まあ、どうでもいいことですけど
空より産まれ堕ちてくる“それ“が学校に直撃する刹那、
「———
大気を震わせ、その真名が開放される。
わずかな時間、それは停止した。
開かれた七枚の花弁はこの地を守護し、それが産まれ堕ちるのをアーチャーは“宝具“によって食い止めている。
誰が知ろうか、この守りこそアイアス。かのトロイア戦争において、大英雄の投擲を唯一防いだとされる絶対の盾。投擲武具、使い手より放たれた狂気に対してならば無敵と称される結界宝具。
キャスターの宝具が投擲に関するものであればここで勝負は決していた。
しかし、
相対するは、ただ重力に従って堕ちてくる物体。
「———っ.....!!!!!!」
花弁に亀裂が走る。
一枚、また一枚、花弁は四散してゆく。
“それ“に意志があるのかは分からない。しかしながら、大量の触手と共に花弁を砕きながら“それ“はこちらを見下ろしている。
「驚いた、あれはアイアスの盾か。いやはや、なんとも懐かしい物を見せてくれる」
外を見上げるキャスターはどこか懐かしそうに花弁を見た。
「ぐ...キャスター...」
アーチャー一人では抑え切れない。歯を食いしばり、天に掲げた両手によって花弁の盾は支えられているが、その膝が崩れ落ちるのはあと僅か。
手に剣を持ち、ゆっくり、ゆっくりとアーチャーの苦しむ様を愉しむように一歩一歩近づいてくるキャスター。
——ニゲろ
間抜けなことに、俺は一歩も動くことができなかった。
——アレを打破デキルノハ正シイ英雄
巻き込まれる。
——アナタは英雄デショウカ?なら挑ミマショウ。アレは乗リコエルベキ障害
ここにいては、あの化物に完全に飲み込まれる。そう考えてしまうと、足は凍りついたように動かないのだ。
——アカイ眼がコッチをノゾイテいる。メノマエニ触手ガ迫ル
立ち向かわなきゃいけない、分かってる、そんなこと理解しているはずなのに。それを本能は拒否している、“無駄死にするだけだ。大人しく生き延びる努力をしろ“と
——触手ガ、セマル
本能に従う、今はそれしかない。
俺はキャスターの後ろで蹲る桜をつれて退避するためにも遠坂の方を見たが
「———止まりなさい!」
彼女は既に走り出していた。
キャスターに魔力がこもった指先を向け、アーチャーの前に立つ。
だがキャスターは止まらない。
むしろ手間が省けたかと言わんばかりの顔で近づいてくる。
「来るな...!ささっと逃げろ、たわけ...!!」
アーチャーが叱咤するものの遠坂は引かない。
そればかりかキャスターに向かって魔術を繰り出した。
「———Acht...!」
先ほど学校に突入した際、キャスターに放った魔術は確かに効いていた。
「———Sieben...!」
だが今はどうだ。
放たれた魔術はキャスターの肉を抉り、魔術回路を焼き、命を穿たんと襲い掛かる。
「———Sechs Ein Flus, ein Hal...!」
ああだが、それがどうした?
「痛いじゃないか」
肉が抉れようが、焼かれようが、たとえ命が削れようが、その肉体は瞬時に再生する。
「凛...!よせっ!」
一歩、また一歩、ゆっくりと近づき、ついに遠坂の目の前に迫る。
「—————————っ!」
剣が振り上げられる。
ここまで近づかれれば、もう防ぐことはできない。このまま脳天に振り下ろされて、それでおしまい。
廊下が血で染まろうとしたその時、
「...やめて...キャスター...」
小さな声が聞こえた気がした。
その声に反応し、キャスターの動きが止まる。
「———がぶっ」
結果的に、遠坂に剣が振り下ろされることはなかった。
「え、アーチャー...?」
遠坂が後ろを振り向く。
そこには、後ろの血溜まりから発現した長い槍に串刺しにされたアーチャーの姿があった。
「グ———」
同時に花弁の最後の一枚が砕け散る。
アーチャーは胸の部分を完全に貫かれ再生は不可能だとここからでも判断できる。
それを悟ったのだろう。
遠坂は震えた声でアーチャーに呼びかけ、おぼつかない足取りで近寄っていく。
まだ遠坂は気づいていない。
既に盾は砕け、この校舎に無数の触手が入り込んでいる。
呆然としている遠坂に触手が迫る。
「遠坂———!」
そこでようやく足が動いた。
本能は相変わらず、“逃げろ“と叫んでいるが知ったことか。
まだ間に合う。
全力で走って、遠坂の手を引いて真横に跳べば、それで———
「あっ、やば...」
最初は体を吹き飛ばされた感触、そして視界と知覚が真っ赤に染め上げられた。
「が———a———ぁ———」
続いて襲ってきたのは喪失感。
体はある。
まだ生きている。
「あ———あ」
ただ、あるべきものが、左腕の感覚が...二つある物が欠けるだけでこんな喪失感があるとは。
切り裂かれたのは左腕だけだったのは幸運だった。
まだ、生きてる。
「———いや」
遠坂は...大丈夫、そうだ。何を言っているかは聞き取れないが、取り乱しながらこちらに駆け寄ってくる。
アーチャーは、いた。もう消滅寸前だが、確かにいる。
桜は...胸を掻きむしったまま、床に転がった俺を見つめている。参ったな、早く助けないといけないのに。今の俺では駆け寄ることすらままならない。
周囲の魔力が桜に集まる。
「いやぁ———あああ...!!!」
糸が切れた人形のように、魔力を暴走させ倒れ伏す桜の姿。
それが意識を失う前に見た最後の光景だった。
「凛、聞け。このままでは死ぬのは二人だが.....」
ちなみに、固有結果発動されれば負けだった可能性も無きにしも非ず。
次回 「私の勝ち」
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