【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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神喰い 「原初の罪」

大地が燃えている

世界が燃えていく

文明は踏み潰され、あらゆる生物は隷属さえ許されない

ある者は嘆いた

ある者は戦うことを決意した

ある者は諦めた

どのようなことを想おうが結末は変わらない

 

 ◇◇◇

 

 

 紀元前1万4000年、世界は白き巨人セファールにより滅ぼされようとしていた。

 

 あらゆる生物が立ち向かい、そして死んでいった。それは神すらも例外ではない。当時の地球を統べる存在であった神々の殆どが巨人に抗ったが、悉く敗北を繰り返していく。

 

 命乞いをして辛うじて破壊を逃れたメソポタミアの神々とほんの一部の生き残り以外は全て殲滅された。

 

 生き残りをかけた最後の攻撃が数刻前に行われたが、結果は惨敗。殿を務めた戦神はすでに破壊されており、残るのは後のギリシャ神話の最高神となる”ゼウス”を含むオリンポスの機神のみであった

 

「”よもやこれほどとはな...”」

 

 諦めにも聞こえる言葉を吐きながら、ゼウスは巨人を見つめる。

 

 最も力のあった戦神アレスは破壊され、残った全機神の力を結集しても敵うすべもなく只々そこに立ち尽くすのみであった。

 

 巨人はまもなく追いついてくるだろう。もはや逃げても無駄だと悟り、残った全機神に告げる

 

「"もはやここまでである。だが、最後まで我々は抗う!あの忌まわしい巨人にひと泡吹かせてやろうではないか!"」

 

 無駄だと分かっていても、機神には機神なりのプライドがある。残った力を全て注ぎ、最後の一撃を放とうとした次の瞬間―――

 

 "Gaaaaaーーー!"

 

待ってましたと言わんばかりの怪物の大きな口が巨人の脇腹を抉り取った。

 

 その怪物はずっと待っていた、岩に化けていた自らの近くに白き巨人が来ることを。

 

 怪物は”どんなものにも変化できる”能力を持っていたものの、所詮本体はただの人間。幾ら化けようがハリボテに過ぎない。そこで目を付けたのが白き巨人である。

 

 巨人は自ら破壊した生命、建造物、概念を霊子情報として吸収し、巨大化していく能力を有していた。

 

 ならば、その力を奪い取る、それが怪物の考えだった。正面から戦うのは分が悪い、ならば不意打ちあるのみである。力の一端でも奪えれば上々、結果それはうまくいった、うまくいってしまった。 

 

 巨人は予想外のダメージを受けたのか驚いた表情で怪物を見ている。自らの体を食らう怪物を見て何を感じたのだろうか。ふらふらと立ち上がり、逃げるようにその場から離脱していった。

 

「”ひっ...”」

 

 それはだれから漏れた声であっただろうか。

 

 白き巨人は撃退された。

 

 だが誰一人歓声を上げることはない、状況は変わらない、むしろ悪化した。

 

 黒き怪物は巨人の力を取り込み、64、128、256mとその構造を巨大化させていく。

 

 それが1,000mを超えたあたりであろうか、ようやくこちらに気づいたらしい。

 

 ニタニタと気味の悪い顔を浮かべながら近づいてくる。

 

 ある神は錯乱し、ある神は自ら機能を停止した。ゼウスは無駄だと悟りながらも最後まで立ち向かった。決着は一瞬で着いた。結果は語るまでもない。

 

 ◇◇◇

 

 

 破壊した機神たちをむさぼりながら怪物は情報を整理していく。

 

 巨人から奪った情報の中には人間であったり獣であったり様々なものがある。

 

 怪物は理性を欲した。

 

 あらゆる”悪役”の情報を押し込まれたもののそれは理性のないものであったり、ただただ破壊衝動のみのものであったり、あるいは理知的であったり、怪物は存在するだけで矛盾を抱えていた。

 

 よほど適当に積み込まれたのであろう、無駄な情報が多すぎる。機神や巨人の一部を取り込むことで人間と獣の中間程度の理性は獲得した。

 

 だが足りない、巨人の一部しか奪えなかったせいか物足りなさがある。

 

 追いかけて今度こそ全て食らいつくそうかニタニタと考えていると、

 

 ―――そこに一人の人間が現れた

 

 小高い丘からこちらを見上げている。

 

 怪物は人間ごときに何ができると嘲笑うが、ふと人間が持つ”剣”が目に入った。

 

 瞬間、即座に攻撃態勢に移る。理性で判断するよりも早く本望が訴える。”あれはマズイ”と。

 

 その剣はただの剣にあらず、星の祈りを集めた聖剣、異星からの侵略者を撃ち滅ぼさんとする物。

 

 怪物は巨人の力の一端を奪ったことにより”異星からの侵略者”の特性を有していた。

 

 故にこの結末は最初から決まっていたのである。

 

 怪物は人間に向けてその力を振るおうとするものの、数秒遅かった。

 

 振り下ろされた聖剣から放たれた眩い光は黒き怪物を包み込む。

 

 天まで届くその光はあたり一面を照らし、その光景を見たものは例え神であろうと見惚れるほどであったという。

 

 怪物の姿は消え去りそこには黒く光る塵が残るのみであった。

 

 かくして”悪”は打倒され、一人の名もなき英雄が誕生した。神の時代は終わり、これからは人の時代が始まるのである。

 

 ◇◇◇

 

 

 戦いが終わり、黒い塵が残された大地。時間をかけ少しずつだが小さな塵が集まり、一つの形を成していく。

 

 形成されたそれは一人の人間であった。

 

 怪物は聖剣により打倒される瞬間自らの身体を塵に変化させた、大半は消し飛ばされたものの人型を構成するうえでは問題ない。

 

 "やはり大きすぎる巨体は不必要だ”と考えながら歩きだす。ただ与えられた役割を果たすために。

 

 ただ変化があったとするなら”人間”というものに興味が湧いたことであろう。とりあえず人がいるところに行こうと考え、あてもなく彷徨うのであった。

 

 

 




 人の形に戻った彼ですが、もともと人であったことなど忘れています。ただそのほうが都合がいいと思ったにすぎません。
 次回は泥人形と出会う物語か、狩人に見惚れる話。どちらかを考えています。

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