぁ」
「ハルお前……」
「後で全部説明する」
「わかった」
流石にここで悠長にネタ晴らしするのはアホ丸出しだろうから、ひとまず後で、と言っておく。
それでもって私は、荒ぶる先生を羽交い絞めにして承太郎から離そうとするが予想の数倍力が強かった。なに、この馬鹿力…本気で言ってる?
「この女医がおかしくなってるのは……」
「さっきの赤髪の男、花京院典明のせいでしょ」
「だろうな」
「その通り」
「っ、てめえ!」
「やあ、さっきぶり。その女医には私のスタンドが憑りついて操っている。私のスタンドを攻撃することは、その女医を傷つけることだぞ。ジョジョ」
「貴様、何者だ!」
これ、私が蚊帳の外になるやつ。
……さてと、先生を押さえながら後々来るであろう承太郎からの質問やらにどう答えようかと脳内シミュレーションを始める。伊達に数百回人生繰り返していないのでね。物事考えながら人を羽交い絞めにして押さえるくらいの器用さはあったりしちゃうのだ。
「私は人間だがあの方に忠誠を誓った。だから貴様を殺す!」
その言葉で先生は激しく抵抗し、私の腕から逃げて承太郎をその万年筆で滅多刺しにしようとする。させないけどね!
「ハル! 目を瞑ったまま押さえとくことはできるか?!」
「任せて」
なんで目を、とは思ったが承太郎なりの配慮か何かだろうか。別にキスシーンくらい気にしないけど、素直に私は目を瞑りながら先生を押さえ続ける。少しして、押さえている先生がかくんと脱力した。
「ハル、女医を保健室の外に運びな」
「うん」
先生を抱き上げ、これから保健室が粉々になることを考慮して保健室からちょっと離したところで下ろす。あと乱れた服を軽く直して、よしダッシュで戻る。ワンチャン承太郎に戻ってきたことを怒られるけど知らん。花京院のエメラルドスプラッシュを異空間内にしまえるか試したいんだこっちは。それが出来たら弾丸とかもしまえることになるからね。
「くらえ! 我がスタンド、ハイエロファントグリーンの…」
「妙な動きをするんじゃあねぇ!」
「エスケイプ」
「エメラルドスプラッシュ!」
結果的に言えば、私のエスケイプが作り出す異空間はエメラルドスプラッシュを仕舞うことが出来たものの、これまた私の想定していた範囲よりも広く発射されたエメラルドスプラッシュが承太郎に当たってしまい、承太郎が壁の方へと吹っ飛ばされる。原作と違って壁が壊れなかったものの、大きくヒビが入ってしまった。少し殴ればすぐに穴が開いてしまいそうだ……。
ああもう、こうなるならもうちょっと異空間の出し入れ練習しておくべきだった!
「承太郎!」
「……貴様、スタンドが見えているな。発射したエメラルドスプラッシュとジョジョに当たった数が合わないのは貴様の仕業か?」
「かもね」
「生意気な。邪魔立てするのなら容赦しないぞ」
「2対1で勝てる自信があるんだ? 大そうな自信ね」
「愚かかな。大人しく殺されればいいものを……そもそも、その細腕で何が出来る? 女の貴様に」
「なッ」
「ハル、下がってな」
「おっ、と……」
げ、原作以上にお怒りでいらっしゃる…?
「女」というもので一括りにされその人の実力を見ないという行為が吐き気がするほど私は嫌いで、今も反論の1つや2つ返してやろうと思ったのに先に承太郎が怒ってしまった。
……脳内シミュレーションってなんの役にも立たないな。もうやめよ。
「この空条承太郎は、所謂不良のレッテルを貼られている。喧嘩の相手を必要以上にブチのめし、いまだ病院から出てこれねえ奴もいる。威張るだけで能無しなんで、気合を入れてやった教師がもう二度と学校へ来ねえ……」
あ、料金以下の不味い飯を食わせるレストランに金を払わない行為は流石にやめさせました。
「だが、こんな俺にも……吐き気のする悪は分かる! 悪とは! テメエ自身のためだけに弱者を利用し、踏みつける奴のことだ。ましてや女を! 貴様がやったのはそれだ」
ドスの利いた声で、承太郎は花京院に言う。
「おめえのスタンドは被害者自身にも法律にも見えねえし、わからねえ。だから、俺が裁く!」
「悪? それは違うな、悪とは敗者のこと。正義とは勝者のこと。生き残った者のことだ!過程は、問題じゃあない!」
そう言ってハイエロファントの触脚が伸びてきたとき、承太郎は一瞬私に向けて目配せをする。反対側から行けってことですね。
私たちは同時に、それぞれ違う真逆の方向に走り出す。私の方にも案の定触脚は伸び、顔に当たる瞬間、
「エスケイプッ」
私は自身のスタンドの名を呼び、自分の足の真下に異空間を出現させる。下に落ちる感覚が一瞬だけしたが、すぐに別のところに異空間を出現させた。
そして私は、花京院が万が一逃げないように足を少しだけ異空間に入れ、足を出せないくらいに異空間の入り口を狭める。
異空間から顔を出して、承太郎に聞く。
「これでいい?」
「上出来だ。なぁ花京院、ついさっきテメェは、敗者が悪だと言ったな。それじゃあ、やっぱり…てめえのことじゃあねぇか!」
承太郎はエメラルドスプラッシュを弾き飛ばし、花京院を指さす。
足を固定され、身動きの取れない花京院は成すすべなく承太郎のスタンドに殴られてしまった。
「裁くのは、俺のスタンドだァー!」
「なんてパワーのスタンドだ……」
花京院が私の方を見たような気がしたけど、気のせい、かな。私は花京院の足を固定していた異空間を消して、すぐに背中の方に回って体を支える。
「さっきは不意を食らって、ちょいと胸を傷つけただけだ。ヤワなスタンドじゃなくてよかったが……しかし、ますます狂暴になっていく気がするぜ、危ないところだった」
そんなことを言いながら承太郎はこちらに近づくのと同時に、非常ベルが鳴り響く。
「それで、これからどうする?」
「後は学校の連中に任せる。今日は学校をフケるぜ。ハル、テメェも来な」
「うん」
「ひとまず道中で簡単に聞かせてもらおうか」
「うっ」
「お前、いつからスタンドを持っていた? スタンドっていうのは、さっきコイツや俺が操っていたもののことだ」
「生まれつきだよ」
「ってことはアヴドゥルの野郎と同じか……能力は見たから大方予想がつく。ハル、DIOという男を知っているか?」
私は首を横に振る。ごめんね承太郎、ここで私が首を縦に振ったら面倒なことになるから嘘をつかせてもらうよ。
その後も承太郎は「簡単に」と言ったくせに根掘り葉掘り聞いてきた。こンの……気になったら夜も眠れないタイプだもんね。しょうがないか。
承太郎の家についてからはまたことは原作通りに進んでいく。花京院の額にDIOの細胞から作られた肉の目が埋め込まれており、それを摘出しない限り花京院はそのまま死んでしまう。ということをジョセフさんから告げられる。
「……ハル、結構ショッキングな絵面になるだろうからお袋の所に救急箱でも取りに行ってくれ」
「オッケー」
「承太郎! こいつはもう助からんと!」
「ジョセフさん、私は花京院が助かると思いますよ。賭けてもいいくらいですね」
と、ウインクをしながら言い、
この広い屋敷内も、10年以上も出入りとお泊りを繰り返せば嫌でも間取りを覚えるってものだ。
「聖子さぁーん」
「
「救急箱を借りてもいいですか? さっきの怪我していた子、花京院っていうんですけど、怪我の手当てしてあげたくって」
「それなら私も手伝うわよ」
「いいんですか? 助かります」
少し高いところに置いてある救急箱を背伸びをして取ろうとする聖子さんを見て、すかさず私が救急箱を代わりに取る。
聖子さんも日本人の女性と比べれば背が高い方だけどそれでもやっぱり私の方が高いんだよね。
「もう終わった頃だと思います。行きましょっか、聖子さん」
先を行く私の隣をぱたぱたと可愛らしく歩く聖子さん、本当にどうしてこんないい人が苦しむことになるんだろう。世界ってのは、神様ってのは心底残酷なやつだと改めて思う。
さっきの和室から声が聞こえてくる。
「何故、お前は自分の命の危険を冒してまで私を助けた?」
「……さあな。そこんとこだが、俺にもようわからん」
承太郎の声を境に、そこには優しい空気が流れているのを感じた。
そして私と聖子さんが部屋に入り、花京院の手当てをする。
「はい、おわり」
「ありがとう、ございます…」
「花京院くん、だったわよね? 少し休んだ方がいいわ。今日は泊っていってね。遥花ちゃんもね」
「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて」
「うんうん! パパ、お布団敷いてちょうだい」
「ええっ、なんでわしが! 大体床に寝るなんて前から気に食わん。ホリィ、わしの部屋の布団、ベッドに変えてくれ!」
「パパ、ここは日本なんだから、日本式に慣れてちょうだい」
ジョセフさんも聖子さんも、互いに畳をパシパシと叩きながらそれぞれの主張をする。この家が別に和室だけ、ってわけじゃあないからベッドを置いても構わないとは思うけど聖子さんの言うことにも一理あるのよねぇ。郷に入っては郷に従え、って言葉があるくらいだし。
「そうそう、私のことも"聖子"って呼んでね」
「はあ?」
「"ホリィ"っていうのはね、日本語で"聖なる"って意味なの。だから聖子さーん、ってお友達は呼ぶのよ。ウフフっ」
「なんじゃぁ、そりゃっ! ホリィっていうのはわしがつけた立派な…」
「遥花ちゃんもそう呼んでくれるのよ? これからは聖子って呼ばないと返事しないわよ。ね、遥花ちゃん」
聖子さん、そこで同意を求められると私大変困ってしまうのですが……。
ほら、花京院も困った顔してるじゃん。そこが聖子さんの良いところだからまた何も言えなくなるんだけども……。
「痛くない? 花京院くん」
「あっ、はい」
「…やれやれ。ハル」
「ん、なに?」
不意に名前を呼ばれたから承太郎の方を向いた時、するりと手が伸びて私の髪を少しだけかきあげる。
「っ!? えっ、ほんとになにっ!?」
「保健室での時、頬を切ったように見えたんだが、その傷がねえと思ってな」
「ああ、そういうこと……"あれ"だよ」
「…あぁ、"あれ"か。ならいいんだ」
あれ、の2文字で通じ合ったことで私たち以外がぽかんとした顔をしていた。ちなみにあれとは波紋のことだ。波紋を練習し始めてから、よく承太郎に見てもらったものである。ほとんど戦闘には使えない手品みたいなものだけど。
あ、そういや急なお泊りだから承太郎の服借りなきゃだな……聖子さんのじゃぴったり、というかぴっちりで寝るには苦しいんだよね。
これから旅が始まるというのに呑気な思考回路の私であった。