-上には上がいる-
朝、モソモソと制服に着替え、とりあえず承太郎と一緒に学校へ行こうと玄関の方へ向かう。
「今日こそは真面目に学校行くぜ」
「ふふ、そうだね」
承太郎よりも先に玄関から出たのだが、後ろから承太郎がついてこないのでくるりと後ろを向いて不思議そうに立つ彼に「どうしたの?」と聞いてみる。
「…いつもならくるお袋が来ねえと…思ってな」
「ああ、聖子さんいってらっしゃいのキスしてくれるもんね。変、だね」
「お前も思うか」
「どうするの、承太郎」
そう問いかけると、私と承太郎の間に長めの沈黙が流れる。
「嫌な予感がする。見に行くぞ」
「わかった」
家の中に戻っていく承太郎の後をついていく。
承太郎は、真っ直ぐキッチンの方へと向かっていた。この時間ならまだキッチンにいると思ったからだろう。
キッチンに入ると、アヴドゥルさんが苦しそうに呼吸をする聖子さんを抱えて、冷や汗を垂らしていた。
「ホリィ……」
「チッ」
自分の愛娘がDIOの呪縛の影響下にあったということを知ったジョセフさんが一番近くにいた承太郎にその感情をぶつける。承太郎はただ、無言のままジョセフさんの言葉を聞く。
「わしの、わしの最も恐れていたことが起こりよった。つ、ついに娘にスタンドが…。抵抗力がないんじゃあないかと思っておった。DIOの魂からの呪縛に逆らえる力がないんじゃあないかと思っておった」
ずっと無言だった承太郎がジョセフさんの腕を掴み上げて対策を聞く。
「……1つ、DIOを見つけ出すことだ。DIOを殺してこの呪縛を解くのだ。それしかない!」
私は聖子さんを抱き上げてキッチンから別室に移動させて熱を下げるために色々用意する。
そして私たちはDIOがどこにいるか、探ることにしたのだ。
「奴はいつも闇に潜んでいる。いつ念写しても背景は闇ばかり。わしの念写では奴の居所は分からん」
「これまでも様々な手段で調べてきたが、この闇までは解析できなかった」
「おい、それを早く言え。ひょっとしたらその闇とやらがどこか、わかるかもしれねえ」
スタープラチナが現れ、承太郎の持つ写真を凝視する。
すると、スタープラチナはDIOの背後の空間に何かを見つけたようで、承太郎はすぐにスケッチをさせてみた。
ガリガリと鉛筆を動かしていくと、メモ帳に1匹のハエがスケッチされる。
「ハエだ! 空間にハエが飛んでいたのか!」
「しかしハエなどなんの手掛かりにも……」
「待ってください、このハエ、見覚えがあります。図鑑はありませんか?」
「離れに書庫がある」
「メモを貰うぞ。調べてきます」
アヴドゥルさんは承太郎からメモ帳を受け取り、書庫の方へと向かう。
「私も手伝ってくる」
「あぁわかった」
そう言ってアヴドゥルさんの後を追いかける。
先に書庫に入っていたアヴドゥルさんに声をかける。
「アヴドゥルさん、私も手伝います。住んでいる承太郎ほどではないですけど、この家には結構詳しいですから」
「遥花、か。ありがとう、助かる」
図鑑は……確か……
エスケイプの異空間内にしまっていたランタンを取り出し、ついでに取り出してくれた少年姿の方にランタンを持ってもらいながら本を探す。
「もう体はいいようだな。悪いが、今は取り込み中…」
「自分のスタンドが害になって死ぬなど、有り得るのですか?」
「ある。私は過去、そう言った人間を何人か目撃している」
「っ!」
「今はまだ背中だけだが、そのうちシダ植物のようなあのスタンドは、ゆっくりとホリィさんの全身をびっしりと覆い包むだろう」
「…非スタンド使いには原因不明で、何も見えずわからず…ですか」
「あぁ、どんな名医にも治すことはできないだろう。誰にも、私にも君たちにも。どうすることもできないのだ」
花京院が目を伏せると、アヴドゥルさんが強いまなざしで次の本を手に取りながら言った。
「まだ希望はある」
と。
聖子さんが死んでしまうまでには50日間のタイムリミットが存在する。
「その前にDIOを探し出して倒す。DIOの体から発するスタンドの繋がりを消せば、助かるのだ」
「……!」
ランタンを持っていた少年型とは別の少女型の方が私の服を掴み、引っ張る。
「アヴドゥルさん、私のエスケイプが見つけたようです」
「本当か。……間違いない、これだ。すぐにジョースターさんに知らせなくては」
――『ナイル・ウエウエ・バエ』エジプト、ナイル川流域にのみ生息。
中でも、足に縞模様のあるものは『アスワン・ウエウエ・バエ』とよばれる。
「エジプト…」
「それもアスワン付近に限定されます。ディオはそこにいる」
「やはりエジプトか」
「花京院」
ッ~~~~!! 有名台詞……1人のジョジョラーとしてこれはちょっとシビれちゃうな……。
「"やはり"じゃと?」
「私が脳に肉の芽を埋め込まれたのは、3ヶ月前。家族とエジプト、ナイルを旅行している時だった」
「お前もエジプト…DIOは何故かエジプトから動きたくないらしいな」
「いつ出発する? 私も同行する」
「同行するだと? 何故お前が」
「そこんところだが、何故同行したくなったのかは私にもよくわからないんだがね」
花京院は、承太郎が自分に言ったセリフと同じ言葉を返した。上手いよなぁ。
「お前のおかげで目が覚めた、ただそれだけさ」
私は一呼吸おいてから口を開く。
「私も、同行します」
「遥花、だが」
「同行します」
ジョセフさんが断りの言葉を入れそうなことに気づき、さっきよりも強く言う。すると、承太郎がため息をつきながらもふっ、と微笑んで私の頭に手を置いた。
「ジジイ、暫くこいつに会ってなかったからわからねえと思うが、こいつはそこらの男よりずっと優秀だぜ。俺は連れて行ってもいいと思っている」
「って、わけです」
「……承太郎がそこまで言うんじゃから本当なんだろう。わかった、一緒に行こう」
「ありがとう承太郎」
「ん」
承太郎は少しだけ口角を上げながら短く返事をした。