ジョースター一行はコム・オンボの町に辿り着いた。
「あれ、ポルナレフはどこに行った?」
「遺跡の方に行っちゃったみたいですよ」
「買い出しをしてから迎えに行くか」
必要な分買い物をしてから遺跡の方へと向かう。
「ジャーン!」
遥花はポルナレフに近づき、そして刀を持つ手をぺちんと叩いて刀を落とさせる。
「痛っ、なんだよ、遥花」
「1人でどっかに行かないで。ジョセフさん何とか言ってやってください」
「遥花の言う通りだ、1人で行動するな。せめて2人で行動するように」
「その刀は? 何かあったのか?」
「あぁ、たった今クソッタレの敵を倒したところなんだ」
「敵?」
「もう終わったがな。アヌビス神の暗示のスタンド使いと言ってたぜ。剣の達人で、物体をすり抜けて攻撃することのできるスタンド使いだった。強敵だったぜ」
〇 〇 〇
翌日、エドフ辿り着いた一行は、二手に分かれて行動することになった。
「ちょっと床屋に行きたいんだがいいか?」
「床屋? 私は別に構わないけど、承太郎は?」
「構わん」
床屋に入り、承太郎が適当な雑誌を手に取り読み始める。
「海の雑誌?」
「あぁ、それ以外のも載ってるがな」
「……ふわ、あふ」
「眠いのか?」
「ちょっと、肩借りていい?」
「あぁ、好きにしな」
遥花が承太郎の方にもたれかかると、すぐにすやすやと寝息を立て始める。それにつられたのか、これまでの旅の疲れからか、承太郎も眠ってしまった。
そしてそのまま穏やかに時間は流れる、かに思えた。
「顎の下も頼むぜ」
「はい、顎の…下ですね…。顎の下だなポルナレフッ!」
床屋の店主だった男が、ポルナレフが拾った刀をポルナレフの顎の下に当てている。
「俺だよ間抜け、アヌビスの暗示のスタンドさ。死ね! 顎ごと剃ってやるぜッ!」
すぐに首を斬ればよかったのに、隙を与えてしまったが故、ポルナレフはシートを倒して間一髪避け、刀は床屋の店主の腹を切り裂いてしまった。
「ゲッ、ウォ、ォォ」
「な、なんだ!? て、てめぇは、床屋の主人じゃねーのか!」
「ん……」
「しまった、こんなに深く眠るつもりはなかったのに…っ」
「ひょっとして、その刀、その刀自体がスタンド、刀が床屋を操っているのか? コム・オンボでの男も、本体ではなかったのか!」
「ポルナレフッ!」
「しかし何度やっても。テメーは俺より弱いぜ……!? う、うう、うおおおっ! こ、この剣力はっ!?」
「貴様のチャリオッツの動きやパワーはさっきしっかりと取り込んだ! 既に戦った相手には決して負けない!」
「こいつは、この床屋は一体!?」
「近づくな承太郎、こ、この剣がスタンドだ…。お前のスタープラチナの素手の拳でこの切れ味と戦うのはかなりデンジャラスだぜ……。床屋は本体じゃねえ、操られてる。お、おまけにこのスタンドは…前より強くなっているッ」
「近接戦闘じゃ私はあまり役に立たないから、下がっていた方がいいかな」
「そうだな、すぐに逃げられるように玄関の方にいろ」
承太郎に言われ、遥花は玄関の扉に手をかけながらもアヌビスやポルナレフから目を離すことはなかった。
アヌビスはポルナレフの攻撃を覚えていた。だが、ギリギリポルナレフの方が上だったらしく、チャリオッツの技に押され、アヌビスは床屋の主人ごと外に放り出されてしまった。
「死んだのか?」
「いや、床屋は気を失っただけだ。承太郎、遥花、間違ってもその刀に触るなよ。その床屋も本体じゃあねぇんだ、スタンドの魔力は生きているかもしれんッ! 抜いた剣に触った奴が操られるんだ。柄に触らんよう鞘に納めよう」
そうっと、鞘に納め、ポルナレフは深く息を吐いた。
「ふーっ、とりあえず鞘に納めたがどうする? また誰かが抜いたらヤバいぜ、こいつは俺の能力を完璧に取り入れた。お前たちの力も戦って取り込まれたら、もう誰にも止められんだろうよ」
「ナイルの河底に沈めるというのはどうだ?」
「永久にナイルの河底か! そうだな、それはグッドアイデアだぜ!」
「あ、あっちから来るの、警察じゃない?」
遥花の言う通り、警察が駆け寄ってきて、凶器である刀を没収しようとする。
「あっ、ちょっと! その刀危ないんです! 触らないで!」
「おいやめろっ、引っ張るなッ!」
警察が無理やり鞘を引っ張ったために、ポルナレフが柄を握ったまま刀が抜けてしまった。
「ポルナレフのこの目つき、妖刀の術にハマってしまったのか!?」
「マズイ、チャリオッツとアヌビスの二刀流は確実にマズイ、承太郎!」
遥花が承太郎に目配せをしてからポルナレフの手からアヌビスをひったくるようにして取った。
その間に、刀を抜いた張本人の警察をスタープラチナで殴って気絶させる。
「ジャンよりも私の方が、戦闘が楽……あれ、何も、起こらない?」
この瞬間、アヌビスは気づいた、否、
今対峙している3人の中で最も厄介だったのは最強のパワーとスピードを持つスタープラチナや承太郎でもなく、剣を扱うことに長けているシルバーチャリオッツやポルナレフでもなく、エスケイプのスタンドを持つ、遥花だったということに。
アヌビスは遥花の体を乗っ取ろうとして、その記憶を覗いてしまった。1人の人ではとても持ちきれない、脳みそがパンクするほど膨大な記憶の一部を。
死んで、転生して、死んで、転生して……何度も何度も同じことを繰り返していた。だが当の本人はけろっとした顔で耐え、しかもこれからDIOという強敵に挑もうとしている、確かな、強さ。
「あ、あぁ……」
500年前に作られ、そして500年間、スタンドとはいえ生きているアヌビスは恐怖した。
敵わない。『1度も死んだことのない』俺には、この女に精神力で勝つことが出来ない。
「アヌビス……」
「むりだ。かてない」
先程まで強気だったアヌビスが零した言葉に、3人は驚いた。
「えっ、勝てないって、私に言ってるの? マジか……ちょっと予想外なんだけど」
「どういうことだ?」
「んー……とりあえず、エスケイプの中にしまっておくよ。私に逆らわないんだよね、アヌビス」
「…あぁ」
「とりあえず、ジョセフさんたちのところに戻ろうか。承太郎、ジャン」
「そうだな」
「ジャン、怪我は大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ」
ホテルに戻り、ジョセフたちに事情を話してから遥花はアヌビスと話すことにした。
「1人じゃ危ないかもしれないし、承太郎、一緒にいてくれる?」
「全員がいるところじゃだめなのか?」
「お願い、承太郎」
「はあ、わかった。いつもみてえに何かしら事情があるんだろ。アヌビスの野郎に乗っ取られるなよ」
「わかってる」
ホテルの自室でアヌビスと対話をすることにした。
〇 〇 〇
「アヌビス、まどろっこしいのは嫌だから単刀直入に言うね。私の仲間になって」
「仲間?」
「床屋での戦闘でわかっていたと思うけど、私近距離の攻撃の術を持っていないんだよね。しいて言うなら殴ったり蹴ったりの肉体的な攻撃手段だけ。君みたいなのがいたら確実に足手まといになっちゃうわけ。だから、君が私の剣になってくれたら、とても嬉しいんだけど」
「……わかった」
「思っていたよりもあっさり了承してくれるんだね?」
「さっきも言っただろう、俺はお前に勝てないお前を操らずに承太郎の方に行っても、アヴドゥルの炎で解かされるだろうからな」
「そっか。ありがとう、アヌビス。そしてこれからよろしくね」
「ああ。よろしく、だ!」
「やれやれ、何はともあれ、強力な味方が手に入ったな」
「そうだね。あとでジャンに剣の手入れでも教えてもらおうかな」
「これからDIOの刺客と戦うっていうのにナマクラ握ってるんじゃ意味ねぇからな」
承太郎の言葉にそうだね、と頷いた。