【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

40 / 73
 皆さんが思い浮かべる悪役とは何でしょうか?

 私にとってはだれにも理解されることがなかった可哀そうな人たちってイメージがありますね


桜と怪物 「化け物」

「今日から家に下宿することになったセイバーだ。二人ともよろしくしてやってくれ」

 

「「......」」

 

 学校が終わった後先輩の家に訪れるとそこには金髪でとてもかわいらしい外国人の女性が座っていた。先輩の育ての親である人の親戚...らしい。

 

「......」

 

「......」

 

「―――とにかく切嗣を訪ねてきたんだから帰ってもらうわけにはいかないだろ 最近は物騒だし、どこかへ放り出すわけにもいかないしな」

 

 チラッと横目で藤村先生を見る。先ほどから唸ったり、腕を組んで悩んだりと一言も話さない。きっと反対するに違いない、先輩と女性が二人っきりなんてそんな...

 

「...まあ、切嗣さんの親戚ならしょうがないか」

 

「えっ――――」

 

「ごめんね...桜ちゃんが言いたいことは分かるけどこの家は切嗣さんのだから。 外国に親せきがいるって言ってたし それを頼りにしてきた子を放り出すわけにはいかないからね」

 

 それは...そうだけど

 

「先輩はそれでいいんですか?」

 

「ああ。桜はセイバーがここに下宿するのは反対か?」

 

 そんな言い方はズルい。別に反対というわけでは...ない。

 

 ただ、

 

「いえ...お知り合いの方が住まれるのは反対しません。――――けど...セイバーって名前」

 

「ん?ああ、ちょっと珍しい名前だろ 名前の通り不愛想な奴だけどいいやつなのは保証する。 まだ日本に来て日が浅いらしいから桜がいろいろと教えてくれると助かる」

 

 ...先輩は私が知っていることを知らない。セイバーさんはその名の通りサーヴァントに違いない。でもそれを指摘することはできない。結局のところ受け入れるしかないのだ

 

「先輩がそう言うなら...」

 

「うん、ありがとう桜」

 

 ◇

 

 

 四人での食事は終わり、今は先輩と二人で後片付けをしている。藤村先生はセイバーさんを連れこの家の案内をしているようだ。

 

 なんだかこうして二人っきりで何かするのは久しぶりな気がする。

 

「桜、これ拭いてくれるか」

 

「はい、(確かタオルは引き出しの中に)」

 

 引き出しを開けタオルを取ろうとしたとき、私は気づいてしまった

 

 ...減ってる

 

「先輩タオルが減ってますよ それに食器の置き場所もいつもと違いますし...」

 

「あれ?おかしいな...泥棒でも入ったか?」

 

 タオル専門の泥棒とはおかしな話だ。私が来なかった間なにかあったのだろうか

 

「――――そうか、遠坂だ」

 

 なんで

 

「遠坂って、遠坂先輩のことですか」

 

 なんであの人の名前が

 

「ああ、昨日つまらんことで怪我をしちゃってな。偶然通りかかった遠坂に手当てをしてもらったんだよ。 多分その時使ったんだろうな」

 

 いつも何で

 

「...どうして」

 

「えっ...」

 

「どうして遠坂先輩がここに来るんですか...」

 

 ―――今ここにいるのは私なのに。 先輩とあの人は関係ないはずなのに。 

 

「...ごめんなさい。なんでもありません」

 

 ◇

 

 

 そのまま気まずい雰囲気となり、もう夜も遅いということで藤村先生に連れられて家へと帰る。

 

 私はなんだか暗く、下を向きながらとぼとぼ歩く。どうしてこんなにも胸が痛むのだろうか。先輩のことが心配...それもあるが。

 

「――新たな恋のライバル登場って感じだねー桜ちゃん」

 

「え!?...ふ、藤村先生!わたしそんなこと...」

 

 急にそんなことを言われるので驚いてしまう。確かにセイバーさんはとても可愛らしかったけど...

 

「ふふふっ、桜ちゃんはすぐ我慢が出来ちゃう子だから今悩んでいることもきっと我慢しちゃうんだろうね。でもたまにはわぁぁぁあって伝えちゃうのもいいんじゃない?」

 

 きっと私のことを心配して言葉をかけてくれているのだろう。やっぱり藤村先生は優しい。

 

 ――そうだ、身を引くことはいつでもできる だからこそ先輩の傍にいたい 先輩の役に立ちたい 大丈夫

 

「はい...わたし頑張ってみます!」

 

 今はまだ、大丈夫――――

 

 

 ◇◇◇

 

「じゃあ行こうかセイバー」

 

「ええ......何度も言いますが私の傍を離れないでください」

 

 俺たちは他の聖杯戦争の参加者を見つけるため深夜の巡回に行くことにした。何せ昨日や今日のこともある。決して人ごとなどでいられないのだから。

 

 今日、学校に結界が仕掛けられていたことを知った遠坂と俺は起点となる場所をしらみつぶしに探していたが、あまりにもあっさりと見つかったので拍子抜けしてしまった。遠坂曰く。

 

『あんな適当な結界見たことないわ よほどのド素人が張ったのね 同く魔術を扱うものとして恥ずかしいぐらいよ』

 

 らしい。魔術に関してよくわからない俺でも見つけられたくらいだ。他のマスターと考えるべきだが...魔術師があんなバレバレなことをするのか?

 

「夜の巡回は危険でもあります。本当ならシロウには家で待機してもらいたいのですが」

 

「ああ これだけは譲れない。わがまま言って悪いな」

 

 ...そういえば結局桜の様子はおかしいままだった。最近は元気がなくて、ぼんやりしていて

 

「ではシロウ。まずはどこに向かいますか」

 

 思えばこの数日前から様子がおかしかったな...

 

「シロウ聞いているのですか?」

 

 ...今度改めて桜に聞いてみようか

 

シロウ!私の話を聞いているのですか!!

 

「えっ!?あっ...すまん 気が緩んでいた。これからどうするかだよな」

 

 しまった。セイバーのことをないがしろにしていた。セイバーはむすっとした顔でこちらを見ている。

 

「地脈の流れに僅かながら異常を感じます。他のマスターが行動を起こしているのでしょう。 選択によっては今夜中に一人減らせます」

 

 いきなり戦うことになるってことか...もしバーサーカーのマスターと思われるあの子だったら不味いな。

 

 教会で言峰と名乗る神父から聖杯戦争の概要を聞いた後、あの子と出会った。雪のように白い髪と赤い目、なぜか俺のことをお兄ちゃんと呼ぶあの子はバーサーカーを従え突然俺たちの前に現れた。

 

 圧倒的な力の前にセイバーとアーチャーを持ってしても太刀打ち出来ず、俺がセイバーを庇ってしまい瀕死の傷を受けた後、何処かへと去っていったらしい。

 

「その場合のみ撤退することにしましょう。バーサーカーの宝具がなんであるか、それを見極めるまでこちらの宝具を使えませんから」

 

 セイバーが警戒してるのはバーサーカーだけ...か。さすがは最優のサーヴァントってわけだ。遠坂があそこまで言うのも納得。

 

「セイバー、確認するが俺の方針はマスターとサーヴァントが降伏した時は戦いをやめて――――」

 

「令呪を使い切らせてマスター権をなくす...ですがシロウ、敵がもしそれを受け入れない場合、その時は」

 

「...ああ その時は仕方ない。マスターとして戦う以上その覚悟はあるはずだ」

 

 できればそんなことはしたくない。誰であろうと命を奪うのはごめんだ。

 

 ◇

 

 しばらく二人で新都のあたりを歩き回ったものの特に異常は見られずもう一度深山町まで戻ろうかとセイバーに提案する。周りに人影はなく、道路を走る車の影もない。静まり返った夜の中、セイバーと共に歩いている。

 

「きい゛ゃぁぁ…っぁ…゛―!」

 

「――――!?」

 

 瞬間

 

 背筋が凍るような悪寒と共に、誰かの悲鳴が響き渡った。

 

「セイバー、これ...!?」

 

「サーヴァントの気配ですシロウ。場所はすぐ近くの公園の様ですが」

 

 戦う覚悟があってここまで来た。ためらいはあの夜死にかけたときに消え失せた。それにもかかわらず体は動かず、頭は逃げろ逃げろと叫んでいる。

 

 初めから覚悟なんてできてなかった、戦うということは襲われたとき、殺される前に敵を殺すということなんだ...救われたことがあっても誰かを殺そうとしたことはない。

 

「マスター指示を。何が起こっているのかはわかりませんが、今ならまだ間に合います。貴方の指示次第で、悲鳴を上げた人間を救うことも可能なはずです」

 

 冷静なセイバーのおかげで固まっていた頭、身体のしびれは解けていく。殺し合いをする、その恐れは、誰かを見殺しにするという恐れにかき消されていく

 

「悪いセイバー...!」

 

 全力で走りだす。悩んでいる暇などない、悲鳴のもと、恐怖の根源がそこにいる。

 

「―――俺はなんて間抜けなんだ、大馬鹿野郎が...!」

 

 故に、戦う覚悟など後から幾らでもついてくるのだ

 

 ◇

 

「は、ぁ――――」

 

 脇目もふらず公園に駆けこむ。溢れ出ている魔力は強大で、この上なく恐ろしいものだった。

 

 セイバーの脚が突然止まる。彼女の目は俺より早く、その場で何が起きているのか捉えていた。

 

「な――――」

 

 目を背けることすらできない。

 

 逆上する頭には嫌悪と恐怖しかない。

 

 ......俺にはそれがなんであるか分からなかった。

 

 人の生き血を啜る吸血鬼、死体を貪る獣、死臭をまき散らす黒竜、カニバリズムをする狂人...そのどれもが当てはまるようで、全く別物それ以上の恐ろしいもの。

 

 黒い装束の男が、女性の手足をもぎ取りその血肉を貪っていた。公園一帯にはそれが肉を喰らう音があまりにも生々しく響いている。

 

 ...それは人を食っていた。比喩表現なんかじゃない、あの黒い男は女の泣き叫ぶ声を聞きながらニタニタと気味の悪い笑みを浮かべ肉を貪っている。やがてその声がやんでも、ぴくぴくと震えるその様子を見てより一層笑みを浮かべた。

 

「―――――――」

 

 声が出せない。

 

 あんな化け物がサーヴァントだということに驚いているのもあるが、俺はその後ろ―――黒い男を嘲笑うように見ている見間違いようの無い人影を凝視していた。

 

「...慎二、お前―――」

 

 頭が働かない、現状が理解できない

 

 何でお前が、どうしてこの様子を見てそんな笑みが浮かべられるのか。

 

 俺にはまだ分からなかった。




次回いよいよキャスターの実力が明らかに、果たして最優と謳われるセイバーに一矢報いることができるのか?

次回 「キャスター」 お楽しみに

fgo 編のアタランテと怪物の関係 どれが見たい?

  • イチャイチャ
  • つよつよ奥様
  • しっとり/依存
  • 無関心/やり直し

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。