~アーサー王の栄光~
卑王ヴォーティガーンを倒したことにより、アーサー王は王都を奪還し、王妃を迎えた。
しかしながら作物の凶作は続いた。卑王を倒してしばらくは大人しくなっていた異民族も遠く離れた帝国からの援助もあり再び力をつけ始めている。
もはや軍を維持することもままならず、この国は限界を超えていた。それでもなおこの国を守らねばならないアーサー王は、小さな村を干上がらせ、わずかに得た資源で軍備を整える。それが焼け石に水だと分かっていながら。
そのような非道な行為に多くの騎士は反対した。皆はそうでもしなければ国が維持できないことは百も承知であった。そう、理解しているとしても受け入れがたいことであった。
無論、村人の命は保証し別の移住先も用意してある。だがこの村の出身者にとっては生まれ故郷を奪われるに等しく、誰もが嘆いた。
当然、騎士たちや村の住人達から反感を買い、それによって手に入れた軍備で敵を殺すのだから、敵からも恨みを買う。
それでもアーサー王はかつて僕に宣言した通り、自分一人が辛いことになればこそ国は富むのだと信じて王は感情を殺して治世を続けた。
その思いは誰にも理解されることはなかった。王の行動は先代のウーサーよりも...卑王ヴォ―ティガ―ンよりも冷酷なものと民衆や兵、騎士たちの目に移ったことだろう。
「王は人の気持ちが分からない」
そう言って一人の騎士は去った。王の在り方は彼らの理想とかけ離れていたのだ。
...王は人の気持ちが分からなかった、では騎士や民は何か一つでも彼女のことを理解しようと歩み寄ったのであろうか?
僕は今でも考える。彼らは王を”理想の王”としての側面しか見ていなかった。そりゃそうだ、あの子は普通の女の子に過ぎなかったのに、と。
それでも王は戦いを続け、ついに異民族達との最終決戦。数と勢いに勝るアーサー王の勝利。圧倒的な戦果の前に異民族は屈し誓いをたてた。
『アーサー王あるかぎり、我らはブリテンの地に踏み入らない』
異民族との戦いはひとまず終わりを告げ、そうして、内なる敵に滅ぼされようとしていた。
ランスロット卿と王妃ギネヴィアの不義の恋。魔女と魔女の騎士による策略を契機にブリテンは崩壊してゆく。
~ランスロットとギネヴィア~
王妃ギネヴィア、彼女と王の関係は極めて良好。彼女はアーサーを愛していた...そう、初めはそうでした。アーサーに恋をし、慕い続け、そして結ばれた。
ですが...その恋はすぐに打ち砕かれました。初夜、その場において彼女が恋した王は...自分と同じ女性であることを知ったのです。十年の恋が実った、その日にそれが決して叶うことのないものであると思い知らされました。絶望へと叩き落とされた彼女は、しかし同時に王の境遇への同情を抱いたのだと花の魔術師は語りました。
女性として扱われることない王と自分の境遇を重ね、王の良き理解者として寄り添い絆を深めていきました。民衆には仲睦まじい夫婦に見えたことでしょう。
しかしながらこの状況を快く思わない者もいました。アーサー王の宿敵である妖妃モルガンの実の子であり、彼女がアーサー王を破滅させる為にキャメロットに送り込んだスパイと言われている”アグラヴェイン”彼は王と王妃の関係があまりよくないと考えました。
「貴方は王にふさわしくない。王が貴方との関係を不安がっているのがその証拠だ」
アグラヴェインは王妃に出くわすたびにそう告げ、次第に王妃は精神的に弱っていきました。勿論その小言を窘める騎士もいます。ギルベルト卿とランスロット卿です。
彼はモルガンの実子ということで、いつか裏切るかもしれないという決めつけと、眉一つも動かさずに騎士を死地に送り込む冷徹な采配を行う人柄からか、円卓内においての嫌われ者でした。
そんな中でもギルベルト卿とは気楽に話す仲だったと言われています。表情は相変わらず硬いままでしたが、卿と会話しているときだけは肩の力が抜けているようだったそうです。
『君が王のことを気にかけているのは理解できるが、少々強引すぎる。もう少し見守ってあげるのもいいと思うけどね......それよりも最近眠れてるかい?随分と隈が深いようだけど』
諸々の事情を知るギルベルト卿はやんわりと注意しているに過ぎませんでしたが、ランスロット卿はそうはいきません。明確な怒気を持って詰め寄りました。
「卿はなにゆえ王妃を愚弄する⁉︎知らないのか、王妃が王に寄り添いその負担を減らすべく尽力しておられることを!」
「...だからこそだ。今の王にはあの女は必要ない」
「っ―――」
二人が王の絶対的な忠臣ということには違いはありません。価値観の違いから相互理解することなど無理な話でした。
なので...私たちはそれを利用することにしたのです。
◇
月明りもない暗い夜の日。ランスロット卿はいつも通りに自室へと戻ろうとしていた。そこであることに気が付いた、自分の部屋の前で誰かが立ち止まっている。はて?客人などいたものかと考えていると...それはこちらに顔を向けた。
「―――王妃!?何故このようなところに!」
ああ、見間違うはずもない。この女性は王の妃ギネヴィアその人だったのだ。いつもと違う真っ黒なドレスに身を包んでいる。
「一体どうしたのですk―――」ぼすっ
突然、王妃はランスロット卿の胸に飛び込んできた。腕が背中に回り強く抱きしめられる。
「お、王妃」
「...お願い。今はこうさせてください」
「......」
心なしか震えている王妃のことを拒めず、その震えを鎮めようとするように優しく抱きしめかえすのだった。
「アグラヴェインめに何か言われたのですか」
「いえわたしが...わたしが悪いのです。あの人、王の苦しみを私一人では負担することは出来なかったのです」
その気持ちはランスロット卿にとって痛いほどわかった。同時に目の前の女性を放っておけるほど腐ってはいなかったのだ。
王妃に跪いて誓うのです。
「あなた一人に背負わせるわけにはいきません。このランスロット、微力ながらお力添えさせていただきたい」
それは嘘偽りのない言葉でした。
「ああ、嬉しい、嬉しいわランスロット様。きっと貴方となら!」
王妃は涙目ながらにその手を取り、答えたのです。
◇
「あら?ランスロット様、こんな夜にどうされたのかしら?」
時を同じくして寝床にへと戻ろうとしていた王妃。扉の前に佇む騎士を見つけた。
「御機嫌よう王妃...風のうわさで少しばかりお疲れのようだと聞きましたので」
いつもと違う漆黒の鎧を纏う騎士は心底心配そうに王妃へ近寄る。
「いえ...わたしの事など王の苦悩に比べれば些細なものです。気にしないでください」
王の支えとなるべく健気に振舞う王妃。
意地を張る王妃を懐柔するように優しく騎士は声をかける。
「どうか私を頼ってください。貴方が苦しむ姿を見たくはない」
「ランスロット様...」
王の秘密を知ってからも偽りの夫婦生活を続けてきた。その間にも騎士の離反や相次ぐ問題の発生、王の精神は次第に摩耗していき、それを支えていた王妃ギネヴィアも限界が近かった。
そんな時にあのランスロットが自分の助けになってくれる。自分一人では背負いきれないが彼となら...
「さあ、私の手を取って。大丈夫です、私たちなら」
思わず、その手に縋ってしまった。
「アーサー王を」「ブリテンを」
「「救いましょう」」
その後は悲惨な結果が待っていた。
二人は共通の目的を持つ者として語り合い、認め合い、そして寄り添う関係に変化していってしまった。
「ふっ、やはりか...貴様らは王の側に仕えるのは間違いであったな」
二人が蜜月の時を過ごしている場を暴いたアグラヴェイン卿が発した言葉にランスロット卿は逆上。彼を斬り殺し、応援にきた他の円卓の騎士までも叩き斬って逃亡。
魔女達の思惑通り円卓は内部から崩壊してゆく。
ブリテンの終わりは刻一刻と近づいている
次回でひとまず円卓編は終わり。本編へといけたらええなあー
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