多重転生、7人目   作:強炭酸。

28 / 30
第三者視点


ツェペリ家の女

「フフ、やっと君の出番か? 暁遥花」

 

「ジョセフさんに先を越されてしまったけどね。それよりもダービー、私がさっき言ったことを覚えてる?」

 

「うん? あー、確か……『もしもイカサマをしたときは、あとで酷い目に遭うと思っていて』だったかな?」

 

「そうよ。私は確かに言った。確かに忠告したのよ。それを無視したのは紛れもないあんたよ、ダービー」

 

「私がいつイカサマを?」

 

 

あくまでもしらばっくれるつもりのダービーに、遥花は承太郎に先程の賭け事で使われたグラスの中身を外に捨ててから承太郎の方に手渡す。

 

 

「ッ、これは……チョコレートのほんのわずかな破片が底の裏についていた。ゲームが始まる前に、グラスやコインを調べると言ってその時にくっつけていたな」

 

「フフフッ、やはり気づいていたのか…」

 

「どういうことだ、何故チョコの破片がコインの入った理由なのだ?」

 

「今は溶けているが、さっきまでは固体でグラスの底にくっついていた。グラスを気づかないぐらいわずかだが傾けさせるためにつけたものだ」

 

「そう、そのチョコレートが溶ければ、傾いていた酒の面も平らになる。どうやって溶かしたかは、アヴドゥルさんも見ていたはず。ダービーは陰になるから、とか何とか言って場所をずれ、太陽の熱で小さなチョコレートを溶かした」

 

「あの時か……!」

 

 

遥花は床に散らばっていたトランプの1枚をダービーの方に投げる。

 

 

「さあダービー、トランプを取りなさい。私とポーカーで勝負をしましょう」

 

「ポーカーだってッ!? 遥花! やめておけ! こいつはジョースターさんより上手の男なんだぞッ」

 

「アヴドゥルさん、私を信じてください」

 

「だがっ、君が賭け事なんか、ましてやポーカーなんてしているところを見たことがないぞ! 本当に勝てるのか!?」

 

「信じて」

 

 

もう一度、念を押すように遥花が言うと、アヴドゥルは承太郎に腕を掴まれ、渋々後ろの方に下がっていく。

 

 

「ふふふ、いい度胸だ! しかし本当に私が大得意のポーカーで勝負するということでいいのかな?」

 

「いいよ。絶対に負かしてあげるから、今のうちにジョセフさんたちにどう謝罪するか、言葉を考えているといいわ」

 

「威勢がいいのは嫌いじゃない。それで? 暁遥花、君も賭けてくれるんだろう?」

 

「当たり前でしょう、私の魂を賭ける」

 

「グッド! さあ、賭けを始めよう。ポーカーのルールは?」

 

「私が言い出したんだからもちろん知っているよ。説明の必要はない」

 

「OK」

 

 

ダービーが取り出したトランプはセキュリティーシールが貼られていた。そのシールが破られていないということは、カードに触った者は誰もいないということである。

そしてダービーは慣れた手つきでトランプをきりながら、遥花に話しかける。

 

 

「先程、ミスター・ジョースターの魂がコインに変えられる前に君は『心配するな、JOJO』と言った」

 

「…言ったね」

 

「そしてそんな君を見て、ミスター・ジョースターは何かあり得ないものを見るように、そして何か懐かしいものを見るような眼差しで、『シーザー』と言った。シーザーとは、誰の名だ?」

 

「50年前に死んだ、ジョセフさんの友人の名前だよ」

 

 

遥花がそう言ったとき、アヴドゥルが何かに気づいたような表情をする。

 

 

「アヴドゥル、もしかして知っているのか?」

 

「ジョースターさんから聞いたことがある。シーザーという名の男が、50年前、ジョースターさんが波紋の修業をしていたころに一緒にいた、兄弟子の名前だと! 遥花! 何故君がそんな人の名前を知っている!?」

 

「それは、シーザーが私の大叔父だから。私は、ツェペリ家の末裔よ」

 

 

店内に、遥花の声が静かに響いた。

 

 

「遥花が…ジョースターさんの兄弟子の、末裔?」

 

「黙っているつもりはなかったの。ただ聞かれなかっただけで。さあダービー、カードをちゃんと配ってね」

 

「フフ、思ってもみない情報が得られたな…」

 

 

なんて言いながらダービーはカードを配る。

 

 

「……ちょっと、さっき私が言っていた言葉をもう忘れたの? ダービー」

 

「何?」

 

「カードをちゃんと配れって言ったのよ。あんたは今、本来配るべきカードの1枚下のカードを私に配ろうとしたでしょう」

 

「視力がいいんだな」

 

「いいえ、スタープラチナが見ていた」

 

「何?」

 

「あぁ。確かに見ていたぜ、お前がイカサマをするところを」

 

「ダービー、あんたじゃああてにならない」

 

「ほう? なら誰かにディーラーをやらせるかい?」

 

「…そうね、どうせ全員サクラでしょうけど。そうだなぁ、あそこにいる子にしようかな」

 

「わかった」

 

 

アヴドゥルが店の外にいる少年を呼んできて、そしてダービーがトランプを手渡す。

勿論この少年も、ダービーの息がかかった子供だった。

エスケイプがダービーに気づかれないよう、少年の耳元に小さく異空間を召喚して囁いた。

 

 

『このままダービーの味方をしてもいいけれど』

 

『遥花の味方をした方がずっとずっといい』

 

 

『『 痛い目を見たくないのなら 』』

 

 

少年は完全に委縮してしまった、目の前で人畜無害そうに自分の方に微笑みかけ、今まさにダービーとポーカーで勝負をしようとしている女は……ただの女ではないんじゃないかと。

 

 

「(どうしよう、どうしよう……)」

 

 

少年が迷ってカードを配れないでいたら、再びエスケイプが囁き始めた。

スタンドが見えないはずの少年にその声は確かに聞こえ、少年の脳みそを揺らした。

 

 

『あなたは何も考えなくていい』

 

『ただ普通にカードを配ればいい』

 

『あとは遥花が自分で引き当てる』

 

『最高の選択を自らの手で引き寄せる』

 

 

「(もう…ッ、どうにでも…なれッ!!)」

 

 

少年はダービーの言いつけを半分守り、そして半分破った。ダービーがいい手になるように、いいカードを。

そして本来遥花には、カードの配役がブタになるように配るはずだったが、それを止め、本当に普通にカードを配ったのだ。だから少年には、遥花のカードの配役がどうなったのかは、わからなかった。

遥花は自身のカードを見ても表情を一つも変えなかった。

 

 

「まずは参加料にポルナレフを1個払う」

 

 

1枚コインが出たのを見て、遥花も同じく1枚、自分の魂の分である白いチップを1枚払った。

 

 

「さて、私はカードを2枚チェンジするが…遥花、君はどうするんだい?」

 

「3枚チェンジ」

 

 

それぞれカードをチェンジし、手札を揃える。同時にもう1枚ずつコインを払う。

 

 

「フフ、ああ、いい。面白くなってきた。ここは様子見でポルナレフを1個だけ賭けようか」

 

「コール」

 

 

場に3枚ずつコインが支払われた。

 

 

「よし、勝負だ、遥花」

 

「8と9のツーペア」

 

「……うん、悪いな。ツーペア、ジャックとクイーン。危ない危ない、もうちょっとで負けるところだったよ」

 

 

フフ、と笑いながら場に出ていたコインを6枚自身の手元に寄せるダービーに、遥花は特に何の反応も見せなかった。動揺も、焦りも、何も。

 

 

「の、残り3個…。遥花…」

 

「大丈夫。さあ、ネクストゲームよ」

 

 

遥花は白いコインを1枚場に払った。

再び少年がダービーと遥花にそれぞれカードを配った。少年の手元は微かに震えていた。

 

 

「ネクストゲームではなくて、ひょっとするとラストゲームかもな。フフフフッ」

 

「そうね。早く負けたあんたの顔が見たいわ」

 

 

ダービーは自分のカードを確認してから1枚チェンジする。

 

 

「……私も、1枚チェンジ」

 

 

カードを味方にも見せないように確認した遥花は、またも表情を変えないままアヴドゥルの方を見た。

 

 

「アヴドゥルさん、頼みがあるのだけど」

 

「あ、ああ、わかった」

 

「ありがとう、アヴドゥルさん。それではダービー、私は残り3個に加えて、承太郎とアヴドゥルさんの魂を全て賭ける」

 

 

遥花が大きく出たのを見てダービーは明らかに動揺し始める。汗が滲んでいるのを見て遥花は真っ白なコインをくるくると指先で弄る。

 

 

「ダービー、君はクールな男だ。実に計算された行動をとる。パワーは使わないが真に強い男だ。私は賭け事向きの性格をしていない。結構熱くなるタイプだからな、勝負すれば私は負けるだろう」

 

 

アヴドゥルは息を整えてから再び口を開く。

 

 

「しかし遥花を信じている。遥花は確かな強さを持っている、承太郎が遥花を信じるのだ、私も彼女を信じて賭けよう。私の魂だろうと、何だろうと」

 

「やれやれ、だ。コイツを敵に回すなと、怒らせるなと、何遍言ってもてめーらはわからねぇようだな」

 

「……あまりの緊張感で頭がおかしくなったようだな」

 

「ふふ、はは、そう思うのならそれでいいわ。最終的に私が、否、私たちが勝てばいいのだから」

 

「3個に加えてポルナレフの6枚でコールだ。しかしさらに、ジョースターの6個をレイズする。全部だ、計15個!」

 

 

テーブルの上のダービーの方にある15枚のコインを見つめ、遥花は小さくため息をつく。

 

 

「ねえダービー、何か勘違いしていない?」

 

「勘違い?」

 

「あんたが上じゃない。私が上なの」

 

「ッ…」

 

 

ダービーがジョセフのコインを出したように、遥花は6枚出す。

 

 

「承太郎の魂6枚分をコール。そして、ダービー1つ質問をしてもいい?」

 

「な、なんだね?」

 

 

遥花は異空間からペンとメモを取り出した。

 

 

「アスワンで入院している花京院典明の魂を賭ける。そうここに書いたら、あんたのスタンドは動くことが出来るのかしら?」

 

「……あ、あぁ、できる」

 

「そう、出来るの。なら賭けるわ。典明の魂を。あんたは……そうね、DIOの館の場所。DIOのスタンド能力を洗いざらい吐いてもらうわ」

 

 

証明書とコインを場に出しながら遥花は言った。

 

 

「遥花! この場にいない男の魂だぞ!」

 

「勝手すぎる? 知らないわ。だって私勝つもの」

 

 

ずっと無表情だった遥花がにっこりと笑顔を浮かべながら色鮮やかなドリンクを飲んでいた。

 

 

「あら、どうしたのダービー、青ざめているようだけど」

 

 

「大丈夫?」と、いやに優しい声音で遥花は言った。

カードを配った少年の呼吸が露骨に荒くなり、ダービーの表情も崩れ始めていた。

現時点でダービーは少年がまだ自分の言いつけ通りに遥花にブタのカード、何の役も持たないカードを配ったと思っている。

 

それこそが間違いなのだ。

 

少年は遥花の圧に負け、遥花にカードを通常通り配っているのだ。だからと言って遥花に確実にダービーより強いカードが来るかというのは完全な運である。

だからダービーは信じていた。遥花のカードは自分のカードよりも弱いと。例え遥花に承太郎のスタンド、スタープラチナがイカサマに加担したとしていても、自分に気づかれずにすり替えることなど不可能だと。

 

 

「(勝負に出てやろうじゃないか。この私に無駄なハッタリなどしおって)」

 

 

『ふふっ』

 

『あははっ』

 

 

「!! はっ、遥花! 何故、何故スタンドを出している!? 何か仕掛ける気じゃあないのかね!?」

 

 

ダービーが指を差すが、遥花は心外だ、と言わんばかりに表情を変える。今までポーカーフェイスを貫いていたのにころころと表情を変え始めたのも、またダービーの不安を煽るのだった。

 

 

「私のスタンドは承太郎のスタープラチナのようなスピードも正確さも持っていないから何もできないわ。この子たちには自我があるからね。私が勝つところが見たくて出てきちゃったらしいのよ」

 

「き、貴様! ナメやがって、いいだろう! 勝負だ! 私のカードは、キングのフォアカードだ!!」

 

 

ダービーが手札を全員に見せる。

 

 

「キングの、フォアカード…!?」

 

 

その強い手札に、アヴドゥルが動揺し、遥花の肩を叩くと、遥花はけらけらと笑い始めた。

 

 

「あはっ、あははっ、よかった。本当によかったわ!」

 

よかった(・・・・)、だと……? なにがよかったというんだ!! さっさと手札を見せろ!!」

 

 

ダービーが荒々しくも遥花の腕を掴み、強引に手札を全員に見せた。

 

 

「痛いじゃない」

 

「ストレート……フラッシュ……?」

 

「心底不思議、って顔してるわね。ダービー、種明かしが必要かしら? 必要よね、だってあんたは知りたいはずだもの。本来私にはばらばらの数字で、スートも揃っていないブタのカードが配られるはずだったのに、今の私の手札はハートのスートのストレートフラッシュ、なんだもんね」

 

 

ダービーはあり得ないものを見るように、遥花が出した5枚のトランプを見ていた。

 

 

「私はあんたたちのイカサマを払いのけてこの手で掴み取ったのよ。あんたに勝てるカードを、私を、ツェペリ家の女をあまりナメないことね」

 

「ッ、ハァ、ハァ……」

 

 

呼吸が次第に荒くなり、声にならない声が洩れ出ているダービーに遥花は更に詰め寄る。

 

 

「さあダービー! 言いなさい! DIOの館の場所を! DIOのスタンドの能力を! 賭けの代償は必ず支払ってもらうわ!!」

 

 

裏切者は殺される。勝てる筈だった勝負に負けた。様々な出来事がダービーという男を押し潰した。

 

 

「なっ、この男、白目をむいている」

 

「ヒイイッ、き、気を失っている!」

 

「そんなにビビらせるようなこと、言ってないんだけど。承太郎はどう思う?」

 

「あまりの緊張に頭がおかしくなったんじゃあねぇのか?」

 

「そうね、そうらしいわ。さぁ、ダービーが気を失ったことだし、奪われた魂も元に戻るかな?」

 

「ああっ、ポルナレフとジョースターさんの魂が戻ってくる! 助かった」

 

 

息を吹き返した2人を見て遥花はほっと胸を撫で下ろした。

そしてダービーがこれまで集めてきた多くの魂のコレクションも解き放れたようだった。

 

 

「だが、この様子ではもうDIOの秘密は聞き出せないな」

 

「まあ……それほど期待はしていなかったけどね」

 

「たった1人で俺たちを一度に倒そうとしたんだから、大した奴だぜ」

 

「本当に恐ろしい奴だ」

 

「ああ…よくわからんが…」

 

「わしらはいいとこなしじゃったのお」

 

「ジジイに見せてやりたかったぜ、ハルがダービーに勝負を仕掛けているところを」

 

「確かにあれは格好良かったな」

 

「ふふん、それほどでもあるかな」

 

「調子に乗るんじゃあねぇ」

 

「いひゃい」

 

 

そう言って承太郎が遥花の頬を赤くならない程度に抓った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。