さて、いよいよこの日がやってきてしまった。
カルデア中を逃げ回る子供系サーヴァント。それを捕まえようとする大人達。今日は予防注射の日なのだ、逃げ回る子供達の気持ちは痛い程よく分かる。
誰だって注射が好きな人など居ないのだから。
「嫌だったら、嫌です!サーヴァントに注射は必要ありません!
もっともな意見だ。
元来、僕たちサーヴァントは風邪や病気になることはない。だが、このカルデアではサーヴァントは簡易的に受肉している状態だ。もしも、というのもあるし、何より前例があるのだ。
「リリィ、大丈夫だから。すぐ終わるよ」
「嫌です!近づかないでください!」
「ゔっ...」
鋭い一撃。
こうも拒絶されると思わず泣いちゃう。
「そもそもワクチン自体が安全である可能性がないのです!それに、あの痛みと打たないリスクを比べれば当然前者。つまり注射しない方が正しいのです。はい論破!!」
随分と口が回っているが、つまり痛いのが嫌ということだろう。
けど、ここで引き下がる訳にはいかない。これも子供達のためなのだ。
「うーん、困ったなあ。このままじゃ、またオルタに揶揄われちゃうなあー」
「⁉︎」
「『え、なに、まさかアンタ注射が怖いの?はっ、やっぱりお子ちゃまね。格の違いを知りなさいな』って言われてもいいの?悪いけど、今回ばかりは庇ってやれないな」
「うぅ〜。でも、でもぉ」
まあ、リリィがここまで苦手ならあっちも多分...確かオルタの方はジャンヌが連れてくると言っていた気がする。
っと、噂をすればなんとやら。
騒がしい声がこちらに向かってくる。
「嫌、嫌よ!なんで私が注射なんか打たなきゃいけないのよ!?」
「安心して下さい
「誰が妹か!変なルビ振らないでちょうだい!ああ、もう、離しなさいてっば、この!」
「ふんふんふー♪さて、着きましたよ
「ちょ、アンタ力強すぎだって...え、嘘、もう着いたの?嫌、嫌よ!ひ、ひぃぃぃぃーーー!」
ニコニコ顔の聖女に引き摺られていく魔女。
悲しいかな、これが姉と妹の力の差なのです。
「...私、行きます」
覚悟を決めた目でリリィは言った。
人の振り見て我が振り直せとはまさにこの事か。ズンズンと医務室に歩んでいく。もはや僕の手など必要ない。彼女自ら進んでいく。
「今なら、あっちの私にマウントを取れますから!」
そう言い、彼女は医務室へと入っていった。
うん、やっぱり子供の成長というものは良いものだ。
思わず涙が滲むが、これは悲しみからではなく嬉しさからである。
「うわーーん!やっぱり痛いですーーー!」
頑張れリリィ。たとえ未来が変わる事ないとしても、努力し続けるのだ。
◇
とはいえ、ここからが本番である。
子供達の番が終われば次は我々大人なわけでして。
「やだなあ、痛いんだろうなぁ」
憂鬱だ。
歯医者も大概だが、注射もどうかしてるぞ。なぜ、体内に鋭い針を刺さなきゃならないんだ。しかし、子供達に打たせた手前、逃げるわけにはいかない。
自室にアタランテを呼びにいく。基本的にあいうえお順で順番が来るのでアタランテは割と最初の方なのだ。それに一緒に行った方が手間が省けるだろうし。
「アタランテ、僕らも行こうk...何やってるの?」
扉を開けるとそこには毛布で全身を包んだアタランテ。こちらが声をかけるとビクッと肩を震わせる。
「な、ナンノヨウダ」
「注射の受付がそろそろだから一緒に「私はもう打った!」...本当?」
えらく食い気味に答えられた。
そんなはずはない。何しろさっき受付が始まったのだから。
「そ、それは...こ、子供達と一緒に打ったのだ!だから私は行かない、行かないからな!」
「そうなの?ならまあ良いけど」
うーむ、困った。なら1人で行かなきゃならないのか。
はぁ、心細いなあ。
なんて、思っていると放送が流れてきた。
『アタランテさん。アタランテさん。まもなく予防接種のお時間です。医務室までお願いします』
「「......」」
受付案内の放送だったようだ。
これはもう言い逃れは出来ないな。アタランテの方を見ると顔まで毛布を被り、その隙間からこちらをキッと睨みつけている。絶対に行かないと言わんばかりだ。
「ほら、観念して」
グイッと毛布を引き剥がそうとするが力強く被っているらしく引き剥がせない。むむむ、かくなる上は、
「ひゃっ!?」
毛布ごと抱き上げるしかあるまい。少し照れ臭いが、この際やむ負えない。
彼女は突然のことで吃驚したらしく体をジタバタとさせているが、それで離すほど柔じゃない。
今の僕は楽しさ半分、焦りもあるのだ。このまま待たせてしまうとあの看護婦が突貫してくる予感がする。生前と変わりないというかさらに悪化しているとは、これだからバーサーカーは苦手だ。
「わ、わかった!わかったから下ろしてくれ。これは、その、流石に恥ずかしいから」
毛布から顔を出した頃には既に真っ赤っか。まだまだ、その顔を拝んでいたいが仕方ない。
彼女の手を引き、医務室に向かおうとするが、そう上手くは行かないようだ。
「どうしても行かなきゃ駄目か?」
「駄目」
「むぅ...その、今日は予定があるのだ」
「なら明日にしてもらう?」
「あ、明日も予定が...できる気がする」
「おっけい。じゃあ行こうか」
気持ちは分かる。僕も一度やらかして聖堂教会に捕まった時は散々な目にあった。彼ら僕を実験動物としか思っていないのだもん。注射やらメスやらで身体中をいじくり回すんだから、死ぬかと思った。
とはいえ埒があかないのでこのまま連行させてもらう。アタランテは縋るような目で訴えかけてくるが、屈するわけにはいかない。
「うぅ...」
「僕は君が病気で苦しむ姿は見たくないんだよ。できれば二度とね。」
あんな姿を見るのはもう勘弁だ。君にはいつも健康でいてほしい。
「...なら、手を握っててくれ」
「わかった」
「あと、できれば抱きしめてて欲しい」
「...善処するよ」
ようやく医務室に向かえる。
正直、逃げ出したいなあ。
◇
「お、終わったか!?」
「まだ消毒しただけです」
アタランテは僕の膝の上に乗り怯えながらもその瞬間を待っていた。見てるこっちも怖い。ここに彼女がいなかったなら僕は逃げ回ってるだろうな。
「では、力を抜いてください」
「〜〜〜〜〜〜!!」
そんなに針を凝視しては抜けるものも抜けないだろうに。
「ほら、僕の目を見て」
「?」
「そう、大丈夫。痛みなんて一瞬さ」
頭を撫でながら安心させるように声をかける。力さえ抜いておけばどうということない...らしい。
「はい、終わりましたよ。しばらく手で押さえておいてください」
「お、終わってみれば大したものではなかったな。うむ!」
胸を張って答えるアタランテ。できれば最初からそうして欲しかったが。
さて、これで終了。とっとと部屋に戻ろう、うん、そうしよう。
「ミスター、次はあなたの番です。さあ、座ってください」
だめでした。
扉に手をかけた瞬間、引き戻されてしまう。
「奥様はやり遂げました。次は貴方が頑張る番よ」
「...はーい」
そう言われてしまっては逃げようがない。
大人しく腕を差し出す。
そういえば他にも注射をしている人もいるようだ。少し耳を澄ませてみよう。
『ふんっ!』バキッ
『ガウェイン卿、いい加減力を抜いてもらえるかい?注射針は無限にあるわけじゃないんだ』
『くっ、申し訳ありません。頭ではわかっているのですが、いざ肌に針が触れるとどうしても』
『いいですか?リラックス、そう深呼吸して...よし』プス
『ふんっ!!』バキッ
...脳筋 is power
『身体に針を刺すなど正気ではありません!』
『ランスロット卿、後がつかえてますので』
『離していただきたいベディヴィエール卿!わたしは断固拒否する!』
『...マシュ殿が見ていますよ』
『はっ!?』
『ジーーーー』嫌悪的視線
ススススー
『———さあ、一思いにどうぞ』
『まったく、トリスタンを見習ってください...トリスタン卿?もう注射は終わって...気絶している!?」
...彼らと一緒にされたくないなあ。
意識を前に向けよう。
ひんやりとした物が肌に触れる。いよいよ消毒が終わりお注射の時間がくる。
「大丈夫だ。汝にはわたしが付いているぞ!」
あははっ、さっきと立場が逆転してしまったなあ。でも、安心する。
「では、力を抜いて」プスッ
「———痛っ!」
けど、痛いものは痛いのだ
登場サーヴァント
彼 注射は少しトラウマ
アタランテ 子供達の前ではしっかりとしたお母さん。
ジャンヌ家 違う、僕は弟じゃない。兄でもない。
円卓‘s ベディはアルトリアに手を握ってもらいながらしたらしい
fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?
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イチャイチャ
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つよつよ奥様
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しっとり/依存
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無関心/やり直し