眠っていた私の耳に、誰かが口から水を吹き出す音と、何かを見るように指示するアンちゃんの声が飛び込んできた。
「んん……」
もう少し眠っていたかったけれど、仕方がない、か。
私は寄りかかっていた典明の肩から体を起こして、姿を現した巨大な貨物船を見る。こう実物を見て思うけれど、本当に巨大だな…。
ボートからタラップに乗ろうとすると、ポルナレフに手を差し伸べられる。
「ありがとう」
お礼を言ってから、私は船内を見渡す。確かクレーンが急に襲うように動いて水夫を殺すんだったかな。
アヴドゥルさんや水夫と一緒に甲板などにある機械類を見ていくが、どれも故障はしていない。
今私たちの頭上にあるクレーンを見ると、不自然にグラグラと揺れ始め、水夫目掛けて飛んでくる。
「本当、次から次へとッ! こっちは疲れてるんだっつぅの!」
水夫を自分の方に引っ張り、クレーンの攻撃を回避する。
「誰も触っていないのに…誰も! あの操作レバーを触っていないのに! クレーンがひとりでに!?」
「ス、スタンドに間違いない!」
「気をつけろ、やはりどこかにいるぞ! どうやらこの貨物船は我々を救出するためではなく、確実に皆殺しにするために来たらしい…! 敵は1人か!? それとも数人か!?」
「人影らしきものはどこにも見えませんでしたよ」
「クレーンに一番近かった私でさえ何も近づいたようには感じなかった」
「気づかないぐらい速いってことか!?」
「典明、ハイエロファントグリーンを船内に這わせて探ってみて」
「言われると思って、もうすでに這わせて追っているよ」
流石典明! そこにシビれる憧れる…! じゃないや、ひとまずアンちゃんのアフターケアっと。怖がっているだろうから。
「な、なにがなんだかわからないけど、やっぱりあんたたちがいるからヤバいことが起こるんだわ……」
「アンちゃん、キミには私たちが疫病神なんかに見えるかもしれない。正直、否定は出来ないわ。でもこれだけは約束出来る。私たちはキミの味方で、キミを守る。絶対に怪我はさせない」
「……本当に?」
「本当だよ、ね? ジョセフさん」
「あぁ、絶対だ」
「約束よ、絶対だからね」
アンちゃんの表情にはまだ不安が残っていたけれど、それでも私の服をぎゅっと掴んで強い目で言った。
「早く敵を見つけ出すのだ、夜になる前までに…暗くなったら圧倒的に不利になるぞ!」
「それじゃあ私はひとまずアンちゃんと一緒にいようかな」
歩き始めると、アンちゃんがどこかに向かおうとしていた。
「アンちゃん? どこに行きたいの?」
「さっき、檻に入っているオランウータンがいたの。遥花は見ていなかったと思うから…」
「ふふ、じゃあそのオランウータンの所に行こうか。でも檻に入っているからとはいえ近づきすぎちゃいけないよ? 人間の腕くらい簡単に引き千切れるほどの握力を持っているんだから」
「わかってるわ!」
アンちゃんに道案内をされながら、そのオランウータンの元へと向かう。
ここで殴って気絶させるべきか否か……いや、やめておこう。ある程度は原作通りに事を進ませないとどこにどんなイレギュラーが発生するわかったもんじゃない。
「あの子よ」
そう指をさすアンちゃんを見て、オランウータンが檻の錠前を指で突いた。
「錠を開けてくれって言うの? 駄目よ、キーがどこにあるかわからないし、あんたおっきいもの」
断られたオランウータンは、綺麗に真っ二つになったリンゴをアンちゃんに渡す。
それからも、私は一連のやり取りをとりあえず無言で見ていた。
「遥花! このオランウータンどっかおかしいわ! 人間の女の子のピンナップ見てニヤニヤしてるのよ! さっきのリンゴだって、どっか、どっかおかしいわ!」
「……ひとまず別の所に行こうか。危ないから」
「う、うん」
部屋から出るとき、私は水夫らを全て異空間内に避難させた。
別に見られてもどうということはないけれど、射程距離内じゃないと船員は異空間内に移動させることはできないし、加えてあのオランウータンの視界に入らないところの方がいいと思ったからね。
一仕事終えてから私は「どうする?」とアンちゃんに尋ねると、彼女は自分の服や髪を触ってから不愉快そうな顔で、べたべたする…と嘆いた。
「そうだ、ねえ遥花、シャワー浴びない?」
「えっシャワー?」
「うんっちょっとだけだし、2人なら大丈夫でしょ? ねっ? いいでしょ?」
「……私も海水のべたつきは気になるし…ちょっとだけよ」
「うん!」
シャワー室に向かい、お湯が出ることを確認してから服を脱いで簡単にシャワーを浴びようとする。
「ねえアンちゃん、何かあった時のために一緒のシャワー室に入った方がいいと思うの…交代で入ろうにも私が入っている間にアンちゃんに何かあったら困るし…。でも、会ったばかりで裸の付き合いが嫌っていうなら断っていいわ」
「いいわよ、女同士だもの。何も気にする必要はないわ」
「ありがとうね」
シャワーを浴びながら話していると、背後に気配を感じた。勢いよくカーテンが開けられたのを感じてアンちゃんは真っ先に自分の胸を手で隠したが、私は自分の体を隠すよりも先に今私たちの体の汚れを落としてくれているシャワーヘッドを素手でもぎ取り、そのままオランウータンの頭に思い切り振り落とした。
「猿の分際で一丁前に覗きなんていい趣味じゃあないの……」
「シャワーヘッドを、す、素手で…!?」
オランウータンは頭を押さえながらよろめき、倒れる。
「念のためもう1回くらい殴っておくべきかしら…?」
「大丈夫だと思うから!」
「はぁ、ひとまず服着ようか。こんなところ承太郎や他のメンツに見られでもしたら……」
「ハル! ここにいるの、か……っ」
「じょっ、たっ!? ちがっ、これはっ」
「遥花! はいっ、タオル!!」
「ありがとうアンちゃん」
くそっ、原作よりも早めにオランウータンを仕留めたらその分時間とか稼げて服着る余裕があるかなと思ったけど予想以上に早かった! ラッキースケベられるとは思ってもみなかった……!!
「とりあえじゅっ、とりあえず服っ、服着なきゃ」
噛んでしまったがどうでもいい、いくら幼馴染とはいえ裸を見られるのは結構恥ずかしいものがある。しかも相手が超ド級のイケメンだから尚更、私の女の子らしくない筋肉でしまってる体を見せて承太郎の目を汚すわけにはっ…!
頭の中でべらべらと言い訳を並べていた時、オランウータンがよろめきながら立ち上がった。
ラッキースケベ(られ)はいい文化。