どっちが悪役だよ(定期)
「フワァ…あふ」
「イギーもお眠?」
イギーの頭をこしょこしょと撫でていると、遥花たちの前を男たちが忙しそうに走っていった。
「何か騒がしくなってきたな」
「線路が切られちまったんだってよ」
「列車は大丈夫なのか?」
「とりあえず今は運行を止めてるってよ」
「線路が切られたあ? 酷えことする奴もいるもんだなあ。一体何の意味があってやってるんだあ? 馬鹿なのか? はあ…承太郎、俺は思うんだ。そういう奴は因果応報で自分も酷い目に遭うに決まってるぜ。な、遥花もそう思うだろ?」
「思う思う」
頷きながらポルナレフに返事をした。
「にしても、遅っせぇなあ…女である遥花の身支度よりも遅いんじゃあないのぉ?」
「そろそろ9時か。敵と遭遇しているのかもしれん」
「様子を見に行った方がいいかもしれないね」
「そうだな」
「イギーもおいで、一緒に行こう」
「ワウッワウッ」
「ガムだけじゃお腹空くもんね」
そうして遥花たちはアヴドゥルとジョセフの様子を見に行くことにした。
……どのタイミングでセト神の暗示を持つスタンド使い、アレッシーが自分たちを襲いに来るのか、遥花は1人用心していた。
「ワンッ、ウウ…」
「あっおい! イギー、どこ行くんだよ!」
「すぐに戻ってくると思うよ、イギー賢いし」
「どーだか」
承太郎たちはホテルに戻り、アヴドゥルとジョセフたちが泊まっていた部屋の様子を見に行く。
「ハル、ポルナレフ、油断するなよ」
「誰にものを言ってんだ?」
承太郎が用心して扉を開けるが、中はもぬけの殻。何かがあった様子もない綺麗な部屋を見て3人は首を傾げる。
「いよいよ怪しくなってきたな…」
「ああ」
「うん」
ホテルから出て、町中を探すが、やはりアヴドゥルもジョセフも見つからない。
そしてそんな3人の後ろを追う怪しい男がいた。ちりん、ちりんと鈴の音を鳴らしている。
「お腹空いた…」
「あっちでケバブサンドが売ってるぜ、2人を探しているところだが、そもそも俺たちは朝飯を食べに行くつもりだったからな、食べながらでも探すことはできるだろ」
承太郎と遥花はケバブサンドを買い、空腹だったのもあってぺろりと食べ終えてしまう。
「……お腹膨れた?」
「そこそこ、ってとこだな。食い足りない」
「だよねぇ…」
もう1個ずつ買っちゃう? なんて呑気に喋っているところに、ポルナレフが声をあげる。
「おい承太郎! 遥花! 敵だ、敵が現れやがった!!」
「どこだ、ポルナレフ」
「承太郎、こっちだ!」
「……承太郎、あっちの方だよ」
「わかった」
2人はポルナレフの声が聞こえた方に走っていく。途中、遥花が通行人にぶつかってしまい、はぐれそうになる前に承太郎を呼び止めたが、雑踏の声にかき消されてしまった。
「もうっ、人が多すぎる! どっちも見失っちゃった…。単独行動は危ないのにぃ…」
遥花がきょろきょろと承太郎とポルナレフの2人を探していると、遥花よりもずっと背の低い、銀髪でぶかぶかの服を着た子供が遥花を呼び止めた。
「は…」
「あ?」
「は……あっ、ああ…は……うう、」
「……私の名前は遥花だよ。ジャン」
「遥花! そうだ、遥花だ! ってあれ、僕が僕だってこと、わかってるの?」
「ん? んー、まあ、なんとなくだけど。それとも違った?」
遥花が、セト神の能力によって子供の姿になってしまったポルナレフに目線を合わせるようにしゃがんでそう聞いた。
「違わない! 違わないよ! って、ああ! お姉ちゃん! 後ろ!」
「ッ!」
「やった! 踏んだ!」
ポルナレフの忠告が一足遅く、遥花はセト神の影を踏んでしまった。体が徐々に縮んでいく。
「体がっ……」
「ヒヒ、ヒヒヒッ、あまり大きな声じゃ言えないがな、俺が弱い者をいじめるとスカッとする性格なんだ」
「…アヌビス」
遥花がエスケイプの異空間内からアヌビス神の刀を取り出し、鞘から刀を抜く。
「誰が、弱い者ですって? 喜びなさい。あんたがこの刀の記念すべき1人目の犠牲者よ」
「クソッ、まだ体が子供になりきってねぇのかっ」
「うっ、刀が重い…」
「すまねえ、俺が宿っている刀は何の変哲もない普通の刀だからあんたに合わせて形を変えるとかはできねぇんだ」
「ちっ、ジャン、逃げよう!」
アヌビス神を再び異空間内にしまい、ポルナレフの手を引いて走り始める。アレッシーとすれ違う際に遥花は脛を渾身の力で思いっきり蹴ってやった。
「痛ッ!!」
2人が走って逃げていると、曲がり角で先頭を走っていた遥花が女性とぶつかってしまう。
「すっ、みません…」
「あら、どうしたの? そっちの銀髪の子、怪我をしているみたいだけれど……」
「あ、あう…えっと…」
「何もごもごしているの? 手当をしなきゃ、私の家で応急手当てしてあげるわ。そっちの黒髪の子も一緒においで」
遥花がぶつかってしまった女性は、子供になってしまった遥花とポルナレフの手を引いて、怪我の応急手当てをするべく、自分の家へと向かった。
「何をして怪我したの?」
「…2人で遊んでいたら転んじゃって」
「あらそうなの、元気なのはいいけれど気を付けて遊ばなきゃだめよ」
女性、マレーナの家に着き、マレーナは手際よくポルナレフの血を簡単に拭く。
「転んだからか、泥だらけね。今お風呂を沸かすわ。ちょっと待っててね」
「はい、ありがとうございます」
遥花は人懐っこい笑みを浮かべてお礼を言った。マレーナがバスルームの方へと向かったのを確認してから、遥花とポルナレフは窓をそろりと覗く。
「…スタンド使いは?」
「追ってきてはいないみたい」
「でも用心しないと」
「うん」
「さあ坊や、私と一緒にバスルームへ来て、服を脱ぎなさい」
「ええっ、で、でも、お姉ちゃん1人じゃ…っ」
「大丈夫だよ、泥を洗い落として薬を塗ってもらった方がいいよ。マレーナさん、お願いします」
「わ、わかった」
マレーナとポルナレフがバスルームに行ったのを確認してから、遥花は頭を抑える。
「うっ、だんだん記憶が無くなっていくけど、特別性転生者だからかあっさり記憶が無くなっていくことはないみたい。でも頭の中が靄がかってかなり気持ち悪い……」
ガタン、と玄関の方から音が鳴り、扉を開けてアレッシーが入ってくる。
「おいおいおいおい、遥花、まさかお前1人か? へへっ、さっきはよくも俺の脛を思い切り蹴りやがったな? 真っ二つに血ぶちまけて掻っ捌いてやる!」
「私が生まれつきのスタンド使いって言うのは、流石に知っているよね?」
「ああ、当たり前だろう。だが、そんな未熟なちっさいスタンドで何が出来る?」
「…確かに、まだトレーニング前だから、あんたの言う通り現在よりもずっとずっと未熟。じゃあ私自身はどう? 子供の姿になってしまった、この短い手足で何が出来ると思う?」
遥花はアレッシーから目線を逸らして、小さくなった自分の手の平を見つめる。
「何も…できるわけねぇだろうが。そんな体で、しかも女の体で大人の俺には手も足も出やしまい!」
「残念、大ハズレ」
「あ?」
ずり下がったセーラー服を着直して、異空間内に手を入れる。
「愚かなアレッシーに特別に答えを教えてあげる。この短い手足で出来ること、それは……」
――ジャキ…ッ
「拳銃の引き金を引くことが出来る、よ」
遥花はそう言うなり、間髪入れずにアレッシーの右の太ももを撃ち抜く。反動で手が痺れるが、そんなことはどうでもいい。
「あんたさっき、私が嫌いな言葉を言ったわよね。女の体でって。私、女だからと舐められるのが死ぬほど嫌いなのよ。ほら、必死に逃げなさい。先に言っておくけど、次はあんたの左足をブチ抜くわ」
「偉くないっ、偉くない~ッ!!」
「偉いだとか、偉くないだとか関係ない。あんたは私の気に障った」
アレッシーは悟る。自分よりも小さくて、弱っちい存在であるはずの目の前の少女が、とてつもなく恐ろしい存在だと。
「左足を撃たれたら歩けなくなるから早く走って逃げなさいよ。あーでもこんな小さい体だから狙いがズレちゃうかもしれないわ。お腹を…いや、頭を撃ち抜いちゃうかもね?」
靴はとうにぶかぶかで、歩くのに邪魔だからと脱ぎ捨てていた。ぺた、ぺたと遥花の歩く足音が静かに響く。
「……ジャンとマレーナさんはバスルームから出たみたい。間違ってもあんないい人にあんたみたいな変態野郎を見せちゃあいけないわ」
「ッ、今だ!」
アレッシーがセト神を発動させ、遥花がまたセト神を踏んでしまう。
「踏んだ! また幼くなっていくなぁ、遥花ぁ!!」
「だから何よ。私の記憶が退行する前にあんたをブチのめせばいいだけでしょう」
数発、アレッシーの足元に威嚇するように撃つ。
「ジャン! 走って玄関の方に来て!」
「わかったよ!」
ポルナレフの走ってくる音を聞いてから遥花は2体のエスケイプと協力して外に追い出した。
「偉くない…偉くない、うっ」
突き飛ばされた先でアレッシーのとある男が目に入る。承太郎だ。このままでは間違いなくスタープラチナにオラオラされて殺されるだろう。
「ハア…ハア…」
「……玄関から血だらけで飛び出てくるなんて、普通じゃねえな」
「(落ち着け、落ち着くんだ…こういうときこそ冷静な奴が勝利する。考えてみれば、承太郎は今成人姿のポルナレフと遥花を探している途中、俺のことを知らない)」
アレッシーは必死に考えを巡らせ、すっとぼけて承太郎の隙を伺うことにした。
「ああ、ああっ、この家のご主人様に叱られる~っ、家の掃除を命じられていたのに、ナイフを落として怪我をして、家の中をさらに汚してしまったぁ。どうしよう、どうしよう、叱られる~っ」
「待ちなさいよ変態ゲス野郎!」
すっとぼけていたアレッシーを追って、拳銃を手に構えた子供姿の遥花がアレッシーが飛び出してきた玄関から歩いて出てくる。
「遥花…? その姿は一体…」
「(なぜ、このガキが瞬時に遥花だと!? 確かに似ているが、そんなピンポイントに当てるものか!?)」
「あら、アレッシー知らないの? 私と承太郎は幼い頃からの知り合いだから小さい私のこともちゃんと認識できるってわけ、
「ぐ、ぐぬ、うぅ……だっ、だが! 俺のスタンド、セト神は承太郎がお前の方を見たほんの一瞬を待っていたんだッ!」
「承太郎! 影を踏まないでッ!」
遥花の言葉に、咄嗟にジャンプをして回避したように見えた承太郎だったが、運悪くも触れてしまった。
「やった、触った、承太郎の影に触ったぞ!」
「しまった、あのお兄ちゃんも影に触ってしまった!」
「ウワッ、ハハハ、承太郎! テメエも俺のセト神の術中に落ちたのだァ!」
「か、体がッ、ハルが小さくなっていたのはやはりテメェの仕業か…ッ」
「た、大変だ、あのお兄ちゃんも子供になる!」
「承太郎~! お前がスタンド、スタープラチナを使えるようになったのは最近と聞く! つまり、子供の時はスタンドを使えなかったということだぁ! ただのガキになるのだ! ウヘ、ウヘ、ウヘヘヘ!」
「あんなに小さく、7歳くらいの子供に戻ってしまったぁ!」
「承太郎っ」
遥花が承太郎の近くに近寄った時、苦しそうな表情で頭を抑えた。
「おや、おやおやぁん? 遥花、テメェもやっと記憶が退行したか? そうなるとお前もただのガキになったわけだな!? DIO様! 俺が承太郎たちを殺すのです! 礼金をたんまり弾んでもらいまっせ! 死ねえ!!!」
押されていたアレッシーはすっかり気分が舞い上がり、勝利を確信する。
「……行くぜ、ハル」
「わかったよ、承太郎」
子供になってしまった2人がいつもの様に名前を呼び合う。
「「オラァッ!」」
強烈な打撃音と共に、アレッシーの両方の頬が殴られる。
「ブッ」
「あ、殴った。生身の子供の拳で」
「やれやれ、子供だからってナメんなよ」
「さっきの私の言葉、もう忘れちゃったの?」
「ヒイイッ」
2人が容赦なくアレッシーをリンチし始める。
「じ、承太郎と遥花の凶悪コンビは子供の時からやるときはやる…」
「性格の人たちだったのか、強い」
アレッシーは思い切り吹っ飛ばされ、情けなくも気絶してしまった。
スタンドの本体であるアレッシーが気絶したからか、スタンド能力が解け始めた。
「はあ~やっぱり視界は低いよりも高い方がいいね。こっちの方がリーチも長いし」
「散々な目に遭ったぜ」
「疲れたし、目を覚ましたアレッシーの対処は任せてもいい? 承太郎」
「あぁ、任せな」
数分もしないうちに、アレッシーは目を覚まし、そしてそのままポルナレフと承太郎に思いっきり殴り飛ばされ、どこかへと飛んで行ってしまった。
空を見上げながら、遥花は口角を少し上げながらこう言った。
「これで、正真正銘戦闘不能リタイアってわけだ」
「あぁ。それより遥花、彼女、マレーナはどうした?」
「…ちょっと手荒かもしれないけど、アレッシーを玄関から外に吹っ飛ばしたあと、私たちを追ってきちゃったから気絶させたよ」
「そうか。彼女がアレッシーの野郎のスタンドの餌食にならなくてよかったぜ」
「うん、見ず知らずの私たちにとても親切にしてくれたもんね」
3人が元来た道を戻ろうとした時、1人の女性が承太郎と遥花よりも少し後ろを歩いていたポルナレフに声をかけた。
「あのっ、すみません、お尋ねしますが…私の家から男の子と女の子が出ていくのを見ませんでしたでしょうか。銀色の髪と黒い髪の子供なのですけど…」
ポルナレフが言い淀んでいると、マレーナは不思議そうな眼差しでポルナレフに言った。
「失礼ですけど、前にどこかでお会いしたような……」
「い、いえ、子供なんて見ませんでした」
そう言って足早に去って行こうとするポルナレフを、マレーナは再び呼び止める。
「ま、待って! まさか、その耳飾りは!」
「…一度も会ったことがないぜ。会うはずがない。俺たちは旅人なんだ。始めてきた場所だし、もう出発しなくてはならない、次の町へな」
3人の去って行く後姿を、ただ茫然と立って眺めながらマレーナは言う。
「夢…だったのかしら、やっぱり」
少し歩いてから、遥花が耐えきれなかったのか、ふふ、と笑みを零す。
「おい、笑うな」
「ごめん」
「何も言うなよ、承太郎、何もな」
頬が少し赤いポルナレフの肩をぽんと叩いて、承太郎は静かに笑みを浮かべた。
「おおっ、承太郎とポルナレフ! 遥花も! お前たち、どこ行っとったんじゃ!」
「ああっ、ジョースターさん、アヴドゥルも」
「勝手な行動はするなといつもいつも言っとるだろうが!」
「あんたらだろうが、いなくなったのはよお!」
「はあ…」
「本当、やれやれだよね、承太郎」
「あぁ…やれやれだぜ」
「まあまあ、早く飯にでも行きましょう」
「思い出したらお腹空いてきた。あ、イギー」
「イギー! おめえもどこ行ってたんだよ!」
「わふっ」
町のとあるレストランで、一行は空腹を満たしたのだった。
「ふう。しかし、ようやくひと心地ついたわい」
「朝食のつもりが昼食になってしまいましたねえ」
「ああ」
「そろそろカイロも近い。DIOの潜伏先を特定せねばならん」
「ハーミットパープルで念写するんですか?」
「写るのか?」
「わからん、だが距離が近づいているから精度は上がるはずじゃ。では行くぞ」
ハーミットパープルでポラロイドカメラを破壊し、出てきた写真を見る。
「ジジイ、どうだ? 見えたか」
「もうちょいじゃ。出るぞ出るぞ…。うん? 出たぞ! 我々はこの場所を探さねばならん!」
写真に写った、とある建物の写真。それは、DIOが潜伏する館の写真であった。
「……長かった、本当に」
遥花が溜息と共にそう呟いた。