その街は、日本とは思えない木組みの家と石畳の街。
欧米のものと思われる街並みに惹かれ、観光を目的として訪れる客も少なくない。
この街の名物、と言えば大きく分けて二つ。一つは豊富な喫茶店。もう一つは、うさぎである。
街の至る所で見られる野うさぎや、実際に家で飼っている家庭。さらに喫茶店にまでいたりと、時と場所を問わず見かけられる。
そんな街の中に存在する喫茶店の中に、ひっそりと存在するものが一つ。扉の前に付けられたその看板には、横向いたうさぎのエンブレムがあしらわれ、その下には店の名前であろう文字列があしらわれている。
その名も……『
「う~ん……これで、いいのかな……?あ、大丈夫みたいだね!ん、んんっ……!」
その映像に映っていたのは、静かで落ち着いた雰囲気の木造と思われる喫茶店内。そして映像を撮っていると思われる少女の声が聞こえてきた。映っていた少女はその撮影危機が正常に起動しているのを確認すると、パッと表情を明るくして咳払いをする。
赤みがかった金髪のセミロングヘアーで、左側に半分になった花の形をした髪飾りをしている、可愛らしい少女だ。
「こんにちは~!見えてるかな?私の名前は『ココア』!ここ、喫茶店『ラビットハウス』に住み込みで働いています!今日はね、このお店の宣伝の為に、私がラビットハウスの魅力を隅々までお伝えしちゃうよ!!まずはね……!」
「あの、何してるんですか?ココアさん……」
『ココア』と名乗ったその少女の目的は、今いる喫茶店『ラビットハウス』の宣伝らしい。店員と言うには気さくで明るく、社交的な印象が見受けられる彼女がその紹介に移ろうとした時、画面外から聞こえてきた別の少女の声によって遮られる。
だが言葉を遮られたココアはそれに気を損ねるどころか表情を更に明るくして、カメラをその声を発した、カウンターで作業をしている様子の別の少女へと切り替える。映ったのは淡い青色の髪と目の色をしているストレートヘアーの少女。だがその容姿は幼く、先程のココアと比べると一回りも二回りも歳が下であるように見える。
「『チノ』ちゃん!あのね、今ラビットハウスの宣伝動画を撮ってるの!これを取ってみんなに見せれば、お客さんも来ると思って!あ、この子は私の妹の、チノちゃんです!」
「妹じゃないです。あと、今は仕事中です」
「こんな風に、大人しくて素直じゃないけど、仕事熱心で頑張り屋で、その上カワイイ妹なの!」
「だから、ココアさんの妹じゃないです」
血は繋がっているように見えないが、頑なに自分の妹として紹介するココアに、『チノ』と呼ばれた少女はズバッと切り返す。だがそれでも耳に入れていないのかメンタルが鋼鉄なのか、一切傷ついた様子はなくココアは別の方向へとカメラの方向を変える。
「ここでは私とチノちゃん、そしてもう一人の子・『リゼ』ちゃんと一緒にお仕事をしています!はいリゼちゃん一言!」
「わ、私もか!?と言うか、いきなり!?」
その方向にいるテーブルの整理をしていた『リゼ』と言う名の少女は、紫っぽい長い黒髪をツインテールにしており、ほどけば腰までかかるくらいに見える。だがその顔立ちはキリッとしていて、慌てながらも佇まいを正す時に零れ出る口調は、女武士を彷彿とさせる。
そんな彼女はようやく落ち着きを取り戻したと思いきや、何故かカメラに向けて軍隊を思わせる敬礼をビシッと構えながら堂々とした口調で声を張った。
「サー!わ、私の名はリゼであります!先程紹介されたように、この喫茶店でバイトをしており……!」
「もっと普通のこと言っていいんだよ、リゼちゃん?」
「え、ふ、普通……?普通って、どんな感じで……?」
妙に軍人気質の様子なリゼの軍隊式の挨拶を聞いて、ココアがほんわかと笑みを浮かべながらそう声をかける。普通と言う意味の定義が何なのかが分からなくなって混乱しているようだ。
と、そこへ喫茶店の出入り口の扉が誰かの手によって開かれた。客かと思われたが、次の一言でそれが異なる事が明かされる。
「ココアちゃ~ん!遊びに来たわよ~……ってあら?」
「え?一体どういう状況?」
「あ!『千夜』ちゃん、『シャロ』ちゃん!いらっしゃーい!」
ココアたちと顔見知りらしき二人の少女が来店……と言うより友達の家に遊びに来た感覚で訪問したようだ。『千夜』と呼ばれたのは着物を身に纏った黒髪ロングの和風美人と言う言葉が似合う清楚な印象の少女。『シャロ』と呼ばれたのはウェーブがかかった短めの金髪を持った、どこか気品を感じられる小柄の少女。そんな二人を快く迎えたココアは、チャンスとばかりに持っていたカメラを二人にも向け始めた。
「こちらは私たちの友達!着物を着た子が千夜ちゃんで、お嬢様っぽい子がシャロちゃんです!」
「どうも、こんにちは~」
「こ、こんにちは……って、いやいやホントにどんな状況よこれ?」
千夜はお淑やかに微笑みながらココアからの突然の紹介にも応えるが、シャロの方は心から困惑していることを主張するかのように声に出して疑問を口にする。どうやらこの中では常識がある人物のようだ。
「ラビットハウスの宣伝の為に動画を撮ってるの!」
「それじゃあ私たちが映ったら意味ないんじゃないの?」
「え?なんで?」
「いや、なんでって……」
ラビットハウスの従業員でもないのに自分たちが動画に入って紹介されていいのかという指摘に、ココア本人は首を傾げて心から疑問を感じている様子だ。その事がシャロにとって不可解で仕方がない。
そして、更にこの場に新しい人物が加わる事に。
「ただいまー。何だか随分盛り上がってるな」
「おかえりなさい」
「あ、おかえり~!『レオ』くん!」
場にいる者たちが全員10代女子だった華やかな空間に、一変して声変りが終えたばかりに聞こえる少年の声が届く。手には店で使う予定とされる食材の入った袋が抱えられていて、買い出しに行っていたと思われる。
そんな少年の容姿は、カウンターから動かずに仕事に着手していたチノと、極めて似ている。短く整えられた髪の色や目の色もそうだが、少年と言う割には少女にも見えてしまうほどに顔立ちが整っており、落ち着いていそうな雰囲気からもチノとよく似ていることが分かる。
「ココアが持ってるの、カメラか?何か撮ってるの?」
「そう、ラビットハウスの宣伝動画だよ!あ、レオくん袋置いてこっち向いて!」
裏口から店内に入ってきた『レオ』と呼ばれた少年が首を傾げながらカウンター奥に食材袋を置くと、ココアの要望に応えて彼女が持つカメラに目を向ける。それを確認したココアは、先程同様に紹介を始めた。
「こちらはレオくん!ラビットハウスにいる唯一の男の子!この中では一番の先輩であり、チノちゃんのお兄ちゃんで、私の弟です!」
「え?」
「兄さんは弟じゃないし、ココアさんよりも年上です」
カメラで撮られていることに気付いて、少しばかり笑顔を浮かべて印象よく映ろうとしていたレオ。しかしココアからの紹介の最後に言われた一文に思わず表情が困惑に歪み、すかさず妹からフォローを入れられた。
「なあ、これ本当に宣伝になってるのか?」
「今のとこ、私たちの紹介しかしてませんよ?」
「大丈夫!これからラビットハウスの魅力について、分かりやすく紹介して……!」
ただただ従業員(プラスα)の紹介動画になっている現状に疑問を抱いたリゼとチノからそんな声が上がるが、当の本人はお構いなし。この後に控えた店の紹介に移ろうとするも、店の窓から外の様子が見えたレオによって、それは阻まれた。
「ちょっと待った。お客さん来たみたいだぞ?」
「え!?あ、じゃあお客さんにも手伝ってもらう?」
「ダメに決まってんでしょ!?」
「私はいいアイデアだと思うわ!」
「いや、やめとけそれは」
「ココアさん、一度カメラ置いてください」
途端に慌ただしく、だがしかし賑やかな雰囲気が流れる店内。このお話は、時に静かに、時に賑やかに、一つの喫茶店とそこに働く少年少女の、日常の一幕を綴った物語。
そしてこの小さな喫茶店を営む兄妹を中心に、広げられていく。
『いらっしゃいませ!ラビットハウスにようこそ!』
原作:ご注文はうさぎですか?
『RABBIT HOUSEの看板兄妹』
「ところであの動画、一体誰に向けて作ってたんですか?」
「え?えーと……誰かな?」
「決めてなかったのかよ!?」
今作主人公の補足情報ですか?
通称:レオ
性別:男
年齢:16歳(高2)
血液型:AB型
誕生日:8月1日
身長:168㎝
由来:カフェオレ
備考:香風智乃の実兄。隔週で昼の喫茶、夜のバーの従業員をしている