主人公もだいぶ増えました。名前書いてないのも多いですが
■■、メラニオス、セネカ、ギルベルト、包帯の男、神父、弥助。うん、これで各特異点を対応できますね
気づいた時には既に手遅れだった。復讐の炎が都市ロンディニウムを包み込む。
当時まだ出来たばかりだったこの都市はローマの士官をはじめ、商人や旅行人などが多く滞在する活気のある商業都市であった。それだけにスエトニウスはこの都市を引き渡すことはしたくなかった。
だが、
『突撃だ!ローマの血は一滴残らず皆殺しにしろ!』
『嫌...ッ、降伏したはずじゃアア゛ッ』
チャリオットに乗った女王に引き連れられた反乱軍の怒りが民に向けられる。
『お、お願い...この子だけは...ゆ、許してください!』
『やだよお母さん!私だけ逃げられないよ』
『お願いします!どうか、どうか!お慈悲を!!』
『...恨むならローマを...いや、あたしを恨んでいいよ』
『アッ——』
女も子供もなりふり構わず反乱軍は殺し尽くした。その時反乱軍の数はローマ軍の数十倍の規模にまで膨れ上がっており、ここで戦ったところで勝ち目はないと悟ったスエトニウスは誰よりも早く逃げ出した。彼はロンディニウムに住む市民等を犠牲にしたのだ。
『ブーディカ様。ローマ軍が撤退しました』
『そうか。なら残った者は殺せ、一人も残すな!』
反乱軍は市民を奴隷や人身売買にかけるという選択は一切せず虐殺を続けた。ある者は槍で串刺しにされ、ある者は乳房を切り取られ、それを口に入れられ唇を縫い合わせられ窒息、ある者は内臓を引き摺り出され晒し者に。
——殺す
——みんな殺す
——ひと思いに殺す
——男も女も、子供も隷属の侮辱は与えぬ
——死だ、ローマという国に、ローマ人というものに
——すべてのローマに死を与えてやる
こうして都市は次々と陥落。
ああ、繁栄した美しい都市は何処に、何処に。
ロンディニウムの陥落の知らせが僕の元に届いた時には既に手遅れだった。
「反乱軍...?」
「は、はい。既に数十万の兵力で次々と都市を陥落していると...」
「そんな話聞いてないぞ...して、首謀者は」
「イケニの女王ブーディカだと」
「———なんだと?」
ブラスタグス王が崩御してからは二人の娘を共同統治者とすると約束を交わしていたはず。スエトニウスからはすべて滞りなく上手くいっていると報告を受けていた。なのになぜ、反乱など起こる?
「スエトニウスはなにをやっている!」
「現在ワトリング街道にて反乱軍を待ち構えているとのことです。こちらに援軍を要請しています」
「ネロは...陛下はなんと!?」
「そ、それが今日は一段と頭痛が酷いらしく、こちらの報告すら聞いていただけない状況で」
事態は一刻を争った。このままでは反乱軍は街道を抜け首都に迫る。そうすればこのローマも憎しみの業火に包まれる。しかし、僕の頭には娘を愛おしそうに抱きしめる母としてブーディの姿が浮かんでいた。
なぜ、なぜ、なんで。
どうしていつも上手くいかない。今度こそは上手くいく、上手くいっていたはずなのに。
そして僕は選んだ。
「...兵を集めろ。5000ほどでいい」
「はっ、それで将は誰が」
「僕が行く...それと兵には大楯とあの槍を持たせろ」
ネロを、陛下を、ローマを守ることを選んだ。
その戦いは平地で行われた。ブーディカ率いる反乱軍はおよそ10万、こちらはその十分の一以下。士気は十分だが相手の圧倒的物量に気押されている兵も多数いる。
早馬で駆けつけた僕らをスエトニウス直属の兵士が向かい入れる。
「総監!ローマからの援軍が合流しました」
「よし...それで誰が、なっ!?」
そこにはふんぞり帰っているスエトニウスがいた。なぜこの男はそこまで傲慢でいられる?
「スエトニウス殿、これは一体どういうことか」
「どういうことだと?...どうもこうもない!奴ら突然反旗を翻し、我がローマ帝国に刃を向けておる!見てわからぬのか!」
「だからどうしてこうなったかと聞いている。貴様が行った所業のせいではないのか?」
「し、知らん。そんなの出鱈目だ!」
これが行ったことはこれの部下に聞いた。よくもまあ、独断でそこまで出来たものだ。そうまでして利益が欲しいのか。女、子供をなじってまで自分の利を優先するのか。
少し問い詰めただけで泥を吐き出した。
「あの皇帝は我ら貴族を冷遇し、下民どもばかり目を向けている。それに解放奴隷だと...?ふざけるな!!そんなことをすれば、我らがより不利になるだけではないか!!」
「——————」
「あろうことか蛮族どもと同盟なぞ結びよって、なぜ我らがあの様な者共と手を繋ぐ必要がある!今に見てろ、ここで奴らを潰しt———がはっ」
「もういい。もう十分だ」
ネロの改革は元老院など権力に固持するものには反対されていた。今回の反乱もそれが一つの原因だろう。
もうこれには用はない。この戦いが終わった後、然るべき処罰を受けてもらう。
「凄い数ですね。軽く20万は超えている」
「僕らの十倍近くか」
「いけますかね」
「ここは両側の森が深く、見た目より狭い。あちらの数の利は生かせない」
決戦の地となったワトリング街道は山峡に阻まれた地形をしていた。これによりローマ軍が囲まれる心配もない。つまり正面衝突する形になる。
「お母さん、あの軍。今までと違う」
「あれがローマの本隊...本物のレギオンというやつか」
女王は既に戦況が見えていなかった。それが連戦の勝利によるものか、怨讐によりその目が曇っていたせいかは分からない。
「なんだっていいわ。数はこっちが圧倒してるんだ。蹂躙して、一人残らず殺してやる」
勝利の剣を掲げブーディカは兵士を鼓舞した。
「突撃!アンドラスタは我らと共にあり!!」
「「オ オ オオオオオオーー!!」」
一斉に突撃してくる反乱軍。女王もチャリオッツに乗りこちらを蹂躙しようと走り出す。
「...各班に通達。大楯を構え盾壁を築け」
「ハッ!」
「
ローマ軍がとった行動は二つ。盾を構え相手を迎え撃つ。そして新たに開発された革新的な武器「プルム」を放つこと。
「くっ...投擲か。盾を上げろ!!」
「お、重ッ!」
「なんだこの槍!?抜けねぇ!」
このプルムという槍は、穂の先が柔らかく盾に刺さると曲がり抜けなくなるという厄介な武器だった。
「重...ッ!」
「仕方ねえ!盾を捨てろ!突撃を続けるぞ!!」
そのため、反乱軍の多くは機動力を失うか、もしくは盾を捨てた無暴力な状態で戦わなければならなくなった。
「くそッ、なんてでけぇ盾だ」
「押せええ!」
そしてローマ軍は突撃してきた敵を盾壁で受け止める。密集して作られた防御陣形はいくら数の有利がある反乱軍でも突破することは敵わなかった。
「反撃開始!敵は無防備だ、存分に切り殺せ!!」
「おぐっ」
「刺せ刺せ刺せぇ!!」
「ギャッ」
「ダメだ!下がれ、下がれ!!」
「押すな!これ以上は下がれねえんだよ!!」
「前線はどうなってる!?」
「ひぃぃ殺さr...あ゛あ゛あ゛っ」
こうして一瞬にして数千の兵士を失った反乱軍は袋の鼠状態となり、その命を一人また一人と刈り取られていく。
「お母さん、逃げよう!」
「逃げ...ッ?」
「早く立って!逃げなきゃ!!」
「でも!」
「ここは俺たちが!女王は生きてください!」
「....」
「お母さん!!」
後に「ワトリング街道の戦い」と語られるこの戦いで死者数は、ローマ軍が約800人に対し反乱軍は80,000人に達した。敗軍の将となった女王ブーディカは戦場から逃げ出し、戦いはローマ軍の圧勝に終わった。
「女王は?」
「ハッ、娘と共に戦場から離脱したと報告が!」
「そう...この場は任せる。僕は少し用ができた」
敗残兵の末路は生きたまま捕らえられ捕虜にされるか、最悪、陵辱され殺されるか。このままではあの家族も...まだ間に合う。他の兵に見つかる前に探し出してしまえば、まだ助けられる。
そして、見つけた。
「お前は...。あの時の!」
赤く輝いていた美しい髪は色褪せ、僕を見る目は憎しみで黒く染まっていた。
「女王、投降してください。今なら僕の権限で...」
「巫山戯るな!!我らを再び貶める気か!」
「ち、ちが」
「何が違う?夫はお前のことを信頼し同盟を結んだ...その結果がこれさ。裏であたし達を笑っていたんでしょう?」
既に手遅れだった。女王もその娘達も僕が何を言っても憎しみの言葉で返してくる。近づけば殺すと、死にたいの体で抵抗する。
「ローマ、皇帝ネロ...あたし達の全てを奪ったお前達を恨む。死んでも忘れてなるものか...!」
そうして懐から小瓶を取り出し、
「おかあさん...」
「ごめんね...一人にしないからね。あたしも一緒に逝くから」
「待て!」
その中身を一気に飲み干した。
それは自決用の毒だったのか、それを飲んだ娘達は眠るように息を引き取った。
「呪うぞ...いずれお前も、ローマもあたしと同じ運命を辿ることだろう」
血涙を流し、娘達を抱きしめながらブーディカは死んでいった。“お前のせいだ“と恨み言を残しながら。
「ちが...ぼくの...ぼくのせいじゃ...」
これでこの話はおしまい。
女王ブーディカはローマ軍に敗れて自害。ことにあたっていた総監スエトニウスは責任を追求され罷免された。
「そなたまだ怒っているのか?あれは
「...ではお暇をいただきます。僕は、少し疲れました」
「どこに行く?」
「あなたの手の届かないところへ」
「...そんな場所などないぞ...待て、本当に行くのか?
待て!余にはそなたが必要なのだ!!待ってくれ、ひとりにしないでくれ!!———セネカ!」
◇
「あたしは結局のところ、全てを奪われたイケニの女王そのものとは違う。君だってそう、ただそっくり同じってだけの別人」
終わったことをやり直すことはできない。
「ねえどうだった?王なき女王の異郷を蹂躙したりさ、辱めたり、奪ったり、殺したり———」
なら償うことはできるのか?否、どうしようが無理な話なのだ。償うことができるのは生きている時だけ。
「あの時だって笑ってたんでしょ?あの平地で、あたし達が無様に死んでゆく様を見てお前は笑っていた」
なら、僕はどうすればいいのでしょうか
「でも良かったよ、君もローマも酷い末路だったんだよね...少しはあたし達の気持ちわかってくれたかな」
首に当てられた剣が首に食い込み始める。抵抗することは容易い、一瞬で無力化することも可能だろう。
けど、僕はできない。
「なんで君が英霊としてここにいるか分からないけどさ、また裏切るのかな?あたし達を裏切ったみたいにマスターのことをさ」
困った様に微笑みながら
「ねえ、答えてよ...答えろ!」
霊器を変質させるほどの魔力を纏いながら問いかけてくる。
答えなければ殺される。だから、僕は。
「僕、は...ただ『ブーディカさん?帰りが遅い様なので通信させていただきますが、何か問題でもあったのでしょうか?』
カルデアからの通信。この声はマシュだろうか。
「...あはは、ごめんね。ちょっと休憩してたんだ、すぐ帰投するよ」
『良かった、無事解決したんですね...あれ?もう一人反応がありますが、どなたか同行されていたのですか?』
「ああ...うん。あたしがお願いして手伝って貰っていたんだ。
そうだ、今晩のご飯楽しみにしていてね。お姉さん、腕に寄りをかけて作っちゃうんだから!」
『わあ!では、先輩と共にお待ちしていますね!』プツッ
それで通信は終わった。
いつの間にか剣は収められ、纏っていた憎しみの魔力も無くなっている。
「駄目だなあ、あたし。ごめんね、君に言ってもしょうがないのに」
「——————」
「でも、言っておく。ブリタニアのブーディカはお前達を許さない。永遠に」
僕は、
「それで構いません...けど、今はまだ貴方に殺されるわけにはいきません。僕は、役目がまだありますから」
本心からの言葉を話す。
裏切る。それは分からない、けどやるべきことがまだある。どうであれ、僕の旅は続いて行く。
一応は納得してくれたのか、彼女はいつもの顔に戻り
「...あたしはカルデアのあたしだ。よく似ているけど、どうしたって違う。だから———
マスターを裏切らない限り、あたしは君のことを容認する。許すわけじゃない」
「ええ」
「今のあたし達は、まず第一にマスターのサーヴァントだ。けど、いつか正々堂々、人理も何もかもちゃんと無事に済んだ後で名乗りを上げて——その首を刎ねてやるよ。怪物」
そう笑みを浮かべて宣言するのだった。
~end~
ちゃんちゃんってね。正直、書いていて辛くなったので後半少し描写不足ですがご勘弁を。
次回の短編は「ヤンデレお虎さん」の予定です。虎と獅子、一体どちらが強いのでしょうか?ぐだぐだっとしたそんな話の予定です。
おそらく本編の方が先になると思いますが、見て頂ければ幸いです。
fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?
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