「この村で手配しておいたサンドバギーでエジプトの砂漠を突っ切り、
「カイロ付近、ですか」
承太郎の隣に座りながら、ジョセフさんの話を聞く。
しばらく走ると、サンドバギーが止まり、すぐにSPW財団のマークが書かれたヘリコプターが着陸してくる。
「SPW財団の、ヘリコプター?」
「あのヘリはどうして僕らの元にやってきたのですか?」
「"助っ人"を連れてきてくれたのだ」
「助っ人……」
やっとイギーに会えるんだ。でもイギーに懐いてもらえる自信ないなぁ。どうやったら仲良くなれるのかなぁ……。やぱりコーヒーガムを貢がなきゃだめなんだろうか。
「ちと性格に問題があってな、今まで連れてくるのに時間がかかった」
「ジョースターさん、アイツがこの旅行に同行するのは不可能です! とても助っ人なんて無理です!」
「知ってるのか、アヴドゥル?」
「ああ、よおくな」
「ちょっと待て、助っ人ってことは当然そいつもスタンド使いってことか?」
「
ザ・フール、デザインが結構好きなスタンドなんだよね、もちろんイギーも含めて、だけど。
「ザ・フールぅ? うふ、へへ、何か頭の悪そうなカードだな」
「あんまりそういうこと言うもんじゃないよ、ジャン。あとで後悔しても知らないからね」
「敵でなくてよかったって思うぞ、お前には勝てん!」
「ははっ、言われちゃったね、ジャン」
喧嘩する前にアヴドゥルさんとジャンの間に入って軽く緩和する。
2人ともすぐそうやって口論とかするの、私良くないと思うなぁ~…。どっちも性格的に熱くなっちゃうタイプだからわからなくはないけど。私も口より先に手が出ることの方が多いし。
「てめぇ、アヴドゥルっ」
「まぁまぁポルナレフ、この世界には相性ってのもあるんだし、落ち着いて、ね?」
「はぁ、わかったよ」
ヘリコプターからSPW財団の職員が降りてくる。
……昨日からずっと考えているけれど、この人たちを助ける術が思いつかない。それだけこの後に出てくる敵が厄介だということだ。
「スタンド使いはどっちの男だ?」
「いえ、我々でがありません。我々はただのSPW財団の使いの者、助っ人はヘリの後ろの座席にいます」
「後ろの座席…? 誰もいないようだが…」
「おいおい、いるってどこによッ!」
しびれを切らしたジャンがヘリコプターの後部座席の方に向かい、手にべとべとした、何か異変を感じて不思議がっていた。止めた方が、よかったかな…?
「近づくなッ! 性格に問題があると言ったろッ!」
ジョセフさんがそう言ったとき、ワンワンとけたたましい犬の鳴き声と共に、ジャンの顔目掛けて犬、ボストンテリアが飛びついた。想像の倍可愛い。
「犬?」
「犬だと、まさかこの犬がッ!」
「そう、この犬が
「ぽ、ポルナレフの髪を食いちぎってるぞ」
「やんちゃだね。あの子の名前はなんて言うんですか?」
「名前はイギー、人間の髪の毛を大量にむしりぬくのが大好きでな」
「どこで覚えたんでしょうね、そんな物騒な遊び」
「さぁな、どこで産まれたのかは知らないが、ニューヨークの野良犬狩りにも決して捕まらなかったのを、アヴドゥルが見つけてやっとの思いで捕まえたのだ」
どんな感じだったんだろう。今度アヴドゥルさんに話聞いてみようっと。
「ああそうだ、思い出した。髪の毛をむしる時、人間の顔の前で屁をするのが趣味の下品なやつだった」
「ワーォ……」
ジャンが怒ってイギーに攻撃を仕掛けるけど、やっぱりスタンドの相性からか、ジャンが勝てる見込みはなさそうだった。
「シンプルな奴ほど強い、俺にも殴れるかどうか」
「ガルルルル……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ひっ、ひーっ! 俺の髪がぁ!!」
何てやっているのを見ていると、SPW財団の職員が私のことを手招きした。
「? どうしましたか?」
職員の方に近づくと耳打ちされ、コーヒー味のガムを1箱、イギーに見えないようにそっと手渡される。
……どうして私に? よくわからないけど、イギーと仲良くなるチャンスかも。
「おいっ、助けてくれ! この犬どけてくれーっ!」
「イギー、こっちおいで」
「……!」
「コーヒー味のガム、君の好物なんでしょ? ジャン、えーっと、君が噛みついている男の人から離れるのならあげるよ」
イギーはジャンの顔からぴょんっと飛び降りて私の方に寄ってくる。
「君は賢い子だろうからちゃんと言葉にして言うからね」
「がうっ」
「待って、ガムは私が話し終わってから」
語気を強めて言うと、イギーは渋々、と言った形で座り私の顔をジッと見つめる。
「いきなりこんなところに連れてこられて戸惑っているんでしょ? なんならイラついてるよね、だってこの旅は君には関係ないもの。だからさ、この旅に協力してくれたらジョセフさんに頼んで色々贅沢しちゃおうよ」
コーヒーガムの包み紙を取ってイギーの方に差し出す。
「このコーヒーガムだって、きっと頼めば食べきれないほどくれるはずだよ。言っておくけど、私やジョセフさんが君を飼うって訳じゃないからね。好きなだけ遊んだり食べたら、その後は君の好きなところに行ったらいい。君は賢いから、またうまくやれるでしょ?」
「……わふ」
少し間を開けてからイギーは一声鳴いた。その鳴き声は、ヘリから降りた中で一番柔らかく、こちらを威嚇するような鳴き声ではなかった。
そしてイギーは私の手からガムを1つ食べた。
「どうです、ジョセフさん! 私イギーとちょっぴり仲良くなれた気がします!」
「想像以上じゃよ……」
「スタンド使いだからかわからないですけど、普通の犬より賢いだろうと思いまして、真正面から話して正解でしたね!」
「遥花のそういうところはすごいと思うけれど、僕らには真似できなさそうだな」
「ミスター・ジョースター、それでは我々はこれで帰ります。バギーには旅に必要な水や食料を乗せました。医療品や着替えも入っています」
「この砂漠を渡る分の水と食料以外は私のエスケイプ内に入れておきました」
「ありがとう遥花」
水と食料は大事だからね、敵の襲撃でなくなっちゃった、は寂しい。私燃費悪いからご飯の量を減らすならまだしもご飯を抜くなんて考えられない。
「旅立つ前に尋ねたい。わしの娘のことだが……ホリィの容体はどうだ? ハッキリ言ってくれたまえ」
「…………はい。言いづらい事ですが、あまり良いとは言えません。体力の消耗が激しく、命は依然危険です。我々SPW財団の医師の診断では、もうあと1ヶ月も持たないでしょう」
「逆を言えば1ヶ月ほど猶予はあるのだ、まだ望みはある」
DIOのいる場所は、原作通り進めば確実に突き止めることはできる。
問題は…アヴドゥルさん、イギー、典明の死を回避することだけ。
「それともう一つご報告が。カイロ市内にいるDIOと思われる人物を密かに探し調べていましたが、報告によると2日前、謎の9人の男女が、DIOが潜伏してるらしい建物に集まって、そして何処かに旅立ったということです」
「DIOと9人の男女、だと?」
「何者かまでは分かりません。それ以上の追跡は、スタンド使いではない我々には不可能なことです。遠くから写真を撮ることさえ危険なのですから」
「新手のスタンド使いか!」
「どういうことだ? アヴドゥル、何かわかるか?」
「わ…私にもわからない。9人だと?」
「9……タロットカードの、起源?」
「起源? 遥花、それはもしかしてエジプト9栄神のことか?」
アヴドゥルさんが反応したのを見て、私はコクリと頷く。
原作を知っているんだし、これくらいのヒントは許される。
でも数日前にアヴドゥルさんと占いの話してよかった!! タロットカードのこととかいっぱい教えてもらっててよかった。事前準備は大事!
「これまでタロットカードの暗示に沿っていましたし、"9"と聞いて、それが思い出したんです。可能性は0じゃあないですよね?」
「ああ、十分有り得る」
「やれやれ、もう猶予が1ヶ月もねぇっていうのにあと9人もいやがるのか。ちょっぴり疲れるというところか」
それに加えてラスボスであるDIOと戦うんだもん。正直ちょっぴり、なんてものじゃないけどね。
〇 〇 〇
そうして私たちはまたサンドバギーに乗って移動し始める。原作ではイギーがシートを占領して、ジャンたちが荷台に追いやられていたけれど、私に気を許してくれたからか、イギーが私の膝の上に乗っているので平和的に解決した。よかったよかった。
「よくそんな爆弾みたいなの膝に乗っけていられるな」
「爆弾みたいって言われてるよ、イギー」
「ワンッ、ガルルル……」
「わかったわかった、悪かったよ」
「ッ!」
「きゃあっ!」
「ワンアンン!」
急ブレーキに驚いて情けない声出ちゃった。イギーも思いっきり抱きしめちゃったし。
「ご、ごめんイギー、大丈夫だった?」
そう聞いてみると、大丈夫だと言うようにフン、と鼻を鳴らした。大丈夫そうで安心した。
「み…見ろッ、あ、あれを!」
「こ、これは…ヘリコプター…」
「あぁ。飛び去ったはずのSPW財団のヘリコプターが砂に埋まっている」
「兵器による攻撃の後はない」
「なんか、そのままドスンと落ちた感じだ」
「気をつけろ、敵スタンドの攻撃の可能性が大きい!」
あ…ああ……ごめんなさい、助けてあげられなくて。ごめんなさい。
「…! 水だ、パイロットの口の中に水がたっぷり溜まっている。どういうことだ? こんなに大量の水が、パイロットの口の中から、いや、肺の中からこんな沢山の水が……小魚もいるぞ。溺れ死んでいるぜ! この砂漠のど真ん中で!」
「おい、こっちの奴はまだ生きているぞ!」
そ、そうだ、どっちも死んだわけじゃない。もう一人をエスケイプの中に入れて、安全なところに行くまでずっと入れておけば、この人は……
「ワンッワンッ!」
「い、イギー? どうしたの? 私をあの人の場所に行かせて」
「ヴ~~……」
イギーは私のスニーカーの紐を咥えたまま放してくれない。あの水筒の中の水が危険だと知っているから? だから私を行かせてくれないの?
「イギー、放し」
「水が襲ってくるぅぅうう!!!」
放してくれないまま、SPW財団の男の頭が、水筒の中から出てきた手によって引きずり込まれてしまった。
ひゅ、と喉が鳴るのを感じた。確かに危険だったけれど、でも、でも助けられたはずの命が、今、目の前で……
「っ、はぁ、はぁ……うそ」
「ハル、見るんじゃねぇ」
承太郎が私を背中の方に隠して視界を遮ってくれる。SPW財団の人は無関係なのに。どうして無関係の人を襲うの? 私たちを、ジョースターを支援しているってだけで襲われる対象になるのは理不尽だとは思わないの?
……せめて襲われるのは、スタンド能力を持つ私たちだけでいいじゃない。ああ、もう、心底嫌になる。
「アヴドゥル、どんなスタンドか見たか!?」
「見えたのは手だけでした。しかしまだ水筒の中にいます! 出ていったところは見ていません!」
「何者なんだ……タロットの暗示はもう世界の暗示、1枚だけ。本当にエジプト9栄神の暗示を持つスタンド使いが存在するのか? 承太郎、敵の姿は見えるか?」
「今探している。だが、今回も視界の中には敵本体は見えないな。どうやら敵はかなり遠くから操作しているらしい」
しばらくの間、膠着状態が続いていた。
「ポルナレフ、水筒を攻撃しろ」
「お…俺が? い、今あの小さい水筒の中にパイロットの頭が全部丸々引きずり込まれたんだぜ…つまりあれに穴を開けるということは……嫌だぜ! 花京院、お前の方が近い! お前がエメラルドスプラッシュを食らわしてやりゃあいいじゃねーか!」
「僕だって嫌だ!」
「自分が嫌なものを人にやらせるな! どういう性格してんだ、てめーッ」
「…? なんだ、この音は…」
「危ない、典明!」
典明の服を引っ張ったが、私の方が一瞬遅かったらしい、砂の中からスタンドの腕が現れ、花京院の右目を切り裂いた。
「か、花京院!」
「典明! くそっ、もう少し私が速かったら目に傷を負うこともなかったかもしれないのに」
「すでに敵は水筒から外に出ていたんだッ! 血と一緒にッ!」
「スタンドが水筒の中に潜んでいたのではなく、水がスタンドなのか!」
「かっ、花京院がやられた! 花京院が目をっ!」
「典明!」
「ポルナレフ! 遥花! パニックになるんじゃあないッ! スタンドを出して身を守れッ!」
「……無理だ、ここは逃げるしかない」
「わかってる…ここで攻撃したところで、砂に出ているのは一部だけ、砂にしみこんでいる部分までは攻撃しようがない」
逃げようにも、タイミングを間違えば首を思い切り切られてそのままジ・エンドだ。
ごくり、と息をのんだ時、すでに死んでしまったSPW財団の男の腕時計が鳴り響いた。スタンドはその腕時計を破壊した。
「……音、音だ。奴は音で探知して攻撃しているんだ」
気づいたアヴドゥルさんが声を潜めながら全員に教える。
典明の目から落ちる血がぽたぽたと音を立てているのに気づいたポルナレフが、典明を慌てて抱き上げ、サンドバギーの方へと走る。
全員がサンドバギーに乗った時、また静寂が私たちを包み込んだ。
「花京院の様子は…」
「気を失っているだけだが、傷ついた方の目が失明の危険がある。早く医者の所へ連れていかねぇと…」
しばらくして、イギーがバギーから飛び降りる。
「やばい、みんなも降りてッ!」
皆が分からないながらも、バギーから飛び降りてくれた。私たちの行動は全部敵であるンドゥールに筒抜けだろう。ハァ……クソ、やっぱりンドゥールのゲブ神は厄介だ……今までの敵の中で確実に上位に入るほどに。
物音を殺したところで、あっちにはやっぱりわかっているだろうし……どうしよ
う、どうする?
私が迷っていると、承太郎と目が合う。承太郎にイギーは敵の場所が分かっていると、原作よりも早い段階で教えたら、早くに事が片付くだろうか?
考えていてもしょうがない。私は承太郎の目を見つめてからイギーの方を見る。
「(……あの犬はバギーが攻撃される前に降りた。ハルも犬が降りてから俺たちにバギーから降りろと指示をした。犬はどこから攻撃されるかを分かっているのか?)」
ゆっくり瞬きをしてから、私は西の方を見る。
「(敵スタンド使いは…あっちか)」
多分、これで大丈夫。
アヴドゥルさんが腕輪を投げ、そして投げた先に水がしみ始めている。出たところを攻撃…だけどンドゥールは用心深い男だった、どうして数歩移動しただけでそこから何もしないのかと、ンドゥールは歩いたのではなく、何かを投げたということに気づいてしまったのだろう。
ゲブ神はアヴドゥルさんの思っていた場所ではなく、アヴドゥルさん本人を狙ってくる。
どうする、なんて考えるよりも先に、私の体は動いた。
「アヴドゥルさんっ!」
アヴドゥルさんを押しのけ、代わりに攻撃を受ける。マズイ、喉を……波紋の呼吸が、できない。
「かひゅっ……」
血も流しすぎた。意識が…遠のく……