【悪役を押し付けられた者】   作:ラスキル

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その娘は私たちとは違う。
まだ引き返せます。怪物に、こちら側にしてはいけない...

ライダーの言葉は桜に届くのか、

やってること蟲爺とあんま変わらない...


桜と怪物 「怪物」

「で、わざわざ私を連れてきたの凛」

「ええ、衛宮君に宝石剣を投影して貰うために貴方が、アインツベルンの記憶が必要なのよ」

 

桜を家において俺たちは山中を歩む。

向かう先はアインツベルン城...ではなく遠坂が管理する地脈がある土地へと足を進めている。

不満げなイリヤと霊体化して護衛に当たってくれているライダーを連れて。

 

あの戦いの後、遠坂と合流した。

再びサーヴァントを失った彼女と俺は一時的な共闘を結ぶ。だが、お互いの目的は違う。

遠坂は桜を殺すため、俺は桜を救うために。

あくまでこの共闘を結んだのは、アイツを桜から引き離すため。

 

『キャスターなど偽りの皮、この世界に現界するための楔にすぎない』

 

アイツは自分のことを『キャスター』じゃないと言った。

だったら一体何者なんだ。

桜を苦しめているアイツは、

 

「ねえ、シロウ?『黒い怪物』の伝説は知ってる?」

「———黒い、怪物?」

 

...記憶を探ってみる。

その名前はどこかで聞いたことがある。

確か、

 

「それ聞いたことあるわ。

 お母様がよく言ってたっけ。早く眠らないと怪物がくるぞーって。外国の方じゃ子供の躾の常套句よね」

 

そうだ、確か古い童話か何かで聞いたことがある。

でも俺が知ってる限りでは安倍晴明と戦う話や、鬼の一味にいる敵の一人とか御伽噺のそんな類だ。日本ではあくまで物語の悪役的立ち位置、倒されるべき象徴だったと思う。外国の方じゃ、黒い怪物がモデルになっている映画なんかもあったような気がする。

 

「そう、日本にも伝わっているのね」

「でもイリヤ。それが一体どうしたって言うんだ?」

「まさか...!

 無理よ、だってあれはサーヴァントに収まるわけない」

 

あれの正体は、

 

「———黒い怪物(マヴロス・モンスター)

 それがあいつの真名。かつて神を喰らい、星の願いの前に敗れた正真正銘の怪物よ」

「...ちょっと待った。それは可笑しい。

 この聖杯戦争で召喚されるのは英霊しかいないんだろう?」

 

疑問を口にする。

遠坂から聞いた限りじゃ人類史に名を残した人間、それがサーヴァントとして召喚される。神話だったり、実際の歴史だったり出自は様々だが純粋な悪、怪物そのものが召喚されることはまずあり得ないって話だ。

 

「...以前まではね。でも、そこにいるライダーも純粋な英霊じゃないわ。今の聖杯戦争は純粋な英霊だけじゃなく、悪を以って善性を証明する反英霊も召喚されちゃうの」

「だとしても、不可能よイリヤ。聖杯は再現できる規模でしか呼べないし、そんな神霊レベルの現象を再現できるほどなら聖杯なんて必要ない。

 いえ、そもそも間桐家がそれほどまでの触媒を用意できたとは思えない。召喚できたとしても、依代なしじゃ活動できないはずよ」

「召喚された、なんて一言も言ってないわ。

 あれはまだ死んでない。この世界に存在している、生きている怪物」

 

「...ええ。もうずっと昔、言語が統一されてた頃の、ちっぽけな世界の話よ

 それは、一匹の妖精の悪戯によって産まれたの」

 

「昔々、世界は神秘に溢れていた。人間が住む身近にも幻獣や妖精がいたし、神も実際に拝める存在だった。

 ことの発端はある村から始まったの。 

 その世界にあった妖精の村には娯楽がなかった。毎日空を眺めて、人間を観察して、真似をして、それで1日が終わるぐらい退屈な世界」

 

「その村ではね、ごっこ遊びが流行っていたの。でも悪役をしたい妖精なんか一人も居なかった。

 だから悪役を作ってしまおう。そうすれば自分達は正義の役でいられる。

 そんな子供ような考えを一匹の妖精はしてしまった」

 

「そうして妖精は一人の人間を攫った。

 妖精はその人間にあらゆる悪性情報を積み込み、戯れで“あらゆる物に姿形を変えられる“という特性まで付与した。魔術世界において妖精は人を超えた魔術を行使できるとされてるわ。それに時代は神秘溢れる神代だった、だからこんな無茶ができたのでしょうね。

 それでおしまい。

 あらゆる悪を押し付けられた怪物は誕生した」

 

「結局、妖精の思惑通りにはならず怪物は暴走。世界を焼き尽くし、あらゆる神を葬った。

 でも、それ許さなかった星は一人の英雄に願いを託し、その聖剣を持って怪物を打ち倒した...と、されてるけど実際のところは分からない。

 その後も歴史上に何度も名前が出ているわけだし、何かしらの方法で生き残ったのかもしれない」

 

「怪物は姿形を変え人類史を歩み続け、いつしか恐れられるようになった。

 ——————それが“黒い怪物“

 “悪役“を押し付けられた、ただ普通の一般人。妖精が作り上げた、今も生き続ける“怪物“という名の呪いのカタチ」

 

イリヤは淡々と大昔の出来事を語り終えた。

重苦しい空気が漂う。

 

「.......」

 

...しかし。

イリヤの話が本当なら、黒い怪物になった人間は今も悪役というものを背負い続けながら生きている事になる。それがアイツの正体。

だとしてもどうして、桜のもとにいるのか。

一体、アイツの目的は何なんだ。

 

「...黒い怪物の話は分かったわ。

 そういう事だったのね。やっとあの金ピカが言ってたことが理解できた」

 

『はっ、奴が英霊なぞになるものか。

 あれは未だ死に場所を求める哀れで惨めな人間だ』

 

『それにしてもキャスターなどと、魔術の扱いも碌にできん阿呆が見栄をはりよって。

 雑種、貴様を月とするなら奴は犬の糞ほどの腕しかない。

 おおかた、神代規模の使い手が呼ばれるのを恐れたのだろうさ』

 

『アレはその程度の臆病者...ただの臆病な人間に過ぎん』

 

「英霊の皮を被った怪物だったってわけ...いえ、あの怪物にも様々な側面があってその一つが英霊に近しい性質を持っていたとでもいうべきかしらね。

 けど、どう考えても規模が違い過ぎるわ。確かに圧倒的な力を持っていたけどあの金ピカ、ギルガメッシュには劣勢だったじゃない。結局騙し打ちの形でどうにかしたみたいだけど。逸話に対してどうにも見劣りしているようだった」

 

イリヤの話では神々を相手取ったとされるが...正直、あの戦いを見ていても凄まじい力を持っていることしか分からないため、俺には判断できない。それでも何処か勝負を焦っていたようにも思える。

 

「さあね。いわゆる死にかけなんじゃないかしら。

 最古の記録が紀元前レベルですもの。あの怪物にも寿命があるのかもね」

「だとしても、どうしてそんな怪物が聖杯戦争に参加するワケ?既に死にかけなら大人しくしとけばいいでしょうに」

「私に言われても困るわ。よくある不老不死を求めてかもしれないし、或いは桜と繋がってる...聖杯の中にいるものが目的なのかも」

 

 

「うん...上出来よ衛宮君」

「—————————」

 

投影は成功...したらしい。

何だかよく分からない記録を見せられ、非常に重要なことであっただろうが俺には理解できることではなかった。

投影は成功した、したんだけども、どうも記録の中で見たのとは違うような。

いや、そもそも創り出したこの剣にはまったく魔力を感じない。

こんな刀身では物を斬りつけることすら難しいだろう。

 

「ううん。投影だけなら完璧、非の打ち所のない剣製よ」

「う...実感が湧かないんだけど、本当にこれでいいのか遠坂?なんかへぼっちいんだけど」

「いいのよ。その剣はシュバインオーグの系譜しか扱えないとびっきりの切り札なんだから。

 ま、本当ならもっと長い時間をかけて辿り着かないといけない魔法使いからの宿題なんだけど...いずれは自分の手で作れるようにならなくっちゃね」

「魔法使いからの宿題!?...この短剣、そんなに凄いものなのか———」

 

———と。

油断、した。

気を抜くと目の前が霞む。

 

「—————————」

 

大丈夫。大丈夫。

まだ、何も欠けてはいない。

一度でもアーチャーの腕を使い投影してしまえば何かが失われると危惧していたが、幸い何処も欠けてない。

 

「シロウ...その腕を使って本当に良かったの?」

「ん、ああ。大丈夫」

「でも、このままじゃシロウは」

「イリヤは心配しなくていい。このくらいなら何とか我慢する。たとえ死にそうになっても我慢するから」

 

俺は桜を守るためなら。この命がある限り、何度だって...

 

心配そうに見つめるイリヤの頭を撫でようと手を伸ば———

 

「—————————っ!」

 

悪寒がした。

ひやり、と背に冷たい違和感。

嫌な予感、早く戻らなければ、という蟲の報せが脳を駆け巡る。

 

体が勝手に走り出す...前に、俺の体は宙に浮いた。

 

「シロウ...掴まってください」

「って、わああああああ!」

 

グイッと身体が引っ張られ宙に体が浮かぶ。

先ほどまで姿を消していたライダーが俺の体を抱いて地を駆ける。

 

「本来であれば、あの娘を殺す剣を創り出した貴方を殺してしまいたいところですが...少々事情が違ってきました」

「桜のことか?、まさか」

「ええ、アレがサクラの側に。何重にも結界を張っていたのですが恐らく破られたかと」

 

冷静を保っているようにも見えるが、ライダーの走りには焦りがある。

彼女は桜に何やら思うことがあるようで一時的に力を貸してくれているのに過ぎない。

 

今はライダーの速さだけが頼りだ。

 

山を越え、川を越え、幾たびの国道を走り抜け僅か数分足らずで家が見えてくる。

家の壁が見えたところで降ろしてもらい、玄関に向かって走り出す。

 

「くそ、アイツ、桜に何をするつもりだ...!」

 

玄関の扉を勢いよく開く。

暗がりの中、ソレはいた。

そこに立っていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「———ああ、帰ってきたんですか。困ったなあ、もう少し綺麗にするつもりだったんですけど...まあいっか」

 

血まみれの少女が立っていた。

玄関前は踊りでも舞ったのだろうか、ドス黒い足跡が床の所々に付いている。

誰の血か、そんな考えが頭をよぎった。幸いにも藤ねえは違う、靴はないし、このところ家に来ないように言ってある。

だったら誰...いや、それよりも...目の前の桜は、本当に桜なのか?

姿形は桜そのものだ。違うところといえば、衣服は血のようにドス黒いドレスのような物を着ており、髪は黒く染まっている。

 

「さく、ら?」

「お帰りなさい先輩。どうしたんですか、まるで...怪物を見ちゃったような顔をして」

 

まるで再生テープのように、いつもの桜の言葉を再現していた。

 

「桜———その、姿」

「うふふ、ふふふふふっ」

 

目の前の少女(怪物)は笑う。何が可笑しいのか。

 

「っ———」

 

ぞくっ、と背中が総毛だった。

ぎちり、とナイフで裂かれたような極寒の痛み。

“逃げろ“、“逃げろ“と警告音。

 

 

「ねえ、先輩。そこに居たら苦しいでしょう、こっちに、わたしの傍に来ませんか?」

「え...」

「先輩が来てくれたら()()()も喜びます。わたしにとって、嬉しいことは先輩だけだから。

 先輩だって、わたしから離れたくないですよね?」

 

少女(怪物)の背後に影が浮かぶ。

影は踊る、まるで舞台に立った演者。

 

「わたし考えていたいんです。どうすれば傍にいてくれるかなって」

 

———影が伸びる。

大きな触腕を広げ、俺を飲み込もうと次々に触手が、

 

「でも、わたしといるかぎり、先輩はずっと苦しみ続けてしまう。

 だから殺してあげることにしたんです。そうすれば、わたしの傍にいてくれるし、それに———

 

 君も、苦しまなくて済むだろう?」

 

「あっ....」

 

俺は怯えた。

もう俺には目の前の生き物が桜だとは認識できない。

その場から動けず、迫る触手を目で追った。

自分から避けようとは考えなかった。

 

——死ぬ

 

これに触れてしまえば死ぬ。

それが分かっているのに、どうしてか俺の足はすくんで動かない。

苦しい、恐ろしい、外に出たいと体は発狂する。

足は後ろに飛びのこうと震えだす。

 

だが、跳べない。

足を踏み出すべき地面は既に呑み込まれている。

俺はこのまま、

 

『シロウ、手を』

 

 

 

「ぁ———え?」

 

気がつくと外にいた。

目の前には、視界を覆うほどの紫の髪。

 

「....ライダー」

「これは貴方の命令です『衛宮士郎と間桐桜を守れ」と」

 

黒い触手から救い出してくれたのはライダーだった。

素早く俺の体を抱き抱え、外に躍り出たのだ。

 

「シロウ、私の後ろに。あの触手に触れてしまえば、たとえサーヴァントであれ無事では済みません」

 

いまだに震える膝を動かし、彼女の背に隠れる。

少女のカタチをした怪物はゆったりとした足取りで外に出てくる。

 

「姿が見えないと思ったら、そう、逆らうのねライダー」

 

...周囲はとうに黒く染め上げられていた。

少女の背後の影が大きくなる。

ライダーは逃げる素振りを見せず、襲い掛かろうとする触手に警戒を向け、少女に語りかける。

 

「その娘は私たちとは違う。カリュドーンの怪物として葬られた貴方なら分かるでしょう?

 ...まだ引き返せます。サクラをこちら側(怪物)にしてはいけない」

 

まるで子供に言い聞かせるような声で語るライダー。

しかし、目の前のそれは事の善悪がわからぬほど幼くはない。

ライダーの桜を思う言葉は本物だったとしても、もう怪物の中にいる彼女には届かない。

 

少女は嘲笑うようにライダーに視線を向け、

 

「つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言葉を残した後、一瞬にして俺たちの前から姿を消した。

 

 

 

〜柳洞寺〜

 

主人が居ないこの寺は数日で寂れた雰囲気を出していた。

その寺の山門に少女は立つ。

ここからは冬木市の景観が一望できる。これが日常の一幕であったのなら実に映える一枚絵になっていた事だろう。

 

空に目を向ける。

既に日は沈み始め、しばらくすれば夜の時間が訪れる。

どこに行くのだろうか、飛行機は軌跡を生み出しながら飛び去っていく。それを目で追いながら手を前に差し出す。まるで、町を包み込むように。

 

ズンと周辺の空気が沈んだ。

 

「———告げる」

 

町全体に響かせるように少女は呪詛を唱えたのだ。

 

 

 

 

 

曰く、ソレは全ての悪、怪物とされた者の祖であり、子である。

曰く、ソレは名を変え、姿を変え、その度に死を味わった。

曰く、ソレは個であり、群となった。

 

聖書の中に怪物とされる一文がある。

 

“主がその地に至った時、悪に憑かれた黒き人あり。この者、人に恐れられ鎖に繋がれたものの、鎖を千切り、足枷を砕き、その地を荒らす。誰も彼も、この黒き人を制する力を持たず。夜も昼も絶えず叫び、己の身を傷つける。その人、主を見て恐れ叫んだ。『いと高き神の子よ、我は汝と関わりあらん。願いたもう、我を苦しめるな』主は「穢れし悪よ、その者から出て往け」と言ひ給ひ寄る。主はまた「汝の名は何か」と問うた。

 

『我が名は「   」、我は悪であり———』

 

主はソレを聴き、手を掲げた。人は主に許しを乞う『神の子よ、我を諌める者よ。我は死ねぬ、約束を果たすまで死ねぬ』そう叫び海に向かい、崖を下り、海に逃げ込みたり。穢れし人が去り、その地は平穏となる。人々は主に感謝し、共にあることを願った。

 

主は一人崖に立ち、彼の者に祝福あれと祈りを捧げた“

 

 

 

 

 

 

「———我は怪物、即ち悪である」

 

平らげろ、平らげろ。

全ては願いを叶えるため。

ほんの少しの犠牲はあろう。だが、人はいずれ死するもの。ならば、その時が少しばかり早まっても問題なかろう?

 

「さあ、再現のお時間です。わたしのために一生懸命食べてくださいね?」

 

平穏な日は終わり。

太陽は沈み、夜が訪れる。

明けない夜が冬木に訪れる。

 

我々は怪物である(レイド・レギオン)

 

宝具の名が告げられ、怪物達は産声をあげ始めた。






桜と怪物は確かに無作為に人を食べた。
しかし、確認された死者数は数名。発見された人々は肉体の欠損は皆無であったが、皆うわ言のように「足を返して」「腕をもがないで」と繰り返していた。
そして、少女により呪いが告げられた時、襲われた人々に突如異変が起きるのであった。

次回「冬木炎上」

...これカルデア行けねえなあ


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