たまにはギスギスしてもいいかなって。時系列的には円卓編のちょっと前ぐらい。
ちなみにバッドエンドです。多分。
「よっと...これで最後かな」
最後のニワトリを仕留める。
カルデアの食糧庫の鶏肉はまだ十分あったと思うけど、まあ、あるに越したことはない。
「でも、聖杯から受肉したニワトリが溢れるなんて。これ食べてもいいのかな」
回収した聖杯の誤作動か、それとも誰かの悪戯か。突如発生した異空間の中には鶏が溢れかえっていた。そんなわけで、聖杯の再回収と鶏討伐のためにここに来たわけである。
「あはははっ。まあ、原因はともかく...真っ当なニワトリならありがたくいただかなきゃ」
そして、その回収に充てられたのが厨房組のブーディカと僕。本来ならエミヤが彼女と解決にあたるはずだったようがなにやら急用ができたらしい。そこで非番だった僕に手伝って欲しいと声をかけられたのだ。
「そっちも終わりましたか?」
「あらかた。悪いね、付き合わせちゃって」
「いえ、役に立てたなら何よりです。それに今日の献立も楽しみになりますから」
あれだけ溢れ出していたニワトリもようやく打ち止めなのか、聖杯が出現したのちぱったりと消えてしまった。
残った大量の鶏肉と聖杯。これを回収してカルデアに戻れば問題解決だ。
「でも珍しいですね。こういう問題にはマスターと一緒に解決するのが普通なんですが」
今回はなぜかマスターは同行していない。
相手は魔力により強化されただけのニワトリなので別に居なくても問題ないといえばそうなのだが。
「...うん、マスターに無理して言ったんだ」
カルデアには様々な英霊が集う。夫婦や、かつての臣下。戦場で共に戦った者、殺し合った者。栄光の英雄、悲劇の英雄。
そして、
「
———憎しみを抱く者。
「......」
首筋にヒヤリとしたものがあてられる。
彼女が腰にかけていた剣が今にもこの首を刈らんと握りしめられている。
「これはあたしの中にしまっとこうって思っていた...けど、うん、やっぱり無理」
口調はいつもの様に穏やかだ。だが、その言葉の節々に憎しみの色が滲み出している。
「許せないんだ、君が笑っているのが...ごめんね。こんなの八つ当たりだよね、あたしの復讐は結局終わったことだもん。今更な話だもんねアンタたちにとっては」
黙って話を聞く。
僕から言えることは何もない。彼女の言い分は正しくて、そうされて当然のことをしてしまったのだから。
「でもね、いくら名を変えようが...容姿が変わろうが、魂が別物だろうが」
このカルデアには様々な英霊が集う。
中には顔を合わせたくないものもいる。彼女もそのうちの一人だった。
「あたし達はお前を...
結局のところ、僕が悪いのだから。
◇
あの時の僕は皇帝ネロの家庭教師として、そして軍人としてローマ帝国にいた。
帝国をあてもなく放浪していたところをアグリッピナ...ネロの母君に拾われた。よほど気に入れられたのか、あの女には色々と融通して貰うことができた。特に今まで学など身につけてこなかったため、勉学に励めたのが大きかった。
そのおかげで哲学や帝王学、兵法など新鮮な知識が手に入れることができた。その後、哲学者という地位も獲得し、それなりにこの生活を楽しんでいた。
それから何年経っただろうか。勤めていた元老院を追放され、いよいよこの国ともお別れかと旅立とうとした時アグリッピナに呼び出され皇帝のネロの家庭教師にならないかと申し出があった。断る理由もなかったし、その皇帝が女性だと聞いていたので興味があったのもある。
「ほう、そなたが余の家庭教師か...てっきり腰の曲がった老人だと思っていたが意外だったぞ」
「あははっ、若作りが趣味ですから」
「む、意外と歳を食っているのか?まあ良い...そなたもとんだ貧乏くじを引いたよな。
余は哲学———ましてや帝王学など興味はない。任について早々に荷物をまとめることになるだろうな」
「そうはいきません陛下。あなたの母君には恩がありますゆえ、あなたには立派な皇帝になっていただきます」
最初こそは警戒されたよ。ネロは元々皇帝にはなりたくなかったようで、あの女に連れて来られた僕を信用するのは難しかったのだろう。
ふと、彫刻が目に入った。
「あれは陛下の作品ですか?」
「うむ!余は指導者である前に優れた芸術家なのだ。どうだ?見事な作品であろう」
確かに見事。
薔薇のような...いや、異形の植物か。なんとも形容し難い作品だ。迫力だけはある。
「彫刻のことはよく分かりませんが...ぶっちゃけ微妙な出来ですね」
「な、なにぃ...」
「外の世界を知らず自分の世界に籠るから勘が鈍るのです。僕と一緒に見識を広めましょう」
「ふん。背が高いものは好かん!首疲れる!!」
「あはっはっは、皇帝陛下はまだまだお若い。身長のことでお悩みなら自身の可能性を期待すべきです」
「よっ...余の前で身長の話をするとは。ことごとく地雷を踏むなそなた。その様だから追放の憂き目を見るのだぞ!!」
ただ一つ言えるのは彼女の才覚は本物だった...芸術はともかく。
「まあ良い、退屈凌ぎにはなる。貴様、名を名乗れ」
「僕の名は———」
ネロが皇帝に即位してからの日々。彼女が示す改革は茨の道だったが次第に多くの人々に賛同された。彼女は民のため改革を続けた。芸術を愛し、人の手に余る程の贅を凝らす代わりに民の困難には惜しみなく手を差し伸べた。自分がこんなにも民を愛しているのだから、たみも自分の子を愛してくれると信じて。
「見よこの舞踏技を!見事な男装であろう!」
「そ、それが男装?」
「攻めも守りも完璧だ...余がデザインしたのだぞ。この舞踏技に合わせて赤い大剣も欲しいな、ああどんどんイメージが湧いてくる♪」
「舞踏...また劇をやるのですか」
「うむ!いま建築中の劇場が完成次第、余が長年暖めておいた創作劇を行う!余は至高の宝剣を掲げ神話に語られる黒き怪物を打ち倒した勇者の役だ。デウス・エクス・マキナより大胆な結末にするつもりだ!!歌も歌うぞ!」
「.....歌はやめた方が」
しかし、ネロの改革をよく思わない者も当然居る。あの出来事はそれが原因だったとも言えるだろう。
ネロと出会って数年が過ぎ、ある国との同盟の話が上がった。その国の名は「イケニ」
ブリテン東部を治めたケルト部族の国であるイケニは度々ローマと衝突しており、じきに大々的な遠征を行うという話もあった。しかし、ブラスタグスという男が王になったことで、彼らはローマに交渉を求めた。
その交渉役として、僕は何度か王のもとに訪れた。ブーディカと出会ったのもその時だ。と言っても挨拶を交わす程度の関わりだったが。
「我々はローマと同盟を結びたい。これを降伏と捉えていただいても構わない、私はただ妻や子、そして民が平穏に暮らせる国を築きたいのです」
王は武力に優れており賢王でもあった。
彼を弱腰の王だとなじる者もいた。帝国の強大さに気概を失い国を明け渡した愚か者とも。
「陛下も争いを望んでいる訳ではありません。共同統治という名目で、ローマ帝国はあなた方の後ろ盾となりましょう」
「おお!これはありがたい...恩にきます」
けど、王の家族の愛は確かなもので、帝国に戻る途中に横目に見た王とブーディカ、そして二人の娘が笑い合う姿はどこか懐かしさを感じられるものだった。
羨ましいとなぜか思ってしまった。
「後は総監であるスエトニウス殿に任せておきます。何かあれば彼に」
ここで失敗した。
「はっ!イケニとローマに栄光あらんことを———」
総監など通さず直接情報が耳に入る様にすべきだった。
いつだって上手くいかない。人間の悪意より醜いものなどないのだ。
数年後、ブラスタグス王の崩御が告げられた。だがイケニとの同盟が失われるわけではない。彼は亡くなる前に、あらゆる根回しをして土地や財産、名誉全てを娘が引き継げるようにしていた。
これによりローマと共に共同統治は続いていく、はずだった。
「はっ、我がローマ帝国が貴様らのような蛮族と手を繋ぐとでも?しかも、その様に幼い女子に継承権などあるわけなかろう」
「何を!?この遺言状には...」
「ええい黙れ!貴様らの財産は全てローマ帝国のものとさせてもらう!!」
あろうことかスエトニウスは独断でイケニの権利を奪うべく国に押し入りその全てを奪わんとした。
「このぉ...!卑怯者!!」
「———なんだと?」
それは吐き気を催すような残虐な行為だったという。激昂したスエトニウスはブーディカを鞭打ちし陵辱の限りを尽くした。それだけで終われば、まだマシだったかもしれない。
「いやぁ!お母さん!お母さん!!」
「お願い...娘には、手を出さないで...」
「いやいや、母子ともに蛮族にしては美しい顔をしている。これは楽しめそうだ」
彼女達の目にはローマはどう映っていたのだろうか。悪魔の様な笑みを浮かべながら近づいてくる彼らのことがどう見えていたのだろうか。
「そいつらはローマ帝国の奴隷だ。何をしてもいいぞ、何をしてもな」
「ヒュー、さすがはスエトニウス様だ。へへへっ、楽しませてもらうぜ」
「離せ!あたし達は!次期イケニの王だぞ!...やだ、やだぁ!来ないで!!」
「いやああああああああ!!痛い、痛い、イタイ!お母さん!!いギィっ!」
「話が違うぞ!あたしが抵抗しなければ娘達に手は出さないって...」
「ああ、そうだったかな?すまんなあ蛮族の言葉はちと難しいものでね」
「おかあさ...」
「っく...(許さない、許さない、許さない!!)」
ブーディカは顔を覆うことも許されずその光景を目に焼き付けることとなった。
「ほら、よく見るんだ。娘達の晴れ姿だぞ?母親として誇らしいことではないか」
「うううぅ...(許さない、絶対に許すものか!!スエトニウス、あの男、皇帝、ローマを!)」
こうして、復讐の女王は誕生した。ローマ帝国に復讐することだけが生きがいとなった女王は全てのローマを憎んだ。
女王が反旗を翻し、近隣部族と結託し反乱軍を率いたと僕の耳に入ってくるのはこのしばらく後だった。
「立ち上がれイケニの戦士たちよ!もはやローマの悪行に付き合う道理はない。あたしは戦う!この国のために、傷ついた者たちのために!
貴方たちも戦う理由を思い出して!あたしは一人の女として、女王としてローマに復讐する!!」
ーto be continuedー
本編を進めたいがあまり求められてないのか?少しだけ不安。とりあえずはやり切りたい。
後半は、まあ反響があれば書きます。
fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?
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つよつよ奥様
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しっとり/依存
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無関心/やり直し