オッサンがいつも通り推しのVtuberの配信を見ていたところ、推しが魔境と名高いダンジョンを攻略したリスナーと結婚すると告げる。
 推しと結婚するべく、単身ダンジョンへと向かい、生来の超絶身体能力でダンジョンを攻略するオッサンだが、知人であるチー・牛太郎から、推しのVtuberは既婚者である事・推し以外のVtuberもリスナーとの望まぬ結婚を強要されていると知る。
 このふざけた結婚騒動をぶち壊すべく、いの一番にダンジョンを攻略し企画を破綻させてやろうと、デブのおっさんとチー牛の二人が迷宮を攻略していく。

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かなり荒いですが脳からアイデアが揮発する前に書き留めました。

IQを0にして御覧ください。

なお、当然ですがこの作品は現実のVtuberとは一切関係がありません。
もしも「○○ちゃんをモチーフにしやがったなーーーー!!」となってもそれは貴方の思い込みです。
貴方の推しには彼氏なんていませんし、処女なうえに、リスナーの貴方の事をそれはもう大切に思ってくださっています。


40代フリーターハゲ「Vtuverと結婚してぇ」

「あーーーーー! 天乃テラスちゃんと結婚してぇなぁー! 俺もなー!」

 

 豚小屋のようなクソ狭い部屋で40代フリーターATM禿デブが吠えた! PCのディスプレイにはYouT〇beの生放送が映っている。内容はと言えば、よくよく見ればドスケベだがパッと見はお洒落な衣装を纏ったアニメキャラがmin〇craftで遊んでいる生放送だ。

 

 そう、Vtuberだ。そのVtuberがくしゃみをした。

 

 

 その刹那、デブが気持ち悪いほどの速さでキーボードを叩いた!!

 

天乃ガチ恋勢 \10000

くしゃみ助かる

 

 画面上のチャット欄に文字が流れた。それだけだ、Vtuberは特に何も気にせずゲームで遊んでいる。

 だが、信じられるだろうか? このデブは今、Vtuberがくしゃみをした、それだけの理由で己の日給を超える額をこのVtuberに貢いだのである!

 

 このデブ、食事はクソ安い冷凍うどんを啜り、服はこれまたクソ安いよれよれのシャツと汚いジーンズ、電気代が勿体ないからと冷暖房はない。

 そのうえ、保険には一切入っていない為、体を壊せば一瞬で積んでしまう、明日をも知れぬ貧困層であった。

 

 

 しかし、この貧乏人! 名前すら認知してくれないVtuberに対しては惜しみなく金を投げる!! 

 

 

 正気の沙汰ではない! 明らかに狂っていた! 現代社会が生み出した悲しきクリーチャー! それがこのデブである!

 

 社会常識的に考えれば、このデブは明らかに精神に変調をきたした病人である。

 

 だが、現代医学ではこのデブを救う為の薬も制度もないし、40代フリーター年齢=彼女いない歴な奴を助ける余裕があるならば、未来ある他の若い子助けた方がよくない? というのが現実であった。

 

『実は今日は告知がありましてー、えっとですね、ちょっとこれ神使達を驚かしちゃうかもしれないんだけど~』

 

 クソ安ディスプレイのスピーカーからVtuberの声が響く。

 

 この『神使』というのは天乃テラスのリスナー達を指し示す言葉である。Vtuberはリスナー達にこのような名前を付ける事によって仲間意識と帰属意識を持たせ、金や時間を搾り取る事を得意とした。社会に居場所がない者ほどこのテクニックによく嵌る。

 

『実は私~……結婚を考えてましてー』

 

 デブの心臓が止まった。コメント欄は阿鼻叫喚の嵐かと思いきや、概ね真偽を疑う書き込みの方が多かった。Vtuberにガチ恋している狂人なぞ一握りなのである。

 

『で、そのお相手なんですけどー……神使の誰かと結婚したいと思います! というわけで、ジャン! 超大型企画! 天乃テラスちゃんの旦那さん探しを行いたいと思いまーす!』

 

「なっ!?」

 

 デブの心臓が再び鼓動を始めた、止まっていれば社会のゴミが一つ減ったというのに、無駄に頑強な心臓がデブの全身に熱き血潮と悪玉コレステロールを循環させる!

 

『第一条件はー、まず私の事を理解してくれてる事。まぁ、神使なら当然理解してくれてるよねと思うんだけど、私のメンバーシップに半年以上入ってる事を条件にしたいと思いまーす』

 

 デブがディスプレイの前で気持ち悪い笑顔でガッツポーズをした。メンバーシップとは簡単に言えば月額払いのファンクラブである。デブは天乃テラスのメンバーシップが始まった5秒後にはメンバーシップに参加していた。

 

『でー、もう一つの条件なんだけどー、やっぱり私も女の子だからね、護られる事に憧れるんだよねー……だから、第二条件は私を守れるくらい強い人! 具体的にはー……』

 

 画面上フリップに文字が追加される。そこには第二条件として文字がポツり。最低ダンジョン2F攻略済み、とあった。

 

 コメント欄には『いやいや無理無理!』『ダンジョン2Fクリアとか神使の中にいるのか?』『そもそも1Fクリアすらいるのか疑わしいwww』『これは企画倒れですね』というコメントが流れている。

 

『えー、みんな無理無理ーって言ってるけど、この企画の応募期限は一か月後だから、我こそは! って人は是非とも危険を冒さない程度に迷宮にチャレンジしてねー』

 

 

 

 

 

 

 翌日、デブは電車を乗り継ぎ、船に乗り、太平洋に浮かぶ海上プラントに降り立った。そう、ダンジョンに入る為である。

 

 

 ――20年前、世界中に謎のモノリスが現れた。そのモノリスは砂漠であったり、海上に謎の力で浮かんだりと、部屋に散らばる陰毛の如く様々な場所に出現した。

 

 各国の研究者達がモノリスを調査し、いくつかの事がわかった。

 

・このモノリスに触れるとダンジョン1Fのランダムなポイントに送られる。

・己のマッスルボディ以外で持ち込めるのは、迷宮産の物だけである。

・現代科学では作り出すことのできない、未知かつ、非常に有用なアイテムがある。

・デンジャラス極まりないクリーチャー達が我が世の春を謳歌している。

・定期的に地形が変わる為、マッピングの意味は薄い。1Fだけでも北海道並の広さがある。

 

 一言で言えば、入れば高確率で死ぬし超広い!

 

 だが、それでも人々はダンジョンへ潜った! 理由は単純明快、唸るほどの金が手に入るからである!!

 

 ダンジョンで働けば今まで働いたことがないニートであろうが小学生であろうが月収150万は容易い! そのうえ福利厚生もバッチリ! 四肢がもげても、金さえあれば半日でサイバネティック義肢を取り付け可能! 一年間生き延びれば追加で500万のボーナス支給! 

 

 社会のゴミ屑たちがこぞってダンジョンへ殺到した! そして9割ほど死んだ! 残りの1割が持ち帰ったアイテムで上級国民がクッソ力を付けて、マネーパワーで政府のうるせぇ口を縫い付けた!

 

 縫い付けた口から零れ出たダンジョンへの規制案は、ダンジョン2F攻略中の冒険者が国会議事堂の上にある△のアレをぶっ壊したらかき消えた!

 

 金! 暴力! S〇X! この3つさえあれば世界はいくらでも自分の好きなように塗り替えられるのである! これには無政府主義者(アナーキスト)たちも拍手喝采した!

 

 

 

 

 デブが船から港に降りて回りを見渡すと、何やら下船者達が二つの列を成している。列の先には検問が二つ。身なりの良い受付嬢が笑顔で対応する検問と、警棒を持った恰幅の良い警備員がずらりと並ぶ検問である。

 

 美人の受付嬢がいる検問の上には『関係者・シルバーランク以上の方のご家族専用』との看板がある。人はそれほど並んでいない。

 

 もう一方、警備員たちがいる検問の上には『入島管理所』といかついフォントで書かれている。その検問所で質問を受けていた男と警備員が何やら揉めている。

 男が急に駆けだした! 無理にでも検問を突破する心づもりである! 次の瞬間、男の全身にゴム弾が撃ち込まれる! 一発二発ではない、数百発だ! 全身を滅多撃ちにされた男が路上でビクンビクンと痙攣している。それを警備員たちが面倒くさそうにトラックの荷台へと投げ込んだ。

 

 

この島では人権という発明は未だなされていなかった。

 

 

 並び始めて数十分、ようやくデブの順番が来た。態度の悪い警備員がガムを噛みながらじろりとデブの全身を眺める。

 

「身分証明するもんとスマフォだせ」

 

 デブが大人しく書類とスマフォを出すと、警備員がスマフォに何かしらの機器に繋がるケーブルをぶっ刺した。ディスプレイにはスマフォには入っていないはずのデブの個人情報も羅列されている。この島には個人情報保護法なぞ存在しない。

 

「あんたまともな職歴ないのな。しかも中卒。貯金もなし。通院歴なげぇなー。どこの企業さんで働くか決まってんの?」

「Vtuberの天野テラスちゃんと結婚する為に来ました」

 

 この受け答えで警備員はこのデブが精神異常者なのだと気付いた。目をじっと見るが、明らかに健全な人間の瞳ではない。隣にいたもう一人の警備員が(撃つか?)と目配せした。対応している警備員が静かに首を振る。こういう輩は素直に行かせてダンジョンでさっさと死んで貰った方が楽だとの判断であった。

 

「じゃ、この検問出て、あのでっかい道あるだろ? これを30分くらいまっすぐ進んで行ったらモノリスあるから触りな。ほら、いったいった」

 

 

 警備員に言われた通り、30分ほど歩くとそこには縦に4メートル、横に2メートル、厚さ50センチほどのモノリスが床から数センチ離して浮いていた。モノリスを中心として広場が作られており、その広場から放射状に道路が広がっている。

 モノリスの近くでは誰かしらが何かしらの作業をしているが、デブに注目するものはいない。社会の底辺が勝手に死ぬのはいつものことである。

 

 

 デブがモノリスに振れると、眼前の景色が変わった。

 

 膝まで伸びた草、キリンかと見間違うほどカラフルかつ巨大なシダ植物、突如現れたデブに対してノータイムで襲いかかる人食いカマキリ!

 

 少しばかりの常識があれば誰でもわかる、ここはジャングルだ! 人の文明の力が及ばぬ秘境! ダンジョン! 何の準備もなしに入れば待つのは死あるのみである! しかし、そのくせ持って入る事ができるのは己の体のみ! ハゲは今、全裸であった!

 

 成人男性の2倍ほどの体躯を持つカマキリが巨大な鎌をデブに振り下ろし、その頭皮に触れた! まずべちょりと粘着質な音、次にぬるりと艶めかしくも生理的嫌悪を引き起こす感触、最後にべとぉと嫌な油が人食いカマキリの鎌に付着した!

 

 このカマキリはただの巨大な虫である。ヒトのような生理的な機能は持ち合わせていないし、ヒトのような感性なぞない。目の前のデブはただのヒトの一種であり、近頃よくこの付近に現れる狩りやすい餌の一つにしか過ぎぬはずであった。

 

 だが、カマキリは今明確に生理的嫌悪を覚えた! ハゲ! デブ! 汚い! 年齢=彼女いない歴! バチャ豚! 虫としての本能が「こんなん食ったら腹壊すで」と訴えかけていた!

 

 カマキリは即座にバックステップ! 手近なシダ植物からシダ植物へと乗り移りデブからの逃避を図る! それをデブが追いかけた! ぶるんぶるん腹の贅肉を揺らし、ゴキブリが壁を這うかの如くカマキリに迫る! デブはダンジョン産の装備を一切揃えず入ってきた為、全裸だ。非常に醜い。

 

 だが早い! すぐさまカマキリに追いつくとその腹に腕を突っ込み、中のハリガネムシごと臓腑を引きずり出す!

 

「ギィィィィイィ!」

 

 カマキリが奇声をあげてデブの腕に鎌を振り下ろすが、腕に生えた剛毛によって皮膚にまで達せず止まる! それどころか、毛一本すら切れていない!

 ならばと腹を狙うが、そちらももっさりと剛毛が生えている! このハゲ、頭部以外の全てに剛毛が生えており、全裸であるというのに、肌が見える部分の方が少ない有様であった。

 

 ハリガネムシが己だけは逃げようと必死にもがき、カマキリの臓腑が全て地面に降り注ぐ! カマキリは当然ながら絶命し、デブは地面にどすりと降り立ち、ついでとばかりにハリガネムシを踏み潰した!

 

 

「……ククク、相変わらず野性味しかない男だな」

 

 

 100人が見たら100人がドン引きするであろうこの光景、それを見てなお、デブに笑いかける男がいた。当然ながら、デブにはまともな交友関係なぞない。と、くれば思い当たる節なぞ限られる。

 

「っ! お前は、チー・牛太郎ッ!」

 

 シダ植物の影から完膚無きまでにチーズ牛丼を食ってそうな顔の男が現れた!!

 

 忘れようにも忘れられない、誰もがチー牛とひと目で判断してしまう容貌! ダンジョンでさえ、彼のメガネを体の一部として認識し、消さぬままダンジョン内に入れてしまうほどの漢であった!

 

 彼とデブは嘗て、ファミリー○ートのVtuberコラボキャンペーンのグッズを廻り、激闘を繰り広げた間柄である!

 

「しかし、なんでお前までここに……? お前の推しは天乃テラスちゃんではなく、日輪メギドちゃんのはず……」

 

「知らないのか? ……今回、結婚すると言い出したのは天乃テラスだけではない。……そう、ンホライブ所属のタレントの8割が結婚相手募集の声明を出した。まるで示し合わせたかのように、迷宮2Fクリアを最低条件としてな」

 

 奇妙な話であった。流石にこの話にはデブ――バチャ豚太郎も違和感を感じずにいられなかった。

 

「恐らくお前のことだ。何も考えずに”推しと結婚できる”と思ったんだろうがょぉぉ……んなわけねぇだろうが!!! 日輪メギドちゃんは!!! 月輪ハルマゲドンちゃんと!!!! ガチ百合のてぇてぇ仲なんだよ!!!!! 男なんぞと結婚するとか言うはずがねぇぇッッッ!!!」

 

 

 チー・牛太郎が吠えた! 彼のネチャリとした怒りの余波で大気中の粘性が増し、空を高速で飛ぶ羽虫が”空気に衝突し”バキリとその体を砕かれる!

 

 ――粘性操作、クラスの女子から「なんかチー・牛太郎くんってネチャネチャしてるね……悪い意味で」と言われた時から自覚し始めた、彼のサイコキネシスとも言える能力である。

 

 

「付いて来い。場地矢(バチャ)。とっととこの騒動を終わらせに行くぞ」

「待て、俺が今回来たのは天乃テラスちゃんと結婚する為であって――」

「天乃の中の人は既婚者だぞ」

 

 チー・牛太郎がデブの妄執をバサリと切り捨てた。――自分の推し以外には酷薄な男であった。

 

「何の根拠があって言っている」

「今回の騒動の裏を取るために色々調べた。狂ったことに、条件を満たせば本当にリスナーと結婚させるつもりのようでな。不安を感じた天乃テラスの旦那とコンタクトを取ることができた。ホスト崩れのヒモだったぞ、コンドーム代を貢いでくれる神使に感謝の言葉もないと言っていたよ。神使の分までベッドで妻を可愛がってくれているようだぞ」

 

 チー・牛太郎は嘘をつくような漢ではない事をデブは知っていた。

 

「何故、その情報を俺に教えた? 俺がキレ散らかす可能性もあっただろうに」

「お前は推しが無理やり離婚させられる様を見たいか?」

「ふん」

 

 ――中の人に膜がない。この時点でデブは天乃テラスに対する興味を殆ど失っていた。だが、推していたVtuberが不幸になるのを放置しておくのも、あまり気分が良いものではない。

 

「ところで、だ。終わらせに行くとまで言うからには今回の騒動の原因はわかっているんだろうな?」

「当然だ。今回の主犯は中国のVtuber……シコう帝が仕組んだ」

 

 二人が歩くと、辺りの生物がザザザと引いていき、波のような音がした。あまりの生理的嫌悪に引いてしまっているのだ。

 

「シコう帝? 確かに名前を聞いたことはあるな……チャンネル登録者数が1億の奴だったか?」

「14億だ。登録者数の8割が中国人で、噂では共産党を裏から操っているとも言われている」

 

 命知らずの蜘蛛型クリーチャーが二人の首を狙い、頭上から襲いかかった! その途端、空気がねちゃりと粘性を帯び、空中であたふたしている間にデブに頭を砕かれる! デブが蜘蛛の脚を一本もぎって、齧る。

 

「悪くない味だ。で、なんでそんな大物が今回の結婚騒動を?」

「手土産となる強者を作り出す為、だそうだ。近々、日本が中国日本省になるべく交渉しているのは知っているだろう? ニュースにもなっていたからな」

「知らん」

 

 デブは己に関係のない、世間一般の些事なぞ気にかけぬ漢であった。日本が中国の属国になったところで、一介のバチャ豚には何の影響もない。そんな事を気にするくらいならば、Vtuberのアーカイブでも見ていたほうがマシだとの考えだった。

 

「ふん、相変わらず社会性の欠片もない奴だな。いいか、日本は衰退し、インフラの維持ができなくなってきている。国民の生活の安定を考えたならば、いっその事、大国に統治された方が良いと考える議員も多い。だがな……こんな国、誰も欲しがらんのだよ。むしろ併合の際の混乱を考えた分、損だ」

 

 20XX年、日本の人口は最盛期の半分以下となり、高齢者が人口の半分以上を占めていた。円はアベコインと蔑まれ、一部ではドルや元での支払いしか受け付けない店すら出てきつつあった。

 さらに言えば、社会の変容により女は攻撃性を強め子供を疎ましく思うようになり、男はVtuberに傾倒する事によって出生率は0.01を切り、もはや滅びを待つだけの亡国となっていた。

 

「そこで、シコう帝がこう打診したのさ。ダンジョン2F攻略済みの人材が数人いるのならば、併合してやっても良いとな」

「日本にも数人くらいいるだろう」

「皆、日本を捨ててとっくの昔に外国籍だ。そういった経緯があって、今回の結婚騒動が起こった。まったく、はた迷惑な話だ」

「なるほど、大体の流れは把握した。……で、結局、どうやってこの騒動を落ち着かせるつもりなんだ?」

「そこで、類まれなる容貌を持つ、お前だ」

「何……?」

「いいか? 世の中の女Vtuberは日輪メギドちゃんと月輪ハルマゲドンの二人を除いて、根本的にイケメンとホストが大好きなクソビッチしかいない。今でこそ、2層攻略者と結婚しても良いと言っているが……お前がいの一番に颯爽と2層を攻略すれば、耐えきれぬとあっという間に手のひらを返すはずだ」

「だが、国からの圧力もかかっているんだろう? それほど簡単に……」

「あいつらは一時の感情でしか動かない生物だ」

 

 なんと理路整然とした言葉であろうか。チー牛の深い見識からくる説得力のある言葉に、思わずデブがううむと唸った。

 

「なるほど、やるべきことはわかった。で、2層への入り口は?」

「着いた」

 

 チー牛がそう言って、眼の前にある崖の下を指差した。断崖絶壁、東京タワーほどの高さもあろうかという崖。その下には全長1kmにも及ぶ巨大な亀がどすん、どすんと歩いている。

 

「あいつの背中に扉がある。行くぞ」

 

 チー牛がそういって、崖から亀の背中に向かって”歩いた”。空気の粘度を極端にまであげることで、一時的に階段を作り出しているのである。

 

「降りりゃすぐじゃねぇか」

 

 一方、デブは助走をつけて亀の背中へと飛び立った。デブの体毛が風を切り、甲高い音を立てる! 異常に気づいた亀が、その口からデブに向かって炎を吐いた! この亀、この見た目でなんと獰猛な肉食獣であり、この炎にかかれば鉄さえ溶ける!

 

 デブの体毛がぢりリと焼ける! 毛が焼けた煙を吸い込んだ鳥たちが余りの臭気にばたりばたりと空から落下し、自ら焼き鳥となってゆく!

 

 だが、この炎! デブを焼くには少々火力が足りぬ! 体毛に少しカールがついておしゃれになるだけである!

 

 デブが隕石の如く亀の甲羅に落下した! 岩盤の如く硬い亀の甲羅にビシリと罅が入った! 甲羅がそのような惨状であるから、亀自身は言わずもがなである。

 泡を吹いて倒れた亀の背中に、チー牛がねちゃりと降り立ち、指刺した。その方向には亀の背中には似つかわしくない白い扉がつけられている。

 

「これだ。こいつを開けば2層へと行ける」

「そうか」

 

 問答なぞ不要とばかりに、ハゲが扉を開いた。その先には巨大な城があった。

 

 何もない平原の真ん中に巨大な西洋城が建っている。巨大な城に似つかわしい巨大な門の前には、甲冑を着た巨人が見て取れた。

 

「あれは?」

「あの砦の天辺には玉座があってな。その玉座に座ると2.5層と呼ばれる、モノリスから出入り自由な広場に飛ばされる。また、玉座に座るという行為からか、2層攻略者は王候補とも呼ばれるらしい」

「何故そこまで知っている?」

「2F攻略者とコンタクトを取ってな。教えてもらった」

「そうか」

 

 何故? どうやってなぞという言葉は不要であった。この漢が2F攻略者とコンタクトを取れたというのならば、そうなのだろうとデブは納得した。

 

「わざわざ真正面から行くのも面倒だ。直接行くぞ」

 

 チー牛が空気の粘度を変え、宙に階段を作り出した。ねちゃっ、ねちゃっと上へと上がると、城から無数の矢が降り注ぐ。

 

「思ったより優しい攻撃だな」

 

 チー牛が手を振ると、全ての矢があらぬ方向へと逸れていく。空気の粘性を操作し、空気の流れを変えたのである。

 門番の巨人が、巨大なロングボウを構え、チー牛に放った。自動車ほどの質量を持つ巨大な矢はチー牛に届く前に勢いを失い、落下した。これも先程と同じく、空気中の粘性を高めることによって減衰を大きくした結果である。

 

 飛龍――2F攻略者達からはワイバーンと呼ばれている化け物が群れてチー牛に襲いかかった。群れの一匹が炎を吐くと、それがそのままそっくり返される。これもまた粘性操作よって気流を作り出した為である。

 ならばと直接噛みつこうとするも、チー牛に近づけば近づくほど、空気が重くなり、近づく事ができなくなる。そのうえ、呼吸をしようにも空気が重く呼吸ができなくなり、何もできずにワイバーン達がぼとりぼとりと空から落ちる。

 

 続いて、大砲・弩・毒ガス・巨大なワイバーンによる体当たりなどの妨害があったが、その全てをチー牛は意に介さず、城の天辺へと歩みを進めた。

 

「着いたぞ」

 

 にちゃりとチー牛が笑った。人様が試行錯誤して作ったものをドヤ顔で台無しする、それはチー牛が好む事であった。その性質ゆえに、彼は名実ともにチー牛と呼ばれているのである。

 

 城の窓から中に入ると、確かにチー牛の言った通りに玉座があった。また、その玉座を守るかのように佇む純白の騎士の姿も。

 

「王となりたくば私の問いに――清潔感が足りぬ、不合格だ。貴様らには王候補となる品位が足りん」

 

 騎士は二人を見るや否や、嫌悪感を丸出しに槍を向けた。

 

「可笑しいな、聞いた話ではいくらかの問答をした後、通してくれると聞いたんだが……」

「新たな神に仕える王になるにしても、神自身を目指すにしても、貴様らは新たな世界に相応しくない! 腐ってしまったこの世界でこのまま朽ちろ!」

 

 途端、騎士が紫電を纏って駆け出し、チー牛の顔面に槍を突き刺さんとする! 超高速で突進した騎士と粘性を高めた空気がぶつかった衝撃で、城の壁にぴしりと罅が入る! 

 

「驚いた」

 

 槍の先端がチー牛のメガネのつるに触れる寸前で止まっている。粘性を高めるという特性上、チー牛の能力は素早い動作・物体相手ほど強く減衰させる事ができる。だと言うのに、ここまで近づかれたのはチー牛にとって、久しぶりの事であった。

 

「それはこちらのセリフだ。なんだこの非常に不愉快かつねちゃっとした感覚はぁ……!」

 

 騎士が心底不愉快そうに大きく後ろへと跳ねる。20年前、試練が始まって以来、もっとも生理的嫌悪を覚える相手であった。

 実のところ、あの状況からじわりと槍を押し続ければ流石のチー牛も危なかったのだが、長い間近くにいたくないほどの生理的嫌悪がチー牛を助けた。

 

「場地矢(バチャ)」

「おう」

 

 すぅ、と前にデブが出た。選手交代である。チー牛は掠め手や遠距離攻撃にめっぽう強い半面、このように真正面からゴリゴリ来る相手と戦うことは余り好きではない。

 戦えないことはないのだが、チーズ牛丼食ってそうな性根なので、まっすぐな相手が苦手なのである。

 

「いくぜ」

 

 デブが全裸で駆けた。それに同時に騎士が槍をデブに向けると、交差するようにデブの拳を避け、デブの額に槍を突きささんとした。

 

 槍の先端がぬるり、と油で逸れた。十数年コーティングを重ねたギトギト油である。年季がものを言った。

 

 騎士は己の槍の買い替えを決心した。洗えば取れるとわかっていても、本能に刻まれた嫌悪感がそれを許さない。

 

 デブの拳が騎士の腹を捉えた。甲冑をひん曲げ、中身も同時にひしゃげさせる。技も何もない、ただフィジカルに頼っただけのパンチ。

 

 それが騎士を城の壁に叩きつけ、罅が入った壁は耐えきれず、そのまま騎士と共に城外へと落ちていった。

 

 

「これで2層攻略だな」

「嗚呼」

 

 どすり、と一人ずつ玉座に座り、二人が飛ばされた広場は、殺風景な白い空間であった。

 殺風景な空間に、何故か噴水と白い机に椅子が用意されている。

 

 その椅子に、一人の少女が座っていた。

 

 腰まで伸びた白銀の髪は色とりどりの宝飾品で飾られており、龍の刺繍が施された黄色い漢服はパッと見御洒落だが、よくよく見るとドスケベである。そして、紅玉の如く赤い瞳にはうっすらハートマークが入っている。そんな、常軌を逸した風貌の少女が、二人を見るなり、くふふ、と笑って話しかけた。

 

「新顔じゃなぁ。ようこそ、王達の間へ。そして、今なら帝の支配下に入るチャンスじゃぞぉ? そう、このシコう帝の、な」

 

 その少女は、チャンネル登録者数14億を超えるVtuber シコう帝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シコう帝!? 何故ここに……いや、逆に話が早い、か。おい、シコう帝。お前がやっている今回の結婚騒動。これを今すぐやめさせろ」

 

 チャンネル登録者数14億を前にしても、チー牛が浮つく事はない。押し以外は有象無象なのである。

 

「結婚騒動……? 嗚呼、あの日本でやっとるあれか。確かに、あれはうっかり併合してやっても良いと失言してしまった妾が悪いの。ちょっと待つのじゃ。ちょちょいとツイッターで……。よし、併合の話はなしでって呟いておいてやったぞ」

「少し確認させてもら……全裸だった」

 

 シコう帝がひょいとシコう帝グッズでデコられたサブのサブのサブ機をチー牛に投げた。この無駄とも思えるサブ機の数は、常に自分が何をしているかを投稿し、ユニコーンファンを安心させてやろうという心意気の現れであった。

 

 チー牛がサブ機でツイッターを確認すると、確かにシコう帝は「日本併合の話は白紙にするのじゃー」と呟き、それを見た日本の女Vtuberがこぞって今回の結婚イベントをなかったことにすると呟いていた。

 

 

「助かる。今後、何かあればこの貸しを返そう」

「別に良いぞ。同じ2層攻略者に敬意を払うのは当然じゃ。けど、良かったのかの? このままじゃと、恐らく日本は今後、中国とアメリカの代理戦争の地として戦禍をこうむる事になるぞ? 妾としては、正直それも可愛そうじゃから、併合案を聞いてやろうかと思ったのじゃが……」

「かまわん。日輪メギドちゃんと月輪ハルマゲドンさえ無事ならば、他はどうでも良い」

 

 チー牛は、己が守るべきものにしっかりと優先順位をつける漢であった。

 

「俺は自分の手の届く範囲だけの事にしか興味はねぇ」

 

 国同士の諍いなぞ、自分には関係がない。デブは自分と他人は違うという事をしっかりと理解していた。国に依存しない漢である。

 

「ふむ、二人とも国家への帰属意識はなしか。で、あらばなおさら妾の傘下に、どうじゃ? 当然、妾が統治する中国籍はやるし、待遇もそれなりのものを用意するのじゃ」

「ふん、その待遇とやらに見合った働きもしろと言うんだろう? 俺は常にVを見るのに忙しい。すまんが断る」

 

 これにはチー牛も頷いた。どこか似たところがある二人である。

 

「うーむ、そう言われたら無理強いはできんの~。じゃが、気が向いたらツイッター経由で連絡してほしいのじゃ。それじゃ妾はそろそろ配信があるからおさらばなのじゃ~」

 

 シコう帝がそう言うと、何もない空間に突如扉が現れ、その扉をくぐってどこかへと行ってしまった。2.5層は攻略者がココと決めた特定の箇所と繋がるポータルを作ることが可能であった。

 

 後に残されたのはチー牛とバチャ豚の二人だけである。

 

「なんというか、思ったより拍子抜けだったな」

「嗚呼。本当はこの後の為に細々とした工作も用意していたんだが……まさか、本丸自体が出迎えてくれるとは思わなかった」

「さっきの扉はどうやって出すんだ?」

「自分の家に帰りたい、と念じてみると出てくると聞いたが……」

 

 ハゲがクソ狭い豚小屋のような部屋を思い浮かべると、確かに目の前に扉が現れた。同様に、チー牛の前にも扉が現れる。

 

「じゃあな」

「嗚呼」

 

 互いにそれ以上は何も言わずに扉をくぐった。漢同士の別れだ。これ以上は何も言う必要がない。

 

 二人が再び邂逅するのは、またVtuberに危機が訪れた時でである。

 




・国家や共同体は概ね宗教を軸にまとめ上げられている(近世日本では天皇を利用して国家感を形成し纏めた、大きなくくりではキリスト教圏、イスラム圏でのまとまり)
  →国家とはその土地ではなく、そこにいる人々が何に帰属意識を持っているかで決まってるよねー、との発想

・Vtuberは宗教
  →グローバリズム化によって移動・情報伝達は日に日に早く・容易になっている。ならば、土地がなくともVtuberに帰属意識を持つ者達が何かしらの団体を名乗れば、それは国家に強い帰属意識を持つ者と同じような幸福感を得られるのではないだろうか? という発想

 宗教や国家と言った枠ではなく、人々が別の何かに帰属意識を持ち、さらにはそれに惜しみなく税(スパチャ)を注ぎ込み同じリスナー達に還元(福利厚生)される事に喜びを感じるのならば、Vtuberを宗教・国家の代替とする事は可能なのでは?

 といった発想をうまく笑える作品に落とし込もうとしましたが、思ったより上手くいかんかった感があります。


やたらと日本を貶めているのも、この世界観では人々の国家への帰属意識が酷く薄れてる事を表す為ですが、もっと良い表現があったんじゃ?(ネット右翼の方から怒られそう)

 なんかもっと上手い具合いにする方法を思いついたら、改稿・続きを書きます。

  1. 目次
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