【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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桜と怪物 幕間「返して」

「じゃあね、あんたもさっさと帰りなさいよ」

 

「うん、お疲れ様――!また飲もうね―――!」

 

 手を振り友人を見送る。お互い仕事が忙しく中々都合がつかず、久しぶりの飲み会だったこともあり、つい話が弾んでしまいもうこんな時間。

 

 酔いも進み、何だかぼーっとしてしまう。

 

「ふう―――さてと、わたしも行くとしますか」

 

 歩を進める。

 

 カツカツ、カツカツ、とヒールの音が響く。

 

 夜の街には珍しく人の影すらない。何だか独り占めをしてる気分になってしまう。

 

「...ん?」

 

 そんなこんなで歩いていると、ふと、いつもと違うことをしたくなった。

 

 いつもは歩かない路地裏の脇道。それを見つけた。

 

「そうだ...今日はこっちの道を行ってみよう」

 

 暗く狭い小道。

 

「なんだか最近物騒だものね」

 

 今朝のニュースを思い出す。

 

 集団幻覚だとか行方不明者多発だとか、暗いニュースばかり。何だか街の雰囲気も引きずられているような、そんなふわふわとした考えを浮かべる。

 

 カツカツ、カツカツ、足音だけが響く。

 

「(いつもの道の方が近いけど、あんまりにも誰もいなくて寂しいのよね)」

 

 だからこの道を進む...?

 

 誰もいなくて寂しい道を...?

 

 カッ、カッ、カッ、カッ、カッカッカッ――――

 

 それってなんだか―――おかしい?

 

「あれ...?」

 

 やがて気づいてしまう。

 

 自分の足音が早まってることに。

 

「はっ...はっ...はっ...」

 

 自分が何かから逃げるように走っていることを。

 

「ちょっと...なによ...はっ...なんなのよ...!」

 

 おかしい。だって後ろには誰もいない。

 

 分からない。

 

 だって見られてる。そこら中に目があるみたいに。

 

 きっと迫ってくる。何かが、影が、黒い黒い恐ろしいもの。

 

「(早く帰らなきゃ。ここにいては駄目。安全で安全な早く早く)」

 

 走り続けた。

 

 やがて開けた場所にでる。

 

「あ...れ...?」

 

 そこは人がにぎわう街中...などではなく、人気のない木々がにぎわう広場。

 

 十年前の火災後にできた鎮魂の広場。昼間ならまだしも夜は近づきたくない曰く付きの場所。

 

「おかしいな...わたしなんでこんなところに...?」

 

 何だか笑えてくる。

 

 乾いた笑いが口からこぼれ始めた。

 

「あはっ、なにしてるんだろ、あはははははは...」

 

 黒い影が辺り一帯を暗く染め始める。

 

 もう逃げられない。

 

「あははっ、アハハハハハハハ、は、あははははははハハハハハ――――」

 

”シュッ”

 

 黒い影が迫り、切り取り始める。

 

 幸いなことに痛みはなかった。一瞬で切り取られたのだから。

 

「あへえ...?わた、わた、しの...腕、どこ?...あはは、は、ははは――――」

 

 現実を受け入れきれず、もうない腕を探すように彷徨った。

 

”シュッ...パクッ”

 

「あがっ――――」

 

 地面に倒れ伏す。

 

 立てない。立てない。

 

 足に力が入らない。足がまるでなくなったみたい...?

 

『―――こらこら。食べるならお行儀良くしてもらわないと。急にいなくなった困る』

 

 誰か来た。

 

 助けを求める声を出す。

 

 でもそれは人の形をしてなくて...

 

『...おや?』

 

 その素顔を見たときの記憶が最後。

 

 テレビの電源が落ちるように意識を失った。

 

 ◇

 

『おや、もうお腹いっぱいかい?』

 

 ノイズが走るように黒い影は薄れていく。腹が満たされればしばらくは大人しくなる。まるで赤ん坊のような存在だ。

 

『...段々と自我を持ち始めたな。そろそろ取り込まれるのも時間の問題か...ん?』

 

 考えに耽っていると、目の前に女の足を差し出される。

 

 これじゃ、餌付けされてるのはどちらか分からないな。

 

『ああ、くれるのかい?そりゃどうも』

 

 ...どうやら個人の認識程度ならできているらしい。

 

 何はともあれ新鮮なうちに食べる方がいいだろう。

 

「まったく。こうでもしないと人の形を保てないとはね」

 

 肉を喰らい、魔力を満たす。触手の化け物から人に近づける。

 

 ...無理矢理に割り込んだつけにしては高い代償だ。サーヴァントであればここまで苦労しないだろうに。

 

「ここまで生に縋らないといけないなんて,我ながら馬鹿らしい」

 

 聖杯などどうでもいい。あんな偽物の遺物、目にするのもはばかるというもの。

 

 ようは利用するだけだ。

 

 偽物とはいえ、純粋な魔力であることには変わりない。

 

「さて...まだ息があるのか...君は運がいい」

 

 食べ残しが出たときは毎回こうしてる。残り物は利用してこそだ。

 

 切断された四肢に肉片を埋め込む。次第に馴染んでいくだろう。

 

「ふむ、だいぶ上達したな。元通り...というわけではないけど誤魔化しは効く」

 

 あまりここに留まるのはよくない。

 

 あの王の庭でこのようなことをすれば打ち首確実。まだやり合うわけにはいかない。

 

 あれを倒すなら真っ向勝負をしてはいけない。

 

「せめてもの償いだ。目に付きやすいところまで送ろう...フフッ、君はどんな子になるのかな?」

 

 街は確実に染まっていく。

 

 最後の夜、その時を待ち侘びるように。

 

 ◇

 

「おーい、アンタ大丈夫か?」

 

 体を揺さぶられる。

 

「わた、わたし、わたしの...あははっ」

 

「...なんだなんだどうしたんだ?」

 

「いやよ、この姉ちゃん酔っぱらってるみたいでよ...おいおい立てるか?」

 

 たてるわけない、うでも、あしも

 

「ないの、ないのよおおおおおおお」

 

「はあ!?...何がないってんだよ」

 

「うでえ、あじも、ないの!!ないのよおおお!!」

 

 ないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないのないの――――

 

「...おいおい。ちょっとヤバいんじゃないか。薬でもやってるとか」

 

「警察...いや救急か?」

 

「最近こういうの多いよな...怪しい薬でも出回ってるんだろ」

 

 女を囲む人々。皆、怪訝そうにそれを見ている。

 

 ないと叫ぶ女が求めるその手足はしっかりとついているのに。

 

 それでも女は叫ぶ。失った手足を探すように。

 

「ない...ないの...―――わたしの...返してよおおおおおおおおお!!」

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