【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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桜と怪物 「お散歩タイム」

〜アトラム・ガリアスタの工房〜

 

魔術協会から参加したマスターの一人であるアトラムはサーヴァントを召喚したのはいいが、現状では直接戦闘に参加するわけではなく、この惨状を目にして静観に徹していた。

 

「既に4騎の脱落者が出ている。そろそろ僕らも参加する頃合いだと思わないかいライダー?」

 

「.......」

 

「チッ、愛想のない女だ」

 

アトラム家の歴史は浅い。元々、没落するはずの一族から金でその歴史ごと買い上げ成り上がった一族だ。魔術協会内での地位(勿論、金で買った)はある程度あるものの、生粋の名門には劣る。

今回の戦争に参加したのは、自分に箔をつけるためである。

 

「前回のエルメロイは遊び半分だったけど僕は違う。真剣に勝ちに行くつもりだ。

なにしろ投資した額が違うからね」

 

彼が召喚したのはギリシャ神話において英雄ペルセウスにより退治された怪物“メデューサ“。今回の聖杯戦争において申し分のない英霊だろう。

もっとも、彼がサーヴァントと信頼関係を築けていればの話ではあるが。

 

「....ん?何事だ」

 

突然鳴り響く警報。

工房内に侵入者が侵入したことを知らせるものである。

アトラムはすぐに配置しておいた使い魔により情報を得る。

 

「マスターも連れず単身で侵入とは良い度胸じゃないか」

 

そこに写っていたのは、単身で工房へと遊びにきた黒い男。次々と仕掛けられている罠に嵌っていくものの、何事もなかったかのように進んでく。

どうやら、最下層にある錬成工房に向かっているようだ。

 

彼が魔術工房としているこのビルの最下層には彼の切り札とも言える魔術道具を作り出すための錬成工房がある。アトラムの魔術は「原始電池」と呼ばれるものであり、科学としての物ではなく、最初から魔術によって伝えてきた最古の系譜にあたる。

この力を使えば神鳴、果ては天候まで操ることが可能だという。

もっとも、その魔術道具を作り出すためには儀式が必要である。原始的な生贄の儀式が。

 

黒い男が...キャスターが工房に入り目にしたものは、なんとも度し難い光景だった。

透明のガラスケースに狭苦しく詰め込まれた幾人もの子供。この工房で行われているのは一つの魔術道具を作り出すために行われる生贄の儀式であった。

 

キャスターはガラスケースを粉砕する。

中にいる子供たちは意識がないものの息はある。もとより、効率よく儀式を遂行するため世界中から集められた孤児。このまま解放したところでどうなるかは知ったことではない。

だが、それでも生きているのならばマシだと考えた。

 

「———猛れ(ガッシュアウト)

 

「っ...!」

 

キャスターの背後から雷撃が襲い掛かった。

振り向くと、アトラムとそれに付き従うライダーの姿が。

 

「おいおい、敵地に来ておいて背中を見せるのはいけないなあ」

 

勝ち誇ったように笑うアトラム。

彼は使い魔を通して聖杯戦争を見ていた。その中で、キャスターの弱点を見抜いたのだ。

 

「君は対魔力が低い。いや、あまりに低すぎる。キャスターのクラスであること疑ってしまうほどにね!

 

遠坂のマスターの魔術がキャスターの体を傷つけたのを確認した彼は「原始電池」を利用した自分の魔術であれば十分に対処できる相手だと判断した。

それほどまでに、キャスターの魔術耐性はないに等しいのだ。

実際、魔術を受けたキャスターは皮膚を切り裂かれ、身体中を焼き焦がされている。

しかし、その顔が苦痛に歪むことはなく、自身に纏わりつく電撃を興味深そうに見ているだけだ。

 

「うん。効くね、これ。

よければ、もう少し肩のあたりの電圧を上げてくれないかい?最近肩こりが酷くって」

 

「なっ!?」

 

キャスターは肩を指差しながらアトラムに言った。

彼にとってその言葉は侮辱以外何にでもなかった。

かの大魔女メディアに匹敵すると自負していた己の魔術は目の前の敵にとってマッサージ機程度なのだと。

 

「〜〜〜〜〜!!

やれライダー!!」

 

故に彼が取る行動は一つ。

己のサーヴァントに敵を排除することを命じる事であった。

 

ぶつかり合う、黒い影。

ライダーは鎖を操り、キャスターに向かって駆ける。

お互い自らの速さが強み。互いの攻撃を避け続け勝負は拮抗するかに思われたが...

 

「.......」

 

ライダーは自分のマスターから受けた扱いを思い出していた。

 

『ほう、なかなか可愛らしいじゃないか。長身であることを除けばだが...

どうだい、僕のハレムに加わるというのは?』

 

『いえ、お断りします』

 

『ふざけるな!使い魔風情が口答えをするんじゃない』

 

自分を殴ってくるマスター。その光景が脳裏に浮かんだ。

命令には従おう、それが自分の役割であるのだから。

しかし...しかしだ。このままマスターに従っていても意味はあるのだろうか?

そう考えたライダーは、

 

「うわー、やーらーれーたー」

 

あっさりと負けを認めたのだった。

キャスターは面を食らったようだが、まあいっかとアトラムに近づいていく。

もとより目的はライダーではなく、そのマスターの方なのだ。

 

「ふ、ふざけるなライダー!!僕を守るのがお前の役目だろうが!?」

 

「申し訳ありませんマスター。これでも私、全力を尽くしたのですが」

 

「嘘つけ!?——ひぃっ」

 

首を締め付けられ、そのまま持ち上げられる。

キャスターの目には僅かに怒気が浮かんでいた。その理由は本人にもわからないだろう。

“殺される!?“

そう感じたアトラムの行動は早かった。

 

「ま、待ってくれ!取引、取引をしようじゃないか!」

 

「はて、取引?」

 

「そ、そうだ。僕にできることならなんでも聞いてやる!

だ、だから命だけは...」

 

まだ自分は何もしていない。何も成していないのだ。だからここで死ぬわけにはいかないと懇願する。

 

「なんでも、なんでもかあ」

 

意地悪く笑みを浮かべながら思案する仕草を見せるキャスター。

ビクビクと震えるアトラムの姿が面白くてしょうがない。思わず、首を絞める力が強くなってしまうほどに。

 

ひとしきり反応を楽しんだ後、キャスターは答えた。

 

「なら———」

 

それを聞いたアトラムは驚愕の表情を浮かべ、そんなのできるはずがないと首を振る。

だが、結局は自分の命可愛さにキャスターの願いを聞き入れるのだった。

 




現代の魔術師がいくら研鑽したところで神代の魔術には決して届かない。

主人公が魔術を喰らったところで「くっそ痛え、死ぬぞこれ」って感じるぐらい。ダメージは与えられるけど、すぐに修復が始まるので足止めになればいい方。アトラムさんの魔術は優れたものではあるけど、比較対象が悪すぎた。

なお、神代の魔術であれば消し炭に出来るらしい。

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