考案中小説集   作:屋田光一

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原作:ソードアート・オンライン

不自然なほどに赤く染まった空に、同じような色のローブを纏った巨大な人物の影。影から告げられた現実に、怒りの怒号、悲しみの慟哭、驚嘆の絶叫、狂乱の笑い声、いずれも受け入れがたい真実に絶望の反応を示す周囲と違って、そのプレイヤーは胸中で呟いた。

 

「自分はこの光景を…『知っている』…。」

 

それは経験したわけではない。似たような事例を見たわけではない。ただ単に、知っているのだ。今の光景を、これから起こる事件を、迎える結末を。

 

 

 

 

 

 

 

―――――第三者の目線で、幾度も見た、知ったものだと、自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ソードアート(Sword Art)オンライン(Online)』―――通称『SAO』―――。

 

それがこの世界…完全仮想現実で構築された、世界で初のVRMMORPG…要は脳内の意識を電子化し、現実とほぼ同じ感覚でプレイすることが出来るように作られたオンラインゲーム。その名称だ。

 

頭を完全に覆ったヘルメット型のハードウェア…『ナーヴギア』の性能を駆使して、現実世界の脳の動きを送信することで、ゲーム内でも現実同様の動きが出来る。早い話が、()()創作界でよく見かけた異世界転移を、ゲームで気軽にプレイできてしまうというもの。

 

まさにゲーム業界の革命と言うべき作品だ。

 

 

全国各地のゲーマーは、勿論こぞってこの作品を手にしようと数日並んだり、抽選にかけたり、業界に通じている者たちはその伝手を使って手にしたり。試用期間にプレイできた選ばれし1000人の『ベータテスター』たちは、無条件で本製品を受け取ったり。

 

初回販売数僅か1万本を幸運にもその手中に収めたプレイヤーたち。手に出来なかった者たちも含めて、誰もがこのゲームによって巻き起こる社会現象を夢想した。

 

 

 

 

 

 

 

 

サービス開始初日、現実世界でプレイヤーたちの死亡が発覚するまで。

 

ゲーム内に突如現れた、狂気を現した宣告が行われるまで。

 

 

 

 

 

 

このSAOを作り上げた根幹たる存在。事実上の開発責任者であるディレクター・『茅場晶彦』。彼はこのゲームを作った目的として、真の異世界の創造…及び観賞と提示した上で、このゲームの信じがたき仕様とルールを発表した。

 

「ソードアート・オンラインにおいて、自発的にログアウトすることは不可能」

 

「さらにゲーム内にてHPが全損。ゲームオーバーになった際、頭部に装着しているナーヴギアによって脳が破壊され、現実世界でも死亡する」

 

このゲームの舞台・『浮遊城アインクラッド』を檻に見立ててプレイヤーたちを閉じ込め、ゲーム内と現実の命をリンクさせることで、ゲームでの死は現実の死と同義。事実上残機0のデスゲームへと変貌させたのだ。

 

 

 

 

「今日でちょうど10日…。あと20日ぐらい、か…」

 

全100層存在する浮遊城のうちの最下層。第1層と呼ばれるエリアに存在する街の一つ・『ホルンカ』と言う村の宿屋の一室で、起床したその少年は、独り言を呟いた。

 

いや、そもそもこのような独り言を、誰か周りに人がいる中でするつもりなど、毛頭ないのだが。

 

「20日後には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。そしてその翌日には、()()()()()()()()()…。出来る準備はしておいて損じゃない…」

 

まるで未来予知。だが、少年にはそのような能力はない。未来を見たわけではなく、知っているのだ。

 

何が違うのか?それは単純。

 

 

 

 

 

少年は、転生者だ。

この「ゲームで巻き起こる一連の出来事(ソードアート・オンラインと言う物語)」を、生前観賞した側の人間だ。

 

 

 

 

始まりの日…開発者である茅場晶彦が、赤いローブを纏った巨大なアバターに扮してこのデスゲームを宣告した、SAOのサービス開始初日の事。それまで一般の家庭に育ち、普通の学校に通っていた一学生であった少年は、運よく購入できたこのフルダイブ型ゲームにログインし、この世界を謳歌していた。

 

だが彼もまた、突如集められた1万に及ぶプレイヤーたち同様、一方的に始まりの場所に転移させられ、一方的に閉じ込めた事と、ゲームでの死が現実の死であることを告げられた。周りが様々な感情に襲われ阿鼻叫喚となる中、少年の脳裏に浮かんだのは既視感。

 

そして思い出したのだ。この世界が何なのか。衝撃的な光景を垣間見たショックにより、このゲームが如何にして始まったのか、誰を中心に進められたのか、そしてどのような事件が起きたのかを。

 

 

最後の最後、後に物語の英雄として語られる一人の少年(主人公)によって、二年後、このゲームがクリアされることを。

 

 

 

それを思い出した少年は、勿論最初は混乱していた。今の自分が何なのか。現世と前世、どちらが今の自分なのか。唐突に塗り替えられたようにも錯覚される、転生していたという事実を突きつけられて。

 

 

 

だが、この問題を乗り越えるにしても、状況は最悪だった。何も知らないままこの世界に憧れて、何も知らないままこの世界にログインして、何も知らないまま、クリアされるまで出ることが許されないゲームに閉じ込められた。

 

 

 

システムの抜け穴を使おうと様々な手法を試したプレイヤーも数多い。城から外に飛び降りたり、脱出スポットに向かってみたり。だがどれも功を奏さなかった。クリアすることに躍起になって考えなしに飛び出し、モンスターの餌食となって帰ってこなかった者も多い。

 

このゲームの知識を思い出した直後、そんな死地に放り出された少年に迫っていたのは、絶望の未来。己の運命を呪い、いるかも分からない神に問うた。何故思い出したのが、今だったのか、何故手遅れになってから記憶が呼び覚まされたのか。二日ほど後悔に苛まれていた少年は、停滞しても変わらない現実を前に、決心を固めた。

 

 

 

 

「今の自分に出来る事は、何としてでも生き残り、ゲームをクリアして脱出すること」

 

 

 

 

「その為に、自分が知る物語の通りに、このゲームを進めなくてはならない」

 

 

 

彼の記憶が正しければ、今後行われる第1層の攻略の際、一人犠牲者が出る。そして今後も不定期に。時には攻略の最中、時には不慮の事故、時には悪意あるプレイヤーたちの手によって。悲劇と言うべき出来事が、この二年の間で襲い掛かる。その時自分はどうするのか。

 

 

 

彼の答えは、「不必要に干渉しない事」だった。悲しい犠牲が伴われるが、その悲しみをも乗り越えてこそ、この物語(ゲーム)は終わりを迎えた。自分も生き残り、無事に脱出するためには、その原作の通りに進める必要がある。

 

それが、この世界の現実に転生し、このゲームに降り立った自分に出来る、唯一の攻略法である。

 

 

 

「……絶対に生き残る…。この世界から…抜け出すために…!!」

 

このゲームのステータスを確認しながら、少年は改めて決意を口にする。ざっくらばんと切られた黒い髪を持ち、目の前のステータスを藍色の目で鋭く見つめながら、その少年は今日も己を奮い立たせる。

 

 

 

彼の目に映った視界の左上端に映っているその名―『Aiki(アイキ)』―の文字が、今この世界に縛られている少年の名前だった。

 

 

 

 

 

 

そう。物語の通りに。不必要な干渉は絶対にしない。いつどこで、物語の歯車が狂うのか分からない。

 

「俺は『ディアベル』。職業は気持ち的に、“ナイト”やってます!」

 

だから彼は注意していた。着々と自分が知る通りに話が進んでいることに、内心安堵を覚えながら、攻略していく。

 

「わいは『キバオウ』ってもんや!」

 

所々気になる差異はあるものの、概ね記憶の通りに進んでいた。二年と言う期間は長いが、己の身も大事に、そして死ぬべきではない者たちにも注意を配り、対処していけば、きっと元の平穏な世界に戻ることが出来る。

 

 

 

 

…そう…思っていた…。

 

 

 

 

 

「すみませーん!!遅くなりましたっ!!会議、まだ終わってませんか!?」

 

 

 

 

攻略会議が行われている広場の前に大声を上げながら問いかけてきた、黄色いフード付きマントを被った()()()()()()()()が、その場に現れるまで…。

 

 

 

 

 

「(何だこれ…?こんな()()()()()()()()()…!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

原作:ソードアート・オンライン

 

『転生者干渉のソードアート・オンライン』

 

 

 

 

 

―――この物語はもう、誰も知らない物語―――。

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