「香港からシンガポールまで、丸3日は海上だな。ま、ゆっくり英気を養おう。しかしお前らなあ、その学生服は何とかならんのか? その恰好で旅を続けるのか? クソ暑くないのォ?」
「僕らは学生でして、学生は学生らしくですよ。という理由はこじつけか」
「日本の学生はお固いのう」
「私はセーラー服ですからむしろこの海上では誰よりも合ってると思いますけどね」
なんて言いながらセーラー服の襟をぴらっ、と少し動かしてみせる。
「確かにな。てかいつの間に半袖になったんだ?」
「エスケイプの中に夏服をしまってたの。着替えたのはさっき」
「なるほどなぁ。けどよ、お前らそんなに固いとモテないぞ?」
「これが存外モテちゃったりするんだよポルナレフ」
「は~そういうもん…」
「放せ! 放しやがれ! このボンクラが!」
「静かにしろ!」
そんな騒がしい声を聞いて、ジョセフさんが思わず近寄る。
そういやいたなぁ、家出少女……名前なんだっかな……。
「おい、どうした。わしらの他には乗客は乗せない約束だぞ」
「すみません、密航です」
「このガキ、下の船倉に隠れてやがったんです」
「密航?」
「来るなら来いっ、タマキン蹴り潰してやるぞ」
「ふん、海上警察に突き出してやる」
「えっ、警察。お、お願いだ、見逃してくれよ。シンガポールにいる父ちゃんに会いに行くだけなんだ。なんでもするよ、こき使ってくれよ」
「どうしようかな、見逃してやろうかな」
そう言いながら家出少女の頬や耳をぶにぶにと引っ張る水夫。子供をからかうのも程々にしなっつーの。
なんて思いながら私は水夫と少女の間に割り込むように立つ。
「まぁまぁ、そこまでに……」
私が家出少女の腕を掴んでいたというのに、それを振り切って船から海へと飛び込んでしまった。
「ッ!」
「飛び込んだぞ、元気いい~」
「どうする…」
「ほっときな、泳ぎに自信があるから飛び込んだんだろうよ」
「ま、マズイっすよ。この辺は鮫が集まっている海域なんだ」
「おい小僧! 戻れ、戻るんだ! 危険だ!」
「鮫だぞ、鮫がいるぞ!」
「ここからじゃあ聞こえないッ! 承太郎!」
「チッ。あのガキのところに飛ばせ」
私は頷き、エスケイプの異空間を承太郎の側と、少女の近くに展開し、繋げる。
承太郎はすぐさま異空間内に飛び込み、鮫から少女を助け、行きと同じように異空間内に入ろうとした時に、異変を感じた。
海面下から襲ってくる"何か"が鉤爪のようなものを振りかざして承太郎を襲おうとしたが、一歩遅く、承太郎はすでに異空間を通じて船上へと戻ってこれていた。
「き、消えたぞ! スタンドだ、今のはスタンドだ」
「海底のスタンド……このアヴドゥル、噂すら聞いたことのないスタンドだ」
一斉に疑惑の目が少女に向けられる。
今、承太郎を襲ったスタンドの使い手が誰か分からない以上、鮫の海にわざと誘い込み、そして襲った。と考えるのが妥当だろう。
「……ちょっと、聞いてくるね」
「遥花、危ないんじゃあないか?!」
「大丈夫だから」
私は少女の方に近寄り、目線を合わせるように膝をつき、警戒心を解いてくれるように、こちらは危害を与えない、という意味合いを込めて、ゆっくり目を合わせる。
そして同じ少女型のスタンドを出す。
「こんにちは、
「っ、な、なんだよ……」
「君の名前が知りたいの、だめかしら」
「……アン」
「アンちゃん、可愛らしい名前。キミにとても似合っているいい名前だと思うわ」
……警戒されないようにと思って出てきた言葉がどうも口説き文句染みている。こういうところで
だがこんな言葉を言っても気持ち悪がられないほど顔がよく生まれてきたのは本当両親に感謝しないとだわ。
アンちゃんに話しかけている間にも、私のエスケイプがアンちゃんの頬をつついたりその他色々ちょっかいをかけるが、アンちゃんには見えていないようで特にそれらに反応を見せることはなかった。
「ジョセフさん、この女の子は違うんじゃあないですか?」
「うむ…しかしな…」
「この女の子かね、密航者というのは」
来やがったな偽船長。
キャプテンとジョセフさんに呼ばれた偽船長は私を無視してアンちゃんを羽交い絞めにする。
「私は密航者には厳しいたちだ。女の子とはいえ、ナメられると限度なく密航者がやってくる」
「ちょっと、待ちなさいよ」
「うん?」
「女を軽んじないところは拍手をあげるけれど、それでもその子を雑に扱うのは私が許さないわ」
「……わかった」
偽船長は素直に頷き、腕を掴む力を少し緩めたように見えた。
「キャプテン、お聞きしたいのですが船員10名の身元は確かなものでしょうな」
「間違いありませんよ。全員が10年以上この船に乗っているベテランばかりです。どうしてそんなに神経質にこだわるのかわかりませんけれども……ところで!」
突然声を大きくしたかと思えば、承太郎が咥えていた煙草を取り上げる。
「甲板での喫煙はご遠慮願おう。君はこの灰や吸殻をどうする気だったんだね? この美しい海に捨てるつもりだったのかね? 君はお客だがこの船のルールには従ってもらうよ。無法者くん」
煙草を承太郎の帽子に押し付けようとする手を止め、同じように煙草を奪うように取り上げてからエスケイプの中にしまっていた携帯灰皿の中に煙草を捨てる。
「携帯灰皿くらいなら私が持ってるけど?」
「……それならいいんだ」
「それよりもキャプテン、あんた今何をしようとしたの? まさかとは思うけれど、承太郎の帽子に煙草を押し付けて火を消そうとした、なんてことはないわよね?」
私と承太郎の、一瞬の目配せ。私たちのこれまで築き上げてきた関係上、情報共有はそれだけで十分だった。
「口で言うだけで素直に消すんだよ。大物ぶってカッコつけてんじゃあねえ、このタコ」
「ああっ?」
「おい承太郎、船長に対して無礼は止めろ。お前が悪い。遥花もじゃ、何をそんな敵対心剥き出しにする必要がある」
「フン、承知の上の無礼だぜ。こいつは船長じゃあねえ、今わかった。スタンド使いはこいつだ」
「なにっ!?」
「スタ、ンド? 何だねそれは? いったい」
すっとぼけるの下手くそ過ぎないか。私を見習え私を。上手なすっとぼけ方をおしえてあげたいくらいね。
依然として睨みつけている私と承太郎に、それは考えられないとアヴドゥルさんが否定する。
「このテニール船長は、スピードワゴン財団の紹介を通じ、身元は確かだ。信頼すべき人物、スタンド使いの可能性はゼロだ」
「ちょっと待ってくれ、スタンド? いったい何を言ってるのかわからんが…」
「承太郎! いい加減な推測は惑わすだけだぞ!」
「証拠はあるのか承太郎」
「スタンド使いに共通する見分け方を発見したわ。ねえ承太郎」
「あぁ、スタンド使いは煙草の煙を少しでも吸うとだな、鼻の頭に血管が浮き出る」
その言葉を聞いて反応したのはアンちゃんと、水夫を除いて全員であった。はいはい間抜け間抜け。私たちを誤魔化したいならもうちょっとお利口になった方がよかったかもね。
「嘘だろ承太郎!」
「ああ嘘だぜ、だが間抜けは見つかったようだな」
鼻の頭を触り間抜けと言われた偽船長がやってしまった、という顔をする。
あーあ。まだ言い逃れが出来たというのに、鼻の頭を触っても、血管なんて浮き出てないと言えば、非スタンド使いだと思われたのに。
だが偽船長はすぐに化けの皮を剥がし、帽子を外しながら目を細めた。
「承太郎、何故こいつが怪しいとわかった」
「いや、全然思わなかったぜ。だが、ハルが俺にこいつがスタンド使いだと言ったからな」
「言った? そんなこと言ってたか?」
「またお前たちだけで通じ合いおったな……というか、そういう遥花はどうして怪しいとわかったんじゃ?」
「特にこれだという証拠はありません。強いて言うならムカついたからですかね」
「お前たち2人は…まったく…」
ケロリと、悪びれる素振りを一切見せずに言うと、ジョセフさんが呆れたようにため息をついた。
最初から知っていた、というのに加えて申し訳ないけど私はこういう性格でしてね。
「渋いねえ、まったくおたく渋いぜ。確かに俺は船長じゃねえ、本物の船長はすでに香港の海底で寝ぼけているぜ」
「それじゃあてめえは、地獄の底で寝ぼけな」
「フッフッフ」
「きゃああっ!」
「しまった!」
海底にいたスタンドが、偽船長のスタンドがアンちゃんを捕まえていた。
「水のトラブル、嘘と裏切り! 未知の世界への恐怖を暗示する月のカード、その名は、ダークブルームーン! てめえらと6対1じゃあ流石の俺も骨が折れるから正体を隠して1人ずつ順番に始末してやろうと思っていたんだがな…」
その言葉を聞いて、私は一歩前に出ながら言ってやる。
「なるほど、あんたは私たち全員を一気に仕留められない腰抜けだからそうやって船長のふりをしてこそこそ始末するつもりだった、と」
「なんだと?」
「聞こえなかったならそれでもいいけど、とにかく、関係ないその子を巻き込むなんて許さない。さっき言ったよね、『その子を雑に扱うのは私が許さない』腰抜けだけでなく記憶力も悪いわけ? 私、そういう輩に手加減する気は一切ないんだよね」
スパスパと思っていることを言ってやったが、偽船長はひるまずに私たちの方を睨んでいる。
「だが海に潜っちまえばこっちのもんよ。当然てめーらは海中へ追ってこざるを得まい! 懐中は俺のホームグラウンドよ! 6対1でも相手できるぜ! ククク……」
「人質なんてとって舐めんじゃあねぇぞ、この空条承太郎がビビり上がると思うなよ」
「舐める? これは予言だよ! 特にあんたのスタンド、スタープラチナも素早い動きをするんだってなぁ、自慢じゃあないが俺のダークブルームーンも水中じゃあ素早いぜ」
粋がってるけどあんたのダークブルームーンが速いのはあくまで"水中"って話でしょ。
「ついてきな! 海水たらふく飲んで死ぬ勇気があるならな!」
偽船長の注意が完全に承太郎に行ったのを見て、私は奇襲をかけることにした。
私はエスケイプで偽船長の目の前に現れ、思いきり肘鉄を食らわせる。
…このワープじみた移動も、射程距離内で、しかも私が走らなきゃいけないから事実ちょっとしょぼいワープなんだけど、異空間内では時間の影響を受けないし、結果的には『一瞬で移動した』ってことになるんだよね。異空間内で走らないといけないけど!
「ち、ちくしょう! だが人質は放さないぜ!」
「承太郎!」
「ああ!」
スタープラチナが偽船長にラッシュを決める。
「海水をたらふく飲むのはテメエだけだぜ」
「あんたがどれほどスピード自慢なのかは知らないけど、自由落下の速さは平等。そんなのに気づかなかったあんたが悪いってわけ」
「アヴドゥル、何か言ってやれ」
「占い師の私を差し置いて予言するなど、」
「10年早いぜ」
「ふふっ、セリフ盗られちゃったね、アヴドゥルさん」
「ふっ、そうだな」
そんなやり取りの中、アンちゃんを引き上げている承太郎の動きが鈍くなる。
「承太郎、どうした? 早くその女の子を引っ張り上げてやらんか」
「畜生、引きずり込まれる…!」
アンちゃんを支えているスタープラチナの腕にびっしりとフジツボが付着していた。それはあの偽船長からのメッセージであった。まだ俺は戦えると。まだお前たちを殺す算段を持っていると。
「承太郎! スタンドを引っ込めろ!」
「それができねぇから……かきたくもねー汗をかいているんだぜ」
そしてすぐに、承太郎は海中に引きずり込まれ、同じように船長を攻撃をした私にもフジツボがついていて、2人仲良く海に落ちていく。
「典明! アンちゃんを!」
典明のハイエロファントがかろうじてアンちゃんを掴んだのを見て、私たちは海へと入っていった。
一行はマズイ、と思ったがすぐにこうも思った。
「よりにもよってあの二人を揃って引きずり込むとは……奴も運が悪い…」
「2人は所謂阿吽の呼吸、ってやつですからね」
「どちらかが"あれ"と言っただけで通じるからな…」
〇 〇 〇
海中にて。
「よく来たな、ダークブルームーンの独壇場、海中へ。この俺をなめとったらいかんぜよ。お兄ちゃん方。海中とはいえ、スタンド同士の会話が可能だから、よってもう一遍さっきのような生意気なセリフを垂れてみい」
「テメエ、何になりてえんだ?」
「ああ?」
「なりてえ魚料理を言いな。刺身か? それともかまぼこか?」
「すり身じゃない?」
「ふ、なんでもいい。テメエのスタンドを料理してやるからよ」
「この馬鹿が、強がった口きいとるがよ、おたくらは今こんなこと考えてるんじゃないか? 『こいつ、いったいどれくらいの時間水中に潜っていられるのか、自分たちの限界は2分ってとこだが…』ククク! 教えてやろう、俺の肺活量は常人の3倍、そして訓練されている。潜水の自己ベストは6分21秒!」
「なら、あんたが思っている私たちの呼吸の限界2分よりも早く、私たちがあんたをブチのめしてあげる」
偽船長、あんたの敗因は1つ、海中に引きずり込んだのが承太郎で、おまけに私もついていたということ。
異空間が偽船長の後ろに出現し、そしてスタープラチナが思い切りブン殴った。
「ほ…ほげえええ~~~!?」
「全く、やれやれだぜ。戻るぞハル」
承太郎が私の腹の方に腕を回し、海上の方へと上がる。
海上に出て、思いっきり酸素を肺に取り込む。
「わざわざ抱えて戻ってくれなくても、自力で泳げたのに」
「スタンド使って結構疲れてるんじゃあねぇのか?」
「いうほど疲れてないよ」
「どーだか」
いや…まあ…能力の連続使用で確かに疲れてるけど……。
なんて思っていたとき、船が爆発し始めた。
「あの船長! 爆薬を仕掛けてやがったッ! 畜生!」
「みんな早く! ボートに乗り移れッ! 近くの船に救難信号を出せッ!」
そうしてボートに乗り、私はふう、と短い息を吐く。
「疲れているだろうから少しでも眠った方がいいよ。寄りかかってもいいから」
「…ありがとう、典明。重かったらごめんね」
一言謝ってから典明の方に寄りかかって目を瞑る。私が思っているよりも私の体は疲れていたらしく、すぐに私の意識は落ちてしまった。
イタリアの血が入ってるんだもの。遥花のスケコマシ(シーザー)なとこも見てみたいじゃない!
それにイケメンで紳士的な女の子からしか得られない栄養素がこの世界にはある!