それは少女たちと出会う前の旅の途中のお話。
「むぅ...遅いな」
天幕の中でなにやら不機嫌そうなアタランテ。どうやら果実を売るために出かけたメラニオスが中々帰ってこないので暇を持て余しているようだ。
「...迎えに行ってやるか」
幸いにもすぐに彼を見つけることができたが...
「まったく...何をやってい―――」
声をかけようとして思いとどまった。
その目線の先では別の女性に話しかけられているメラニオスの姿が。どうやら果物の話題でたいそう盛り上がってるそうで...
「えー!お兄さん凄い詳しいですね!!」
「そんなことないよ。友人から教えてもらっただけだし...」
「またまた~謙遜しちゃってえ...どうです?良かったら私の家でもっとお話とか...?」
「いや、それは流石に「おい...何をしている」あっ、アタランテ。ごめん待たせちゃったか」
突然後ろから声をかけられたので女性は驚いたようだがそんなことはどうでもいい。当のメラニオスは呑気に手を振ってくる...なぜだか胸の中でモヤモヤしたものが溢れてきた。
女性をぎろりと睨めつけながら彼を引っ張る。
「...帰るぞ」
「え、ちょっ――――いたたた!首!首が絞まってる!」
ズルズルと首根っこを掴まれ引きずられるメラニオス。必死にアタランテに訴えるも彼女は何も答えず無視するばかり、これは抵抗は無駄だと考え大人しく寝床まで引きずられることにした。その様を道行く人々にみられるのが何とも恥ずかしいことやら。
「えっと...なにかあったの?」
着いたところでメラニオスは開口一番そんなことを聞いてきた。
「...先ほどの女は誰だ」
「え」
「誰だと聞いている!」
「ぼ、僕が持って行った果実を買ってくれた人...それだけだよ」
「...ほお、それだけと言う割には随分と盛り上がっていたではないか」
怒り心頭のアタランテ。このような彼女を目にするのは初めてのためメラニオスはタジタジになってしまう。
「その...果物を美味しいって言ってくれて...つい話題が...盛り上がって...」
「それで私をほったらかしにしたと」
「......ごめん」
しゅんっと小さくなるメラニオス。彼女の機嫌は治らず、この雰囲気が気まずすぎて逃げ出したいという欲求に駆られている。
「...できる」
「え?」
「私にも汝とそのぐらいの話ならできるのに...」
涙を浮かべ、ぼそっと言葉を零す。
「嫌だった、汝が他の女と話しているのが...心配だった」
「...うん」
「今までだって我慢してたのに...」
「我慢?」
「そうだ...それなのに汝は誰にでも笑顔を振りまく。だから今日みたいなことになるのだ」
”そんなことないと思うけど”と苦笑いをしながら両手を広げるメラニオス。大人しくその胸に身体を預ける。
「私が汝の妻なのに...他の女と仲良くするのは...ダメだ」
ぐりぐりと頭を押し付ける。彼は優しく頭を撫でてくれた...ふふっ、くすぐったい。
「ずっと...ずっと、私だけを見ていてほしい」
「うん」
「本当に汝のことを...その...ゴニョゴニョ」
面と向かって言うのはやはり恥ずかしい。でも本当に貴方のことを私は――――
「ん...ふふっ、そんなに抱きしめられると苦しいぞ」
黙って抱きしめてくるメラニオス。それが何とも心地いいもので顔がとろけてしまう。
「好きだ」
「...もっと」
「君が好きだアタランテ」
「もう一回」
「...大好き」
「うん...私も」
より一層強く抱きしめる。この空間には二人だけの時間が過ぎていく。
「でも...私を不安にさせるところは嫌いだ」
「あははっ...うん、気を付けるよ」
いつまでもこの時間が続けばいいのにと思うアタランテであった。
「ずっと、ずっとそばにいてくれ―――メラニオス」
あげ忘れていたものを供養する感じになってしまった。
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