好きなキャラの回だと、どうしても遥花を出しゃばらせてしまう。
日本からはるか3万キロ。承太郎たち、ジョースター一行はついにカイロに到着した。
「カイロは広い。闇雲に捜すより、端から中心に向かって捜していくのがいいと思う」
アヴドゥルに従って、一行はカイロの端から、DIOのいる館を捜すことにした。
「いよいよじゃ」
……そうやって、地道にDIOの館を捜したが、承太郎たちは悲しいかな、DIOの館の場所の情報すら欠片も見つからない。DIOは館をコロコロと変え、SPW財団の調査から行方をくらました。DIOはどこにいるのか。タイムリミットは刻々と迫っていた。
捜し始めて1日以上が立った時、とあるカフェに入り、ジョセフはそこの店主に館の写真を見せて尋ねた。
「わしらはその写真の建物を捜している。どこか知らんかね?」
「…外国の客人、ここはカフェですぜ。なんか注文してくださいよ」
「アイスティーを5つ」
ジョセフたちは、くたくたに疲れていた。
店主は雑にアイスティーを5つのグラスに注ぎながら写真をジッと見つめ、注ぎ終わってから小銭をしまいながら言った。
「やっぱり知りませんや」
遥花以外の4人がアイスティーを一気飲みし、グラスをテーブルに置く。
カイロの人口は約600万人。建物だけでも200から300万ある。果たしてタイムリミットまでに目的の館が見つかるだろうか? 一行は焦り始めていた。
遥花は乾いた喉を驚かせないよう、ゆっくりとアイスティーを飲みながら、カフェ内を見まわす。
「どうした、ハル。行くぞ」
遥花は、1人の男とばっちり目が合っていた。その男はトランプをシャッフルさせながら、静かな声で知っていると言った。
「間違いない、あの建物だ」
「誰だ、今知っていると言ったのは!」
「知っていると言ったのは、奥でトランプを広げている男ですよ。ジョセフさん」
「君か! 知っているのか、この建物の場所を!」
「はい。確かに、その写真の館ならどこにあるか知っていると言いました」
「何だって、本当か!」
「そいつはありがたい」
「やった。こんなに呆気なく写真の場所が分かるなんて」
喜ぶ一同とは違い、遥花の目が冷たく、そして冷や汗を垂らしているのを承太郎は見ていた。そして気づく、この男からDIOの館の場所を聞くのには、一筋縄ではいかないと。
案の定、男はタダでは教えないと言いながら目を伏せた。だが、ジョセフがいくら金を払おうが、男は不敵に笑うだけで、館の場所に関してはだんまりであった。代わりに「賭け事は好きですか?」と質問を投げかけてきた。
「賭け事が嫌いなら嫌いと、はっきり言ってください」
「だから何を言いたいんだと聞いているんだ」
「いえね、私とちょっとしたつまらない賭けをしてくれませんか。あなたが勝ったらタダで教えますよ。そこの場所をね」
「賭け? 賭けなら自信はあるが、今わしらはポーカーなんてやってる時間はないんじゃ。もう20ポンドやるから教えてほしい」
「賭けなんてもんはなんででも出来るんですよ。時間はかかりません。例えば、あそこを見てください、猫がいますねえ」
そう言って男は自身の手元にあった魚の燻製を猫のいる方へと投げた。
「さあ、今からあの猫はどっちの魚の燻製を先に食うか、賭けませんか? 右か、左か。どうです? つまんないけどスリルあるでしょ?」
声音も変えずに、淡々と述べる男にポルナレフはとうとう怒りを見せ、机を拳で殴る。
「おい! めんどくせえ野郎だぜ! さっさと30ポンド受け取ってさっさと教えろよ、てめえ」
「ポルナレフ、教えてもらうのにそんな口を利くんじゃあない」
「OK、じゃあ俺が賭けてやるぜ。右の肉だよ、右!」
「グッド! 楽しくなってきた。じゃあ私は左に賭けましょう」
「おいおい…」
「ハル、どうなると思う」
「……あの男が勝つと思うよ」
「らしくねぇな。こういう時でも、いつもなら仲間であるポルナレフを信じるのがハル、お前っていう人間だろうが」
「あの男が普通の男なら私だって何の疑いも持たずにジャンを信じたよ」
「やはりあの男……」
承太郎と遥花がギリギリ2人にしか聞こえない声で話していた時、アヴドゥルが混じる。
「おい承太郎、こいつ怪しくないか?」
「たった今ハルと同じ話をしていたとこだぜ」
「やはり…ただのギャンブラーではなく、敵スタンド使いか」
「ポルナレフが何をしようとも、いつも疑わずに信じていたハルが言うんだ。ほぼ黒に近いグレーだぜ、アイツは」
「ならば早々に…」
「いや、それは止めた方がいいだろうな。奴がどんなスタンド能力かわからない以上、こちらが迂闊に手を出して最悪の状態になったら、目も当てられん」
「ぬぅ……一理あるな…だが、スタープラチナを叩きこむ準備はしておけよ、承太郎」
「わかってる」
遥花は、ただジッと男とポルナレフのやり取りを見つめていた。まるで、1秒たりとも見逃さない、と言った風に。
「ところで、俺が負けたらおめえに何を払うのかね? 100ポンドくらいかよ」
「金は要りません。魂なんてのはどうです? 魂で、フフフッ」
「はあ?」
「…返事は?」
「ああ、わかったわかった。それでいいぜ」
「ふふっ……おや、猫が魚の燻製に気づきましたよ」
猫が走り、魚の燻製に近づいていく。そして左、右と順に燻製を奪って逃げた。
「見ましたか? 私の勝ちだ」
「おい負けてしまったぞポルナレフ、どうするんじゃ。なんか、建物の場所を聞き出すのが厄介になってきよったぞ」
「さあ、約束でしたね。払って頂きましょうか」
「ええっ、払う? 何を…」
「魂ですよ」
「えっ?」
「あなた賭けましたよ、さっき確かに。私は魂を奪うスタンド使い。賭けと言うのは、人間の魂を肉体から出やすくする。そこを奪い取るのが、私のスタンドの能力…」
男がスタンド、と言ったとき、人型のスタンドがポルナレフの肉体から何かを、いや、男の言う、"魂"を引きずり出した。
「ポルナレフ!」
承太郎がすかさず男の方を向くと、すぐさま遥花が承太郎を止める。
「おっと、私を殺すなよ。もう遅い。私が死ねば私のスタンドが掴んだポルナレフの魂も死ぬ」
「ポルナレフ!」
「お、おい!」
「脈がない! 死んでいる、ポルナレフが死んでいる!」
男のスタンドは、魂の状態になったポルナレフをこねくり回し、1枚のコインに変えてしまった。
「これが、ポルナレフの魂だ。早くも1人、DIO様の邪魔を消してやったことになる。間抜けな奴だったがな。遅れたが自己紹介しよう。私の名はダービー、D'…」
「D'.A.R.B.Y…Dの上にダッシュがつく」
「!?」
ダービーを含めた一同の目線が遥花に集まる。今まで傍観者のように黙っていた遥花が、突然男の名前のスペルを細かく言い当てたのだ。
「そしてあんたのスタンドは、さっき見た通り博打に負けた人間の魂を奪うスタンド。これまでの敵スタンド使いから、あんたもエジプト9栄神の暗示をもつスタンド使い……違う?」
「……ええ、私のスタンドの名はオシリス神の暗示を持つスタンドです」
「そしてさっき燻製を取った猫はあんたの飼い猫」
「…そんな証拠はどこにも」
「あんたの膝の上に、さっきの猫が座る」
先程魚の燻製を咥えていた猫が、遥花の言う通り、ダービーの膝に座った。
「貴様、イカサマをッ!」
「待ってアヴドゥルさん。確かに奴はイカサマをした。でもイカサマを事前に見抜けなかったこっちにも落ち度はある」
「遥花、そんなことはっ」
「ええそうです。イカサマを見抜けなかったのは、見抜けない人間の敗北なのです。賢く麗しいお嬢さん、何故この猫が私の飼い猫だと知っていて先程の賭け事を止めさせなかった?」
「……最終的に私たちがあんたに勝つから。それも暴力やスタンドバトルではなく、賭けで。あんたのフィールドで必ず勝つから」
「ふふっ、ふははっ、面白い。いいですね、とてもいい顔をするお嬢さんだ……」
心底楽しそうに笑うダービーの前に、ジョセフがグラスを置き、なみなみになるまでブランデーを注ぐ。
「ジョ…ジョースターさん、何をするつもりなんです?」
「表面張力というのを知っているかね? バービー君」
「ダービーです、私の名はダービー。その酒の表面が盛り上がって溢れるようで溢れない力のことだろ? 何をしようというのかね?」
遥花との会話を中断されたのが不愉快だったのか、ダービーが頬杖をつきながら表面張力の説明をして、グラスを指さす。
「ルールは簡単、このグラスの中にコインを交代で入れてゆく。酒が溢れた方が負けじゃ」
「おいジジイ」
「ま、まさかジョースターさん!」
「賭けよう! わしの魂を!」
「グッド!」
「何ですって!」
焦った口調でアヴドゥルがジョセフに考え直すように言う。今まさにジョセフが勝負を仕掛けようとしている相手はかなりの実力者で、しかもイカサマ師であるからだ。
「この賭けの方法はわしが決めたのだ。承太郎、イカサマを見張ってろ」
「OK、いいでしょう。この賭け、受けましょう。だがその前に、コインとグラスを調べても構いませんかねえ」
「当然の権利だ。君にもイカサマを調べる権利がある」
グラスとコインを調べるダービーに、遥花は先ほどと同じ冷たい声でこう言った。
「ダービー、もしもイカサマをしたときは、あとで酷い目に遭うと思っていて」
「……フフ、わかりました。楽しみですね」
遥花の言葉をただのハッタリだと思ったダービーは特に気に留めることもなく、グラスを調べはじめ、ジョセフとの賭けを始める。
最初に、ダービーがコインを5枚。
次にジョセフがコインを1枚。だが、指とコインの間に脱脂綿を仕込んでおり、そこから液体が滴り出ていた。イカサマをするなと言っておいて自分がイカサマをしているのだ。だが、イカサマは
「フウ、心臓に悪いわい。零れるかと思ったわい。さっ、君の番だ、オービー君」
「ダービーだ! 二度と間違えるな、私の名はダービーというんだ。オービーでもバービーでもない!」
「ふうん、すまんね」
わざと名を間違え、怒りを誘っている。ジョセフは根っからのギャンブラーであった。
「賭けを続けようか。次は君がコインを入れる番だ、ダービー君」
「……陰になるからこの位置からはやりにくい。テーブルの右側から入れさせてもらうぞ」
「どこからでもお好きにどうぞ」
ジョセフの考えでは、もうグラスの表面張力はギリギリの限界点で、コインは1枚も入らない考えだった。
だが、それは
ダービーはコインを1枚、確かにグラスの中に、入れた。
「バカなッ! そんな、まさか! 溢れないはずは!」
「何が、"溢れないはずは"なんだね? 見ての通りだ、入れたぞ」
「…っ」
「イカサマをするような妙な動きはしていない。スタープラチナで見ていたのだ。今こいつは、正々堂々とコインを入れた、間違いなく」
承太郎のその言葉に、ジョセフは手で口元を抑える。「確実だったのに」「溢れるよう、そう調整したのに」ジョセフの心の内は、そのような言葉でいっぱいだった。
「ゴーアヘッド、ミスター・ジョースター。早くしたまえ、蒸発してしまうまで待つ気かね?」
ダービーの急かす言葉に、ジョセフの心は……現時点での賭けでの"負けを認めてしまった"
「ああっ、ジョースターさん!」
「ジョースターは賭けに負けたのを自らの心の中で認めたのだ。だから魂が外へ出た! ギャンブルは、このダービーの勝ちだ!」
「ポルナレフ、すまない。ホリィ、わしはお前を救えないのか…」
魂の状態になったジョセフが、目に涙を滲ませながら、そう言った。
「……心配するな、JOJO」
「!?」
遥花が仮死状態になってしまったジョセフをアヴドゥルに預け、魂の状態になったジョセフに強く言い放った。
「シー、ザー?」
ダービーのオシリス神にコインに形を変えられる前に、ジョセフは自身の孫の幼馴染である、暁遥花に、亡き親友であり兄弟子の、シーザー・A・ツェペリの幻影を重ねた。