【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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短編 お仕置き

カチコチ、カチコチ....

時計の針が鳴る音が部屋に響く。

 

「.........」

 

私はこの部屋でただ一人、彼の帰りを待っている。

時計は22時を過ぎ、既に23時に差し掛かろうとしている。

 

「遅いな....」

 

何かあったのだろうか。

胸にザワつきを覚える。

 

『22時ぐらいには帰るよ』

 

その言葉を信じて、私は待っている。

 

 

 

「宴会...?」

「そうそう。ギルガメッシュに誘われてね」

 

夕食を終え、後片付けをしている最中、彼は口にした。

 

「汝は...いくのか?」

「うん。前々から付き合えとは言われてたからいい加減行ってあげないとね」

 

“正直、面倒くさいけどね“と口では言いながらも、どこか嬉しそうな彼。

むぅ。それでは引き止めにくいではないか。

 

「良かったら君も来る? 他のサーヴァント達も来るみたいだし」

「いや、私はいい。あまり酒に強くないからな 汝だけで楽しんでくるといい」

「そっか。なら、お言葉に甘えて」

 

本当ついて行きたいが、私が居ては気を遣わせるだろうと遠慮しておく。

...少しだけ離れるだけなのに、どうして胸が締め付けられた様に痛むのか。

彼は片付けを終え、すぐさま出かける準備をしている。鼻歌を歌いながら容姿を変え、浮き足立つのを見ていると余計に行って欲しくない。

 

「じゃあ、いってきま...どうしたの?」

「...」

 

扉を開け、出て行こうとする彼の袖を引いてしまう。

不思議がる彼だったが察したのだろう。私を抱き寄せ、頭を撫でてくれる。

 

「心配しなくても早く帰ってくるよ」

「...何時だ」

「えっと、22時ぐらい?」

「ん...」

 

今は19時。

...長いな。

 

「なるべく、早く帰って来てくれ」

「先に寝ててもいいんだよ?」

「やだ...一人で寝るの寂しいから...」

 

彼の胸に顔を埋めていて良かった。

きっと、耳の先まで赤く染まっているだろうから。

 

「うん。わかった」

 

抱きしめる力が少し強くなる。

尻尾を彼の足に絡め、その時間を堪能させてもらった。優しい匂いが鼻をくすぐる。

 

名残惜しいが、そろそろ行かせてあげなくては。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

「ああ。」

 

最後にもう一度抱擁を交わし、彼は宴会へと向かった。

 

 

「....遅いな」

 

彼の匂いが残ったクッションに顔を埋め、一人寂しく私は待っている。

 

 

一方その頃、ワイワイガヤガヤと騒がしい宴会場にて一際目立つ一席があった。

 

「ん...もうこんな時間か。僕はそろそろお暇するよ」

「なに? 我の話は終わっておらんぞ!」

「はいはい、アルが振り向いてくれないって話でしょ。何千回も聴いたよ」

「たわけ! 貴様もセイバーの可憐さは理解しているはず。それならば、我の口から語られる奴への賛美の言葉は何千回聴いても飽きぬであろう」

「口説き文句は本人に言いなよ」

「居ないから貴様に言っておるのだ!」

「えぇ...」

 

酒に酔ったギルガメッシュが女とも男とも言えるような外見をした者に面倒くさい絡み方をしている。時刻は22時もう直ぐ差し掛かろうとする頃で、約束をしている怪物にとって少し急がないといけないようだ。

 

「誰に言い寄ろうがギルの勝手だけど、いい加減やめてあげなよ。 苦情は全部僕にくるんだ」

「はっ、この我に苦情だと? バカも休み休みに言え。そんなもの誰が、」

「アルトリア『料理で私が釣れると思わないで頂きたい。それにその料理はギル...ベルト卿が作ったものです。確かに美味しかったですが、その程度で私は屈しません。次はフルコースでお願いします』

 オルタ『汚らわしい。寄るな」...他のアルトリアからも多数あるよ」

「なっ...」

「一途って言うか、気が多いっていうか。あの顔ならなんでもいいの?」

 

顎に手をつきながら渋々と言った感じで相手をする。

英雄王を知る者にとっては“その様な態度を見せれば殺される“と感じているだろうが、それを許されている辺り二人の間には深い関係があるのだろう。

 

「たわけ! 我が求めるのは騎士王ただ一人のみよ!黒かろうが、大きかろうが、幼かろうがそれがセイバーであることは変わらぬのだ」

「おー」

「フハハッ、あの笑みが我に向けられるのも思い浮かべると酒も進むというものよ」

「わぁ凄い全然心に響かない。数打ち戦法はやめなよ、ノーコンなんだから」

「なに。その苦情とやらも照れ隠しにすぎん。まったく、愛い奴らよ」

「ポジティブにも程がある。その思考ストーカーと変わりn「むっ、英雄王。それに其方も居たのか。なんだ、それならば余にひと声かけぬか」...こんばんわ、ネロ陛下。それは申し訳ないことを」

「うむ。気にするでない。余も心地よい気分に酔っておったからな」

 

赤い男装に身を包んだ皇帝が二人の間に割って入る。

 

「良かったねギル。 そっくりさん来たよ」

「チッ...2Pカラーは求めておらん」

「なっ!? 人を2Pカラー呼ばわりとは何事か! なんだか知らぬが、非常に腹立たしいぞ」

「うるさい。貴様は呼んでおらんチェンジだ」

「ははーん。さては余の魅力が理解できぬと見た。 いいだろうこの場を持って余が自ら語ってやろうではないか」

「いらん」

「まずは余の礼装からだな。見よ、余がデザインした嗜好の一品を!」

「要らぬと言ってるのがなぜ分からん。...ええい寄るな!」

 

一方的に迫られるギルガメッシュを尻目にこれ幸いと席を立つ。アタランテを待たせるのは流石に気がひけるのでなんとして帰らなければいけない。

足早に出口に向かうが、

 

「あれ、もう帰っちゃうんですか?」

「お虎さん」

 

再び呼び止められてしまった。

振り返ればつまみに舌鼓をし、こちらを見つめる虎の姿が。

 

「まだ夜は長いですよ。私の相手してくれないんですか?」

「ごめんなさい。心配させちゃうと悪いから」

「にゃあ...」

 

残念そうに項垂れるのを見て足が止まりそうになるが、約束は約束だ。

頭を下げて帰ろうとしたが、

 

「!...んふふっ。 えいっ!」

「ちょっ!?...むぐっ...ゴクッ」

 

突然羽交締めされ、無理矢理なにかを飲まされてしまった。

喉元に熱いものが流れていく。

 

「ぷはっ...何を、飲ませたんです」

「倉庫から拝借したこのお酒です。いやー、一度味わって見たくて。どうです?もっと飲んでみませんか」

「だから今日は、だめだひぇっいってるで...んん?」

 

視界がぐらつく。呂律もまわらない。

なんだろうか、初めての経験だ。

 

「ありぇ?世界がぐるぐるまわてる?」

「おやおや?どうしたんですか」

 

景虎が持ち込んだその酒は“奇奇神酒“。大いなる神に捧げられるために永い時をかけ熟成されたそれは、人ならざる怪物や神でさえも酔っ払いに変えてしまうほどの一品。

今まで頭が機能停止するほどの酔いというものを経験したことがない怪物はその場に倒れ込んでしまう。ぐるぐると回る視界、思考は完全に飛び散り意識は朦朧。

 

「うぅん...う〜ん」

「はて、困りました。ここまで酔いが回るとは、好奇心に身を任せすぎましたか」

 

怪物と会話を楽しみたかった景虎にとっては作戦失敗のよう。しかしながら、悪戯な笑みを浮かべ怪物の首筋に顔を近づけた。

 

「んっ......ふふっ、また怒られちゃいますね。まあ役得ということで良しとしましょう」

 

頬を突きながら悪戯が成功した子供のように笑った。

 

「もしもーし、起きてますかー?」

「んん...」

「起きないと...部屋に連れて帰っちゃいますからね?」

「...」

「返事なしと、では仕方がありませんね」

 

目を細めて不敵に笑う。

今夜は邪魔者は来ていない。ならば独り占めするのも不可抗力により致し方なしと、怪物に手を伸ばすが、

 

「——駄目だよ、そんなことしては」

「...おや」

「彼には帰る場所があるんだ。君が邪魔をしてはいけないと思うな」

「...そうですか、ではこの場はお任せします。残念です、今日こそはと思ったんですけどね」

 

優しくかけられた声により怪物の意識が徐々に戻り始める。

 

「ほら、起きれるかい?」

「ん...今、何時?」

「そろそろ日が変わるかってところだね。君は早く帰らないといけないんじゃないかな」

「うん、かえらなきゃ」

 

フラフラと支えられながら立ち上がりよろけながらも出口に向かう。

 

「一人で帰れるかい?その様子では歩くのも一苦労だろうからね。肩ぐらいは貸すよ」

「いい。自分でかえる」

「そっか、じゃあ気をつけて...おやすみ、クル」

「うん...」

 

今度こそアタランテの元へ足を進める。

随分と遅くかかってしまった。もう彼女は眠ってしまっただろうか、起きていたらどう言い訳しようと頭を働かせようとするも酔いは冷めきっていなようで、そんな考えなどすぐに消えてしまうのだった。

 

「さて、僕もギルを迎えにいかないと」

 

 

「...ぐすっ...ぐすっ...あっ」

 

日付が変わる頃、扉が開く音で顔を上げる。

直ぐに顔を拭い、彼の元へと向かう。

 

「...おかえり。随分と遅かったな」

 

ぶっきらぼうに出迎える。

こんなに遅くまで帰ってこなかったのだ。それはまあ楽しんだことだろう。

もし、言い訳でも申すのであれば是非とも聴いてみたいものだ。

 

「んん〜ただいまぁ」

「!?」

 

しかし、何やら様子がおかしい。

フラフラと近づいてきたかと思うと突然抱きつかれてしまった。いつもは言い訳をあれやこれや並べるのに今日はどうしたのだろうか。

 

「こ、こら!急に抱きついてくれるな」

「ふふっ、いい匂い」

 

抱擁され、匂いも嗅がれ、普段の彼とは思えないほどの積極さに狼狽えてしまう。

 

「汝、もしかして酔っているのか?」

「うん、酔ってるかも!」

「自信満々に答えることではないだろうに。それにしても、汝にしては珍しいな。そこまで酔った姿は初めて見る」

 

ハメを外しすぎたか。それとも悪ノリに乗せられたか。いずれにせよ、今は大人しく抱擁される気分でもない。

彼は私の顔を不思議そうに見る。

 

「...? 目、赤いね。大丈夫?」

「ッ...何でもない。いいから早く離れろ」

 

小首を傾げるその仕草は容姿も相まって、どこか妖艶的。

人の気もしらないで、よく他人の心配ができるものだ。今、私が何を思っているのかわかっていないのだろう。

抱きしめてくる腕を無理矢理解こうとする。

 

「えへへ、好きだよ。好き好き好き〜」

「〜〜〜!」

 

なんなのだ一体...!

頭を優しく撫でられ、思わず力が抜けてしまう。いつものであれば抱き締め返していたに違いない。

 

「(好きだというなら、なぜ約束を破る)」

「私は...怒っているんだぞ」

「うん」

「心配させるようなことしないで欲しい...不安になるから」

「? うんうん、分かるよ。分かってるとも」

「絶対分かってないだろう...もう」

 

今の彼に何を言っても無駄だろう。今日のことはまた朝にでも問い詰めてやればいい。

黙って彼の抱擁を受け入れることにする。胸に顔を埋め、いつもの様に彼の匂いを嗅ぐ。         

ほのかに香るお酒と...他の誰かの匂い。

もやもやした感情が湧き出てくる。

やはり、一人で行かせるべきではなかった。     

 

「もう満足しただろう。早く風呂に入ってこい...少し臭う」

「えー、もうちょっと」

「駄目だ」

「...じゃあキスして。いつもの様に、ね?」

 

唇に手を当て悪戯に笑う。

今後、お酒を飲ませるのは禁止させようと心に誓おう。私が見てないところで、他の者にもこういった態度を取っているのだろうか。

 

「嫌だ、今日は絶対にしない。少しは反省しろ」

「...ダメ?」

「酔いが覚めて、ちゃんと反省したら...してやらないこともない」

「むぅ...」

「ほら、私は先に寝ているから」

「一緒に寝なくていいの?」

「...待ってるから早く行ってこい」

 

不満げにしながらも私から離れる彼。

取り敢えずは帰ってきたことに安堵しよう。朝まで帰ってこなかったのなら本気で怒るところだった。

 

「ん?」

 

寝室に向かおうとした時、服を脱いでいる彼の首筋に目線が向いてしまう。

なぜ違和感を覚えた。

その首筋には小さな赤い跡がくっきりと付いている。

 

「その首の跡はどうした」

「跡?...本当だ。えへ、何だろうねこれ」

 

表情が徐々に歪んでいくのが嫌でも分かってしまう。あの跡は間違いなくキスマークに違いない。ああ、許せない。どこの誰が...いや、今はどうでもいい。

彼は私の様子を見て不思議そうに首を傾げているが、私はそれどころではなかった。

 

「こっちに来い」

「えっ、でもお風呂」

「——————」

 

強引に引き寄せ、その口を塞ぐ。

 

「...んっ...」

 

キスはしないと言ったが撤回しよう。

私の想いが分からないから、そういった行動をするのだ。

首に腕を回し、跡をもう一度確認する。首筋をなぞれば、微かに滲む赤い跡。再び黒い感情が湧き立つのを感じた。

 

「...っふ...ん...」

 

一度唇を離し、彼の様子を伺う。突然のことで思考が動いてないのか目を右往左往させ戸惑っている。

私は勢いのまま、彼を強引にベットに連れて行き、そのまま押し倒す。

困惑する彼を押しつけ、耳元に顔を近づける。

 

「これはお仕置きだ。その惚けた頭が理解するまで...逃がさない」

「...??...んっ」

 

再び唇を重ねる。今度は触れ合わせるだけの軽いものではなく、もっと長いもの。互いの唇の感触を確かめ合う様なキス。柔らかな唇からは温かな感触が伝わってくる。

 

「んっ!?」

 

だが、私がそれでは満足できなくなってしまった。

薄く開かれた口を強引に舌でこじ開け、その中に侵入させる。

動揺して身じろぐのを後頭部を押さえつけ、逃がさない様にする。しばらく抵抗は続いたが、やがて観念した様に大人しくなった。

 

「まっ...ふぁっ...アタ、息できn...ンンッ...」

 

息をする暇も与えず、口内を蹂躙する。苦しさに顔を顰め、僅かに目を潤ますその姿に加虐心を煽られる。

何度も角度を変え唇を重ね合わせる。

 

「好き...んっ...好き...はっ...愛してる...」

 

クチュクチュと厭らしい水音が静かな室内に響く。何度も舌を絡め合い、私の息が続かなくなったところでようやく口を離す。ぷはっと大きく息を吸う。二人の間に引かれた銀色の糸を絡め取り、再び彼の様子を伺った。

快楽と酔いと酸欠により、心ここに在らずといったところだろうか。肩で息をし、ただ私を見つめている。

その姿がどうしようもなくいじらしい。

 

「どうだ、私の想いは伝わったか?」

「...?...?」

「言葉を口にしなければ分からんぞ...しかし、やはり気になるな」

 

私以外の匂いが彼からするのは癪に触る。それが他の女の匂いであれば尚更。

 

「風呂にいくぞ。その匂い洗い流す」

「じ、自分でできる」

「駄目だ。私が汝の体の隅々まで洗う...その鼻につく匂いを塗り替えてやる」

「う、うん」

「いい子だ...んっ...ほら、私が肩を貸そう」

 

軽いキスをし、彼を浴室まで連れて行く。

——私たちの夜はまだ明けない。

 

次の日、アタランテに全力で土下座をする怪物の姿があったとかなかったとか

fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?

  • イチャイチャ
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  • 無関心/やり直し

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