潜水艦に揺られて大体数時間くらい、途中でジョセフさんが奥さんであるスージーQさんに連絡をしたりしたけれど、とりあえず現時点では何事もなく潜水艦での旅を送れている。
……はぁ。起きていなきゃいけないのにジャッジメント戦での疲れがどっと押し寄せてきて、私は強烈な睡魔と戦っていた。その睡魔に抵抗するためにコーヒーを飲んだりしているけれど、コーヒーごときでは私の眠気を覚ますことはできないらしい。
「承太郎…」
「どうした?」
「眠気覚ましに一発デコピンとかしてくれない? あーでも額には傷があるからやっぱりほっぺた抓って」
「素直に寝りゃいいだろうが」
「そうはいかないんだよ……もし敵が来たらどうするの?」
「無駄な心配はしねぇで寝ろ」
「ん゛~……」
だってこの後、原作通りなら
「ン! おい! アフリカ大陸の海岸が見えたぞ、到着する! この近くのサンゴ礁の側に自然の浸食で出来た海底トンネルが合って、内陸200メートルのところに出口がある。そこから上陸しよう」
「いよいよエジプトだな」
「エジプトか……」
「ああ、いよいよだ」
「のんびりしている暇はない、ね」
コーヒーを人数分淹れた典明だけど、私たちは6人なのに、カップは7つあった。
「おい花京院、何故カップを7つ出す? 6人だぞ」
「おかしいな、うっかりしてたよ。6つのつもりだったが……」
典明がそう言ったとき、ジョセフさんの持っていたコーヒーカップが突然人の顔をした化け物に変わり、ジョセフさんの義手を切断した。
「ジョセフさん!」
「じ…ジジイッ!」
「ばかな、スタンドだッ! いつの間にか潜水艦の中にスタンドがいるぞッ!」
「天井の計器に張り付いている」
「ブキャアアーッ!」
「き、消えたッ!」
「いや違うっ!」
「この中の計器の1つに化けたんだ、コーヒーカップに変わっていた時のように」
「もうサンゴ礁だ、あと数百メートルでエジプト上陸だっていうのによっ!」
「典明、ジョセフさんは無事?」
「傷は浅いが気を失っている。左手が義手でよかった」
典明の言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。
「ハイプリエステスだ。敵は女教皇の暗示を持つスタンドだ」
「知っているのか?」
「聞いたことがある。スタンド使いの名はミドラーという女、かなり遠隔からでも操れるスタンドらしい」
「次から次へと、本当にしつこい奴ら…。かなり遠隔って言うくらいだから、本体は海上?」
「おそらく、能力は金属やガラスなどの好物ならなんにでも化けられる。プラスチックやビニールはもちろんだ」
「それって、かなり厄介ってことだよね」
「し、しかし、どこからこの潜水艦に潜り込んできたんだ?」
ジャンの言葉と同時に、船内に穴が開く。
「なるほど、こーゆーこと? 単純ね…穴を開けて入ってきたのね?」
「このままじゃ沈没するんじゃないの!?」
「ハイプリエステスが浮上システムを壊していった! どんどん沈んでいくぞ! いつの間にか酸素もほとんどない、航行不可能だ。みんな何かに掴まれっ! 海底に激突するぞっ!」
「やっぱりこーなるのか! 俺たちの乗る乗り物って必ず大破するのね」
「花京院、スタンドのやつどの計器に化けたか目撃したか?」
「た、確かそのカップボードの上の計器に化けたように見えたが……」
「あれか…どうせこの艦はもう大穴が開いてるんだ。ブッ壊すつもりでスタープラチナをぶち込むぜ」
「違う承太郎! もう移動しているッ、ハイプリエステスは典明の後ろにいる!」
承太郎に報告するのと同時に私は典明と気を失ったジョセフさんをエスケイプの異空間を通じて私の方に移動させる。
「典明、大丈夫?」
「ぎ、ギリギリだったけれど、なんとか」
「みんな、ドアの方へ寄れ! 機械の表面を化けながら移動しているんだ。この部屋にいると全員どんどん怪我をしてダメージを受けるぞ!」
隣の部屋に移動しようとしたアヴドゥルさんが気付く、すでにハイプリエステスは移動して、ドアの取っ手に化けているということに。だがスタープラチナは、ハイプリエステスを捕まえていた。
「スタープラチナより素早く動くわけにはいかなかったようだな。こいつをどうする?」
「いいんじゃない? そのまま引きちぎっても」
「そうだぜ承太郎! 情け無用! 早く首を引きちぎるんだ! 早く!」
「アイアイサー」
「…ケケケ」
ハイプリエステスが不気味に笑ったかと思と、カミソリに変化し、握りしめたスタープラチナの手の平をズタズタに切り裂いた。
「ちっ、アイツ、カミソリに化けて承太郎の手を……」
「ケケケ、きゃはははははっ!!」
「……てめーは、この空条承太郎がじきじきにブチのめす」
どこか、別のものに変化したハイプリエステスから逃げられたのかはわからないが、私たちは隣の部屋に移動することが出来た。
「これからどうする! 奴か我々か、閉じ込められたのがどちらかわからんが…遅かれ早かれ、あの部屋から何かに穴を開けてここまで来るぞ!」
「この機会だらけの密室の中では圧倒的に我々の不利、この潜水艦はもうだめだ! 捨てて脱出するのだ!」
「ああ、もう、せっかく苦労して手に入れたのに……ハイプリエステスめ……」
そんなことを言っている場合ではないのは確かだけど、でもあの苦労がこうも簡単に捨てられるとなると…ちょっと悲しい。でも今は一刻も早くエジプトに上陸するのが最優先事項だよね。
「しかし、ここは海底40メートル、そんなに深くないが、どうやって海上へ!?」
「……この装備で、上まで上がるんじゃない?」
そういって私はマスクやらボンベやらが置いてあるのを取り出してポルナレフに言う。
「今度はスキューバダイビングかよ。俺経験ないんだよね、これ」
「私だってない」
「やれやれ」
「義手を切断してるから装備を付けるのがしんどいわい……ところで、この中でスキューバダイビングの経験のある者は?」
……全員ないみたい。まあ、それが普通? かな。機会があったらやってみたいなとは思っていたけど初めてのスキューバダイビングがハイプリエステス戦だとは思ってもみなかったなぁ。
「隣の部屋からハイプリエステスが襲ってくる!」
「慌てるな、アヴドゥル。いいかみんな、まず決して慌てない。これがスキューバの最大注意だ。水の中というのは水面下10メートルごとに1気圧ずつ水の重さが加圧されてくる。海上が1気圧、ここは海底40メートルだから5気圧の圧力がかかっている」
「一気に上がるのはマズイってことですよね」
「そうじゃ、体を慣らしながらゆっくり上がるのだ。エジプト沿岸が近いから海岸に沿って上がっていこう。だからまずは水を入れて加圧するぞ、気圧の変化を緩やかにするのだ」
ジョセフさんが淡々と説明をしてくれるのを素直に聞きながら順に装備を付けていく。酸素のタンクが結構重いなぁ…。
「それと、当然のことながら水中では喋れない。ハンドシグナルで話す。簡単に2つだけ覚えろ」
ジョセフさんが簡単なハンドシグナルを2つみんなに見せて教える。
「ジョースターさん、我々ならスタンドで話をすれば…」
「おおっ、それもそうだな。ハンドシグナルより楽でいいわい」
「なあんだ、ハンドシグナルなら俺も1つ知ってるのによ」
ジャンが1つハンドシグナル、というかジェスチャー? をすると、ジャンの後ろから典明が、『パン、ツー、丸、見え』とジェスチャーの説明をする。
「襲われて死にそうだっていうのにくだらんことやっとらんで行くぞ!」
ハイプリエステスがそこまで来ているっていう緊迫した状況だけど、やっぱりこういったシーンはジョジョラーとしてやっぱりこう、グッとくるものがあるな。
……というか、制服が透けて結構やばいかも、上に上がったらすぐ何かに着替えなきゃ、何か服、持ってたかな……。諦めて長袖着るしかないかな…?
「まもなく部屋が水で充満する。マスクとレギュレーターを装着するんじゃ」
「……なんだかズレている気がする」
「サイズが合ってないんだろ、こっち向きな」
承太郎が私のマスクをきつくもなく、緩くもなく、ぴったりにサイズを調整してくれる。
「ありがとう、承太郎」
ジョセフさんがハッチを開け、私たちの方に向いて準備はいいかと聞いてくる。
「ごぼごぼっ」
1人準備が……いや、隣の部屋にいたはずのハイプリエステスがジャンのレギュレーターに化け、唇に噛みついていた。
「うがぁっ」
「い、いつの間に!? 奴がすでにレギュレーターに化けていたッ!」
「口の中から入って体内を食い破る気だ。やばいぜ、この部屋を排水しろっ」
「もう遅いよ! このままじゃジャンの体内に入っていっちゃう、典明!」
「既に喉の奥へ行く前に捕まえた! 変身する前に吐き出させるっ!」
「おぐっ、お、おい…」
「よしっ! 早く脱出しよう!」
海中に出て、ジャンは先ほどハイエロファントが入っていった鼻を押さえながらも、典明にお礼を言っていた。
「にしても、美しい海底だ。ただのレジャーで来たかったもんだぜ」
「激しく同意」
もう少しでエジプトの海岸というところで私たちは海底に化けていたハイプリエステスに吸い込まれてしまった。
〇 〇 〇
「……海上に行くにつれ、スタンドのパワーも増したってことか」
「その通りっ! 私はそこから7メートル上の海岸にいるよ! しかしお前らは、ハイプリエステスの中ですり潰されるからあたしの顔を見ることはできない」
「こ、ここは奴の体内のどこだろう?」
「口の中じゃないかな」
「承太郎! お前は私の好みのタイプだから心苦しいわね。私のスタンド、ハイプリエステスで消化しなくっちゃならないなんて!」
承太郎が好みのタイプってのはいい趣味だとは思うけどこの仕打ちはあんまりじゃない?
それでこの後の展開は…承太郎がハイプリエステスの歯を思いっきり砕いて脱出するんだったよね。
というかジャンが呑気に承太郎に耳打ちしてる。……あっ、そういや歯を砕く前に盛大な茶番があったな。
「…やれやれ、本当に言うのか?」
「言え。ほれ、いいから早く言え」
承太郎はため息をついてから無駄にいい声でハイプリエステスの本体に言い始める。
「そいつは嬉しいやら悲しいやら……こんな形で出会わなければよかったのによ、お互いにさ。一度あんたの素顔を見てみたいもんだな。俺の好みのタイプかもしれねーしよ、恋に落ちるか、も」
「お、俺はきっと素敵な美人だと思うぜ、もう声でわかるんだよな、俺は!」
「うむ、何か高貴な印象を受ける」
「女優のオードリーヘップバーンの声に似てませんか?」
「わしも30歳若ければなあ」
想像していた数倍嫌だな、なんか。芝居だって言うのはわかりきっていることなんだけど、なんというか……うん、嫌。嫌だな。正確に何が嫌、っていうふうに言語かはできないけど、すごく嫌。
「……」
「どうかしたのかい?」
「別に? なんでもない」
「?」
そっぽを向く私に典明が首を傾げていたが、知らないもん。
「きっさまらーーッ! 心から言っとらんなああーッ! ブッ殺す!!」
「HOLY SHIT!」
「……こんな状況で本心を言ってくれてると願っているなんて、結構あなたって可愛らしい考えを持っているみたいね」
「何をッ!」
「殺せると思っているの? その砂糖よりも甘くて、ケーキのスポンジよりもスッカスカな考えは早く捨てた方がいいと思うわよ。そもそも、あんたは私たちを閉じ込めたと思っているけど、本当は閉じ込められていないのを理解してるかしら?」
「どこをどう見たら今のその状況が閉じ込められていないと言えるのよ!」
「7メートルくらいなら、私のスタンドの射程距離内。だからエスケイプの異空間で逃げ出せる」
そう言って私は、私を含めた全員をエスケイプの異空間内に入れる。
そして私だけを海上の陸地に出す。
「……ッ、暁遥花、あんたの能力は聞いていたけれど、こんなに早く移動してくるなんて聞いてないわよッ!」
「そんなの、あんたのとこの情報屋がポンコツか、あんたがただ知らなかっただけ。そんなことはどうだっていいの。私今、とてつもなく機嫌が悪いのよね」
「なっ、何よ。もしかしてあんた、ジョースター一行が私を口説いたのに嫉妬してるの? はっ、結構お子様なのね!」
「好きなだけ罵ればいいわ。結構執着するタイプってのはとうの昔に自覚済みだから。嫉妬の1つや2つくらいする。そしてそれは、あんたを1発くらい殴らないと気が済まない」
ずかずかと近づいてくる私から距離を取ろうと、ミドラーは後退るが、岩にぶつかり転んでしまう。
「ミドラー、あんた潜水艦内で承太郎を傷つけたよね? あとジョセフさんと、ジャン、それに典明も危なかった。これは、私の大切な仲間を傷つけたお返しよ」
「嫌っ、嫌ぁーーーっ!!!!!!」
〇 〇 〇
ミドラーをボコボコにして、承太郎たちや現地民に見つからないように、ミドラーをかなり遠くに移動させてから承太郎たちをエスケイプの異空間から外に出してやる。
「ッ、海上!?」
「遥花っ、敵スタンド使いは!」
「あっち」
「遥花が倒したのか?」
「うん」
「1人で?」
「本体は大したことなかったから」
「遥花、おめー怒ってるのか?」
「怒ってない」
「はぁ、やれやれだ」
承太郎が気付いたみたいだけど、自分からは絶っ対に言ってやらないんだから。
というか、嫉妬して一人で敵を再起不能になるまでボコボコにしましたなんて恥ずかしくて言えないし。
「何はともあれ、ついにエジプトに上陸したな」
「ジェットなら20時間で来るところを…かなり遠回りしてしまったな」
「いろんなところを通りましたね、砂漠や海底、脳の中まで」
「脳の中?」
「おっと、遥花は知らなかったね」
「今度話してくれる?」
典明はこくりと頷いた。
「よく生きてここまで来られたもんだぜ」
「DIO、もうすぐテメーに会えるぜ」
そう意気込んで、私たちはすぐ近くの漁村に辿り着いたのだった。