【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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桜と怪物 「キャスター」

「――――はっ、まさかお前が釣れるとはね衛宮 凄いな、間の悪さもここまでくると長所だね」

 

 俺には分からない

 

 なんであいつがここにいるのか。

 

 その手に持った本はなんなのか。

 

 どうして死にかけた女がいるのに笑えるのか。

 

 どうして、どうしてこんな馬鹿げたことが目の前で起こっているのか―――

 

「なに固まってるんだ衛宮? サーヴァントの気配を嗅ぎつけてやって来たんだろ? ならもっとシャンとしろよ。 僕は優しいからさ、馬鹿なお前にも判りやすいようにわざわざ演出してやったんだぜ?」

 

 聞き慣れたはずの慎二の声が、ひどく不快に感じた。

 

「――――殺したのか、お前」

 

 手に力が入る。慎二の目の前にいるサーヴァントは目に入らない。今は目の前の脅威よりも己の目の前にいる友人が行った所業が許せない。恐怖心などとうの昔に消え去っていった。

 

「はあ? 殺したのかってバカだねお前! サーヴァントの餌は人間だろ? なら結果は一つじゃないか」

 

「――――」

 

「ま、僕もどうかと思うけど仕方ないだろう? こいつらは生しか口に合わないってんだ サーヴァントを維持するには魔力を与え続けるしかない そりゃ最初はコイツも嫌がってたけどさ、僕にかかればこの通り」

 

 何が可笑しいのか、黒い男を嘲笑うように慎二は笑う。

 

 黒いサーヴァントは動かない。あの本によって動きを縛られているのか、アレは自らの意志で動くことはできないようだ。主人――マスターの命令がなければ何もしない人形。

 

「そこを退け慎二」

 

 時間がない 急げばあの女性は助かるかもしれない。

 

「はあ? 退けって、お前本気で言ってるの、それ? 食い残しが欲しいなら――ほら サーヴァントを戦わせてみようぜ」

 

「―――慎二」

 

「僕はサーヴァント同士の戦いが見たくて人を呼んだんだ。お前だってマスターなんだろ?なのにぶるぶる震えちゃってさ、そんなんじゃそこの女と変わらないじゃないか!」

 

「退く気はないんだな、慎二」

 

「しつこいな。どかしたかったら力ずくでやれよ。ま、震えてる分には構わないぜ? どのみち、お前にはここで痛い目にあってもらうんだからね」

 

 慎二の目に敵意がともる。

 

 それを命令と受け取ったのか、黒いサーヴァントがゆらゆらと立ち上がりこちらに凄まじい速さで飛び出してきた。とてもじゃないが目で追えない。

 

「―――来ます!!士郎は後ろに下がって!

 

 響く金属音。地にしっかり構え防御に徹しているセイバーと、目まぐるしく地面をかける黒いサーヴァントは対照的だった。

 セイバーは敵のスピードについていけず、ただ足を止めて敵の攻撃を受け流している。

 

 敵は黒い髪をなびかせ、鈍重な獲物を追い詰めるように畳みかけてくる。

 

「やっぱり()()通りの速さじゃないかキャスター! やっぱり僕の采配は正しかったんだ!! はははっ、なんだ、相手はただの木偶の坊じゃないか! マスターが三流ならサーヴァントも三流だったな!」

 

 俺と同じく戦いの場から離れて慎二は笑う...どうしてあいつがマスターになったのかは知らないが魔術師としての力はないようだ。その力があるなら遠坂のように魔術を使うはずだが慎二にはその様子はない。

 

 慎二はサーヴァントの援護をしない、いや出来ない。となると、あいつも俺と同じで偶然マスターに選ばれただけなのか?

 

「くっ――――――――」

 

 何度目かの攻撃を受け、セイバーの脚が止まる。その顔を苦しげだ。高速で襲いかかってくる敵に、苛立ちに似た視線を向ける。今のところ大した傷は負っていないのでセイバーにとっては鬱陶しい羽蟲と同じなのかもしれない。

 

「いいよ、決めちゃえキャスター!衛宮のサーヴァントを始末しろ!」

 

 

 黒い影が迫る

 

 ―――キャスターは主の命に従いセイバーの首を刈らんと加速し、

 

「ガッ―――」

 

 一撃で、その首を斬り落とされた。

 

 

「...え?」

 

 勝負は一瞬で付いた。

 

 セイバーの剣は敵の首を斬り落とし、首を失ったキャスターは力無く膝から倒れ伏した。

 

 慎二は自身の元へ転がって来たキャスターの生首を呆然と見つめ

 

「―――嘘だろ」

 

 俺は愕然と、つまらなそうに剣を収めたセイバーを見つめていた。

 

「なっ、なにやってんだよお前...!」

 

 罵倒する声。

 

 首を斬り落とされたキャスターが反応するわけもなく、ただ叫び声が響くのみ。

 

「ふざけるなよ!誰がやられていいなんて命令した!この僕が召喚してやったんだぞ、こんな雑魚な筈がないだろ!くそっ、衛宮のサーヴァントなんかにやられやがって...!」

 

 キャスターは答えない。そもそも答える口もなく、頭もない。その身体からはドス黒い血が流れ出ている。

 

「おい、さっさと立ち上がれよ、この死人!どうせお前らは生きてないんだ、首なんかなくてもいいんだろう!?ああもう、恥かかせやがって、これじゃあ僕の方が弱いみたいじゃないか!」

 

 キャスターの生首を踏みつけながら罵倒し続ける慎二。

 

 それを見かねたのか

 

「キャスターを責める前に自身を責めるがいい。どんな英霊だろうと、主人に恵まれなければ真価を発揮できないのだからな...しかし、キャスターが魔術を使わないとは」

 

 セイバーが慎二に向かって歩きながら正論を繰り出す。

 

 キャスターは接近戦が強いサーヴァントではないと聞いた。自身の陣地に結界や工房を作り上げ、魔術による戦闘が得意なクラスの筈だ。いくらなんでも近接戦闘が得意なセイバー相手は分が悪すぎた。

 

「っ...!ば、ばばばバカ、いつまで寝てるんだよ!マスターを守るのがお前らの役目なんだ、早く!早く立ち上がれよ!」

 

「...無駄だ、いくらサーヴァントだろうと首を刎ねられれば命はない。じきにキャスターは消失する」

 

 キャスターから流れ出た血で公園は赤く染まっていく。

 

「ここまでだキャスターのマスター。我が主の言葉に従い、降伏の意思を尋ねる。令呪を破棄し、敗北を認めるか?」

 

「う、うるさい 化け物が偉そうに...立てよキャスター! 僕の命令が聞けないってのか...!」

 

「―――、――――。―――」

 

 キャスターの身体から火花が散る。

 

 慎二の命令を守れない罰なのか、キャスターの死体は青白い放電に包まれる。しかし、そんなことをしても死体が立ち上がるはずもなく、ただ慎二の罵声が響くのみ。

 

「...なんだ?」

 

 少し違和感を覚えキャスターの死体を見つめた。

 

 いつの間にかセイバーの足元まで流れ出た血は広がっていた...おかしい。明らかに人体が含んでいる血液の量を超えている。

 

 それに...なんでまだ消滅していない?首を刎ねられたんだぞ?

 

「――――――――」

 

 セイバーの手が慎二に伸びる。

 

「ひ、ひぃぃ お、おい待て、待てよ!]

 

 セイバーが一歩踏み出した

 

 その瞬間――――

 

「セイバー!!」

 

「っ――――」

 

 赤く染まっていた地面から無数の触手が現れセイバーに向かって襲い掛かった。

 

「くっ...シロウ下がって!!」

 

 目にも止まらない速さで公園中から飛び出してくる触手

 

 次々に身体を貫かんと向かってくるどす黒い触手を切り落としながらセイバーは叫ぶ。一体何なんだアレ、キャスターの魔術なのか?

 

「おのれ、死後発動する呪術の類か!...っ!?」

 

 キャスターの死体を見た。

 

 ...嘘だろ。

 

 いつの間にか死体は立ち上がってる。首がなくなった動かないはずの死体のはずなのに。

 

「ひぃぃぃぃぃ――――」

 

 慎二は此処にいるのが恐ろしくなったのかどこかへと逃げ出してしまった。慎二の命令で襲い掛かってるわけじゃないのか?

 

「危なっ、クソッ」

 

 触手が頬をかすめる。

 

 慎二の後を追いたいがそれどころじゃない、今はセイバーが剣で捌いていてくれるがこのままじゃあ...

 

「あれ?」

 

 慎二が逃げ出すやいなや触手はするするとキャスターの方へ戻っていく...慎二を逃がすため、これ以上襲ってくる気はないのか?。

 

 フラフラと歩き出すキャスターの身体。向かう先は切り落とされた生首。それを掴むと首をもとの位置に付け直している。

 

「―――。――――ア、ア、あ゛あ゛あ゛......僕は相変らず、その剣は苦手だ」

 

「っ―――!」

 

 セイバーは改めてキャスターを警戒する。

 

 嘘だろ。首を堕とされても死なないサーヴァントだなんて...

 

「あれでも僕のマスターでね...この身に変えても、とは言いたくはないが一応守ってやらなくちゃいけない」

 

 先ほどの狂気的な表情はどこへ行ったのやら、驚くほどに理性的に話すキャスター。悲しいことに慎二に対しての忠誠心などはそこまで持ち合わせてないようだ。

 

「ごめんね、僕が治療でもできればよかったんだけど、他人を治すのは苦手でね.....ふむ、僕の一部を繋ぎ合わせてみるか」

 

 心配そうに自らが喰らっていた女性に声をかけるキャスター。魔術かどうかは分からないが女性の手当てをしている様子。

 

 とりあえず今は敵意が見られないと考え慎二のことを聞いてみることにする。セイバーが何か言いたげにしているがここは抑えて、後ろに下がってもらう。

 

「悪いセイバー。聞かなきゃいけないことがあるんだ、すぐに済ませる。また、戦うかどうかはセイバーが決めていい」

 

「.......」

 

 わずかに体を引くセイバー。警戒は解いてないものの一応は従ってくれるらしい。

 

 改めてキャスターに向き直る。

 

「...少し聞きたいことがある。なんで慎二がお前のマスターになってるんだ」

 

 キャスターは女性の手当て?をしながら答える。

 

「なんで?...う~ん、そう言われてもな。間桐の家が魔術師の家系だったから、これじゃあ駄目かい?」

 

 つまり、慎二も魔術を学んでいて...

 

「君も魔術師なら知ってるんじゃないかい?この地は間桐と遠坂、この両家が魔術の根を張ってるってこと」

 

「遠坂?...じゃ、じゃあ遠坂も知ってるっていうのか 間桐の家が魔術師の家系だって!?」

 

「...僕に言われてもねえ。今は知識しか持ち合わせてないんだ、そういうことは当人同士で聞いてくれ」

 

 どこか面倒臭そうに答えるキャスター。

 

 そりゃそうだ。キャスターはサーヴァント、間桐の人間でもないし知らないのは当然。

 

 でも間桐家が魔術師の家系ということは..,

 

「まあ、彼らの血にこの国は合わなかったようでね、既に間桐の子供から魔術回路は失われている。おかげで魔力を集めるのも一苦労というわけさ。 まったく、かつての魔術の名門はどこへ行ったのやら」

 

 そんなことはどうでもいい。

 

 じゃあ、慎二が魔術師の家系だとしたら――――

 

「ん...どうしたのさ?聞きたいことがあるならハッキリ言うべきだよ」

 

 桜、は

 

 もしかして桜も

 

「――――じゃあ。桜は―――桜も、マスター、なのか」

 

 一瞬、ほんの一瞬だがキャスターの動きが止まる。

 

 それから俺を見て、何やらおかしそうに口を開いた。

 

「いやはや、桜がマスター?それはあり得ないよ...フフッ、僕は君を少し過大評価していたようだ」

 

「あり得ない...? 桜に魔術師としての素養がないってことか?」

 

 少し癪に障る言い方に腹が立つが今は我慢しよう。

 

「それ以前の問題だ。魔術師の家系は一子相伝が基本。よほどのことがなければ後継者意外に魔術を伝えることはない。跡継ぎは二人もいらない......って本に書いてあったよ」

 

 ...こいつもよく知らないんじゃないか?

 

 でも、その話を聞くと桜は

 

「じゃあ。桜は――――」

 

「ああ、僕は確かに間桐慎二によって召喚された。 桜はそもそも、間桐の家が魔道であることも知らないよ」

 

 胸をなでおろす。

 

 ...本当に良かった。間桐が魔術師の家系ということは驚いたし、慎二がマスターになっているのは問題だ。

 

 それでも、桜後こんな戦いにかかわらなくていいのだと思うと、今は素直に安堵できる。

 

「さてと...うん、太さとか細かいのは教会の人に任せるとしてっと、ほら、この人を頼むよ」

 

 そうして女性をこちらに預けてくる。

 

 ...驚いた。喰われていた四肢は外見だけ見ればもと通りに見える。女性は意識はまだ戻ってないものの教会に行けば大丈夫だろう。

 

 どうやって治したのかは分からないが、キャスターの名の通り魔術を使ったのだろうか。

 

「それで、どうする?まだやるかいセイバー?」

 

「...今はこの女性を教会へ送り届けることを優先する」

 

 剣をおさめ女性を抱えてくれるセイバー。直ぐにでも教会へ行かなければ。

 

 だが、言わなきゃいけないことがある。

 

「キャスター。お前も慎二のサーヴァントならあいつをちゃんと見ていてくれ...できれば今日みたいなことをしないでほしい」

 

 敵にお願いをするのは妙な話だが、このキャスターは話は分かるやつだ。少しでも慎二のストッパーになってくれれば。

 

「うん。でも慎二がどう動くかは保証できないよ?僕はあくまでサーヴァント、命令されればどうしようもない。 あれは魔術師であることに執着しているようだからね、まったく...劣等感の塊というものは度し難いものだよ」

 

 キャスターの身体が霊体化していく。慎二のもとに戻るのだろう。

 

「じゃあね。セイバーのマスター、あと―――アルトリアも

 

「――――!?」

 

 その言葉を最後にキャスターの身体が夜の闇に消えていく。

 

 ふと、横を見るとセイバーがなにやら動揺している...こんな彼女を見るのは初めてかもしれない。

 

「どうしたんだセイバー、キャスターと何かあるのか?」

 

「いえ。なん、でもありません」

 

 足早に歩き出すセイバー。どうしたのだろう最後にキャスターが何か言っていたがよく聞こえなかった。機会があればいつか聞いてみよう。

 

「(なぜキャスターは私の名を...)」

 

 ...動揺した頭でいくら考えてもそれを彼女が理解することはなかったのだった。

 




 何だか癪に障る言い方をするキャスター。でもちゃんと話は聞いてくれている...かもしれない。

 良かったらご感想などよろしくお願いします。

 7周年アタランテの水着がくることを祈って生きていきます。

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