やり投げの名手。彼が投げた槍は流星のごとく飛んでいき必ず獲物に突き刺さる。カリュドーン国の王子であり薪の英雄と称される。理由については彼が産まれたときに女神から祝福され、そして予言された呪いによるものである。「この一本の薪が燃え尽きるときこの赤子は死ぬ」それを聞いた彼の母親は薪の火を消し大事に保管した。
それ故彼は―――
〜ジュゴス山〜
この山は深い森で囲まれており狩りには絶好のスポットともいえる。しかし今日は状況が違った。森の入り口には次々に人が集まってくる。その表情は決意に満ちており、まるで死を覚悟した戦士の様。それもそのはず、彼らは命を捨てる覚悟でこの場に集まった。無論誰一人自分が死ぬなどと考えている者はいないのだが。
「皆の者よくぞ集まってくれた!!」
メレアグロスが演説を始める。群衆は皆彼の方に視線を向けやっと始まるかといわんばかりの盛り上がりを見せる。
「此処に集いしは一騎当千の英雄たちだ。みんな俺の国のために集まってくれて本当にありがとう!!」
当然だ自分たちがやらなくて誰がやるのだと、誰もが自信に満ちた顔でその演説を聞く。アタランテもその中の一人である。
「今回我々が対峙するのはアルテミス神が遣わしたカリュドーンの怪物である!!...心してかかって欲しい」
ウオオオオオ!と雄叫びが上がる。遠く離れた国々から自分の名を上げるため、メレアグロスの気概に惚れたから、理由は様々だが怪物を討伐するという点では英雄たちは一丸となった。
「今回の最大の功労者には怪物の毛皮、牙、諸々を与える!それを身につければ自身の武勇を広めることができるであろうよ」
そうして盛り上がったのち、メレアグロスは作戦を告げる。
「この森をしばらく歩くと円状に開けた空間があり、そこにあの怪物はいるはずだ。それを囲むようにして近接武器を使うものは一旦待機。準備ができ次第弓を使う者が一斉に矢を放つ。それが止み次第待機しているものも一斉に突撃してくれ」
”あの怪物には武器の類が効かなかったと聞いたぞ”と誰かがヤジを飛ばす。カリュドーン国の戦士たちが挑んだ際、幾ら剣で切りつけ、斧で叩き切り、数千の矢で撃ち抜こうとも無駄足に終わったという噂が広がっており、まさか武器の類は通じないのでは?という意見がちらほらと上がる。しかしながら怪物の身体に傷をつけることは確かにできたのだ。だが何度致命傷を与えようともその傷はすぐさま修復されたという。
「それについては問題ない。ある人物から怪物に対して最も有効だといえる”毒”を用意していただいた!!この毒を怪物に撃ち込めば必ずや討伐の道が開ける!!そしてこの毒を撃ち込める弓手が必要だ。その役目を―――アタランテ、お前に任せたい」
群衆の視線が一斉にそそがれる。だがアタランテが動揺することはない。むしろ自分こそがふさわしいといわんばかりの気概である。
「俺たちはアタランテが毒を撃ち込むまでの囮だ。攻撃を適度に加えながら時間稼ぎをする、しかしそれは毒が撃ち込まれるまでの辛抱!撃ち込まれ次第、各々全力で攻撃!以上がこの作戦の概要だ、異論はあるか?」
周りを見渡し異論者を探す。特にいないと思われ作戦開始を告げようとしたが
「―――ちょっと待て。お前ら本当にそんな女に任すってのかよ?」
一人の男が前に出た
「冗談じゃないぜ、女に俺たちの命を預けるってことだろ、他の奴に変えたほうがいいんじゃねえのか?」
そう声を上げたのはアンカイオス。彼は女であるアタランテと狩りをするのが不服だと唱えた。
「それによーアタランテといやアルゴー船の奴だろ?知ってるか船長のイアソン。王になるとかほざいていたくせして今じゃあ惨めな生活を送っているらしいぜ」
この場にはかつてのアルゴー船の船員も多数いるというのに。よほど自分の腕に自信があるのだろうか。周りの視線を気にせず喋り続ける。
「所詮口だけ、あいつ自身何も力も持ってない奴だったのさ、そんな奴の仲間だったお前らも口だけなんじゃ...っ!!」
後ろから発せられた怒気に気が付いたアンカイオス。空気が凍る、このまま振り向けばその威圧だけでバラバラに肉体が砕けようかと思える。
この場には各地からの英雄たちが集まっていた。勿論、世界最高峰の英雄である彼も
「―――我が友の蔑みはよしてもらおうか」
大男が静かに口を開いた。
「それにお前の言うことが事実であれば、この私も口だけということだが」
神々しい肉体。全てを見通す目。その口から発せられるのは正しいことであると思ってしまう尊大さ。全てを持った男がそこにいた。
彼は理解した、言ってはならぬことを言ってしまったのだと。
「い、いや。その、あ、貴方がまさか、いるとは......クソッ」
アンカイオスは吐き捨てるようにその場を去っていった。
アタランテが大男に声をかける
「久しぶりだな―――ヘラクレス」
「...アタランテ」
数々の冒険を共に乗り越えた仲間との久しぶりの再会を彼女は喜ぶ。ただヘラクレスの方に喜びの表情は浮かばなかった。
「...アタランテ、お前はここk「おお!!ヘラクレス来ていたのであればひと声かけてくれればいいものを!!どうだ、我が妹ディアネイラは元気か?」
メレアグロスの妹、カリュドーン王女ディアネイラはヘラクレスの妻である。彼の英雄譚を聞いたオイネウス王が婚姻話を持ち掛け、ヘラクレス自身も彼女に惚れていたので結婚することとなった。
割り込むように話に入ってきたメレアグロス。どうやら喜びを隠しきれぬようで
「...すまなかったなメレアグロス。ああ、彼女は元気だとも。息子も生まれ今は家で留守を任せている」
難行を終えたヘラクレスは妻と共に穏やかな日々を過ごしていた。”あれ”に呼ばれるまでは。この場にいるのはメレアグロスを助けるためだけに来たというわけではない
「そうかそうか、やはりお前に妹を任せてよかった。幸せそうで何よりだ」
それを知らずとも満足そうに頷くメレアグロス。そうして幾らか会話を交わし、群衆の方へ再び向き直る。
「よし―――皆の者!!もはや異論はあるまい。このヘラクレスが我らにはついているのだ!もはや勝利は確実である!...だがなヘラクレス、ぎりぎりまで手を出さないでくれよ。お前が本気を出してしまえば、俺たちの出番などなくなってしまうのでな」
どっと湧く群衆。決戦前の緊張感を少しだけ緩めることとなったが皆一層闘志が高まり準備完了といったところか。
だが、ヘラクレスはどこか暗い。この歓声の中ただアタランテを悲しそうに見つめるのみである。
「どうしたのだ先ほどから......それと何か言いかけてはなかったか?」
アタランテはまだ気が付いていない。自分が何を殺そうとしているのか。ヘラクレスが何のためにここにいるのか
「...今のお前に何を言っても無駄だろう...後悔の無いようにな」
「...?」
彼女がそのことを理解するのはもう少し後である
◇◇◇
英雄一行は森を進み遂にそれを見つけた。報告では靄で覆われ正体が見えぬということであったがどうやら今日は事情が違うらしい。
「なんて禍々しい...」
例えるならそれは猪。とてつもなく大きな魔猪。それだけなら問題ない彼ら英雄はその程度見飽きているのだから。
しかし目の前の怪物は違った。身体は無数の触手に覆われており、その口から生える巨大な牙はドス黒く染まっている。数え切れぬほどの人間を食らったのであろう。その怪物はその場にただいるだけで周囲を恐怖に貶める、事実この森にいるはずの獣たちも一切姿を見せないほどに。
もう引き返すわけにはいかない、ここで逃げ出せば名が廃るというもの。
怪物の周りを囲み息をひそめる。弓兵は弓を引き合図を今か今かと待ちわびる。
「―――討伐開始!!」
メレアグロスの掛け声とともに矢が雨のように怪物に降り注がれる。しかし―――
「■■■■―――!!」
それが怪物に届くことはなかった。叫び声と共にその身体から伸びた触手がすべて叩き落したのだから。自らを害する者たちに気づいた怪物は蠢く触手を英雄たちに向けている。
一方、すべての矢を撃ち落とされる光景を目にした英雄たちは特に落胆する様子はなかった。この程度で倒されるのであれば自分たちの存在など必要ないのだから。さあ、次は自分たちの出番だと剣、斧、槍など武器を持つものは吠える。凄まじい威圧感、かつてないほどの試練に英雄たちは感謝した。
「よし!俺たちも行く。いいか、ただ生き残ることを考えろ!!アタランテが矢を射るまで囮に徹するんだ!!」
こちらに向かってくる触手を槍で受け流しながらメレアグロスは叫んだ。勇ましい英雄たちは物怖じせず怪物に向かっていく。
「......」
その光景をヘラクレスはただ静かに見守っていた。
◇
「ちっ――マジで効いてねえじゃねえか」
槍使いのカイネウスが切りつけながら愚痴をこぼす。触手を躱しながら一撃離脱で攻撃を加えているが今だ怪物に傷を与えることができずにいた。
「口より手を動かしなさいカイネウス。死にたいのですか?」
「全くだ、ポルクスを見習うがいい」
それを嗜めるはディオスクロイ兄妹。迫る触手を華麗にかわし、見事なコンビネーションで怪物に向かっていく。それに続きあらゆる英雄が時間稼ぎのために各々防ぎながら攻撃を行っている。
「へっ、イアソンの野郎がいたらどうしてただろうな。勇ましく...いやそりゃないか。あいつのことだうるさく逃げ回ってんだろうな。まったくアイツがいてくりゃもう少し愉快な戦いになったんだが、な!!」
槍を振り回しながら嘆くカイネウス。アルゴー船の面々には
"おいお前たち!!私を守r――ひぃぃぃぃぃぃぃ"
逃げ惑うイアソンの姿が浮かぶ。
「...居ない者を求めてもしょうがなかろう。我らはただその時を待つのみ」
しかし怪物の攻撃は凄まじいもので次第に英雄たちは押され始める。幾ら傷つけてもすぐさま癒えるその身体、隙をついて矢を射ようとも触手ではじかれる。これではアタランテが矢を射ても無駄足で終わるというもの。次第に周りの士気も下がり始める。
だが、その状況でも男は自らの渾身の一撃を加えようと槍を構える。カリュドーン王子メレアグロス、槍投げの名手であり薪の英雄と称される者。狙うはただ一つカリュドーンの怪物。
「ぐぐぐぐぐっ――止めてやったぞメレアグロス!やれぇぇぇぇ!!」
怪物の突進を受け止めた男が叫ぶ。メレアグロスはその瞬間を待っていた。
大きく振りかぶった腕には何の変哲もないただの槍。しかし、彼には槍投げの名手として逸話が残されている。曰く、この男が投げればその槍は相手を貫くために流星のごとく飛んでいくという。
薪の英雄は上体を反らし――
怒号と共に、その槍を怪物に放った。
「■■■■■■■■■!!」
己を穿たんとする槍が迫る。全力でこれを防ごうと身にまとった触手で迎撃する
が、
「―――......■■■■!?」
星が落ちる速度で放たれた槍に敵うはずもなく触手は全て砕かれていく。それでもなお槍を止めようとするが
「――――獲った!!」
受け止めることはなく、その横腹に槍が突き刺さることとなった。
「■■■■■■■■!!!!!!」
予想外の一撃に悶える。この槍を放った者を最大の脅威と決め周りを見渡す。
その時、一瞬たった一瞬ではあるが怪物の意識が全てメレアグロスの方へ向かった。
――――その隙を”彼女”が見逃すはずがない
遠く離れた場所から神速のごとく放たれた矢が深々と怪物の耳の後ろに突き刺さった。
◇◇◇
英雄たちが戦うその様子を少し離れた場所からアタランテは見下ろしていた。そばには顔を布で隠した男がいる。
『さてと僕らも用意を始めようか。もたもたしてると彼らが可哀そうだからね』
そうやってケラケラと笑う男。アタランテはその態度が癪に障ったものの今はあの怪物を殺すことだけを考える。
「しかし、あれに効く毒などあるのか?」
『あるとも、これさ』
小瓶に詰められたものを見せられる。それは思わず顔をそむけてしまうほど禍々しい醜気を放つ液体。
「っ...それは、いったい」
小瓶を振りながら男は答える。
「ヘラクレス君が行った12の難業は知っているね。その中の二番目の試練で倒された九つの頭を持つ蛇―――ヒュドラの毒さ』
その毒はあらゆる生き物を蝕み即座に死に至らしめる。その毒を塗られた矢で射られたケイローンはあまりの苦痛にその身に宿る不死性を捨て去るほどだったという。
『この毒は不死を持つ者に対して天敵のようなものでね、疑似的な不死性を持つ彼にはこれ以上ないものさ』
そうして小瓶を投げ渡す。それを受け取ったアタランテは自らの矢に毒を塗り込む。触れてしまえば簡単に死に至るその毒を全く臆することなく使うことを選んだ。
アタランテにはカリュドーンの怪物の姿は見えていない。話に聞いた通りまるで靄に包まれているようにその姿は分からない。それを疑問に思うことはなかったーーーそういうものだと認識するように魔術をかけられたのだから
「我が槍、その身で受けてみよ――――!!!!」
メレアグロスの放った槍が怪物に突き刺さったのだろう。それの意識が一瞬逸れた
その時をアタランテは待っていた。弓を振り絞り狙いを定め、矢を放つ
「ふっ――――!!」
神速の速さで撃たれたその矢は怪物の耳の後ろに命中。これによってアタランテは役割を果たしたのである
『いやー見事見事!少し誤認させただけで本当にやってしまうとはね』
男は拍手でその行動を褒めたたえる。
『――――自ら夫を撃ちぬくなんて、ね』
静寂が訪れる。アタランテは目の前の男が何を言っているのか分からない様子。
「――はっ?汝はなにを言って...」
夫?なにが、誰が?何処に、メラニオスーー?
パチンと男が指を鳴らす。
『君の役割はもう済んだ。そろそろこれも必要ないだろう』
魔術がすべて解かれる。それによって忘却させられていたことが次々に頭にうかんでくる。
―――やはり、彼が”黒き怪物”だったのだ。
「神様、神さ...おっごお」
「なんで!コイツ弱ってるんじゃなかったのかよお!」
「殺せ!殺せ!早く!」
血に塗れる大地、その中心で
ーーーーあはははははははははははははははははははははははは
あの怪物は、カリュドーンの怪物は―――
「...そんなそんな、嘘だ。違う、だって、そんな」
怪物の方へ目を向ける。どうか違いますようにと祈りながら、自分がしたことを受け入れたくないがために。
そして目にしたのは
毒に苦しみ悶え魔猪の姿も保てなくなった夫―――メラニオスだった。
「あ...ああ、嫌、噓だ嘘だ嘘だ噓だ噓だ...嘘だ!!」
嘘ではない、私がやったのだ。彼を、メラニオスをまた撃ちぬいた。神の神託などという言葉に惑わされ信じて待つという約束すら果たせず、何ら疑問を持つことなどなくその弓で
「黙れぇぇぇぇ!!」
なぜ気づけなかった、どう考えても疑問を持つべきだった。今更後悔しても遅く、ただ嘆きが周囲に響き渡るのみ
「うぅ...あぁ...あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
アタランテは知らない。己が信仰する神の兄妹神であるアポロンに認識誤認の魔術をかけられていたこと。己は”黒き怪物”を確実に排除するための歯車に過ぎなかったことを。
頭を抱え泣き叫ぶアタランテに男は話しかける
『はあ~アルテミスの時もそうだったが、女性を騙すのは心が痛むなあ...ほらいいのかい?このままじゃあ彼、殺されちゃうよ』
そうだ...まだ間に合う。アタランテは懐にある黄金林檎を握りしめた。
「ああ、これ、これならばきっと――!」
”お守り代わりと言っちゃあなんだけど。怪我した時や病気になった時に使うといいよ”
彼の言葉が正しいなら、ヒュドラの毒であろうと治せるかもしれない。事実、アタランテの持つ黄金林檎はあらゆる病、致命傷すらも治せるほどの代物だった。
こうしてる合間にも英雄たちの攻撃ははじまっている。時間はないとすぐさま走り出したが、動揺からか、それとも焦りからか、かつて最速の狩人と言われたその走りはなくアタランテがメラニオスのところへたどり着くのは遅れることとなる
その場に一人残された神は呟く
『―――まあ”彼”がいる以上結末は決まってる。そのために呼んだんだから』
◇◇◇
「■■■■――か゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
毒矢を撃ち込まれた怪物はあまりの苦しさにのたうち回っていた。もはや魔猪の姿を維持することも敵わず所々ドロドロと溶け始めている。これが普通の魔獣の類であれば、手を出す間もなく討伐ができたことだろう。
誰もが勝利を確信し、互いの健闘をたたえていた。我々の勝利である、と
しかし、ある男は”このままでは怪物討伐の功績は全てアタランテのものになってしまう”と考えた。自分は名を上げるために参加したのにこれでは得るものは何もない。そうして男は走り出した。
「お、おいアンカイオス!不用意に近づくと...」
「うるせえ!(あんな女に負けてたまるかよ!!)」
自慢の斧を振り上げながら怪物に向かい走り出したアンカイオス。怪物はその場にうずくまり苦しそうに唸っている。獲った!!そう確信し斧を振り下ろした―――
「へっ―――」
と、同時に全身に痛みが走る。一瞬何が起こったか分からなかった。自分は確かに斧を振り下ろしたはず、そのはずだが。
「うおおおおおおお!?離せ!離しやがれ!!あがあああああああああ―――」
男の身体は怪物の巨大な口の中にあった。鋭い牙に咥えられており怪物が少しでも力を籠めれば断ち切られるだろう。だが...
「ひっ!?――痛、イダイ!!おねが、やめ、やめで、あ゛あ゛あ゛あ!!」
怪物はすぐに殺そうとするのではなく、咥えたまま男をぶんぶんと振り回し始める。そのたびに骨が砕かれる音と泣き叫ぶ声が鳴り響く。必死に助けを懇願すアンカイオス、だが誰も動くことはできなかった。
それを何度か繰り返すうちにアンカイオスはぐったりとして動かなくなってしまう。怪物はその後もしばらく振り回してたもののやがて興味をなくしたのか、その死体を一口で平らげてしまった。
英雄たちはその場に立ち尽くすことしかできなかったのである。
ヒュドラの毒は確かに怪物に対して効果はてきめんだった。事実、その身体は溶け治癒能力も身体の修復の方にまわしているため普通であればもはや動くのも不可能のはず。
もし誤算があったとするならば――既にこの怪物は一万年以上前に同等以上の苦しみを味わっていたことであろうか。この程度の苦しみでは彼は死にきれないのだ。
「■■■■■■■■!!」
再び触手をまとい英雄と相対する怪物。誰もが自分たちの勝利を疑わなかった、しかしどうだろうこの怪物は猛毒を射されてもまだ死なない。諦めよう、撤退だと叫ぼうと考えたとき
「ーーー何を立ち止まっている。見よあの怪物を、すでに身体は溶けだしており、口から血を零している!!まさに今が好機!!」
そう鼓舞するはこの男メレアグロス。槍を抱え果敢に怪物に突っ込んでいく。
「ッ...俺たちも続くぞ!!ここであの怪物を倒す!!」
「「おおおおおお!!」」
それに続いて彼らも走り出す。勿論無策などではない、自身が持つ肉体の極致それをいかんなく発揮させながら怪物に挑むのだ。迫りくる怪物の魔の手、それを振り払いながら攻撃を繰り返す。
「がっ――――」
一人また一人と貫かれ、押しつぶされていく。それでもなお英雄たちは止まらない。
「合わせろ!ポルクス!」
「はい!兄様!!」
双子のコンビネーション攻撃により正面の触手が切り裂かれた。と同時に怪物が突進をしてくる
「オラァ!!」
それをカイネウスが槍で無理矢理受け止める。だが完全には抑え込めず、身体が後ろに仰け反りながらも必死に耐えている。
「よくやったカイネウス!!あとは俺が――――」
怪物の首筋にメレアグロスが槍を突き刺す。鮮血が宙を舞う。
「ぐっ――――」
槍は怪物の首に深々と突き刺さっている。それでも怪物は止まることはなかった。押しとどめていたカイネウスを吹き飛ばし、触手でメレアグロスの心臓を貫いたのである。
「◼️◼️◼️!...◼️◼️◼️!?」
だが、メレアグロスが死ぬことはなかった。むしろ突き刺さっていた槍で怪物の首を捻じ切らんと力を込めた
「はあああああ!!」
怪物は疑問に思ったことだろう。
"心臓を貫いたはず、何故この男は死なない!?"
自分の首を槍で捩じ切ろうとしている男に対して恐怖を抱いたに違いない。
カリュドーン国の王子であり薪の英雄と称されるメレアグロス。その由来については彼が産まれたときに女神から祝福され、そして予言された呪いによるものである。「この一本の薪が燃え尽きるときこの赤子は死ぬ」それを聞いた彼の母親は薪の火を消し大事に保管した。
それ故彼は―――
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!」
「カリュドーンの怪物よ...覚悟!!」
―――不死身の英雄である
怪物の首が斬られる。巨大な頭が地面に落ち、その巨体は崩れ落ちた。しかしメレアグロスは侮らない。怪物がこの程度で死ぬはずがないのだ。再び槍を握り振り下ろす。
「あ――――」
もはや限界だった。首は落とされ、毒も回り身体を変化させることができなくなった。槍が振り落とされる瞬間、人間の身体に戻ってしまう。メレアグロスと目が合った。
英雄と怪物、言葉は交わされることなく槍は怪物の心臓に突き刺さった。
◇◇◇
アタランテがたどり着いたとき目にしたのは心臓に槍が刺さったメラニオスの姿だった。
「メレアグロスもうやめてくれ!!」
すぐさま駆け寄る。既にメラニオスの意識はなく、アタランテに寄りかかるように倒れ込んだ。メレアグロスは少し驚いたようだが、アタランテの様子から察したのだろう。
「そうか、貴殿がメラニオスか」
周りの英雄達は"とどめを刺すべきだ"と野次を飛ばす。メレアグロスの手にはなおも槍が握られている。
「頼む...彼は、メラニオスは私の「ーーー何人も死んだ、民も、戦士も。俺はその怪物を殺さなくてはならん」
血を吐き、今にも倒れそうな身体を支えながら冷徹に告げる。
「っ...それでも命だけは...私が出来ることならなんでもする、だから...」
それにもかかわらずアタランテは懇願し続ける。愛する者を救うため、たとえそれが怪物だとしても。己が髪に背くとしても。
「なにしてやがる!とどめを刺せ!」
「アタランテ、テメェ邪魔してんじゃねえ。お前ごとやってもいいんだぞ!」
もはや我慢の限界だと、次々と英雄達から不満があがる。それをメレアグロスは手で制し、小さな声でアタランテに告げた
「アタランテ、逃げる用意をしておけ」
「えっーーー」
地面に転がっていた怪物の頭を持ち上げ宣言する
「聞け!―――カリュドーンの怪物はこのメレアグロスが討ち取った!!よって今回の最大の功労者であるアタランテに褒美を与える!」
メレアグロスはアタランテと向かい合い
「ほら、約束通りの毛皮だ。その男もついでに貰っていけ」
切り取った毛皮、そしてメラニオスに目を向けながら差し出した。一度も話すことはなく、殺し合うだけの関係。それでもアタランテのことを想っていたのは同じであった。
「メレアグロス!...すまない恩に着る」
毛皮を受け取り、肩にメラニオスを担ぎアタランテはすぐさま森へと駆けて行く。
だが、英雄達が黙っていない。不満、怒り、それをメレアグロスにぶつける。
「メレアグロス、貴様どういうつもりだ!」
「どういう?はて、なんのことやら」
「なぜあれを殺さなかった!これでは死んでいった者達の無念が報われぬではないか!」
「...惚れた女の願いだ。叶えてやりたいのが男というもの...なんだ?不満があるのならば武器を構えろ、存分に受け止めてやる」
「き、貴様ーーー!」
そうして不満を持った英雄達とメレアグロスの戦いが始まった。これが原因で後に彼は命を落とすことになるのだが、それはまた別の物語である。
「たくっ、何だってんだ。なあ、ヘラクレス。お前も見てるだけじゃなく何とか...―――ヘラクレス?どこ行ったんだ?」
◇
「メラニオス!おい、メラニオス!頼む目を、目を開けてくれ...」
浅い呼吸を続けるメラニオス。毒が完全に回り心臓は貫かれ既に虫の息。まだ命を落としてないのは彼が怪物たる所以だろう。
「林檎、この林檎を食べてくれ!汝が言っていただろう、あらゆる傷を癒すと。さあ、食べろ!」
黄金の林檎を口元へ差し出すが、当然口を開けられるはずもない。
「...なら!」
林檎を齧り、直接メラニオスの口へと運ぶ。苦しそうに唸っているが今は時間がない。無理矢理でも口をこじ開け、口移しをした。
「むぐっ...ゴクッ」
林檎を飲み込んだとたん身体が光りだし、みるみるうちに傷が癒されていく。身体を蝕んでいたヒュドラの毒さえも消え去りメラニオスは目を覚ました。
「アタ、ランテ?...アタランテ!なんで、なんでここに...」
彼女を守るために怪物として人間を蹂躙したのだ。怒りがこみあげてくるのがわかる。あの神は結局のところ最初から約束を守る気などハナからなかったのだ。
今からでも喰らいに行ってやると立ち上がろうとするとアタランテに引き留められる。
「すまない...私は、汝を信じて待つことができなかった。アルテミス様の信奉者としての自分しか見えていなかった。汝に矢を、毒を撃ち込むなど...本当に、本当に――」
涙ながらに話すアタランテ。
...そんな顔を見たくない、君には笑っていてほしいから。僕がいなくても、子供たちと一緒に
「ごめんね、ごめんね。ああ、どうか泣かないで。大丈夫だから、帰ろう。ね?」
まだ、完全には回復しきっておらず少しふらついてしまう。血が止まらない、このままじゃ貧血になるかもしれない。林檎をひと齧りし歩き出す。勿論二人で一緒に。
「子供たちが待ってるんでしょ?...約束したんだ、帰るって」
もう間もなく日が暮れる。二人は共に歩き出し、再び安らかな日々を送ることができる。争いとは無縁の生活。きっとそれは幸せな―――
「―――それは無理な話だ」
大男が立ちはだかる
「黒き怪物よ、私は神々の命により―――お前を殺す」
ギリシャ最大の英雄が、十三番目の試練のため二人の前に現れた。
もしも、第五次聖杯戦争に彼が召喚されていたら...
「召喚に応じ参上しました。クラスは...キャスター
「そうだ!この僕こそがお前のマスターだ!」
「貴様は一体...」
「■、■■、■卿、何故あなたが」
「おのれえええキャスタアアー」
「お願いキャスター。先輩を守って」
「姉さんに勝った私のキャスターが姉さんのアーチャーに勝った姉さんに勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った」
「そいつだけはこの戦争で勝たせてはだめなのよ」
「―ーー裁定者として貴様を排除する」
「キャスター単騎で乗り込んでくるなど愚かな」
くうくうおなかがすきました
「(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)」
「今回も結果だけを見せられるとはな」
「貴方に奇跡を見せてあげる」
「ーーー悪いけど知らないし興味もないわ」
「助けて私の―――キャスター!!」
「私はただ、頑張ったねって、ただ褒めてほしかったの。それだけだったの」
「桜、そんなやつとは縁を切れ!!」
「貴方は、所詮その愛の力に破れるのです」
―――君が僕のマスターかい?」
てな感じでやりたいと思う今日この頃。
アタランテ編は次回で完結出来たら...ギリシャは不死身系英雄多すぎてちょっと引いた。自分の文章力の無さよ、戦闘描写が難しすぎる。
fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?
-
イチャイチャ
-
つよつよ奥様
-
しっとり/依存
-
無関心/やり直し