アスワンの町につき、典明と私はすぐに病院に連れていかれた。私もかなりの怪我だったけれど、典明ほどではないから、病院で適切な処置をしてもらい、包帯を巻いてくれればすぐにみんなと行動できるようになった。無茶しない方がいい、アスワンにいる間だけでも病院でおとなしくしていろとは言われたけど、動けるんだから大人しくしているつもりは毛頭ない。
適当なカフェに入り、隣に座った承太郎が私のことをじっと見ていた。怪我のこと、心配しているんだろうな。
「…本当に怪我は大丈夫なのか」
「何度聞かれたって私は大丈夫だってば。急所は外れていたし、傷も浅かったから。まだ包帯は取れないけど、みんなと一緒に街を歩くくらいはできるよ」
「無理だけはするんじゃあねぇぞ」
「わかった」
「いらっしゃい。何を、注文なさいますか?」
そんな話をしてから、店員……ではなく、エジプト9栄神、クヌム神という創造の神の暗示を持つスタンド使いのオインゴが店員に扮して私たちに話しかけてきた。
……オインゴの弟、ボインゴのスタンドのトト神は私が転生者だったり、すでにオインゴ、ボインゴを知っていることは予言されていないのかな。じゃなきゃこうやって原作通りに私たちに真正面から挑まない、よね? 深く考えるのは止めよう。頭痛くなってきた。
「そうだな、紅茶がいいな」
「同じだ」
「私も」
「はい、紅茶を…4つですね」
「いや、やめたほうがいいな」
「え?」
「いいか、ここは敵地エジプトだ。これまで以上にどこに敵が隠れていて、いつ襲ってくるかわからんぞ。今まで以上に毒にも用心した方がいい」
さすがはジョセフさんだ。
瓶入りや缶入りだけの飲食、っていうのはちょっと味気ないけれど、毒に当たって死ぬよりはずっとずっといいもんね。
「ええっ、マジで?」
「マジじゃ!」
「おい、紅茶を取り消してコーラにするよ」
「コーラ?」
「そうだ、どうかしたか?」
「い、いいえ。はい、コーラですね」
「ん?」
「コーラ4本ですね」
「そうだ、栓はテーブルで抜くからいいぞ。それに、冷蔵庫の右から3番目から4本のコーラを指定する」
栓を抜かないコーラじゃ毒は入れられないから焦ってる焦ってる。ふふ。ちょっと面白い。
なんて私が心の中で笑っていたら、別のテーブルでコーラが冷えていないと文句を言う客がいた。確かに冷えていないコーラって不味いよね。どうせ飲むなら冷たいコーラの方が私もいいし。
「おい待て! コーラ冷えてないのか?」
「れ、冷蔵庫が壊れちまっているようで…すみません」
「少し神経質すぎるぜ。例えば仮にあの主人が敵だとして、俺たちに毒を盛ろうとしているとしよう。俺たちがどうしてこの店に入るとわかる?」
「このお店にはあの店員さんに呼ばれて入ったわけじゃなく、ジャンが投げたたばこがこの店を向いたから、ですしね」
「そうだぜ、ジョースターさん」
原作ではオインゴ、ボインゴ兄弟の回ってなんであんなにギャグ度高いんだろうね。和むから好きだったけど。
ということで今回は、かなり危なくならない限り私は何にも知らない振りをすることにした。私が全部知っていることをトト神の漫画に予言されてDIOに報告されたらたまったものじゃないからね。
「用心に越したことはないと言ってるだけだ」
「そんなにこだわるなら店を変えよう。向かい側の店に移ろうぜ」
「向かい側のお店、火事になっちゃったみたいだけど?」
「…おい主人やっぱり紅茶4つでいいや」
ジョセフさんが改めて紅茶を4つ注文する。
綺麗な白いティーカップに入った紅茶が私たちの前に運ばれてくる。うーん……飲むふりでもいい、かな。
そして私は紅茶を飲むふりを、他の3人は確かに紅茶を1口飲んだ。その時、イギーが別の客のテーブルに飛び乗り、女性のケーキを咥えて食べてしまう。
「きゃあ! この犬があたしのケーキを!」
「誰だ! 犬を店の中に連れ込んだのは!」
1人の客がそう言ったとき、紅茶を飲んでしまった3人が紅茶を思い切り吹き出す。
「イギー!」
「誰の犬よ!」
「ごめんなさい! 外で待っているように言っていたんですけど、我慢できなかったらしくって」
イギーを抱き上げ、女性に謝る。
「しつけがなってないわね!」
「本当にごめんなさい。ジョセフさん、この人たちのケーキや紅茶代を弁償することって……」
「ああ、それくらいはしないといけんじゃろう。遥花はイギーを外に連れ出してくれ」
ジョセフさんは私たちが座っていたテーブルに私たちの分のお代と、女性たちに弁償の分のお代を渡して外に出る。
店から出てイギーを叱る。
「駄目でしょ、イギー。食べたいものがあったら私に言ってくれたらケーキぐらいあげたから。今度は私に言うか、私のお皿にあるものを食べて。わかった?」
「あぎっ」
「…わかったのかはわかんないけど、ひとまずよし。ジョセフさん、この後はどうしますか?」
「うむ、そろそろ花京院のいる病院に戻るか。車はすでに手配してあるから車に乗って行くぞ」
わかりました、と言おうとして私は町中のとあるお店が目に入る。あそこの雑貨屋、ちょっとかわいいかも。
「……ジジイ、俺とハルは直接病院に行くぜ」
「む、そうか? わかった、あまり遅れんようにな」
「ハル、行くぜ」
先を歩く承太郎の後をついていく。
「ちょっと目に入っただけだから別によかったのに」
「俺もあっちで売っているサボテンの実とやらが気になってな」
「サボテンの実?」
雑貨屋の中から外を見てみる。ほんとだ、商人っぽい人がサボテンの実を売ってる。美味しいのかな?
「…あ、承太郎、見てこれ」
「ハンカチか?」
「イギーに似合いそうじゃない? 買っていこうかな、イギーが気に入らなかったら私が普通に使うし」
「いいんじゃあねえか?」
ということでエジプト綿のちょっとお高いハンカチを購入。
そして外に出てサボテンの実を購入した。トゲのある皮をナイフで剥ぐと、みずみずしい果肉が出てくる。食べてみると、見た目通りみずみずしく、ナシっぽいような味がした。
「ん! 美味しい!」
「…ん、確かに、美味いな」
2人でサボテンの実を食べてから病院の方に向かうことにした。
病院の前でジョセフさんたちと合流する。
「あれっ?」
「承太郎じゃあないか」
「よう、遅かったな。寄り道をしていた俺たちよりも遅いのは、何かあったのか?」
「"遅かったな"? お前早すぎるぜ、野ぐそが」
「は?」
「車より先に着くなんて、おまけにクリーニングも仕上がったのか」
「2人とも何言ってやがる。俺は今の今までハルと一緒で、ジジイ達には会ってねぇはずだぜ」
承太郎が私の方を見てきたから、コクコクと頷く。
「いや、似合っていない格好はしていたが、ありゃ確かに承太郎……ん? どういうことだ?」
「ハル、オレンジ食うか?」
「食べるー」
承太郎がオレンジの皮を剥き、私の口に放り込んだ。ん~サボテンの実とはまた違うみずみずしさが喉を潤してくれる。うん、美味しい。
オレンジをもぐもぐしていると、車の中からイギーが降りてきて私の足元に寄ってくる。丁度いいからイギーにハンカチを見せると、興味を示してくれたので試しにイギーの首に巻いてみた。どうやら気に入ってくれたらしい。よかった。
「似合ってるよ、イギー」
「わんっ」
イギーの頭を撫でてから、病院の外で待つよう頼む。尻尾を軽く振って、鼻を鳴らしたので多分大丈夫だと思う。
そして病院の、典明のいる病室に入る。
「典明、大丈夫? 容体は?」
「瞳の所を切られたのではないらしいから傷はすぐに治るらしいよ。数日したら包帯も取れる。退院でき次第すぐに君たちの後を追うよ」
「無理はしないでね」
こつん、と額を合わせる。私が小さいときに母親から教えてくれたおまじないの一つだ。
「わかってる。治るまでは大人しくしておくよ」
「さぁ、そろそろ次の町に向かうか。DIOのいるカイロまであと800キロメートル足らず、みんな用心して旅を続けてくれ。これからナイル河を登ってコム・オンボへ向かう。そこからエドフを経由してルクソールに入るぞ」
「ナイルですか、懐かしいな。エジプトは古代からナイル河を境に陽の沈む方向に死者を葬ったそうですよ。だからすべての町はナイルの東側に集まっていて、西側にある建造物は全て墓か死者にまつわる建物だそうです」
「敵は西だろうが東だろうが東西南北お構いなしに襲ってくるがな」
「ともかくみんな、気をつけてください」
「うん」