この村に来てから彼女はとても幸せそうだった。子供たちと過ごすこの日常が何より楽しそうで、その姿を見る僕の顔も自然と緩んでしまう。僕らは子供の世話や狩りの手伝いなどをして、村の人たちと助け合いながら生活をしている。
「いつもありがとうね、メラニオスさん。これ、うちでとれた野菜です、貰ってって下さい」
「おーメラニオスの旦那、お疲れー。そうだ、いい酒が手に入ったんだ。アタランテさんと飲みなあ!」
「メラ兄ちゃん、かけっこ、かけっこしようぜ!...え?アタランテお姉ちゃんと?あの人全然手加減してくんないんだもん」
「ねーこれあげる。お花の冠、みんなで作ったのいつもありがとうって」
この村の人たちは僕らをすんなりと受け入れてくれた。仕事をくれたり、世間話をしたりよくしてもらってくれる。
「お帰り、メラニオス、今日は肉料理だ。あの子たちも手伝ってくれたんだぞ、早く手を洗ってこい」
仕事が終わり家に帰れば、彼女がご飯を作って待っていてくれる、そんな理想の生活。
「うん、ありがとう。それと、お酒を貰ったんだ...良かったらあの子たちが寝付いた後、どう?」
「ほう、これはいいものだな。楽しみにしておこう、汝と酒を飲み交わしたことはなかったからな」
彼女と子供達との食事。その後は二人と少しだけ遊び、風呂に入り、寝付かせる。全てが終わった後、二人だけの時間を過ごす、これが僕たちの日常。
幸せな日々だと思う。
こんな日常がいつまでも続けばいいと、彼女は笑っていてくれる。
◇
「今日は子供たちとどんなことをしたの?」
晩酌を始めて少し経った頃、いつものように会話をする。アタランテはこの酒が気に入ったのかぐびぐびと景気よく飲んでいる。
「...ん、ああ。かけっこだ、もちろん私が勝ったがな!」
胸を張ってこたえるアタランテ
飲む前は酒豪を豪語していたものの、今や顔を赤らめ、完全に酔っ払っている。「らいじょーぶ」と本人は答えるものの絶対大丈夫ではない。
いつものキリッとした感じも好きだが、酒で蕩けたこの顔はまた違った雰囲気で新鮮だ。
「ん~~~ほめれくれ!」
「あーはい、はい、えらいえらい(手加減しないところは相変わらずだなあ)」
「むぅ...もっとちゃんとほめて!ほら!」
無理矢理に頭に手をのせさせられる。撫でてくれということだろうか?試しに撫でてみると嬉しそうに顔を綻びさせる...可愛い。
でも、心臓に悪いから勘弁して欲しい、ただでさえ普段から彼女を見るたびドキドキさせられるのだから
「もう少し、手加減してもよかったんじゃない?ちょっと大人げないなあ」
「えへへ、だってあなた以外に負けるなんて嫌だもん」
っ...危なかった、僕じゃなきゃ死んでた。死因が尊死なら本望だけど
というか、流石に心配になってきた。顔を赤らめたこの姿も魅力的なのだが、これ以上はまずいだろう。酔っ払いほど怖いものはない、何をしでかすかわかったもんじゃないのだから。
「アタランテ、もう寝よっか。さすがに酔いすぎだと思うし...」
「なんら~わたしとさけがのめないというのかぁ~」
「...」
「ほら~もっとのむ!」
「がっ...⁉」
無理やり口を掴まれ酒を流し込まれる。
絡み酒なんて一番めんどくさいパターンだ。けど、こういった一面すら愛おしいと思ってる辺り相当絆されているらしい。
ただ心配なことには変わりがない
「ほら、いい子だから」
「...私と一緒にいるのが嫌なのか?」
「え⁉いや、そういうわけじゃあ」
「...私のこと、嫌いなんだ...ぐすっ...」
感情の起伏が激しい。何とかなだめようとするが
「そんなこと一言も
「お兄ちゃーん、どうしたの〜」
あー、いや、なんでも
「こっちが話しかけるとすぐ目を逸らすし...あの時、抱きしめてくれたのに今じゃ、近づくだけで離れようとするし...自分といると、迷惑がかかるからとかそんなことを盾にして、私はそんなの覚悟の上で一緒にいるのに!」
分かった、分かったから、ね?一旦外に出よう。子どもたち起きてきちゃってるから、ね?」
それでも駄々をこねるアタランテの口をふさぎ無理矢理でも外に連れ出す。
子どもの前で聞かせるにはいささか恥ずかしすぎる!
「ゴメンね起こしちゃった。直ぐ静かにさせるからまた寝ようね」
「む"ー!む"ー!む"ーーー!」
◇
とりあえず外に連れ出すことができた。
外の空気にでも当たれば少しは酔も覚めるだろう
「えへへ~メーラーニーオースー」
ダメかもしれない。
こっちを見てにやにやしながら近づいてくるアタランテ。
「な、なんだい?」
「だっこ」
「へ?!あ、ちょっ」
思いっきり抱きつかれる。
顔が近い、彼女の呼吸が間近に感じられるほどに
「うふふ、すべすべ~」
「ひ、人が来たらどうs「嫌なのか」え、いやあ「見られたらいやなのか」
有無を言わせぬほどの迫力がある。も、もう、心臓がもたない。
「嫌とか、そういうのじゃなくて「ならいいな」だけど「どっちなのだ!ハッキリしろ!」えぇ...」
どうしたんだろう、こんなにも荒れることは今までなかった。僕は彼女にどうしてあげればいいんだろう。
「私たちは夫婦なのだぞ。これくらい...いいではないか」
ああ、そうだった。
今まで考えるのを避けていた気がする。
「...うん、そう、だね。僕らは夫婦だ」
あの日、彼女に勝った日、彼女は僕の物になった。
"私に勝ったのだ。その責任、取ってもらうぞ"
"ああ...勿論!"
あんなこと言っておきながら、今でも後悔している。もし、もし断っていれば、彼女はこんな怪物と旅に出ることはなかった。
彼女が不安そうにこちらを見上げ、尋ねてくる。
「汝は...私を愛しているのか?」
当たり前だ、あった時から、今だってずっと、君のことを僕はずっと愛してる。愛してるんだアタランテ!
「僕は――――――......」
...何も言えなかった、言葉にできなかった。あの日の後悔が今でも縛りついている。
何も言えず、ただ黙っている僕を彼女はどう思っているんだろう。
その時の彼女の顔は見れなかtt
「こっちを見ろ、メラニオス!」
「ブヘッ」
突然顔を手で押さえられ、強制的に見つめ合う形になる。
彼女は先ほどと打って変わって真剣な表情をしている。
「私の目をよく見ておけ...いいか...あなたが言わないなら私から言ってやる」
逃げられない。
言わないでほしい、それはきっと君を縛ってしまう。
「私は...貴方を――――――」
目をつぶってしまった。見つめてくるその目が辛かったから。
でも、彼女から言葉が続けられることはなかった
「......アタ、ランテ?」
おかしい、いつまで経っても次の言葉が聞こえない。彼女は何故か下を向いている。
恐る恐る、もう少し顔を近づけると
「すぅ...すぅ...すぅ....」
「......寝ちゃったか」
眠る彼女をいつかのように、お姫様抱っこで寝室へと連れて行く。
「ごめんね...でも、愛してるんだ。本当に愛してるんだアタランテ...」
少しだけアタランテが笑った気がした。
...今はこれでいい、これでいいんだ。今はこの幸せを噛み締めていよう、願わくば―――
「...お酒はもう、こりごりだな」
◇◇◇
アタランテを寝かした後、少し夜風にあたっていた。今日も相変わらず星は美しく、月は僕を照らしている。
違ったことがあるとしたら
『やあ、メラニオス君。元気ー?』
―――招かざる客神が来たことだ
「...何の用だ、アポロン」
『そんなに睨まないでほしいなー。ただちょっとお願いがあって来ただけなんだ』
胡散臭い笑みを浮かびながら近づいてくるアポロン神。ここで争うわけにはいかない、今は守るものがある。警戒心を隠さず相手をにらむ。
しかし、こちらの気も知らず神は淡々と話を続ける
曰く、カリュドーン王オイネウスがオリュンポスの神々の生け贄を捧げる際に、女神アルテミスを忘れてしまった。これにより女神は怒り、その国に天罰を与えるつもりなのだと
『最初は魔猪を放とうと思ったんだけど...君がいることを思い出してねえ』
怪物として振舞えと。人々の厄災となれと。
「...僕が大人しく従うとでも?」
『―――従うとも、今の君ならね』
村の方に目を向ける。
『私は疫病の神としての側面を持っていてね、この指を振るえばあっという間に感染させることができる。分かるだろう?つまり―――この村が人質というわけさ』
グシャリ、となにかを咀嚼するような音が聞こえた。
アポロンは自分の下半身が喰われたことに気づく、どうやらかなり怒らせてしまったみたいだ。だが、心配することはない。笑顔を崩さず語り掛ける。
『ははっ、相変わらず手が早いなあ。でも残念、私は分霊みたいなものでね。ほら、この通りすっかり元通りさ』
メラニオスは忌々しそうに睨めつけている。実際、アポロンは何ともなかったように振舞っており、捕食が無駄だったことを理解する。なら従うしかないのだ。あの時のように理性のない怪物ではない、最もそれが何よりの弱点ではあるのだが。
『君はただ暴れてくれるだけでいいんだ。そうすればギリシャ中の勇士が集まり君を討伐しようとするだろうからね。勿論、殺しつくしてもかまわない。まあ、こちらとしては君が死んでくれた方がありがたいんだけどね』
怪物は答える
「...分かった。けど、この村...彼女には手を出すな」
アポロンはにっこりと笑って
『もちろんさ!いや―君に理性があって本当に助かるよ』
怪物はもう用がないと背を向け家へと戻る。その姿を見送りながら、アポロンは笑った
『―――君がどんな最期を遂げるのか、せいぜい楽しませてもらうよ』
次回こそ
「カリュドーンの怪物」
頑張りたいと思います
fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?
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